WorkOnが証明書発行と勤怠超過の把握を自動化 社労士事務所の7設計

人事AIエージェントWorkOnが在籍証明書の作成や勤怠超過の把握、36協定アラートまで担うようになりました。社労士事務所が関与を組み替える7設計と守秘義務の線引きを整理します。

WorkOnが証明書発行と勤怠超過の把握を自動化 社労士事務所の7設計

人事AIエージェントとは、従業員情報を参照して人事書類の作成や勤怠の把握を担う仕組みのことです。

顧問先から在籍証明書の依頼が来て、雇用形態と勤務時間を台帳から拾い、様式に流し込む。この一連の作業が顧問先側で自動化されたとき、社労士事務所の役割はどこに残るのでしょうか。On Technologies 2026年4月21日のプレスリリースによると、人事業務を担うAIエージェントのWorkOnが提供を開始し、従業員の基本情報を参照して在籍証明書や就業証明書などの書類をAIが作成する機能が搭載されました。この記事では、顧問先がこうした人事AI基盤を導入したときに社労士事務所の業務がどう組み替わるかを7つの設計として整理し、顧問先データを扱う際の守秘義務の線引きまでを扱います。本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で確認しています。

WorkOnで自動化された領域と、2026年5月に足された3機能

まず何が自動化されたのかを押さえます。On Technologies のプレスリリースによると、WorkOnは同社内の従業員の基本情報、すなわち雇用形態、業務内容、勤務時間などを参照して、在籍証明書や就業証明書といった人事が担う各種書類をAIが作成します。従業員から依頼が届き次第、AIが必要情報を労務担当者へ提供するため、情報収集の手間が省ける設計だと説明されています。労務業務で作る各種一覧データも、抽出条件を指示すると依頼に沿った形で作成され、複数条件の指示にも対応するとされています。

勤怠の側も同じリリースに記載があります。労働時間を超過した従業員がいた場合に、AIエージェントが勤怠情報を収集してリスト化とグラフ化を行い、誰が何時間超過しているかを把握しやすくする機能が示されています。人の判断が必要な場面のみ引き継ぐ、という設計思想が明記されている点が、従来の勤怠システムとの違いです。

そして2026年5月に機能が広がりました。On Technologies 2026年5月26日のお知らせによると、WorkOnに労務管理、勤怠管理、給与計算の3機能が新たに搭載され、従業員情報、組織情報、雇用形態、勤務形態、給与の締日や支払形態などの人事マスターデータを同一プラットフォーム上で統合できるようになりました。勤怠管理機能には36協定アラートが含まれ、残業時間の上限接近をリアルタイムで把握できると説明されています。締め処理が完了すると勤怠データが給与計算へ自動連携され、毎月のCSV出力と別システムへの入力作業が不要になる構成です。計算確定後は振込ファイルの作成や賃金台帳の出力もプラットフォーム上で行えます。

この流れが顧問先で回り始めたとき、社労士事務所が担ってきた作業のうち、情報を集めて様式に流し込む部分は顧問先側に移ります。残るのは、その出力が法令と社内規程に照らして妥当かを判断する部分です。社労士法の9次改正で労務監査が明記された流れとも重なる話で、そちらは別稿で扱っています(社労士法9次改正で労務監査が明記 AIで作るチェックリスト7項目)。

顧問先が人事AIを入れたときに社労士事務所が組む7つの設計

7つに分けて整理します。

第1の設計は、顧問先の導入状況の棚卸しです。人事AI基盤を入れている顧問先、勤怠システムだけの顧問先、Excel中心の顧問先で、事務所の関与の形が変わります。導入済みの顧問先がどのデータをどのシステムに置いているかを一覧にしておくと、依頼が来たときの初動が速くなります。棚卸しの粒度は、システム名、扱っているデータの種類、事務所に与えられている権限、直近の更新日の4項目で足ります。増やすほど維持できなくなるので、この程度に抑えるほうが続きます。

第2の設計は、出力の確認工程をどこに置くかです。AIが作った在籍証明書や一覧データは、様式としては整っていても、雇用形態の区分や勤務時間の扱いが顧問先の運用と合っているかは別の話です。事務所が確認する対象を、書類そのものではなく、元になるマスターデータの設定に移す発想が効きます。設定が正しければ、以後の出力は安定します。逆に言えば、設定が一度ずれると、出力は整った形のまま誤り続けます。書類を1枚ずつ点検するより、設定の点検表を作って四半期に一度回すほうが、費やす時間あたりの効果は大きくなります。

