AI・DX健康診断とは、企業のAI活用の現状を分析し、導入の道筋を示す診断サービスのことです。
中小企業の支援先から、生成AIを入れたいが何から始めればよいか分からない、という相談を受ける場面が増えています。そこへ、AI活用の現状を診断して実行計画まで示すサービスが登場しました。本記事では、HiroshimAI株式会社が始めたAI・DX健康診断の公表内容を材料に、中小企業診断士が診断ツールを支援先への提案に組み込む手順を7つに整理します。本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、サービスの内容は同社のプレスリリースと、引用されている中小企業基盤整備機構の調査資料で確認しています。同社は2026年9月1日にAI・DX健康診断の提供を開始したと発表しました(出典:PR TIMES HiroshimAI株式会社)。
発表された内容と、引用されている調査の数字
最初に、プレスリリースから確認できる事実を整理します。サービスは4つの段階で構成されると案内されています。現状分析でAIの成熟度と強み、弱みを見ます。課題特定でボトルネックと導入時の課題を明らかにします。成果の可視化でAI導入の効果とROIのシミュレーションを示します。最後に、段階的な導入のロードマップと具体的な行動を示す実行プランを作る流れです(出典:PR TIMES HiroshimAI株式会社)。
開始の入口は無料のヒアリングとされており、料金は、この資料の範囲では確認できません(要確認)。また、データを読み解く担当者が経営に伴走することが特長として挙げられています。ただし、具体的な資格や、中小企業診断士との連携についての記載は、確認できませんでした。
リリースの背景として、中小企業基盤整備機構の実態調査が引用されています。全国の中小企業10,000社を対象にした調査で、AIを導入している企業は20.4%、導入済みの企業のうち生成AIを活用しているのは82.6%とされています。また、成功事例の情報が十分でないと回答した割合は83.3%です(出典:中小機構 中小企業のAI等の利活用に係る実態調査)。同じ資料では、導入の目的として業務の効率化や作業時間の短縮が最も多く挙げられています。
注意が必要なのは、見出しにある生成AIの利用が前年比約190%増という数字です。この数字の算出の元は、プレスリリースの範囲では確認できません(出典:PR TIMES HiroshimAI株式会社、要確認)。また、中小機構の資料と、リリースが引く数字との間で、有効回答数などの細かな数字が一致しない箇所があるため、提案書に載せる際は、原典の資料を直接開いて、数字を確認してから使う必要があります。
診断ツールを支援の中でどう位置づけるか
中小企業診断士は、経営の診断と助言を担う専門職です。中小企業支援法第11条は、経済産業大臣が、中小企業者が経営資源に関して適切な経営の診断及び経営に関する助言を受ける機会を確保するため、経営診断の業務に従事する者の登録を行う趣旨を定めています。診断士の登録の根拠となる条文です。この役割からみると、外部の診断サービスは、診断士の判断を置き換えるものではなく、診断の材料を早く揃える手段として位置づけるのが、自然な整理です。
外部の診断ツールが返すのは、一般的な成熟度の指標と、標準的な導入の道筋です。支援先の事情、たとえば経営者の意向、人員の構成、既存の業務の癖、資金の余力は、ツールの出力には現れません。診断士の役割は、ツールの出力を読み、支援先の実情に合わせて、優先順位と進め方を決めることです。
もう1つの視点は、成功事例の不足という課題です。調査では、成功事例の情報が十分でないと回答した割合が83.3%とされています。診断士が支援先に近い規模や業種の事例を、根拠を確かめたうえで整理して提示できれば、診断ツールの結果を補う価値になります。
診断結果を提案に組み込む7手順
以下は、中小企業診断士が、従業員数十名規模の製造業や小売業の支援先に、AI活用の提案を行う場面を想定した運用例です。
