カスハラ指針を社内研修の資料に落とす 社労士が顧問先とAIで組む7工程

2026年10月1日に義務化されるカスハラ対策のうち周知・啓発に絞り、告示第51号の指針を社内研修資料に落とす7工程と、生成AIの使いどころ、相談記録を入力する際の守秘義務の線引きを整理します。

カスハラ指針を社内研修の資料に落とす 社労士が顧問先とAIで組む7工程

カスハラ指針とは、顧客等の言動に起因する問題への雇用管理上の措置を示した厚生労働大臣告示のことです。

規程を整えたあと、それを従業員に伝える研修資料は誰が作るのか。ここで手が止まる顧問先は少なくありません。この記事では、2026年10月1日から義務化されるカスタマーハラスメント対策のうち、周知・啓発の部分に絞り、告示された指針を社内研修の資料に落とし込むための工程と、生成AIをどこまで使えるかを整理します。本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で確認しています。厚生労働省は、2026年10月1日からカスタマーハラスメント対策と求職者等に対するセクシュアルハラスメント対策が義務化される旨のリーフレットを公表しています(出典: 厚生労働省 リーフレット(詳細版))。

規程を作っただけでは終わらない周知・啓発の位置づけ

改正の全体像を先に押さえます。厚生労働省は、いわゆるカスタマーハラスメント、求職者等へのセクシュアルハラスメント等のハラスメントのない職場づくりや、女性の職業生活における活躍に関する取組の推進等を図るため労働施策総合推進法等を改正したとしており、令和7年6月11日に公布されています(出典: 厚生労働省 令和7年労働施策総合推進法等の一部改正について)。施行期日は政令で定められ、施行期日を定める政令として令和8年政令第17号が公表されています。

指針そのものは告示の形で出ています。事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針が令和8年厚生労働省告示第51号として、求職者等に関するものが同告示第52号として公表されました(出典: 厚生労働省 令和7年労働施策総合推進法等の一部改正について)。原文は厚生労働省のサイトからPDFで取得できます。事務所として研修資料を作るなら、要約記事ではなくこの告示原文を手元に置くのが出発点です。

事業主に求められる措置は、大きく三つに整理されます。方針の明確化とその周知・啓発、相談に応じ適切に対応するために必要な体制の整備、そして事案が生じた場合の迅速かつ適切な対応です。このうち規程の整備に相当する部分はカスハラ対策義務化は10月1日から 社労士が顧問先の規程を整える7手順で扱いました。本記事はその次、周知・啓発の実行部分を扱います。

なぜ周知・啓発を別立てで扱うかというと、ここが最も後回しにされ、かつ最も外形が残りにくいからです。規程はファイルとして残ります。相談窓口は設置の記録が残ります。ところが、従業員に周知したという事実は、意識して記録を残さないと後から示せません。研修を実施し、その資料と出席の記録を残すことが、周知・啓発を目に見える形にする最も確実な方法です。

関連する既存の枠組みとしては、パワーハラスメントについての労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律第30条の2が、事業主に対し、当該労働者からの相談に応じ適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じることを求めています。同法第30条の3は、国、事業主および労働者の責務として、関心と理解を深めるための啓発を位置づけています。カスタマーハラスメントについても、同じ構造の措置義務が組まれていることになります。

