情報公表義務とは、事業主が女性活躍に関する情報を定期的に公表する仕組みのことです。
顧問先から、うちも公表の対象になったのかと聞かれる機会が増えていないでしょうか。令和8年4月1日に施行された改正女性活躍推進法により、男女間賃金差異と女性管理職比率の情報公表が101人以上の事業主へ広がりました。本記事では、社会保険労務士事務所が顧問先の集計と開示文の作成をどう回すか、生成AIをどこに噛ませるかを7工程に整理します。本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で確認しています。厚生労働省の案内によれば、令和8年4月1日から従業員101人以上の事業主は男女間賃金差異や女性管理職比率等の公表が義務となります(出典: 厚生労働省 栃木労働局 2026年4月1日から従業員101人以上の事業主は男女間賃金差異や女性管理職比率等の公表が義務となります)。
何が広がり、何が新しく加わったのか
結論から書きます。変更は2つあります。すでに義務だった男女間賃金差異の対象が広がったこと、そして女性管理職比率が新たに公表項目として加わったことです。
厚生労働省の資料によれば、これまで従業員数301人以上の企業に義務付けられていた男女間賃金差異について、101人以上の企業に公表義務を拡大するとともに、新たに女性管理職比率についても101人以上の企業に公表を義務付けるとされています。あわせて、従業員数が101人から300人の企業については、男女間賃金差異、女性管理職比率、女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供に関する実績、職業生活と家庭生活との両立に資する雇用環境の整備に関する実績のうち、3項目以上の情報公表が義務付けられます(出典: 厚生労働省 女性活躍推進法が改正されました(PDF))。
改正法の公布日は令和7年6月11日で、施行は令和8年4月1日です。あわせて、女性活躍推進法の期限が令和18年3月31日まで10年延長されました。女性の健康上の特性への配慮も改正内容に盛り込まれています(出典: 厚生労働省 女性活躍推進法に関する改正ポイントのご案内)。
公表の時期についても押さえておきます。厚生労働省の案内によれば、初回の男女間賃金差異および女性管理職比率の情報公表は、改正法の施行後に最初に終了する事業年度の実績を、その次の事業年度の開始後おおむね3か月以内に公表することとされています。3月決算の顧問先であれば、令和9年3月期の実績を令和9年6月末ごろまでに公表するという段取りになります。事務所としては、この逆算から作業計画を組むことになります。
条文の確認についても触れておきます。e-Gov法令検索 女性の職業生活における活躍の推進に関する法律第20条は一般事業主による女性の職業選択に資する情報の公表を定めた規定です。ただし、本記事執筆時点でe-Gov法令検索に掲載されている同条の本文は、常時雇用する労働者の数が300人を超えるものに限るという書きぶりになっています。厚生労働省の案内が示す101人以上への拡大が、条文本体と厚生労働省令のどちらでどのように手当てされているかは、施行規則および告示までさかのぼって確認する必要があります。この点は要確認として扱い、顧問先向け資料には厚生労働省の案内を出典として示すのが安全です。
事務所の実務としては、まず対象になる顧問先を洗い出すところから始まります。従業員数が101人から300人の層(出典: 厚生労働省 女性活躍推進法の改正に関する案内)は、これまで公表義務の外にいた事業主が多く、集計の仕組みそのものを持っていません。ここに事務所の仕事が集中します。
顧問先の集計と開示文作成を回す7工程
ここからが実務です。各工程で有資格者が確認する箇所を明示します。
第1工程は、対象顧問先の抽出と決算期の把握です。従業員数101人以上に該当する顧問先を洗い出し、決算期ごとに並べます(出典: 厚生労働省 女性活躍推進法の改正に関する案内)。決算期が異なれば初回公表の期限も異なるため、この段階で作業カレンダーの骨格ができます。
第2工程は、集計定義の確定です。男女間賃金差異をどの範囲で算出するか、正規と非正規をどう区分するか、女性管理職比率の管理職をどう定義するかを、顧問先ごとに決めます。ここが最も揺れる部分です。管理職の範囲は企業ごとの役職体系によって異なるため、機械的には決まりません。定義の当てはめは事務所の有資格者が判断する領域になります。
第3工程は、データの棚卸しです。給与計算システム、勤怠システム、人事台帳のどこにどの項目があるかを確認します。賃金データは給与システムにあっても、役職の履歴が人事台帳にしかないという顧問先は珍しくありません。データが分散している場合、集計の前に突き合わせの作業が発生します。
