法定雇用率とは、事業主に対して求められる障害者の雇用割合の基準のことです。
令和8年7月1日から、民間企業の障害者法定雇用率が2.7パーセントになりました。同時に、対象となる事業主の範囲が労働者37.5人以上へと広がっています。本記事では、社会保険労務士事務所が顧問先の雇用管理台帳を整えるための7工程と、そこに生成AIをどう噛ませるかを整理します。本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で確認しています。厚生労働省の案内によれば、令和8年7月1日から一般事業主の法定雇用率は2.7パーセントとなり、障害者を1人以上雇用することが必要となる事業所の規模は常時雇用する労働者が37.5人以上となりました(出典: 厚生労働省 大分労働局 令和8年7月より障害者の法定雇用率が2.7%に引き上げられます)。
2.7パーセントへの引上げで顧問先の何が変わったか
結論から書きます。変わったのは率だけではありません。対象事業主の範囲が広がったことで、これまで制度の外にいた顧問先が新たに対象に入っています。まずここを洗い出すのが事務所の仕事になります。
引上げの経緯を確認します。厚生労働省の資料によれば、民間企業の法定雇用率は令和5年度が2.3パーセント、令和6年4月から2.5パーセント、令和8年7月から2.7パーセントという段階的な引上げが計画されていました。あわせて対象事業主の範囲は、43.5人以上から40.0人以上へ、そして37.5人以上へと広がる設計でした(出典: 厚生労働省 障害者の法定雇用率引上げと支援策の強化について(PDF))。令和8年6月までは労働者40.0人以上の事業主が対象でしたが、令和8年7月からは37.5人以上の事業主に変わっています。
法律上の根拠を確認します。e-Gov法令検索 障害者の雇用の促進等に関する法律第43条は一般事業主の雇用義務等について定めており、事業主が雇用する対象障害者である労働者の数と、雇用する労働者の数に障害者雇用率を乗じて得た数との関係を規律する建て付けになっています。あわせて、同法第81条の2は書類の保存について定めており、確認に関する書類を厚生労働省令で定めるところにより保存することを求めています。電磁的記録による保存に代えている場合は当該電磁的記録が対象に含まれます。台帳を電子化している顧問先にとっては、この点が実務上の拠り所になります。
事務所の視点で見ると、影響が大きいのは労働者数が37.5人から40人のあいだにいる顧問先です(出典: 厚生労働省 障害者の法定雇用率引上げに関する案内)。これまで対象外だった事業主が、今回の変更で新たに雇用義務の対象に入っています。就業規則や労務管理の相談は受けていても、障害者雇用については話題に上がったことがない顧問先が、この層には少なくありません。まず洗い出し、次に現状を確認し、そのうえで何を整えるかを決める。この順序で進めるのが現実的です。
率の引上げが顧問先の実務に及ぼす影響は、雇用すべき人数の増加だけではありません。すでに対象だった顧問先にとっては、現在の雇用状況が新しい率に照らしてどうなるかを確認し直す作業が発生します。従業員数が変動している事業主では、前年の状況をそのまま前提にすると判断を誤ります。事務所としては、率が変わった時点で顧問先全体を一度洗い直す機会と捉えるほうが、後の手戻りが減ります。
もう一点、労働者数のカウントの仕方にも注意が要ります。短時間労働者の扱いや、除外率が設定されている業種の扱いによって、算定に用いる数値が変わります。顧問先が自社で概算した数値と、制度上の算定結果が食い違うことは珍しくありません。事務所としては、顧問先の自己申告をそのまま前提にせず、算定の根拠まで確認する運用にしておくと安全です。
顧問先の雇用管理台帳を整える7工程
ここからが実務です。生成AIを補助的に使いながら、顧問先ごとに台帳を整える工程を7つに分けます。各工程で有資格者が確認する箇所を明示します。
第1工程は、対象顧問先の抽出です。顧問先リストから、常時雇用する労働者数が37.5人以上に該当し得る事業主を抜き出します(出典: 厚生労働省 障害者の法定雇用率引上げに関する案内)。ここは事務所の顧客管理データで機械的に絞り込めます。境界付近の顧問先は、後の工程で算定をやり直す前提でいったん広めに拾っておきます。
第2工程は、算定基礎の確認です。労働者数の算定にあたって、短時間労働者の扱い、除外率の適用の有無、算定の基準日を顧問先ごとに確認します。この工程は制度理解を要するため、担当者が確認したうえで有資格者が最終判断する形にします。
第3工程は、現状の把握です。顧問先が現在雇用している対象障害者の人数と、確認に関する書類の保管状況を確認します。書類が散在している顧問先では、この段階で保管場所の整理から入ることになります。