告示原文を研修資料に落とす7工程

顧問先の研修資料づくりを社労士事務所が支援する場合、次の七つの工程で進めると、指針との対応関係を保ったまま業種ごとの実情に寄せられます。

  1. 告示第51号の原文をPDFで取得し、措置の項目ごとに見出しを抜き出す。ここは人が読む工程です。要約を先に作ると、後の工程で、指針のどこに対応する記述かが追えなくなります。
  2. 顧問先の業種と接客形態を確認する。対面の小売か、電話中心のコールセンターか、訪問型のサービスかで、想定される言動の類型がまったく違います。研修資料の説得力はここで決まります。
  3. 業種別の想定事例を集める。厚生労働省はカスタマーハラスメント対策企業マニュアルを公表しており、事例の型を参照できます。ここで生成AIに事例を作らせるのは、後述する理由から慎重に扱う工程です。
  4. 指針の見出しと事例を対応づけ、研修資料の骨子を作る。指針のどの項目に対応する説明かを、資料のスライドごとに書き添える形にすると、後で監督署や顧問先の役員から問われたときに答えやすくなります。
  5. 骨子から研修資料の本文を生成AIで起こす。ここが最も工数の圧縮が効く工程です。骨子と業種情報を渡して、話し言葉に近い説明文を出させます。
  6. 有資格者が全文を確認する。特に、指針を超えて、違法である、といった評価に踏み込んだ記述が混入していないかを見ます。研修資料は従業員に配られ、社内で規範として受け取られるため、断定の混入は影響が大きい箇所です。
  7. 実施記録の様式を用意する。実施日、対象者、資料の版、質疑の内容を残す様式を、研修資料とセットで顧問先に渡します。周知・啓発を実施した事実を後から示せる状態にすることが、この工程の目的です。

工程5で使えるプロンプトは次のとおりです。指針の見出しと業種情報を渡し、説明文だけを書かせる組み立てにしています。

あなたは社内研修の資料を作成する編集アシスタントです。
以下の骨子から、従業員向け研修資料の説明文を作成してください。

【顧問先の情報】
- 業種: 食品小売(店舗数8、従業員60名、うちパート40名)
- 接客形態: 対面のレジ対応と電話での問い合わせ対応
- 研修時間: 40分(説明25分、質疑15分)

【骨子(指針の項目に対応)】
1. 事業主の方針の明確化と周知
2. 顧客等の言動のうち、対応の対象となる行為の考え方
3. 相談窓口の場所と連絡方法
4. 相談したことによる不利益な取扱いをしない旨
5. 事案が生じたときの店舗での初動

【出力形式】
- 各項目を、話し言葉に近い300字程度の説明文にする
- 各項目の末尾に、受講者に投げかける確認の問いを1つ添える
- 法令上の適否や違法性の評価は書かず、社内の対応方針の説明にとどめる
- 具体的な企業名・個人名・実在の事案は使わない

※法的な判断が必要な記述には(要確認)と付し、断定しないでください。

工程3で事例を扱うときのプロンプトは、性格が違います。実在の顧客とのやり取りを入力しないことが前提です。

あなたは研修用の架空事例を作成するアシスタントです。
以下の条件で、研修のグループワーク用の架空シナリオを3本作成してください。

【条件】
- 業種: 食品小売の店舗レジ
- 登場人物は「来店者A」「店員B」「店長C」のみとし、実在の人物・企業を想起させない
- 各シナリオは200字程度
- 判断が分かれそうな中間的な事例を1本は含める

【出力形式】
- シナリオ本文
- そのシナリオで受講者に議論させたい論点を2つ
- 正解を断定せず、判断の分かれ目がどこにあるかを示す

※実在の事案・報道された事件を素材にしないでください。
※「この行為は違法です」といった評価は書かないでください。

就業規則そのもののたたき台づくりについては社労士向け生成AI活用ガイドブックを実務検証 就業規則たたき台の7工程で検証しています。あわせて、求職者等に対するセクシュアルハラスメント対策は同じ日から義務化されるため、就活セクハラ対策が2026年10月に義務化 社労士が顧問先へ渡す7手順と採用実務の内容と研修を一本にまとめる設計も検討に値します。

顧問先の相談記録をAIに入れるときの線引き

カスタマーハラスメントの研修資料づくりには、事例という素材が要ります。そして最も生々しく、最も説得力のある事例は、その顧問先で実際に起きた事案です。ここに落とし穴があります。

実際の事案には、来店者の氏名、日時、店舗名、対応した従業員の氏名が紐づいています。これらを含んだ相談記録をそのまま生成AIに投入して研修資料の素材にするのは、守秘義務と個人情報の両面で説明が難しくなります。社会保険労務士の守秘義務は社会保険労務士法第21条が、正当な理由なく業務に関して知り得た秘密を他に漏らし、または盗用してはならない旨を定めています。社会保険労務士の業務の範囲は同法第2条が定めており、顧問先から預かる労務情報はこの業務の中で知り得たものにあたります。

