社労士事務所のAI支援で業務80%削減の事例 提供元発表の数値を自事務所で読み直す7つの視点

社労士事務所向けAI支援ヨハクルのプレスリリースを題材に、提供元発表の削減率の読み方を整理。分母、期間、確認工程など自事務所で確かめる7つの視点を解説します。

社労士事務所のAI支援で業務80%削減の事例 提供元発表の数値を自事務所で読み直す7つの視点

提供元発表の削減率とは、サービス提供会社が自社で公表した業務時間の減少割合のことです。

業務が80%減ったという導入事例を見て、自事務所でも同じ結果が出るのかと考えたことはないでしょうか。この記事では、社労士事務所向けのAI・DX伴走支援サービス「ヨハクル」のプレスリリースを題材に、提供元が発表した削減率の読み方と、自事務所に当てはめる前に確認する7つの視点を整理します。本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で確認しています。サービスの優劣の評価は行わず、数値の読み方に絞って解説します。

プレスリリースに書かれている事実の整理

株式会社Lean Stackは、2026年5月12日にPR TIMESで、社労士事務所向けAI・DX伴走支援サービス「ヨハクル」のプレスリリースを配信しました(出典: PR TIMES ヨハクル)。サービスの柱として、業務の棚卸し、オーダーメイドのAI研修、専用AIの構築、質問チャットのサポートが挙げられています。

掲載されている事例は、シンカ社会保険労務士法人の助成金チェック業務で約80%の削減、社会保険労務士事務所アスタリスクの就業規則業務で95%の削減などです。同じリリースでは、シンカ社会保険労務士法人の数値について「※上記は導入初期段階における数値です。」と注記されています(出典: PR TIMES ヨハクル)。

注意したいのは、リリースに削減の基準、測定期間、対象件数の説明が見当たらない点です。何と比べて何が減ったのかが分からなければ、自事務所の数字と並べられません。数値は提供元による発表であり、第三者の検証は記載されていません。

提供元発表の数値を読む7つの視点

視点1 分母は何か

削減率は、分母に当たる元の時間によって印象が変わります。元の作業が短い業務なら、高い削減率でも、減る時間は小さくなります(削減率の数値はPR TIMES ヨハクルの発表による)。確認するのは、削減前の時間そのものです。

視点2 どの工程が減ったのか

助成金チェック業務といっても、要件の確認、書類の突き合わせ、申請書の作成など、工程が分かれます。AIが担った工程と、人が残した工程を分けて見ます。残った工程が、有資格者の判断の部分かどうかも重要です。

視点3 測定した期間と件数

導入直後の数値か、運用が定着した後の数値かで、意味が変わります。リリースは導入初期段階の数値と注記しています。件数が少ない場合は、特殊な事案が結果に影響している可能性があります。

視点4 事務所の前提条件

事例の事務所が、どのような顧問先構成で、どのシステムを使っているかは、結果に影響します。給与計算ソフトや勤怠システムとの連携状況が違えば、同じ削減率にはなりません。

視点5 導入に要した時間と費用

削減した時間だけでなく、導入に要した時間も見ます。リリースには、全9回の研修や10時間以上の研修が記載されています(出典: PR TIMES ヨハクル)。研修の時間は、削減効果を打ち消す側の費用として、事務所の時間単価で換算します。料金はリリースに記載がなく、要確認です。

視点6 人が確認する工程の増減

AIの出力を確認する工程は、新しく発生する作業です。削減率が確認の時間を含んだ数字なのかは、リリースから読み取れません。確認の時間を含めて比較することで、実際の効果に近づきます。

視点7 再現できる範囲

最後に、自事務所で再現できる部分と、できない部分を分けます。業務棚卸しの手法のように、サービスを使わなくても真似できる部分があります。専用AIの構築のように、外部の支援が前提の部分もあります。

自事務所で測る 試験導入の手順

視点を踏まえ、自事務所で測る手順を示します。第一に、対象業務を1つに絞ります。第二に、現状の所要時間を、複数の件で記録します。第三に、AIを使った場合の所要時間を、確認の時間を含めて記録します。第四に、結果を事務所の時間単価で金額に換算します。

次のプロンプトは、第二と第三で記録した作業時間のメモを整理するために使えます。

以下は、ある業務の作業時間のメモです。AI導入前の記録と導入後の記録に分け、それぞれについて、工程名、所要時間、人が確認した時間を表にしてください。メモにない数字は作らず、不明な項目は「要確認」と書いてください。評価や提案は不要です。

【メモ】
(ここに匿名化した作業時間のメモを貼り付ける)

もう一つは、提供元の発表資料を読むときの質問を作るプロンプトです。

以下は、サービス提供会社のプレスリリースの本文です。削減率などの数値について、分母、測定期間、対象件数、確認工程の扱いが本文に書かれているかを、項目ごとに「記載あり」「記載なし」で整理してください。記載がない項目は、提供元に問い合わせるための質問文にしてください。