第4工程は、集計手順の設計です。ここで生成AIを使います。以下は集計手順書の骨格を作らせるプロンプト例です。
あなたは社会保険労務士事務所のアシスタントです。
事業主が男女間賃金差異と女性管理職比率を算出するための
集計手順書の骨格を作成してください。
【前提】
- 従業員101人から300人規模の民間事業主を想定
- データは給与計算システムと人事台帳に分散している
- 集計は年1回、事業年度の実績を対象に行う
【出力形式】
1. 集計に必要なデータ項目の一覧(取得元システムを併記)
2. 集計の手順を番号付きで(各手順に入力と出力を明記)
3. 定義を事前に決めておく必要がある事項を「要決定事項」として列挙
4. 集計結果の妥当性を確認するための照合方法を列挙
【制約】
- 法的評価や当否の判断は書かないこと
- 条番号は書かないこと
- 具体的な数値の基準は書かず、手順の構造のみを示すこと
条番号を書かせない指示を入れているのは、生成AIが存在しない条番号を出力する事故を避けるためです。条文の引用は担当者がe-Gov法令検索の原文から手で入れます。
第5工程は、集計の実行と検証です。表計算ソフトで集計する顧問先が多いため、計算式の設計を事務所側で用意しておくと品質が揃います。集計結果については、前年度との比較、部門別の内訳との整合、総額との突き合わせという3つの照合を行うと、誤りが見つかりやすくなります。
第6工程は、開示文の作成です。数値だけを出すか、背景の説明を添えるかで、読み手の受け止めが変わります。事務所としては、数値の記載と説明文を分けて設計し、説明文の下書きに生成AIを使う形が扱いやすくなります。
以下の集計結果をもとに、情報公表用の説明文の下書きを作成してください。
法的評価や当否の判断、将来の見通しの断定は書かないでください。
【出力】
1. 数値の説明(何を、どの範囲で、どの期間について算出したか)
2. 数値の背景として事実ベースで説明できる事項の候補
3. 記載すると誤解を招きうる表現があれば「注意表現」として列挙
【制約】
- 企業名・個人名は甲社・従業員Aに置き換えて出力すること
- 断定的な評価語(優れている、良好である等)は使わないこと
- 数値の解釈を推測で補わないこと
【集計結果】
(ここに集計結果を貼り付け)
第7工程は、公表と記録です。自社サイト、厚生労働省のデータベース、その他の媒体のどこに載せるかを顧問先と決め、公表した内容と日付を記録に残します。翌年度の集計時に、前年と同じ定義で算出できるようにするためです。定義が年ごとに揺れると、比較可能性が失われます。集計定義書を顧問先に渡し、事務所側にも控えを残す運用にしておくと、翌年の作業が滞りません。
工程を回すうえで押さえておきたいのが、第2工程と第7工程の対応関係です。集計定義を決める作業と、その定義を書き残す作業は、離れた工程に見えて実は一体です。初年度に定義を口頭で決めてしまうと、翌年度に担当者が替わった時点で再現できなくなります。定義書は、対象範囲、区分の切り方、除外する従業員の類型、算出式の4点を1枚にまとめる程度で十分に機能します。生成AIは、この定義書の項目立てを候補として出させる用途に向いています。
社労士事務所でのAI導入の順序については社労士事務所の生成AI最小導入 30日で1業務に絞る7ステップにまとめています。人事システム側でAIアシスタントを使う場合の論点はSmartHRのAIアシスタントを社労士業務に組み込む 顧問先支援の7論点が参考になります。
賃金データをAIに入れる前に引く線
賃金データは、事務所が扱う情報のなかでも取扱いに注意を要する部類に入ります。個人の賃金額、役職、性別が結びついたデータが集計の元になるからです。
条文から確認します。e-Gov法令検索 社会保険労務士法第21条は、開業社会保険労務士または社会保険労務士法人の社員は、正当な理由がなくてその業務に関して知り得た秘密を他に漏らし、または盗用してはならないと定め、その地位でなくなった後も同様としています。またe-Gov法令検索 個人情報の保護に関する法律第27条は第三者提供の制限を定めており、本人の同意を得ないで個人データを第三者に提供してはならないとしたうえで、法令に基づく場合などの例外を列挙しています。外部AIサービスへの入力がこれとどう関係するかは、契約の建て付けと運用によって変わる論点であり、個別の判断は事務所の有資格者が行う領域になります。
