AI Consulting Loopとは、経営案件と経営成果をAIが突合し分析する機能のことです。
支援先の財務データや営業データを、AIに突合させて成功パターンを取り出す。この仕組みに、診断士としてどこまで支援先の情報を預けてよいのか。本記事では、AIデータ株式会社が2026年8月31日に発表したAI Consulting Loop on IDXを材料に、中小企業診断士が導入を検討するときの判断軸を7つに整理します。本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、製品の内容は同社のプレスリリースで確認しています。同社は2026年8月31日11時に、AI孔明 on IDXの新機能であるAI突合作業 Loopの中小企業診断士向けとして本機能を発表しました(出典:PR TIMES AIデータ株式会社)。
発表された内容 公表資料から確認できる範囲
最初に、プレスリリースに書かれている事実だけを整理します。同社のリリースによれば、本機能は経営案件データと経営成果データをAIで突合・分析し、成功パターンを事務所全体の知識資産として蓄積・活用し続ける仕組みです。対象として挙げられているのは、中小企業診断士と経営コンサルティングの業務です(出典:PR TIMES AIデータ株式会社)。
学習する分野として、経営分析(売上改善の要因、原価構造など)、財務分析(資金繰り、借入の改善など)、営業・マーケティング分析、DX支援、補助金対策、経営計画の策定が並んでいます。投入するデータとして、経営案件、財務データ、営業データ、生産データ、人事データ、KPI、補助金申請、市場データ、過去案件が示され、成果データとして、売上の向上、利益の改善、生産性の向上、補助金の採択などが挙げられています。提供形態としては、デジタル化・AI導入補助金2026の対象製品として採択済みで、補助金申請のサポート相談を受け付けているという趣旨の記載があります。
ここで、公表資料から読み取れない点を整理しておきます。料金、データの保管環境、外部のAIモデルへの送信の有無、入力データの学習利用の扱い、支援先の情報を投入するときの権限管理の仕様は、今回確認したリリースの範囲では記載が見当たりません。これらは、導入を検討する診断士が同社に直接確認する事項です(要確認)。
投入するデータの範囲が広い点は、診断士にとって重要な前提です。財務、人事、生産といった支援先の中核情報が含まれるため、機能の魅力と同じだけ、情報管理の設計が導入の可否を左右します。
診断士が扱うデータの重さを整理する
診断士の業務で扱う情報は、支援先の企業にとって外部に出したくないものが多くあります。決算書、資金繰り表、借入の状況、従業員の情報、取引先の情報、開発中の製品の情報などです。突合分析の材料としてこれらを投入する以上、事務所としてどの情報を投入してよいかを、種類ごとに決めておく必要があります。
情報の重さを、次の3段階で整理する運用が考えられます。1段階目は、公開情報や、支援先が公表を了承している情報です。2段階目は、支援先の内部情報だが、個人や取引先が特定されないもの。3段階目は、個人が特定できる情報や、取引先の名称を含む情報です。1段階目から試し、2段階目は支援先の書面の同意を得たうえで扱い、3段階目は原則として投入しない、という線引きは一つの運用例です。
突合分析の価値は、過去案件のデータが豊富であるほど高まりますが、過去案件の支援先との契約に、データの二次利用に関する定めがあるかどうかで、使える範囲が変わります。契約に定めがない場合は、支援先に個別に確認するか、投入するデータを匿名化・集計した形に限る方法があります。
守秘の根拠を確かめる 診断士の場合
守秘の根拠は、資格によって異なります。中小企業診断士については、経営診断の業務に従事する者の登録が、中小企業支援法第11条に定められています。同条は、経済産業大臣が登録簿を備え、経営診断の業務に従事する者に関する事項を登録すると規定しています。また、試験については中小企業支援法第12条が定めています。ただし、これらの条文は登録と試験に関する規定であり、確認した範囲では、守秘義務を直接定めた条項ではありません。
そのため、診断士の実務では、支援先との契約書の秘密保持条項や、所属する団体の倫理に関する定めが、守秘の根拠になる場面が多いと考えられます。自身の契約書と所属団体の規程で確認する事項です(要確認)。契約書の秘密保持条項が、第三者へのデータ提供やクラウドサービスの利用をどう扱っているかを、導入前に読み直します。
個人情報の観点では、個人情報保護法第27条が、個人情報取扱事業者が、あらかじめ本人の同意を得ないで個人データを第三者に提供してはならないと定めています。人事データを投入する場合、従業員の個人データが含まれるため、この規定との関係が問題になり得ます。整理は、個人情報保護委員会の公表資料などで個別に確認する論点として残します。
導入を検討する7つの判断軸
ここから、導入の判断軸を7つに整理します。前提は、診断士が単独、または少人数で、複数の支援先の経営支援を継続的に行う事務所です。実際の規模や体制は事務所により異なります。