第4工程は、台帳の様式設計です。顧問先が使う台帳に、どの項目を持たせるかを決めます。項目の候補出しに生成AIを使えます。
あなたは社会保険労務士事務所のアシスタントです。
事業主が障害者の雇用管理に用いる台帳の項目案を作成してください。
【前提】
- 日本の障害者の雇用の促進等に関する法律に基づく雇用管理
- 常時雇用する労働者が37.5人以上の民間事業主を想定
- 台帳は事業主が自社で運用するもの
【出力形式】
1. 台帳に持たせる項目の候補を、目的別(雇用状況の把握/確認書類の管理/配慮事項の記録)に分けて列挙
2. 各項目について、記録する情報の粒度の選択肢を2つずつ提示
3. 個人情報の取扱い上、記録の要否を検討したほうがよい項目に印を付ける
【制約】
- 法的評価や当否の判断は書かないこと
- 条番号は書かないこと
- 実在の企業名・個人名は使わないこと
条番号を書かせない指示を入れているのは、生成AIが存在しない条番号を出力する事故を避けるためです。条文の引用は担当者がe-Gov法令検索の原文から手で入れます。
第5工程は、記録項目の絞り込みです。第4工程で出た候補のうち、実際に記録する項目を顧問先と決めます。ここで重要なのは、多く記録すればよいというものではないという点です。障害に関する情報は取扱いに配慮を要する情報であり、記録の範囲を広げるほど管理の負担とリスクが増えます。目的に対して必要な範囲に絞る判断を、有資格者が行います。
第6工程は、運用ルールの明文化です。誰が台帳を更新するか、閲覧できるのは誰か、保管期間はどれだけか、退職時にどう扱うかを文書にします。顧問先の規程に落とす際の構成は、カスハラ対策義務化は10月1日から 社労士が顧問先の規程を整える7手順で扱った規程整備の進め方が参考になります。
第7工程は、年次の運用への接続です。障害者雇用状況の報告は毎年6月1日現在の状況を対象とする仕組みが設けられています。提出の期限や様式は厚生労働省および各労働局の案内で確認してください。台帳を年次報告の時期に合わせて更新する運用にしておくと、報告のたびに資料を探す手間が消えます。
顧問先の現状と台帳項目の突き合わせには、次のプロンプトが使えます。整理までで止める設計にしています。
以下は顧問先から回収した障害者雇用に関する現状の回答です。
事実の整理のみを行い、法的評価や当否の判断は書かないでください。
【出力】
1. 回答から読み取れる事実を、雇用状況/書類管理/配慮事項の3区分で箇条書き
2. 回答が不明瞭・矛盾している箇所を「追加確認事項」として列挙
3. 台帳項目のうち回答に対応する情報が無いものを「未取得」として列挙
【制約】
- 推測で補わないこと。書かれていないことは「未取得」に入れる
- 個人を特定できる情報は甲・乙・従業員Aに置き換えて出力すること
- 障害の種類や程度に関する記述は、区分名のみとし詳細は書かないこと
【回答】
(ここに回答を貼り付け)
出力は整理結果であり、顧問先に返す助言はこのあと有資格者の確認を通してから確定させます。社労士事務所でのAI導入の順序については社労士事務所の生成AI最小導入 30日で1業務に絞る7ステップにまとめています。
障害に関する情報をAIに入れる前に決めておくこと
この節は、本記事で最も慎重に扱うべき部分です。障害に関する情報は、取扱いに特別の配慮を要する情報として制度上位置づけられています。台帳整備の支援では、この情報が事務所を経由することになります。
条文から確認します。e-Gov法令検索 個人情報の保護に関する法律第20条は適正な取得について定めており、個人情報取扱事業者は、法令に基づく場合などの例外を除き、あらかじめ本人の同意を得ないで要配慮個人情報を取得してはならないとしています。また同法第27条は第三者提供の制限を定めています。顧問先から事務所への情報の流れ、事務所から外部AIサービスへの入力が、それぞれ制度上どう位置づけられるかは、契約の建て付けと運用によって変わる論点であり、個別の判断は事務所の有資格者が行う領域になります。
社労士の守秘義務についても押さえておきます。e-Gov法令検索 社会保険労務士法第21条は、開業社会保険労務士または社会保険労務士法人の社員は、正当な理由がなくてその業務に関して知り得た秘密を他に漏らし、または盗用してはならないと定め、その地位でなくなった後も同様としています。
決めておくことの1つ目は、入力しない情報の類型です。実務では、障害の種類や程度、診断名、通院先、手帳の番号は入力しないという線を先に引く事務所が多くなります。台帳の様式設計や運用ルールの検討には、これらの詳細は要りません。必要なのは項目の構造であって、個々の従業員の状態ではないからです。
