リーガルリサーチ連携とは、法情報の検索結果をAIの会話画面で使える仕組みのことです。
法情報を調べるツールと、相談回答や契約書を扱うツールが別々に立ち上がっている。この行き来が業務時間を削っている自覚は、多くの事務所にあると思います。LegalOn Technologies 2026年9月9日のプレスリリースによると、法務特化型AIエージェントのLegalOnアシスタント上で、Legalscapeが提供するリーガルAIシステムのLegal Intelligenceを利用できる連携機能の提供が始まりました。この記事では、この連携で何がつながったのかを一次情報の範囲で整理し、弁護士事務所が導入を検討するときに置く7つの判断軸と、依頼者情報を扱う際の守秘義務まわりの線引きを扱います。本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で確認しています。
2026年9月9日に何がつながったのか
連携の中身は3層に分かれています。LegalOn Technologies のプレスリリースによると、第1にLegalOnアシスタントのチャット画面で質問先としてLegal Intelligenceを選択できるようになり、書籍をはじめとする法情報に基づくリサーチ結果を同じ会話画面上で確認できます。参照情報にはタイトル、著者、公開日、該当箇所の抜粋が表示され、さらに詳しく見る場合は参照情報のリンクからLegal Intelligence側の該当箇所へ移動できます。第2に、得られたリサーチ結果をそのまま追加質問に使い、回答案や契約書の修正案の作成、追加のWeb調査、社内の過去の回答内容との比較へつなげられます。第3に、相談内容から調査の起点となる論点を洗い出し、リサーチに使う質問文を作成するプロンプトライブラリーが同時に提供されます。
収録の厚みが、この連携の実質的な価値を決めます。同リリースによると、40社を超える出版社との提携により収録された法律専門書などを出典として示しながら回答案の検討まで行えます。Legalscape側の情報では、Legal Intelligenceは実務文献などの多層的な法情報を横断的に結びつけ、APIを通じて外部サービスや社内システムとの連携に対応するAIシステムとして2026年に提供が始まっています(Legalscape お知らせ)。蓄積された情報を検索するだけでなく、利用者が置かれた状況や文脈に応じて関連する法的論点や手がかりを提示する設計だと説明されています。
見落としやすい条件が1つあります。同リリースは、本連携機能を利用するには別途Legal Intelligenceの契約が必要である旨を注記しています。LegalOn側の契約だけでは使えないため、事務所としては2契約分の費用を前提に検討することになります。
企業法務部を主な想定利用者とした発表ですが、弁護士事務所にとっての意味は別にあります。書籍を出典として示せるリサーチ結果が、そのまま回答案づくりの入力になるという構造は、事務所の起案フローと相性が良い一方で、出典の確認をどこで挟むかという工程設計を要求します。契約書レビュー側の検証工程については別稿で扱っており、そちらと合わせて読むと事務所全体の設計が見えます(LegalOnの原契約参照レビューを検証する 弁護士事務所が置く7工程)。
導入を検討する弁護士事務所が置く7つの判断軸
判断軸を7つに分けます。順番に見ていくと、自事務所で使えるかどうかの輪郭が出ます。
第1の軸は、リサーチの分野が事務所の取扱分野と重なるかです。収録されているのは法律専門書を中心とした実務文献です。一般民事や企業法務の主要分野は厚くても、特定の専門領域は薄いことがあります。無料期間があるなら、直近3か月に実際に調べた論点を10本並べ、そのまま投げて出典の質を比べるのが早い方法です。
第2の軸は、出典の粒度です。前節のとおり、参照情報にはタイトル、著者、公開日、該当箇所の抜粋が表示されます。起案で使えるかどうかは、この抜粋の粒度で決まります。書名までしか出ないのであれば、結局は書籍に当たり直す工程が残ります。
第3の軸は、原典への到達のしやすさです。参照情報のリンクからLegal Intelligence側の該当箇所へ移動できる設計になっているため、引用の確認が同じ画面の近くで完結するかを実際の操作で確かめます。確認が面倒な導線だと、確認そのものが省略されていきます。