1つ目は、投入するデータの範囲の線引きです。前述の3段階のように、情報の種類ごとに投入可否を決め、記録します。
2つ目は、支援先との契約と同意です。契約書の秘密保持条項を読み直し、必要なら、AIを含む分析ツールの利用について、支援先に書面で説明して同意を得ます。
3つ目は、データの保管環境と外部送信です。支援先の財務・人事データがどこに保管され、外部のAIモデルに送られるのかを、書面で確かめます。この点は今回確認したリリースには記載がなく、要確認です。
4つ目は、学習利用の有無です。投入したデータが、モデルの学習や、他の事務所の分析に使われないかを、契約書と利用規約の両方で確かめます。事務所ごとのデータが分離されているかどうかも、確認事項に含めます。
5つ目は、出力の検証工程です。売上改善の要因や資金繰りの示唆は、AIが相関から導いたものかもしれません。診断士が、財務諸表や現場の状況と照らして確認する工程を残します。因果関係を断定した提案書を、そのまま支援先に渡さない運用が考えられます。
6つ目は、補助金の活用可否です。リリースは、デジタル化・AI導入補助金2026の対象製品であると述べています。この補助金は、中小企業デジタル化・AI導入支援事業として運営され、ITツール登録事業者が対象のツールを登録し、IT導入支援事業者が導入を支援する仕組みです(出典:中小企業デジタル化・AI導入支援事業)。診断士事務所が補助対象になるか、または支援先が使う場合にどう関わるかは、公募要領で確認する事項です(要確認)。
7つ目は、既存の支援手法との関係です。突合分析の結果を、従来の診断手順の代わりにするのか、補助として使うのかを決めます。支援先への説明では、AIの分析は診断士の判断を支える材料であり、判断そのものではないことを明示します。
次に、プロンプト例を2本示します。どちらも、実在の支援先を含まない架空の設定で使う下書きです。
あなたは中小企業診断士の業務補助です。
以下は架空の製造業D社の集計済みデータです。実在の企業情報は含まれていません。
- 売上: 3期連続で微減
- 粗利率: 横ばい
- 在庫回転: 悪化傾向
- 人員: 変化なし
改善の仮説を、原価、在庫、営業の3つの観点で整理してください。
仮説は断定せず、診断士が現場で確かめる質問の形で出力してください。
最終判断は診断士が行います。
あなたは事務所の情報管理担当の補助です。
経営案件データ突合AIの導入検討にあたり、ベンダーに確認する質問リストを作ってください。
- 観点: データの保管場所、外部AIモデルへの送信有無、学習利用、事務所間のデータ分離、支援先ごとのアクセス制御、操作ログ、契約終了時のデータの扱い
- 対象は架空のE診断士事務所です
- 各質問は1文で、回答を書面で受け取る前提の書き方にしてください
- 断定的な評価は書かない
出力は、観点ごとに質問を1つずつ並べてください。
導入の進め方 小さく試して記録を残す
導入は、小さな試行から始める方法があります。以下は運用例であり、期間や件数は事務所の状況に合わせて調整します。
最初の段階では、投入するデータを、公開情報と、支援先が公表を了承した情報に限ります。たとえば、支援先が公表している決算情報や、業界の公開統計です。この範囲で、分析の形式や出力の質を確かめます。同時に、ベンダーへの質問リストを送り、書面回答を得ます。
次の段階では、過去の案件のうち、支援が完了して一定の期間が経ち、契約上の制約が小さいものを選びます。匿名化・集計した形で投入し、AIの分析が、診断士自身の記憶や当時の記録と整合するかを評価します。評価の観点は、指摘が実務上意味を持つか、見落としがないか、誤りが含まれていないかの3つです。
最後の段階で、導入するか、範囲を絞るか、見送るかを判断します。判断の記録には、工数、精度、守秘に関するベンダーの回答、費用を並べ、その時点の回答を添付して保管します。この記録は、後日、支援先から質問を受けたときの説明の材料にもなります。
規程と支援先への説明に落とす項目
判断軸を、事務所の規程と支援先への説明に落とす場合の項目を整理します。ここに挙げるのは運用例であり、文言は事務所の実情に合わせて決めます。
規程に書く項目の候補は、AIへの投入を認める情報の種類、投入を認めない情報の種類、使用するツールと契約の指定、支援先の同意の取得方法、操作の記録の保存期間、利用者の権限、契約終了時のデータの扱いです。診断士が単独で活動する場合でも、文書として残しておくと、支援先から質問を受けたときに、判断の根拠を示せます。
支援先への説明では、AIを分析の補助として使うこと、投入する情報の範囲、外部への送信や学習利用についてベンダーから得た回答の内容、最終的な提案は診断士が現場を確認したうえで行うことを、契約書か説明資料に書いておく方法があります。支援先の規模が小さく、情報管理の規程が整っていない場合でも、口頭だけで済ませず、書面で残す運用が、後の行き違いを減らします。規程は一度作って終わりにせず、ツールの仕様変更や支援先の要望を受けて、年に一度は見直す運用があります。見直しの記録も残しておくと、判断の経緯を後から示せます。