2つ目は、置換ルールです。事業所名、従業員名、所在地は、甲社・従業員Aといった記号に置き換えてから入力します。置換表は事務所内のローカル環境だけで管理します。運用の具体はプロンプトに個人情報を入れる前に 士業事務所が決める運用ルール7項目にまとめています。
3つ目は、顧問先への説明です。事務所がAIを補助的に使っていること、判断は有資格者が行うこと、障害に関する詳細は入力していないことを、支援の着手時に伝えます。顧問先の側にも従業員への説明責任があるため、事務所の運用を明示しておくと、顧問先が社内で説明しやすくなります。
事務所規程に落とす場合の運用例としては、障害者雇用の支援業務について1項を立て、対象業務、使用を認めるツール、入力しない情報の類型、置換ルール、有資格者の確認工程、ログの保管期間の6点を書く構成が扱いやすくなります。ログの設計は事務所のAI利用ログを監査証跡にする 保管設計7項目と説明の型が具体的です。
台帳整備の支援で踏みやすい3つの落とし穴
1つ目は、古い数値をそのまま使ってしまう事故です。法定雇用率は段階的に引き上げられてきたため、生成AIに尋ねると2.3パーセントや2.5パーセントを前提とした回答が返ることがあります。対象事業主の範囲も同様で、43.5人以上や40.0人以上という古い基準が混じります。回避策は、率と対象範囲の数値を厚生労働省の公表資料で確認してから資料に落とすこと、顧問先向け資料には確認した出典を併記することです。
2つ目は、算定を顧問先の自己申告に任せてしまうことです。短時間労働者の扱いや除外率の適用によって、算定に用いる数値は変わります。顧問先の総務担当が概算した数値をそのまま前提に助言を組み立てると、対象か否かの判断そのものが揺らぎます。回避策は、算定の根拠となる名簿や勤務時間の資料まで確認する工程を第2工程に組み込むことです。
3つ目は、台帳の項目を増やしすぎることです。網羅性を高めようとして障害に関する詳細まで記録する設計にすると、顧問先の管理負担が増え、情報の取扱いに関するリスクも増します。目的に照らして必要な範囲に絞る判断が要ります。生成AIに項目案を出させると候補が多く並ぶため、絞り込みを担当者と有資格者が行う工程を挟む設計にしてください。
いずれの落とし穴も、AIの出力を検証済みの成果物として扱ってしまうことが原因です。AIが出すのは候補と整理結果であり、顧問先に渡る成果物になるのは有資格者の確認を通った後です。
支援メニューにするときの費用と工数
顧問先向けの支援メニューとして設計する場合、工数は3つに分かれます。対象抽出、顧問先ごとの台帳整備、年次運用への接続です。
対象抽出は事務所内の作業です。顧問先リストから労働者数で絞り込む作業自体は短時間で終わりますが、境界付近の顧問先について算定基礎を確認する作業に時間がかかります。顧問先数によりますが、まとまった時間を1日確保して一気に片づけるほうが効率的です(出典: 士業のチカラ編集部が支援した事務所での実績にもとづく試算)。
顧問先ごとの台帳整備は、ヒアリング、様式設計、運用ルールの明文化の3つで構成されます。1社あたり半日から1日が目安になります(出典: 士業のチカラ編集部が支援した事務所での実績にもとづく試算)。生成AIで項目案と運用ルールの初稿を出せば作業時間は縮みますが、絞り込みと最終確認には有資格者の時間が要ります。
年次運用への接続は、報告時期に合わせた更新の段取りづくりです。ここを最初に設計しておくと、翌年以降の作業が定型化します。顧問契約の範囲で行うか別途の業務とするかは、既存契約の業務範囲条項の書きぶりによって変わるため、契約書を先に確認しておくと後の交渉が楽になります。
体制面では、制度理解を担う担当と顧問先対応を担う担当を分けると属人化を避けられます。分けられない小規模事務所では、少なくとも有資格者以外が顧問先に制度の当てはめを返さないという一線を守る運用にします。労務監査の観点から台帳を点検する枠組みは社労士法9次改正で労務監査が明記 AIで作るチェックリスト7項目が近い設計です。
引上げ後の実務はどこが論点になるか
今後の論点を3つ挙げます。
第1に、新たに対象となった中小事業主の支援です。今回の変更で新たに対象へ入った規模帯(出典: 厚生労働省 障害者の法定雇用率引上げに関する案内)は、専任の人事担当がいない事業主が多く、制度の理解から始めるところが出発点になります。事務所としては、制度説明の資料を汎用化して用意しておくと、複数の顧問先に横展開できます。生成AIは、この汎用資料の初稿づくりに向いています。
第2に、採用実務との接続です。雇用義務の対象になった事業主が採用を進める際、募集や選考の場面での配慮が論点になります。採用選考にAIを使う場合の留意点はAI採用選考のリスク 社労士が顧問先に助言する7論点と面接の運用設計で整理しており、障害者雇用の文脈でも重なる部分があります。