第1に、診断の目的を支援先と合わせます。診断を受けることで何を決めたいのか、たとえば、最初に取り組む業務を1つ選ぶ、導入の予算の目安を持つ、といった目的を、経営者と確認します。
第2に、入力する情報の範囲を決めます。外部の診断サービスに渡す情報は、社名や取引先が特定されない範囲に絞る運用が考えられます。支援先の了解を得たうえで、入力の内容を一覧にしておきます。
第3に、診断ツールの出力を、診断士が読み解きます。成熟度の評価の根拠、ROIの試算の前提、ロードマップの各段階の前提条件を確認します。前提が支援先の実情と合っていない部分には、印を付けます。
第4に、数字の前提を検証します。ROIのシミュレーションは、入力した仮定に左右されます。工数の削減幅、単価、利用者の数などの仮定を、支援先の実測値で置き換えて再計算します。
第5に、優先順位を診断士が決めます。ツールが示した複数の施策のうち、支援先の経営課題に直結するものを、診断士が選びます。選んだ理由を、提案書に書きます。
第6に、提案書に出典を付けます。中小機構の調査の数字などを引用する場合は、原典の資料と調査の時期を明記します。
第7に、実行の段階で、効果の測定方法を決めます。導入後の作業時間や、対応件数などを、導入前と同じ方法で測る設計を、提案に含めます。
生成AIを補助に使う場面のプロンプトの例を2本示します。どちらも架空の設定で、実在の支援先の情報は入力しません。
あなたは中小企業診断士の提案書作成の補助です。
以下は架空のF社(従業員数十名の部品加工業)の情報です。実在の企業の情報は含まれていません。
診断ツールが示した現状: 見積書の作成に時間がかかっている、問い合わせ対応が担当者ごとにばらつく
私が把握している経営者の意向: 人を増やさずに、対応の速さを上げたい
この2点から、AI活用で検討できる施策の候補を3つ挙げ、それぞれについて、確認すべき前提条件と、効果の測り方を書いてください。
効果の金額の予測は書かず、担当の診断士が現場で確かめる項目として出力してください。
あなたは中小企業診断士の業務補助です。
AI導入のROIシミュレーションを検証するための質問票を作ってください。
- 対象は架空のG社です
- 検証する前提: 削減できる作業時間、時間単価、利用者数、ツールの費用、教育の時間
- 各前提について、支援先から実測値を聞き取るための質問を1つずつ書いてください
- 質問は経営者と現場担当者の両方に聞ける表現にしてください
- 効果の断定的な予測は書かないでください
守秘義務・規程上の論点 支援先の情報を診断サービスに渡す前に
診断の入力には、支援先の業務の実態や、人員の構成、課題が含まれます。診断士が、外部の診断サービスに支援先の情報を渡す場合は、支援先との契約と、個人情報の取り扱いを整理する必要があります。
支援先との契約では、秘密保持の条項が中心になります。診断士が支援先から預かった情報を、外部のサービスに入力してよいか、入力してよい範囲はどこまでかを、契約書や業務の開始時の書面で確認しておく運用が考えられます。診断士の資格に基づく守秘の定めは、本記事では法令上の根拠を確認できていないため、契約の条項と、所属する団体の倫理の規定などで、それぞれ確認する項目です(要確認)。
個人情報の面では、個人情報保護法第27条が、個人情報取扱事業者が、あらかじめ本人の同意を得ないで個人データを第三者に提供してはならないと定めています(例外が列挙されています)。従業員の名簿や顧客の情報を診断サービスに入力する場合は、この規定との関係を、個人情報保護委員会の公表資料などで確認する論点です。
診断サービス側の情報の取り扱いは、今回のプレスリリースの範囲では確認できません。入力したデータの保管、学習への利用、削除の手順、第三者への提供の有無は、契約や利用規約で確認する項目です(要確認)。
支援先への説明としては、診断にAIを使った外部サービスを用いること、入力する情報の範囲、診断士が結果を読み解いて提案を作ることを、事前に伝え、了解を得ておく方法があります。診断士が生成AIで支援先向けの提案資料を作る場合の考え方は、Claude Designで顧問先向け提案資料を作る 士業事務所の7工程でも扱っています。
