総務省は9月15日の会見で、削除済みチャットを業務連絡だったと説明しました。
2026年9月15日の林総務大臣閣議後記者会見で、郵政行政部の職員が使っていたチャットの扱いが繰り返し問われました。大臣は、チャットは既に削除されていると承知しており、担当部署からは内部の業務連絡だったと報告を受けていると答えています。行政内部の話として読み流すこともできますが、業務上のやり取りがメールからチャットへ移り、さらに生成AIのスレッドにまで広がっている士業事務所にとっては、そのまま自分の事務所の記録管理の設計図に重なる論点です。本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で確認しています。

9月15日の会見で語られたこと
会見録から確認できるのは、チャットが既に削除されていること、総務省がそれを内部の業務連絡と位置づけていること、復元による確認を行わない方針であることの3点です。
質疑の発端は、記者が示した報道内容でした。記者は、郵政行政部の企画課長や郵便課長、課長補佐らが「放棄・隠匿」という名称のグループチャットで、想定問答の文案や行政指導の文案の協議と修正を行っていたと自社が報じていると述べています。あわせて、公文書管理委員会の元委員長代理である三宅弘に内容を確認したところ、チャットの中身は意思決定過程そのものであるとの評価だったとも述べました。なお、この報道の原文そのものは編集部では確認できていないため、記者が会見の場で述べた内容として扱っています(要確認)。
これに対して大臣は、担当部署から、資料の共有や情報交換などを行ったものであり内部の業務連絡だったと報告を受けている、と繰り返し回答しました。復元して確認しないのかという問いに対しても、「復元などの手段による確認を行う必要はない」との従来の見解を維持しています。
保存期間についても言及がありました。大臣は一般論として、開示対象となった文書は開示決定の日の翌日から起算して1年間、保存期間を延長することとされていると述べたうえで、今回のチャットは開示対象ではない文書だったと報告を受けているため、こうした規定は適用されないものと考えられる、と説明しています。
公文書管理法と施行令が定めていること
条文のレベルでは、電磁的記録も行政文書の定義に含まれており、開示請求があった文書については保存期間の延長規定が置かれています。
公文書等の管理に関する法律第2条第4項は、行政文書を、行政機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書であって、当該行政機関の職員が組織的に用いるものとして当該行政機関が保有しているものと定義しています。この「文書」には図画と電磁的記録が含まれると条文が明記しており、紙かデータかは定義上の分かれ目になっていません。同法第4条は、意思決定に至る過程や事務および事業の実績を合理的に跡付け、又は検証することができるよう、軽微な事案を除いて文書を作成することを求めています。
保存期間の延長については、同法第5条第4項が政令に委ね、公文書等の管理に関する法律施行令第9条が具体的な区分を置いています。第1項第4号は、行政機関の保有する情報の公開に関する法律第4条に規定する開示請求があったものについて、同法第9条各項の決定の日の翌日から起算して1年間としています。同じ条文の第2号には、現に係属している訴訟における手続上の行為に必要なものは当該訴訟が終結するまでの間、という区分もあります。
もっとも、あるチャットがこの区分のどこに入るのかは、条文の文言だけで決まるわけではありません。先に、組織的に用いるものとして保有していたかどうかという事実の評価があり、その評価は行政機関側の説明と、開示請求や不服申立てといった手続を通じた検証に委ねられます。会見で説明と指摘が噛み合わないのも、この事実評価の部分です。
士業事務所に置き換えたときの記録保存3論点
同じ構造は、士業事務所にもそのまま存在します。ツールが変わっても、後からそれが記録だったのかを説明できるかどうかが問われる点は変わりません。
第一の論点は、チャットのどこからが記録なのかを、事案が起きる前に線引きしておくことです。案件の方針をチャットで詰めた結果は、書面に落ちた成果物と同じ重みを持ちます。事務所として、案件スレッドは記録、雑談チャンネルは記録としない、といった区分を運用ルールとして先に決めておくと、後から説明する材料になります。判断の軸については、AIエージェントを事務所に入れる前に決める権限とログの7チェックで整理した権限とログの切り分け方が参考になります。
第二の論点は、削除ルールを紛争や調査が始まる前に文書化しておくことです。公文書管理法施行令が、訴訟や不服申立てが係属している間の保存を別立てで定めているのは、手続が始まってから個別に判断すると恣意が入りやすいためと読めます。事務所でも、保存期間とその起算点、削除を止める条件をあらかじめ書いておけば、いざというときに担当者の記憶に頼らずに済みます。
第三の論点は、生成AIとのやり取りをどこまで残すかです。プロンプトと出力を対外文書の下敷きにしているなら、その根拠を後から辿れる形にしておくかどうかで、説明の難度が大きく変わります。保管の粒度と説明の型については事務所のAI利用ログを監査証跡にする 保管設計7項目と説明の型で扱っています。また、チャットツール側の既定値が公開前提になっている場合の守秘義務との関係はSlackの公開前提AI運用、士業の守秘義務と衝突する3つの論点に、AI生成文を対外文書に使う際の運用は新モデルのAI生成文に透かしが入る 士業が対外文書で決める7つの運用にまとめています。
今後の動き
会見でのやりとりを見る限り、総務省の説明と報道側の指摘は平行線のままです。行政文書の範囲をめぐる議論が続けば、電磁的記録の保存運用に関する各府省の実務にも整理が及ぶ可能性があります。
士業事務所の側から見て実益があるのは、その行方を追うことよりも、自分の事務所の保存ポリシーが第三者に説明できる状態かを点検しておくことです。チャットツールの管理者設定で保持期間がどうなっているか、削除されたメッセージを管理者が復元できる仕様か、生成AIサービスの履歴がどこにどれだけの期間残るか。この3点は、ベンダーの公式ドキュメントを開けばその日のうちに確認できます。
まとめ
総務省は9月15日の会見で、削除されたチャットを内部の業務連絡だったと説明し、復元による確認は行わない姿勢を示しました。公文書管理法は電磁的記録を行政文書の定義に含め、施行令は開示請求があった文書の保存期間延長を定めていますが、個別のチャットがどう位置づけられるかは事実評価の問題として残ります。士業事務所にとっては、記録の線引き、削除ルールの事前文書化、生成AIログの保存方針という3点を自前で点検する機会になります。
参考文献
- 総務省 林総務大臣閣議後記者会見の概要(令和8年9月15日)
- e-Gov法令検索 公文書等の管理に関する法律
- e-Gov法令検索 公文書等の管理に関する法律施行令
- e-Gov法令検索 行政機関の保有する情報の公開に関する法律
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引用元: 総務省
本記事の作成体制について
本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で、それぞれ確認したうえで記載しています。引用元は本文中および参考文献にすべて明示しています。
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