個人データの取扱いという面では、個人情報の保護に関する法律第23条が、取り扱う個人データの漏えい、滅失又は毀損の防止その他の安全管理のために必要かつ適切な措置を講じることを求めています。ハラスメントの相談記録は、被害を受けた従業員の心身の状況に触れることもあり、取扱いの慎重さが求められる情報です。八士業それぞれの守秘義務の根拠条文は士業の生成AIと守秘義務 8士業の根拠条文と入力ルールの作り方に整理しています。

実務的な線引きとして、事務所で決めておきたいのは次の三つです。

第一に、実事案は「型」だけを抜き出して使うという原則です。誰が、いつ、どこで、という要素を全部落とし、行為の型と対応の型だけを残す。上のプロンプト例が架空の登場人物だけで組まれているのはこのためです。型に還元しても研修の役には立ちます。むしろ、特定の顧客を想起させる事例を社内研修で使うと、受講者の関心がその事案の是非に流れ、対応方針の共有という目的から外れます。

第二に、研修資料の生成に使うAIサービスを限定することです。入力が学習に使われるか、履歴がどこに保存されるか、契約プランで扱いがどう変わるかは、サービスごとに異なります。顧問先ごとに担当者が思い思いのツールを使う状態は、事務所として説明できません。ツール選定時の確認軸はAIツール選定でセキュリティ認証をどう読むか 士業の9確認手順で整理しています。

第三に、研修資料の版管理です。指針は告示であり、改正されれば内容が変わります。研修資料に、どの時点の指針に基づいて作成したかを明記し、事務所側でも版を管理してください。義務化の初年度に配った資料が、数年後もそのまま使い回されている、という状態は避けたいところです。

顧問先への説明としては、研修資料の作成に生成AIを使っていること自体は、隠す性質のものではありません。むしろ、どの範囲でAIを使い、どこを有資格者が確認しているかを先に示すほうが、成果物への信頼につながります。

研修資料づくりで起きやすい三つの失敗

一つ目は、AIの出力に評価的な断定が混ざることです。生成AIに事例と説明を書かせると、その行為がカスタマーハラスメントにあたると言い切る書き方を自然に出してきます。研修資料は従業員が社内の判断基準として読むため、この断定がそのまま独り歩きします。指針の考え方を示し、判断は所定の手順で行う、という書き方に直す工程を挟んでください。

二つ目は、指針との対応関係が資料から失われることです。読みやすさを優先して構成を組み替えると、指針のどの項目に対応する記述なのかが追えなくなります。後から、周知・啓発として何を伝えたのかを説明する場面で、資料と指針の対応表がないと立証が弱くなります。工程4で対応づけを資料側に残す理由がここにあります。

三つ目は、研修の実施記録を残さないことです。資料だけ立派に作って、いつ誰に実施したかの記録がない。この状態では、周知・啓発の措置を講じた事実を示す材料が薄くなります。実施記録の様式を資料とセットで渡すことを、事務所の標準の納品物にしておくのが実務的です。

費用と工数、そして誰が確認するか

追加費用は生成AIの利用料が中心で、事務所が法人向けプランを持っていれば、この作業のための追加投資は基本的に不要です。顧問先に成果物として研修資料を提供する場合、事務所側の報酬設計をどうするかのほうが論点になります。

工数は、告示原文の読み込みと項目の抽出に初回で数時間、顧問先一社ごとの資料作成に、業種情報の確認を含めて二時間から三時間程度が目安です。二社目以降は骨子を流用できるため、業種の差分を当てる作業が中心になり、一社あたり一時間程度まで縮みます。この目安は編集部が工程を積み上げた試算であり、顧問先の業態や研修の設計によって上下します。

確認の体制については、骨子づくりと資料の生成は補助者に任せられる工程ですが、指針との対応づけの妥当性と、断定表現の混入がないかの最終確認は有資格者が担う領域です。労務監査の枠組みと合わせた事務所内の役割整理は社労士法9次改正で労務監査が明記 AIで作るチェックリスト7項目で扱っています。

義務化の初年度が終わったあとに何が問われるか

義務化の施行日である2026年10月1日は出発点であって到達点ではありません(出典: 厚生労働省 リーフレット(詳細版))。周知・啓発は一度実施すれば終わりではなく、新入社員が入るたび、店舗が増えるたびに繰り返される作業です。ここを毎回ゼロから作る事務所と、骨子と業種別の差分の形で持っている事務所とでは、数年で提供できる支援の厚みが変わります。