第3の設計は、36協定まわりの関与の再定義です。アラートで上限接近が可視化されると、顧問先は数字を見て動けるようになります。事務所に期待されるのは、アラートが鳴る前の設計、つまり36協定の内容そのものと、特別条項の運用の妥当性の検討へ移ります。労働基準法第36条が時間外及び休日の労働について定めており、協定の内容と実態の照合が論点の中心になります。厚生労働省の36協定支援の拡充については別稿で整理しています(厚労省が9月1日から36協定支援を拡充、45時間の一律指導を見直し)。

第4の設計は、賃金台帳と記録保存の確認です。前掲のお知らせによると、計算確定後に賃金台帳の出力がプラットフォーム上で行えます。労働基準法第108条が賃金台帳について、労働基準法第109条が記録の保存について定めています。出力できることと、記載事項が揃っていることは別の確認になります。導入直後の月に、出力した台帳と条文の記載事項を突き合わせる工程を1回入れておくと、後の指摘が減ります。

第5の設計は、例外処理の受け皿です。AIが自律的に処理するのは定型業務であり、人の判断が必要な場面は引き継がれる設計だと前掲リリースは説明しています。引き継がれた先で誰が判断するのか。顧問先の人事担当者が判断できる範囲と、事務所へ回す範囲の線引きを、導入時に一緒に決めておきます。この線引きが曖昧だと、顧問先は判断できずに止まるか、判断できないまま進めるかのどちらかになります。

第6の設計は、顧問契約の見直しです。証明書発行や一覧作成を業務として受けていた場合、その前提が変わります。作業の代行から、設定の妥当性の確認と例外判断へ、契約書の業務範囲の記載を寄せる必要が出てきます。報酬体系を作業量ベースで組んでいる事務所ほど、この見直しは早めに着手する価値があります。

第7の設計は、事務所側のAI活用です。顧問先がAIで出した一覧を、事務所側でもAIに読ませて確認観点を洗い出す、という二段構えが取れます。次のようなプロンプトが使えます。顧問先の固有情報は入れず、架空の甲社として扱います。

あなたは社会保険労務士事務所の確認補助です。顧問先が人事システムから出力した
勤怠集計の確認観点をリスト化してください。

【前提(架空)】
甲社、従業員80名、製造業。1か月単位の変形労働時間制を一部部署で採用。
36協定は特別条項付き。月次の勤怠締めはシステム上で完了済み。

【出力】
1. 出力データを見るときの確認観点を、優先度順に8項目
2. 各観点について、数字が合わないときに疑うべき設定を1行ずつ
3. 社会保険労務士の判断を要する論点を3項目、理由を1文ずつ
【禁止】法令の当てはめの断定、条文番号の推測、顧問先固有情報の生成

証明書類の確認に使う場合は、観点を書類側に寄せます。

以下の人事書類の記載項目について、確認漏れが起きやすい箇所を洗い出してください。

【対象書類】在籍証明書 / 就業証明書(提出先は自治体の保育所入所選考を想定)
【前提(架空)】甲社の従業員乙、パートタイム、週の所定労働日数と時間が月により変動

【出力】
1. 提出先の様式で問われやすい項目を8つ
2. 変動勤務の場合に記載の仕方で迷いやすい項目を5つ
3. 顧問先の担当者だけでは判断が難しく、事務所へ確認すべき項目を3つ
【禁止】制度の断定、自治体ごとの取扱いの一般化

なお、AI導入の前提としてデータの整備が課題になる点は、行政の調査でも指摘されています。前掲リリースは、令和6年度の厚生労働省 AI・メタバースのHR領域最前線調査報告書を挙げ、人事領域でのAI活用を阻む最大の要因として人事データがAIに入力できる形式になっていないことや、その準備にかかるコストが指摘されていると説明しています。顧問先の導入支援に入るなら、データ整備の段階こそ事務所が貢献できる場面です。

顧問先の人事データを扱う前に決める3つの線

顧問先が人事AI基盤を入れると、事務所が触るデータの性質も変わります。決めておく線は3本です。

1本目は、事務所が顧問先システムのどの権限を持つかです。閲覧のみか、設定変更まで行うか、書類の作成まで代行するか。権限が広いほど作業は速く進みますが、誤操作の影響範囲も広がります。権限は必要最小限にとどめ、変更操作は顧問先側で実施してもらう運用を採る事務所があります。

2本目は、事務所側で使う生成AIへの入力範囲です。顧問先から受け取った勤怠集計や従業員一覧をそのまま外部サービスへ投げると、氏名、生年月日、給与額といった情報が渡ります。確認観点を洗い出すだけであれば、前節のプロンプトのように架空の前提で足ります。実データを投げる必要が生じた場合は、氏名を伏せ、個人が特定されない形に加工してから扱う運用が現実的です。