診断の前後で、診断士が担う工程を整理する
診断サービスを使う場合でも、支援の全体の流れの中で、診断士が担う工程は多くあります。診断の前では、支援先の経営課題の聞き取りと、AI活用で何を実現したいかの言語化があります。ここが曖昧なまま診断を受けると、一般的な成熟度の評価だけが返り、次の行動に結び付きにくくなります。診断士が事前に、業務の棚卸しの表や、優先したい課題のメモを支援先と作っておくと、診断の入力の質が上がります。
診断の後では、結果の読み解きに加えて、社内の合意づくりがあります。AIの導入は、経営者が決めても、現場が使わなければ成果が出ません。現場の担当者への説明の場を設け、不安や疑問を聞き取り、最初に取り組む業務を、現場の負担の少ないものから選ぶ設計が考えられます。導入の初期に小さな成果を出すことが、次の段階への理解につながります。
さらに、支援の期間の設計も診断士の役割です。診断から実行までの期間、各段階で確認する指標、支援先が自走できる状態の目安を、提案書に書いておくと、支援の終わりが見えやすくなります。診断サービスが実行の伴走まで担う場合は、診断士との役割分担を、支援先に分かる形で示す必要があります。補助金や融資を活用する場合は、申請の要件や時期を、公的機関の公表資料で確認して、提案に反映します。要件は年度で変わるため、最新の公募要領の確認が前提になります(要確認)。
7つの判断軸
以上を、診断ツールを提案に組み込む際の7つの判断軸としてまとめます。
1つ目は、診断ツールの位置づけです。診断士の判断を置き換えるのか、材料を揃える手段なのかを決めます。
2つ目は、入力する情報の範囲です。支援先の了解と、匿名化の程度を決めます。
3つ目は、出力の前提の確認です。成熟度の評価やROIの試算の前提を、支援先の実情と照らします。
4つ目は、数字の出典です。中小機構の調査のような公的な資料は、原典を開いて確認し、調査の時期と対象を明記します。
5つ目は、料金と役割の確認です。診断サービスの料金と、診断士が担う部分の報酬の切り分けを、支援先に説明できる形にします(要確認)。
6つ目は、実行段階の伴走です。診断の後の導入支援を、診断サービス側が担うのか、診断士が担うのかを明確にします。
7つ目は、効果の測定です。導入前後で同じ方法で測ることを、提案に含めます。
提案書に載せる数字の扱い方
診断士が作る提案書は、支援先の経営者が意思決定に使う文書です。載せる数字の出どころと、その扱いを、一定のルールにしておくと、後から説明を求められた際に困りません。
数字の種類は、大きく3つに分けられます。1つ目は、公的機関の調査の数字です。中小機構の調査のように、調査の時期、対象、有効回答数が公表されているものは、原典を開いて、その数字を確かめます。2つ目は、事業者の公表する数字です。事業者の発表は、その事業者の立場からの説明であり、算出の条件が示されていない場合は、参考の扱いに留めます。3つ目は、支援先自身の実測値です。提案の中心に据える数字は、この実測値が望ましく、診断ツールの試算は、実測値で置き換えるまでの仮の値と位置づけます。
提案書には、数字ごとに、出典と時点を脚注などで示します。出典が確認できない数字は載せない、という運用を、診断士の事務所の標準にしておく方法があります。また、複数の資料の間で数字が食い違う場合は、どちらが正しいかを断定せず、原典の確認の結果と、確認できなかった事実を、提案書の注記に残します。こうした扱いは、支援先からの信頼を守るとともに、診断士自身の説明責任を果たす手段にもなります。
提案で起こりがちな失敗と回避策
失敗の1つ目は、診断ツールのROIの試算を、そのまま支援先へ示してしまうことです。試算は入力した仮定に左右されます。回避策は、仮定を支援先の実測値で置き換え、前提を提案書に明記することです。
失敗の2つ目は、前年比などの見出しの数字を、根拠を確かめずに提案書へ転記することです。算出の元が不明な数字は、支援先の判断を誤らせるおそれがあります。回避策は、原典の資料で数字を確かめ、確認できない数字は使わないことです。