第4の軸は、AIの出力と原典の突き合わせを誰が行うかです。ここは工程として固定する部分です。AIがリサーチ結果と回答案の下書きを出し、担当弁護士が原典に当たって記述を確認し、最終的な起案の可否を判断する。この3段を工程表に書いておくと、確認が抜けた箇所を後から特定できます。民法第644条は受任者の善良な管理者の注意義務を定めており、委任事務の処理をどう組むかを考えるときの基本的な手がかりになります。
第5の軸は、入力する情報の範囲です。相談内容をそのまま投げると精度は上がりますが、依頼者の固有情報が外部サービスへ渡ります。論点だけを抽象化して投げる運用と、事案の事実関係まで入れる運用では、必要な検討が変わります。詳細は次節で扱います。
第6の軸は、費用対効果の測り方です。LegalOnとLegal Intelligenceの2契約が必要になるため、削減できる時間を事前に見積もっておきます。リサーチ1件あたり、文献検索と該当箇所の特定に30分から60分かかっている事務所であれば、それが何分に縮むかを試用期間中に実測します(参考値。工数は事務所の分野構成で変わります)。
第7の軸は、所内への定着です。プロンプトライブラリーが提供されるとはいえ、どの場面でどちらのツールに投げるかの使い分けは所内で決める必要があります。使い分けのルールが無いと、若手が全部AIに投げ、ベテランが全部使わない、という二極化が起きます。定着させたい事務所は、月に1回、実際に投げた質問文と返ってきた出典を持ち寄る短い会を置いています。うまくいった質問文を所内で共有するだけで、精度の底上げが起きます。
7つの軸に順位をつけるなら、第1と第2が最優先です。分野が合わず、出典の粒度が粗ければ、残りの5軸を検討する意味が薄れます。逆に、この2つが通れば、残りは運用設計の問題なので事務所側で解決できます。検証の時間が限られている場合は、第1と第2に時間の大半を割り当てる配分が現実的です。
論点の洗い出しを事務所側で先に組み立てたい場合は、次のようなプロンプトが使えます。依頼者の固有情報は入れず、架空の甲として扱います。
あなたは法律事務所のリサーチ補助です。以下の相談概要から、調査すべき論点を洗い出し、
文献データベースに投げる質問文を作ってください。
【相談概要(架空)】
甲は製造業の会社で、取引先乙との継続的売買契約の解約を検討している。
契約書には期間の定めと中途解約条項があるが、解約予告期間の記載に争いがある。
【出力】
1. 調査すべき論点を5つ、優先順位順に
2. 各論点について、文献検索に使う質問文を1本ずつ(40字以内)
3. 各論点で確認したい裁判例の類型を1行ずつ
【禁止】結論の断定、条文番号の推測、出典のない一般論
リサーチ結果を起案につなげる段では、確認の観点を先に出させると照合が楽になります。
以下のリサーチ結果の要約について、起案前に原典で確認すべき箇所をリスト化してください。
【リサーチ結果の要約】(ここに貼り付け)
【出力】
1. 原典に当たって確認すべき記述を、重要度順に7項目まで
2. 各項目について、確認したい具体的な事項を1文
3. 要約だけでは判断できない点を3項目
【禁止】確認を省略してよいという趣旨の記述、記載のない文献名の追加
依頼者情報をリサーチAIに入れる前に決める3つの線
この節を飛ばすと、便利さと引き換えに別の問題を抱えます。決めておく線は3本です。
1本目は、入力の抽象度です。リサーチの精度を上げるには具体的な事実関係を入れたくなりますが、論点さえ伝われば文献検索としては足りる場面が多くあります。当事者名、金額、日付、業種の組み合わせは、それ自体が事案を特定する情報になり得ます。抽象化して投げる運用を既定とし、具体的に投げる場合だけ担当弁護士の判断を挟む、という二段構えを採る事務所があります。
2本目は、根拠となる条文の確認です。弁護士法第23条は、弁護士又は弁護士であつた者は、その職務上知り得た秘密を保持する権利を有し、義務を負うと定めています。外部のクラウドサービスへ依頼者の情報を入力する行為がこの規定との関係でどう位置づけられるかは、入力内容とサービス側の取扱い条件によって変わる論点です。依頼者が個人である場合は、個人情報の保護に関する法律第27条の第三者提供の規律も並行して論点になります。弁護士法72条まわりのAI法務サービスの整理は別稿にまとめています(弁護士法72条の新ガイドライン公表 AI法務サービスを選ぶ7論点)。
3本目は、出力の取扱いです。書籍を出典とするリサーチ結果を起案に取り込む場面では、著作権の観点も出てきます。著作権法第30条の4は著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用について定め、著作権法第47条の5は電子計算機による情報処理及びその結果の提供に付随する軽微利用等について定めています。サービス側がどの枠組みで書籍を扱っているかは事業者の設計の問題ですが、事務所側としては、抜粋をそのまま長文で書面に転記する運用を避け、要旨と自分の言葉で書き直す運用にしておくほうが、後の説明が楽になります。