3本目は、根拠条文の確認です。社会保険労務士法第21条は、社会保険労務士は、正当な理由がなくて、その業務に関して知り得た秘密を他に漏らし、又は盗用してはならないと定め、社会保険労務士でなくなつた後においても同様とする旨を規定しています。外部サービスへ顧問先の情報を入力する行為がこの規定との関係でどう位置づけられるかは、入力内容とサービス側の取扱い条件によって変わる論点です。従業員個人の情報を扱う場面では、個人情報の保護に関する法律第27条の第三者提供の規律も並行して検討の対象になります。

事務所規程に落とすなら3行です。顧問先システムで持つ権限の範囲、生成AIへ投げてよいデータの加工水準、実データを扱う場合の承認者。これを職員が見える場所に置き、例外が出たら社会保険労務士に上げる運用です。顧問先への説明は、委任の範囲を書いた書面に一文を足しておくと、後から尋ねられたときに短く答えられます。

顧問先側の運用にも1点だけ確認しておきたいことがあります。人事AI基盤に蓄積された従業員データが、ベンダー側でどう扱われるかです。ベンダーの公式ドキュメントとプライバシーポリシーを、導入時に顧問先と一緒に確認しておくと、後から論点になったときの出発点になります。事務所が代わりに読んで要点を伝えるだけでも、顧問先の安心感は変わります。

この移行でつまずく5つの場面

1つ目は、自動化された出力を無条件に信じる場面です。マスターデータの設定が実態とずれていると、出力は整った形で間違い続けます。導入初月に元データの設定を確認する工程を置くかどうかで、その後の精度が決まります。

2つ目は、事務所の業務が減ったまま契約が据え置かれる場面です。証明書発行の代行が顧問先側に移ったのに、契約書の業務範囲がそのままだと、事務所の提供価値が見えにくくなります。減った作業の分を、設定の確認や例外判断、労務監査の方向へ振り替える説明を先に用意しておきます。

3つ目は、アラートが鳴っても誰も動かない場面です。36協定アラートは上限接近を知らせますが、そこから誰が何をするかはシステムの外の話です。アラートの受け手、確認の期限、事務所へ連絡する条件の3つを決めておかないと、通知だけが積み上がります。

4つ目は、顧問先ごとにシステムがばらばらになる場面です。ある顧問先はWorkOn、別の顧問先は別の勤怠システム、さらに別の顧問先はExcel。事務所側の確認手順が顧問先ごとに違うと、担当者が替わったときに品質が落ちます。システムが違っても共通で確認する観点を先に決め、システム固有の操作だけを個別に書く二層構成にしておくと、手順書が破綻しにくくなります。

5つ目として、顧問先の従業員からの問い合わせが事務所に回ってくる場面も想定しておきます。AIが作った証明書の記載について従業員が疑問を持ったとき、顧問先の担当者が説明できないと、事務所へ質問が転送されます。どの項目がどのマスターデータから来ているかを事務所側が把握していれば、回答は短く済みます。把握していないと、顧問先のシステムを見せてもらうところから始まり、対応が長引きます。

工数と体制と、いつ動くか

初期の棚卸しに、顧問先1件あたり1時間から2時間というのが現実的な見立てです(参考値。工数は本記事の試算であり、顧問先の規模と導入状況で変わります)。導入済みの顧問先が数件なら半日で終わります。確認手順の二層構成を作るのに、4時間から6時間を見ておきます。

体制は、棚卸しと手順書の作成を担当職員、確認観点の決定を社会保険労務士、契約の見直しをパートナーという3層が扱いやすい構成です。手順書は作って終わりにせず、実際の顧問先で一度通してみて直す前提で組みます。

費用の面では、事務所側の追加投資はほとんど発生しません。顧問先のシステムを閲覧する権限は顧問先の契約に含まれることが多く、事務所が新たにライセンスを買う場面は限られます。事務所が使う生成AIは、法人プランで月額数千円台から用意されている製品が多く、確認観点の洗い出し程度の用途であれば既存契約の範囲で収まります。投資が要るのは、手順書を作る時間と、職員が新しい確認の型に慣れるまでの期間です。