第3に、雇用管理情報の電子化です。書類の保存について電磁的記録による保存が認められている以上、台帳の電子化は自然な流れです。ただし、電子化すると閲覧範囲の管理がシステム設定に依存するようになります。誰がアクセスできるかを設定で担保する設計に切り替える必要が出てきます。この論点は、顧問先の情報システム担当を交えて詰めるのが現実的です。
いずれも、引上げの直後である今が着手の好機です。制度が変わったタイミングは、顧問先が話を聞く姿勢になっている数少ない時期でもあります。
よくある質問
法定雇用率はいつから2.7パーセントになりましたか
令和8年7月1日からです。厚生労働省および各労働局の案内によれば、同日以降、民間企業の一般事業主の法定雇用率は2.7パーセントとなっています。
対象となる事業主の範囲はどう変わりましたか
令和8年6月までは常時雇用する労働者が40.0人以上の事業主が対象でしたが、令和8年7月からは37.5人以上の事業主に変わりました(出典: 厚生労働省 障害者の法定雇用率引上げに関する案内)。障害者を1人以上雇用することが必要となる事業所の規模がこの水準になります。
労働者数はどう数えますか
短時間労働者の扱いや、業種によって設定されている除外率の適用によって、算定に用いる数値が変わります。顧問先の自己申告と制度上の算定結果が食い違うことがあるため、名簿や勤務時間の資料まで確認する運用が実務的です。詳細な算定方法は厚生労働省および各労働局の案内で確認してください。
雇用管理台帳の作成は法律上の義務ですか
障害者の雇用の促進等に関する法律第81条の2は、確認に関する書類を厚生労働省令で定めるところにより保存することを定めており、電磁的記録による保存に代えている場合は当該電磁的記録が含まれます。台帳という名称の書面が一律に求められるかどうかは条文と省令の建て付けによる論点であり、個別の判断は有資格者が行う領域です。実務では、保存すべき書類を管理するための台帳を任意に整える事業主が多く見られます。
顧問先が対象になったかどうかは何で判断しますか
常時雇用する労働者の数が制度上の基準に達しているかで判断します。ただし、短時間労働者の扱いや除外率の適用によって算定に用いる数値が変わるため、従業員名簿の人数をそのまま当てはめると結果がずれることがあります。算定の考え方は厚生労働省および各労働局の案内で確認し、個別の当てはめは事務所の有資格者が行う流れになります。
障害に関する情報を生成AIに入れてもよいですか
推奨されません。障害に関する情報は取扱いに特別の配慮を要する情報として制度上位置づけられており、個人情報の保護に関する法律第20条は要配慮個人情報の取得について本人の同意を原則としています。台帳の様式設計や運用ルールの検討には個々の従業員の状態は不要であるため、入力しないという線を引く運用が取られています。
新たに対象になった顧問先には何から伝えればよいですか
まず、対象になったという事実と、算定の根拠を伝えるところからです。制度の全体像を先に説明すると情報量が多くなりすぎるため、自社が対象かどうか、現在の雇用状況はどうか、次に何をするか、の3点に絞って伝えるほうが受け止められやすくなります。
台帳を電子化する場合の注意点はありますか
閲覧範囲の管理がシステムの設定に依存する点です。紙の台帳であれば施錠された場所に置くことで範囲を絞れますが、電子化すると権限設定が管理の要になります。誰がアクセスできるかを設定で担保し、その設定を定期的に確認する運用を、顧問先の情報システム担当を交えて設計するのが現実的です。
参考文献
- 厚生労働省 障害者の法定雇用率引上げと支援策の強化について(PDF)
- 厚生労働省 大分労働局 令和8年7月より障害者の法定雇用率が2.7%に引き上げられます
- 厚生労働省 事業主の方へ(障害者雇用)
- e-Gov法令検索 障害者の雇用の促進等に関する法律
- e-Gov法令検索 個人情報の保護に関する法律
- e-Gov法令検索 社会保険労務士法
※士業のチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴事務所の業務に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
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本記事の作成体制について
本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で、それぞれ確認したうえで記載しています。引用元は本文中および参考文献にすべて明示しています。
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