事務所規程に落とすときの分量は、3行で足ります。抽象化して投げる範囲、具体的に投げる場合の承認者、書面に転記する際の扱い。これを職員が見える場所に置き、例外が出たら担当弁護士に上げる運用です。長い規程を作るより、短くて具体的なほうが実際に守られます。依頼者への説明については、AIツールを業務に使っている旨を委任契約書や事務所案内に一文で記載しておく事務所が増えています。後から説明するより、最初に伝えておくほうが齟齬が出にくくなります。
この導入でつまずく4つの場面
1つ目は、出典があるから正しいと思い込む場面です。リサーチ結果に書名と著者が並ぶと、その信頼感で確認が緩みます。しかし、AIが文献を要約する過程で、原典の留保条件や反対説への言及が落ちることがあります。要約は出発点であって結論ではない、という前提を所内で共有しておく必要があります。
2つ目は、2契約分の費用を後から気づく場面です。前掲リリースの注記のとおり、連携機能の利用には別途Legal Intelligenceの契約を要する旨が示されています(LegalOn Technologies プレスリリース)。LegalOnだけ契約して連携機能を使おうとして、稟議をやり直す事態は避けたいところです。見積もりの段階で両方を並べます。
3つ目は、使い分けのルールが無いまま運用が始まる場面です。Web検索で足りる調べもの、文献データベースに投げるべき論点、判例検索に行くべき照会。この3つの入口がツール上で近接すると、どこに投げても何か返ってくるため、使い分けの意識が薄れます。所内で3行のガイドを作り、迷ったら担当弁護士に聞く運用にしておくと、初期の混乱が小さくなります。東京弁護士会の会報が生成AIを特集した際の実務論点も、所内ルールを作るときの参考になります(東京弁護士会LIBRAの生成AI特集 事務所が拾う7つの実務論点)。
4つ目として挙げておきたいのが、依頼者への説明が後手に回る場面です。AIツールを業務に使っていること自体は珍しくなくなりましたが、依頼者側の受け止めは一様ではありません。守秘義務との関係を尋ねられたときに、どのデータをどこまで入れているかを即答できないと、説明が長引きます。入力範囲を所内で文書化しておけば、この場面は数分で終わります。
4つの場面に共通するのは、導入の判断そのものより、導入後に誰が何を決めるかを先送りしたことが原因になっている点です。ツールの性能で失敗する事務所は多くありません。使い方の線引きを決めないまま走り出して、あとから整理し直す手間のほうが、実際には重くのしかかります。検証の段階で、所内ルールの草案まで一緒に作ってしまうのが結局は近道です。
費用・工数・誰が持つか
費用は2契約分です。どちらも公表価格が一律に示されている製品ではないため、見積もりを取ったうえで判断することになります。試用の期間があるなら、その間に第1の軸から第3の軸までの検証を終える計画を立てておきます。
工数は、検証で8時間から12時間、所内ルールの作成に2時間から4時間というのが現実的な見立てです(参考値。工数は本記事の試算であり、事務所規模と分野構成で変わります)。検証は複数人で分担するより、1人が10論点を通して投げるほうが比較の軸がぶれません。
体制は、検証の実務を担当する職員、所内ルールの決定を担当弁護士、契約の判断をパートナーという3層に分けると扱いやすくなります。検証担当が契約判断まで持つと、導入ありきの検証になりやすいという副作用があります。
なお、開催されるウェビナーも判断材料になります。LegalOn Technologies プレスリリースによると、機能連携と活用方法を紹介するウェビナーが2026年9月30日の14時から15時まで、参加費無料で開催されます。デモで導線を見てから検証計画を立てるほうが、試用期間の使い方が効率的になります。
リサーチ工程の外部化が事務所に問いかけるもの
今後の論点は2つあります。1つは、リサーチの入口がAIに集約されたときに、若手の調査能力がどう育つかです。論点の洗い出しと質問文の作成をプロンプトライブラリーが担うようになると、その工程を自分で組み立てる訓練の機会が減ります。事務所として、あえて手で調べさせる案件を残すのか、AIの出力を批判的に読む訓練へ切り替えるのか。どちらを採るかで3年後の所内の力量が変わります。