失敗の3つ目は、支援先の情報を、了解を得ずに外部のサービスへ入力してしまうことです。回避策は、入力の範囲を事前に支援先と決め、書面に残すことです。
失敗の4つ目は、診断の結果だけを渡して、実行の道筋が示されないことです。回避策は、優先順位と、最初の一歩の具体的な行動を、診断士が添えることです。
費用・工数・体制
診断サービスの料金は、今回の資料の範囲では確認できず、無料ヒアリングが入口とされています。実際の費用は、同社への確認事項です(要確認)。
診断士の工数としては、支援先との目的の確認、入力情報の整理、出力の読み解き、前提の検証、提案書の作成が発生します。前提の検証と優先順位の判断は、診断士の付加価値が出る部分であり、ここに時間を配分する設計が考えられます。体制としては、診断サービスとのやり取りの窓口を、診断士の側で一本化しておくと、支援先への説明が一貫します。
今後の展望と独自考察
AI活用の診断サービスが増えると、診断の入口は早く安くなります。その分、診断士に問われるのは、診断の結果をどう読み、支援先の実情に合わせてどう組み替えるかという部分に移っていきます。
論点になるのは、次の3点です。1つ目は、診断ツールの標準的な出力と、支援先の個別の事情の間の差を、診断士がどう埋めるか。2つ目は、成功事例の不足という課題に対し、診断士が根拠のある事例をどう整理して示すか。3つ目は、診断サービスと診断士の役割分担を、支援先にどう説明するかです。診断ツールを使う側に立つ診断士にとって、出力の前提を検証する力が、これまで以上に重要になります。AIデータ社のサービスを診断士が検討する場合の視点は、AI Consulting Loop on IDXを中小企業診断士が検討する前に 経営案件データ突合の判断軸7つでも整理しています。
よくある質問
AI・DX健康診断はいつ始まりましたか。
プレスリリースでは、2026年9月1日に提供を開始したとされています(出典:PR TIMES HiroshimAI株式会社)。
料金はいくらですか。
今回の資料の範囲では確認できません。無料ヒアリングから始められると案内されています。詳細は同社への確認事項です(要確認)。
中小企業診断士と連携するサービスですか。
プレスリリースの範囲では、診断士との連携の記載は確認できませんでした。診断士が診断ツールの結果を読み解く形で使う場合の考え方を、本記事で整理しています。
前年比約190%増の数字は使えますか。
算出の元がプレスリリースの範囲では確認できません。提案書に使う場合は、原典を確認できる数字に限る運用が考えられます(要確認)。
支援先の情報を診断サービスに入力してよいですか。
支援先との契約の秘密保持条項と、個人情報保護法第27条との関係を確認する必要があります。入力の範囲を支援先と決め、書面に残す運用があります。
診断結果のROIは、そのまま使えますか。
入力した仮定に左右されるため、支援先の実測値で置き換えて再計算する運用があります。前提は提案書に明記します。
参考文献
- PR TIMES HiroshimAI株式会社 AI・DX健康診断の提供開始
- 中小機構 中小企業のAI等の利活用に係る実態調査
- e-Gov法令検索 中小企業支援法
- e-Gov法令検索 個人情報の保護に関する法律
※士業のチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴事務所の業務に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
https://shigyonochikara.jp/contact/
本記事の作成体制について
本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で、それぞれ確認したうえで記載しています。引用元は本文中および参考文献にすべて明示しています。
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