もう一つの論点は、研修の中身が実際の対応につながっているかです。資料を配り、説明をし、記録を残す。この三点は形として整いますが、現場で判断に迷う場面が減ったかどうかは別の話です。研修後に相談窓口への相談が増えたかどうかは、周知が効いたかを測る一つの手がかりになります。相談が増えることは失敗ではなく、むしろ窓口が認知された結果と読むこともできます。この読み方を顧問先の役員と共有しておくと、初年度の数字を見て慌てずに済みます。

社労士事務所にとっては、規程の整備で終わらせず、周知・啓発と記録の設計まで含めて提案できるかが、この改正への向き合い方の差になります。前者は雛形の提供で済み、後者は顧問先ごとの実情を知らないと組めません。

よくある質問

カスハラ対策の義務化はいつからですか

厚生労働省は、2026年(令和8年)10月1日からカスタマーハラスメント対策と求職者等に対するセクシュアルハラスメント対策が義務化される旨のリーフレットを公表しています(出典: 厚生労働省 リーフレット(詳細版))。改正法は令和7年6月11日に公布され、一部の規定は令和8年4月1日に施行される予定とされています。

指針の原文はどこで読めますか

厚生労働省のサイトで、事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針が令和8年厚生労働省告示第51号としてPDFで公開されています。求職者等に対するものは同告示第52号です。研修資料を作る際は、解説記事ではなくこの原文を手元に置くことをおすすめします。

研修資料の作成を生成AIに任せてよいですか

骨子から説明文を起こす部分は、AIに任せて成立する工程です。一方で、指針のどの項目に対応する記述かの対応づけと、評価的な断定が混入していないかの確認は、有資格者が担う領域です。研修資料は社内で規範として読まれるため、断定の混入は影響が大きく、全文に目を通す工程を省かない設計にしてください。

実際に起きた事案を研修の事例に使えますか

事務所として決めた入力ルールに沿うかどうかで判断することになります。氏名や日時、店舗名を落とし、行為と対応の型だけに還元すれば、研修の素材としては十分に機能します。守秘義務の根拠は社会保険労務士法第21条にあり、個人データの安全管理は個人情報の保護に関する法律第23条が求めています。特定の顧客を想起させる事例は、研修の目的からも外れやすくなります。

研修は何分くらいが適切ですか

法令や指針が研修時間を定めているわけではないため、顧問先の業種と勤務形態に合わせて設計する領域です。パート比率が高い小売業では、シフトに組み込める長さに収めることが優先されます。説明を短くまとめ、グループワークで具体の判断に触れる構成のほうが、長時間の座学より定着しやすいという設計上の考え方もあります。

実施記録には何を残せばよいですか

実施日、対象者の範囲と人数、使用した資料の版、質疑の概要を残しておくと、周知・啓発を行った事実を後から示しやすくなります。出席者の署名まで取るかは顧問先の運用次第ですが、オンラインで実施した場合の受講ログを残しておく設計も現実的です。様式を事務所から提供すると、顧問先ごとのばらつきが減ります。

パワハラ研修と一本化してよいですか

実務上は一本化する設計も考えられます。パワーハラスメントについては労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律第30条の2が雇用管理上の措置を定めており、社内の相談体制は共通に組まれていることが多いためです。ただし、社内の関係で起きるものと顧客等との関係で起きるものでは、初動の考え方が異なる部分があります。資料の中で章を分け、どちらの話をしているかが受講者に分かる構成にするのが安全です。

参考文献

※士業のチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴事務所の業務に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
https://shigyonochikara.jp/contact/

本記事の作成体制について

本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で、それぞれ確認したうえで記載しています。引用元は本文中および参考文献にすべて明示しています。

本記事には特定の資格者による監修は入っていません。個別の事案について法令の当てはめや手続の可否を判断する必要がある場合は、当該分野の有資格者にご相談ください。本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別具体的な法律判断・税務判断・労務判断を提供するものではありません。

記載内容に誤りを見つけられた場合は、お問い合わせよりご指摘ください。確認のうえ速やかに訂正し、訂正履歴を記事内に残します。編集方針の詳細は運営者情報をご覧ください。