導入で起こりがちな失敗例と回避策
失敗例の1つ目は、支援先の同意を得ないまま、財務データを投入してしまうケースです。回避策は、投入前に契約書の秘密保持条項を読み直し、必要な場合は書面で同意を得る手順を、事務所の規程に置くことです。
失敗例の2つ目は、AIが示した成功パターンを、支援先の状況を確かめずに提案してしまうケースです。他の企業で有効だった施策が、支援先の規模や業種、市場環境に合うとは限りません。回避策は、分析結果を仮説と位置づけ、現場の確認を経て提案にする工程を固定することです。
失敗例の3つ目は、補助金の要件を確認しないまま、導入や支援を進めてしまうケースです。補助金には、申請の時期や、交付決定前の発注に関する定めなどがあり、順序を誤ると対象外になり得ます。回避策は、契約や発注の前に、公募要領で手続きの順序を確認することです(要確認)。
失敗例の4つ目は、事務所間のデータ分離が不明なまま利用を始めるケースです。他の事務所のデータと混ざって分析される設計であれば、守秘の観点で別の論点が生じます。回避策は、データの分離について、ベンダーの書面の回答を得てから利用を始めることです。
費用・工数・体制の見立て
料金は今回確認したリリースには記載がなく、本記事では金額を推測で示しません。見積もりを取り、従来の分析にかかる時間との比較を、事務所の実測で行います。補助金を使う場合は、補助率や上限額が公募要領で定められるため、事務所の負担額はその確認後に試算します(要確認)。
データ整備の工数は、案件データの保存状況に左右されます。案件ごとに、財務データ、KPI、支援の記録が整理されていれば取り込みは軽くなりますが、個人のフォルダやメールに散在している場合は、整理に時間がかかります。導入前に、データの棚卸しを行うと、工数の見積もりがしやすくなります。
体制としては、導入責任者を決め、ベンダーへの確認の窓口を一本化します。単独の診断士事務所では、責任者と運用者が同じ人になるため、判断の記録を残す習慣が、後の説明責任を支えます。
今後の展望と独自考察
診断士の知見は、これまで個人の経験に依存しやすい領域でした。突合分析は、その経験を事務所の資産として取り出す試みとして位置づけられます。一方で、資産化されたデータが誰のものか、支援先の情報がどこまで事務所の資産に含まれるかは、今後の論点になります。
論点になるのは、次の3点です。1つ目は、支援先のデータから得た知見を、他の支援先の支援に使うときの説明の仕方です。2つ目は、AIの分析結果に対する診断士の責任の範囲です。3つ目は、分析が普及したときに、診断士の付加価値がどこに残るかです。現場の対話や、経営者の意思決定への伴走といった領域が、専門性の中心になっていくことが論点になります。
関連する整理として、診断業務の工程をAIで分ける 診断士の7つの判断軸、補助金の事業計画書をAIで下書きする 診断士が確かめる7条件、診断士のAI導入伴走と補助金の7手順もあわせて参照してください。
よくある質問
AI Consulting Loop on IDXは、診断士の事務所でも使えますか。
リリースは、中小企業診断士と経営コンサルティングを対象として挙げています。契約条件は記載がないため、同社への確認事項です(要確認)。
支援先の財務データを投入してもよいですか。
投入の可否は、支援先との契約書の秘密保持条項と、ベンダーの回答をあわせて検討する事項です。書面での同意を得たうえで、範囲を絞って投入する運用が考えられます。
診断士の守秘義務は、どの条文にありますか。
中小企業支援法第11条は登録、第12条は試験に関する規定で、確認した範囲では守秘義務を直接定めた条項ではありません。契約書の秘密保持条項や所属団体の規程で確認する事項です(要確認)。
従業員の人事データを投入するときの注意点はありますか。
個人データを含む場合、個人情報保護法第27条の第三者提供の制限との関係が論点になります。個人情報保護委員会の公表資料などで確認する事項です。
AIが示した成功パターンを、そのまま提案に使えますか。
成功パターンは過去のデータの傾向であり、支援先の状況に合うとは限りません。仮説として位置づけ、診断士が現場で確認する工程を残す運用が考えられます。
補助金は診断士事務所でも使えますか。
リリースは、本機能がデジタル化・AI導入補助金2026の対象製品であると述べています。事務所が対象になるかは、公募要領の要件で確認する事項です(要確認)。
参考文献
- PR TIMES AIデータ社 AI孔明 on IDX新機能 AI突合作業 Loop の中小企業診断士向け AI Consulting Loop on IDX を発表
- 中小企業デジタル化・AI導入支援事業
- e-Gov法令検索 中小企業支援法
- e-Gov法令検索 個人情報の保護に関する法律
- 個人情報保護委員会
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本記事の作成体制について
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