引く線の1つ目は、個票データを入れないことです。集計手順の設計にも、開示文の下書きにも、個人単位の賃金データは要りません。必要なのは手順の構造と集計後の数値です。個票を入れないという線を先に引いておけば、判断に迷う場面がほとんど消えます。
2つ目は、集計後の数値であっても顧問先が特定される情報を伏せることです。企業名、業種、所在地、従業員数の実数を組み合わせると、顧問先が推測できてしまう場合があります。甲社という記号に置き換え、規模も概数で入力する運用が実務的です。置換の具体はプロンプトに個人情報を入れる前に 士業事務所が決める運用ルール7項目にまとめています。
3つ目は、顧問先への説明です。事務所がAIを補助的に使っていること、判断は有資格者が行うこと、個票データは入力していないことを、支援の着手時に伝えます。賃金データの取扱いは顧問先の関心が高い領域であり、先に伝えておくほうが信頼を損ねません。
事務所規程に落とす場合の運用例としては、情報公表支援業務について1項を立て、対象業務、使用を認めるツール、入力しない情報の類型、置換ルール、有資格者の確認工程、ログの保管期間の6点を書く構成が扱いやすくなります。ログの設計は事務所のAI利用ログを監査証跡にする 保管設計7項目と説明の型が具体的です。
集計支援で踏みやすい3つの落とし穴
1つ目は、古い基準で説明してしまう事故です。男女間賃金差異の公表義務は改正前は301人以上が対象でした。生成AIに尋ねると、この古い基準を前提とした回答が返ることがあります。顧問先向けの資料をAIに下書きさせた場合、301人以上という記述がそのまま残る危険があります。回避策は、対象範囲の数値を厚生労働省の公表資料で確認してから資料に落とすこと、資料に出典を併記することです。
2つ目は、管理職の定義を曖昧にしたまま集計してしまうことです。女性管理職比率は、管理職の範囲をどう置くかで数値が大きく変わります。役職名だけで機械的に区切ると、実態と合わない結果になる顧問先があります。回避策は、第2工程の要決定事項として定義を先に固め、その定義を集計定義書に書き残すことです。翌年度に別の担当者が集計する場合にも、この定義書が拠り所になります。
3つ目は、開示文で評価を断定してしまうことです。数値に説明を添えるとき、良好である、改善が進んでいるといった評価語を使うと、根拠を問われたときに説明が続かなくなります。開示文は事実の記載にとどめ、評価は避ける設計にするほうが安全です。生成AIは説明文に評価語を混ぜてくる傾向があるため、プロンプトで明示的に禁じる指示を入れておきます。
いずれの落とし穴も、AIの出力を検証済みの成果物として扱ってしまうことが原因です。AIが出すのは下書きであり、顧問先が公表する成果物になるのは有資格者の確認を通った後です。
支援メニューにするときの費用と工数
顧問先向けの支援メニューとして設計する場合、工数は3つに分かれます。初年度の仕組みづくり、毎年の集計実行、開示文の作成です。
初年度の仕組みづくりは、本記事の第2工程から第4工程にあたります。集計定義の確定、データの棚卸し、集計手順書の作成で、1社あたり1日から2日が目安になります(出典: 士業のチカラ編集部が支援した事務所での実績にもとづく試算)。データが複数システムに分散している顧問先では、突き合わせの作業に時間が上乗せされます。
毎年の集計実行は、仕組みができていれば半日程度で回るようになります(出典: 士業のチカラ編集部が支援した事務所での実績にもとづく試算)。初年度に手順書と計算式を整えておくかどうかで、翌年以降の負担が大きく変わります。ここが支援メニューとして提案しやすい理由でもあります。
開示文の作成は、数値が出たあとの作業です。生成AIで下書きを出し、担当者が事実関係を確認し、有資格者が最終確認する流れにすると短時間で回ります。ただし、顧問先が自社の言葉で書きたいと希望する場合もあるため、下書きを提供して顧問先が仕上げる形も選択肢に入れておきます。
体制面では、集計を担う担当と顧問先対応を担う担当を分けると属人化を避けられます。分けられない小規模事務所では、少なくとも有資格者以外が制度の当てはめを顧問先に返さないという一線を守る運用にします。労務監査の観点から関連資料を点検する枠組みは社労士法9次改正で労務監査が明記 AIで作るチェックリスト7項目が近い設計です。賃金に関する行政の監督動向は賃金不払の監督指導22,605件・128億円、社労士が押さえる3つの論点で整理しています。
施行1年目の実務はどこが論点になるか
今後の論点を3つ挙げます。
第1に、公表内容の比較可能性です。公表義務が広がることで、同業他社との比較が容易になります。顧問先にとっては、数値そのものより、数値をどう説明するかが採用や取引の場面に効いてきます。事務所としては、集計の正確さに加えて、説明文の設計まで支援できるかどうかが差になります。