もう1つは、外部連携の広がりです。Legalscape側の公表では、海外のリーガルテックサービス等との新たな連携も予定されていると説明されています(Legalscape お知らせ)。連携先が増えるほど、どの情報がどこから来たのかの追跡が難しくなります。出典の表示が丁寧な設計であるうちに、事務所として出典を確認する習慣を作っておくほうが、後で効いてきます。
3つ目の論点は、事務所の起案フローそのものの再設計です。これまで、調べる工程と書く工程は人の頭の中で連続していました。連携によって調べる工程の出力が構造化されたテキストとして残るようになると、誰がどの文献を根拠にどの結論へ至ったのかが記録として残ります。これは品質管理の面では利点ですが、同時に、記録の保管と依頼者情報の管理という別の設計課題を生みます。会話履歴をどこまで残し、案件終了後にどう扱うかを、導入時点で決めておくほうが後が楽です。
AI時代の民事司法をめぐる議論では、出力の過信が繰り返し論点として挙がっています(日弁連会長談話が示したAI時代の民事司法 弁護士事務所が置く7つの線引き)。ツールが便利になるほど、確認の工程を意識的に残す設計が要る、という構図は変わりません。
よくある質問
LegalOnの契約だけで連携機能を使えますか
いいえ、別途の契約を要する旨が示されています。LegalOn Technologies のプレスリリースは、本連携機能を利用するには別途Legal Intelligenceの契約が必要だと注記しています。費用の見積もりは2契約分で立てることになります。
どのくらいの書籍が収録されているのですか
冊数は公表されていませんが、提携出版社の数は示されています。同リリースによると、40社を超える出版社との提携により収録された法律専門書などを出典として示せると説明されています。具体的な収録タイトルが自事務所の取扱分野を覆うかは、試用で確かめる領域です。
リサーチ結果をそのまま書面に使ってよいですか
原典での確認を挟む工程を置く事務所が一般的です。参照情報にはタイトル、著者、公開日、該当箇所の抜粋が表示されるため原典への到達は容易ですが、要約の過程で留保条件が落ちる可能性は残ります。民法第644条の受任者の注意義務を踏まえ、確認工程を明示的に組み込む設計が現実的です。
依頼者の事実関係を入力してよいですか
入力の可否は、サービス側のデータの取扱い条件と、事務所として決めた範囲によって変わる論点です。弁護士法第23条の秘密保持の権利及び義務を踏まえて、論点を抽象化して投げる運用を既定とし、具体的に投げる場合だけ承認を挟む二段構えを採る事務所があります。
Legal Intelligenceはいつから提供されているのですか
2026年に提供が始まったシステムです。Legalscape お知らせによると、実務文献などの多層的な法情報を横断的に結びつけ、APIを通じて外部サービスや社内システムとの連携に対応する設計だと説明されています。
小規模事務所でも導入する意味はありますか
取扱分野と検索頻度によります。文献の該当箇所を探す作業が週に何時間発生しているかを先に数え、その時間が2契約分の費用に見合うかで判断する流れになります。分野が絞られている事務所ほど、収録の厚みが合うかどうかで結論が分かれます。
導入の判断にどのくらいかかりますか
検証に8時間から12時間、所内ルールの作成に2時間から4時間というのが本記事の試算です。試用期間があるなら、その期間内に取扱分野10論点を通して投げ、出典の粒度と原典への到達のしやすさを確認する計画が立てやすくなります。
参考文献
- LegalOn Technologies 法務リサーチから相談回答・契約書修正まで一つの会話上でつなぐ LegalOnアシスタントがLegalscapeのLegal Intelligenceと連携(2026年9月9日)
- Legalscape 外部サービスと連携可能なリーガルAIシステム Legal Intelligence を提供開始
- e-Gov法令検索 弁護士法第23条
- e-Gov法令検索 民法第644条
- e-Gov法令検索 著作権法第30条の4
- e-Gov法令検索 個人情報の保護に関する法律第27条
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本記事の作成体制について
本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で、それぞれ確認したうえで記載しています。引用元は本文中および参考文献にすべて明示しています。
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