動く時期は、顧問先が導入を検討し始めた段階が最も効果的です。導入後に呼ばれると、すでに設定された状態を追いかけることになります。導入前であれば、マスターデータの設計に関与でき、以後の出力の精度そのものに影響を与えられます。2026年10月の賃金要件撤廃のような制度変更と重なる時期は、台帳の突合を行う機会でもあるため、あわせて動きやすいタイミングです(2026年10月の賃金要件撤廃で誰が加入対象になるか 社労士の台帳突合7工程)。

作業の代行から、設計と判断へ

今後の論点は3つあります。1つは、人事AI基盤が広がるほど、事務所の関与が前工程へ移っていくことです。書類を作る作業ではなく、作られる仕組みの設計と、出てきた結果の妥当性の判断。この移動はすでに始まっています。

2つ目は、コンプライアンス機能の扱いです。On Technologies のお知らせは、AIが雇用形態や労働条件、36協定などのルールと実際の勤怠データを横断的に照合し、勤務実態との乖離や潜在的な法的リスクを事前に検知する体験が今後可能になると説明しています。検知そのものはシステムが担うとしても、検知された事象をどう評価し、どう是正するかは有資格者の判断の領域です。検知が増えるほど、判断の依頼も増えるという見方ができます。

事務所の収益構造という観点でも、この移行は無視できません。作業量に連動した報酬で組んでいると、顧問先の自動化がそのまま報酬の減少につながります。設計と判断に価値を置く報酬体系へ寄せるには、何を提供しているのかを顧問先に言語化して伝える必要があります。労務監査やマスターデータ設計といった、作業量では測れない関与を契約書の業務範囲に書き込む作業が、その第一歩になります。

3つ目は、顧問先の期待値の変化です。自社のシステムが一覧を瞬時に出せるようになると、事務所への依頼も同じ速度を期待されます。事務所側が手作業で集計している限り、この落差は広がります。事務所の内部業務にもAIを入れておくことが、関与の質を保つ前提条件になっていきます。

よくある質問

WorkOnはいつから提供されているのですか

2026年4月に提供が始まりました。On Technologies のプレスリリースによると、人事業務を担うAIエージェントとして提供が開始され、その後2026年5月26日のお知らせで労務管理、勤怠管理、給与計算の3機能が追加されています。

在籍証明書はどこまで自動で作られるのですか

従業員の基本情報を参照して作成される、と説明されています。前掲プレスリリースは、雇用形態、業務内容、勤務時間などの基本情報を参照して在籍証明書や就業証明書などの書類をAIが作成すると記載しています。提出先の様式が特殊な場合にどこまで対応できるかは、公表資料からは読み取れないため、顧問先での実地確認が要る部分です。

社労士の仕事は減るのですか

作業の内訳が変わる、という整理になります。情報を集めて様式に流し込む工程は顧問先側へ移りますが、マスターデータの設計、出力の妥当性の確認、例外事象の判断は残ります。顧問契約の業務範囲の記載を、作業の代行から設計と判断へ寄せる見直しが論点になります。

36協定アラートがあれば事務所の確認は不要ですか

アラートは上限接近の把握を支援するもので、協定の内容そのものの妥当性を判断するものではありません。労働基準法第36条の定める協定の内容と、実際の勤務実態が合っているかの検討は、引き続き有資格者の関与が想定される領域です。

顧問先の勤怠データを生成AIに入れてよいですか

入力の可否は、加工の水準とサービス側のデータの取扱い条件によって変わる論点です。社会保険労務士法第21条の秘密を守る義務を踏まえ、確認観点の洗い出しには架空の前提を使い、実データは個人が特定されない形に加工してから扱う運用を採る事務所があります。

賃金台帳の出力があれば法定の記録は足りますか

出力できることと記載事項が揃っていることは別の確認になります。労働基準法第108条が賃金台帳を、労働基準法第109条が記録の保存を定めています。導入後の初回に、出力内容と条文の記載事項を突き合わせる工程を置く運用が現実的です。

小規模な顧問先でも関係のある話ですか

規模より、顧問先がどのシステムを使っているかで決まります。Excel中心の顧問先であっても、人事AI基盤が広く使われるようになれば、同水準の速度と精度を期待される場面が出てきます。事務所側の確認手順を先に整えておくことは、どの規模の顧問先を抱えていても無駄になりません。

参考文献

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https://shigyonochikara.jp/contact/

本記事の作成体制について

本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で、それぞれ確認したうえで記載しています。引用元は本文中および参考文献にすべて明示しています。

本記事には特定の資格者による監修は入っていません。個別の事案について法令の当てはめや手続の可否を判断する必要がある場合は、当該分野の有資格者にご相談ください。本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別具体的な法律判断・税務判断・労務判断を提供するものではありません。

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