第2に、集計の自動化です。今回新たに対象へ入った規模帯(出典: 厚生労働省 女性活躍推進法の改正に関する案内)は、専任の人事担当が薄い層です。毎年の集計を手作業で回すのは負担が大きく、給与システムや人事システムの機能で自動化できる部分を洗い出す価値があります。システムベンダーの機能追加の動きも、この領域では活発になると見るのが自然です。
第3に、条文と省令の関係の整理です。前述のとおり、e-Gov法令検索に掲載されている条文本体の書きぶりと、厚生労働省の案内が示す対象範囲には差が見られます。改正の手当てが条文本体と省令のどちらでなされているかは、顧問先に条文ベースで説明する場面で必要になります。事務所として、施行規則および告示まで確認して整理しておく価値があります。
いずれも、初回公表の期限が来てから着手すると間に合いません。決算期から逆算した作業計画を、いまのうちに顧問先と共有しておくことが備えになります。
よくある質問
公表義務の対象はいつから101人以上になりましたか
令和8年4月1日からです。厚生労働省および各労働局の案内によれば、同日以降、従業員101人以上の事業主は男女間賃金差異や女性管理職比率等の公表が義務となります(出典: 厚生労働省 女性活躍推進法の改正に関する案内)。改正法の公布日は令和7年6月11日です。
101人から300人の企業は何を公表しますか
厚生労働省の資料によれば、男女間賃金差異、女性管理職比率、女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供に関する実績、職業生活と家庭生活との両立に資する雇用環境の整備に関する実績のうち、3項目以上の情報公表が義務付けられます。具体的な項目の選択は、顧問先の状況に応じて決めることになります。
初回の公表はいつまでに行いますか
厚生労働省の案内によれば、初回の男女間賃金差異および女性管理職比率の情報公表は、改正法の施行後に最初に終了する事業年度の実績を、その次の事業年度の開始後おおむね3か月以内に公表することとされています。決算期によって期限が異なるため、顧問先ごとに逆算した計画が要ります。
e-Govの条文には300人を超えるものと書かれていますが
本記事執筆時点で、e-Gov法令検索に掲載されている女性の職業生活における活躍の推進に関する法律第20条の本文は、常時雇用する労働者の数が300人を超えるものに限るという書きぶりになっています。厚生労働省の案内が示す101人以上への拡大が条文本体と省令のどちらで手当てされているかは、施行規則および告示まで確認する必要があります。この点は要確認として扱い、顧問先向け資料には厚生労働省の案内を出典として示すのが安全です。
管理職の範囲はどう決めますか
企業ごとの役職体系によって異なるため、一律には決まりません。実務では、集計を始める前に定義を確定し、集計定義書として書き残す進め方が取られています。定義の当てはめは事務所の有資格者が判断する領域になります。
賃金の個票データを生成AIに入れてもよいですか
推奨されません。集計手順の設計にも開示文の下書きにも、個人単位の賃金データは不要です。必要なのは手順の構造と集計後の数値であるため、個票を入れないという線を先に引く運用が取られています。
女性活躍推進法の期限はどうなりましたか
厚生労働省の資料によれば、改正法により女性活躍推進法は令和18年3月31日まで10年延長されました。時限立法であるため、期限の延長は制度の継続を示す情報として顧問先への説明に使えます。
参考文献
- 厚生労働省 女性活躍推進法が改正されました(PDF)
- 厚生労働省 女性活躍推進法特集ページ
- 厚生労働省 栃木労働局 2026年4月1日から従業員101人以上の事業主は男女間賃金差異や女性管理職比率等の公表が義務となります
- 厚生労働省 愛知労働局 男女間賃金差異と女性管理職比率の公表について
- e-Gov法令検索 女性の職業生活における活躍の推進に関する法律
- e-Gov法令検索 社会保険労務士法
- e-Gov法令検索 個人情報の保護に関する法律
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本記事の作成体制について
本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で、それぞれ確認したうえで記載しています。引用元は本文中および参考文献にすべて明示しています。
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