【本文】
(ここにプレスリリースを貼り付ける)

どちらも、顧問先の実名や従業員の個人情報は入力しません。出力は下書きであり、最終判断は有資格者が行います。

顧問先の情報を扱う前に決めておく守秘義務の論点

社労士業務では、顧問先の従業員情報や賃金情報を扱います。社会保険労務士法第21条(秘密を守る義務)は、開業社会保険労務士又は社会保険労務士法人の社員は、正当な理由がなくて、その業務に関して知り得た秘密を他に漏らし、又は盗用してはならないと定めています。

専用AIを構築する場合、顧問先のデータをどこに置き、誰が閲覧できるかが論点になります。外部の事業者が構築や運用に関わる場合、データの取り扱いを契約でどう定めるかも確認事項です。リリースにはデータの取り扱いに関する記載が見当たらないため、導入を検討する際は提供元に確認することになります。

個人情報保護委員会は、生成AIサービスの利用に関する注意喚起を公表しており、入力内容の取り扱いを確認する観点が示されています(出典: 個人情報保護委員会 生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について)。外部サービスへの入力が守秘義務との関係でどう扱われるかは個別の事情で判断が分かれるため、本記事は当てはめを行いません。

運用の例として、検証期間は匿名化した業務データだけを使う、専用AIの構築段階で顧問先データを扱う範囲を台帳に残す、顧問先への説明の要否を契約書の文言と照らして決めておく、といった方法があります。

失敗例と回避策

一つ目の失敗は、他事務所の削減率を目標値にしてしまう例です。測定条件が分からない数字を目標にすると、達成できなかった際に、取り組み自体の評価を誤ります。回避策は、自事務所の現状値を基準にすることです。

二つ目の失敗は、研修の時間を費用に含めない例です。削減した時間だけを見て、導入に使った時間を忘れると、費用対効果を過大に見積もります。回避策は、視点5のとおり導入の時間を換算することです。

三つ目の失敗は、AIの出力の確認を省いてしまう例です。給与計算や助成金の要件確認で誤りがあれば、顧問先に影響します。回避策は、確認の工程を手順に固定し、有資格者が最終確認を行うことです。

費用と工数と体制

料金は、リリースに記載がありません。見積もりは提供元に依頼することになります。工数は、業務棚卸し、研修への参加、運用の定着の3つに分かれます。

体制は、導入の責任者を決め、現場の職員から検証の担当者を出す形が考えられます。検証の結果は、所長や管理職が確認できる形で残します。社労士事務所の規模によって、必要な人員は変わるため、事務所ごとに設計してください。

今後の展望と編集部の考察

士業向けの伴走支援サービスが増えるにつれ、事例の数値を比べる機会も増えると考えられます。数値を読む側が、分母、期間、確認工程の扱いを問い返す習慣を持つことが、比較の前提になります。

今後の論点は、提供元が測定条件を示すか、第三者が評価するかです。それまでは、自事務所で小さく測る運用が、判断の材料を増やす方法の一つです。

よくある質問

80%削減という数字は信頼できますか

数値は提供元の発表であり、測定条件はリリースに記載がありません。信頼できるかの判断は、分母や期間を確認したうえで行うことになります。確認できない部分は、要確認として扱ってください。

小規模な事務所でも同じ効果が見込めますか

事務所の規模、顧問先構成、使用システムによって結果は変わります。本記事は効果の予測を行いません。自事務所で小さく測る手順が、判断の材料になります。

助成金の要件チェックをAIに任せてよいですか

任せる範囲は、事務所の運用で決める事項です。要件は制度ごとに変わるため、最終確認は有資格者が一次情報で行う運用があります。

研修を受けずに自力で導入できますか

サービスを使わずに業務棚卸しを行う方法もあります。ただし、効果の比較はできないため、どの程度の差が出るかは分かりません。

顧問先に説明が必要ですか

説明の要否は、契約書の文言や扱う情報の内容で変わります。本記事は当てはめを行いません。事務所規程に照らして、有資格者が判断してください。

参考文献

関連記事: AI労務君PROを社労士事務所に導入する判断軸、AI事業者ガイドライン対応の事務所規程

※士業のチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴事務所の業務に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
https://shigyonochikara.jp/contact/

本記事の作成体制について

本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で、それぞれ確認したうえで記載しています。引用元は本文中および参考文献にすべて明示しています。

本記事には特定の資格者による監修は入っていません。個別の事案について法令の当てはめや手続の可否を判断する必要がある場合は、当該分野の有資格者にご相談ください。本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別具体的な法律判断・税務判断・労務判断を提供するものではありません。

記載内容に誤りを見つけられた場合は、お問い合わせよりご指摘ください。確認のうえ速やかに訂正し、訂正履歴を記事内に残します。編集方針の詳細は運営者情報をご覧ください。