本人訴訟支援とは、司法書士が代理人にならずに書類作成で支援する業務のことです。
裁判所は改正民訴法等で変わる民事訴訟手続の概要で、令和8年5月21日に施行された改正民事訴訟法・改正民事訴訟規則により民事訴訟手続が全面的にデジタル化されたと説明しています。この記事は、その中でも司法書士の裁判書類作成関係業務に絞り、本人が当事者として手続を進める場面で事務所の工程がどう変わるか、どこに生成AIを噛ませられるかを扱います。本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、手続の内容は裁判所の公表資料で確認しています。
代理人には義務、本人には任意という非対称が実務を決める
司法書士の本人訴訟支援でいちばん効いてくるのは、オンライン手続の義務づけが誰にかかっているかという点です。裁判所の概要ページは、改正民訴法の下では誰でも裁判所のシステムを利用してオンラインにより訴えを提起したり準備書面を提出したりできるようになるとしたうえで、弁護士などの訴訟代理人等についてはこのようなオンラインによる手続が義務化されている、と述べています。根拠として同ページが挙げているのは改正民訴法132条の10第1項です。
民事訴訟法第132条の10は電子情報処理組織による申立て等の見出しで、民事訴訟に関する手続における申立てその他の申述のうち、法令の規定により書面等をもってするものとされているものについて、電子情報処理組織を用いて行うことができる旨を定めています。条文はe-Gov法令検索の原文で確認しています。
この非対称が、本人訴訟支援の現場に直接効いてきます。司法書士が代理人として立たない案件では、手続の主体は本人です。本人にはオンラインの義務がかかっていないため、書面で進める選択肢も残ります。一方で、オンラインで進めれば常時記録を閲覧できるという利点があります。裁判所の概要ページは、当事者がオンラインで訴えを提起したりオンラインによる送達を受けたりする場合、基本的には常時、裁判所のシステム上の電磁的記録を閲覧・ダウンロードできるようになると説明しています。
つまり事務所の入口の判断が、これまでと変わりました。以前は書面をどう作るかだけを考えればよかったところに、本人にシステムを使ってもらうか書面で進めるか、という手前の判断が加わっています。この判断を最初の相談の場で本人と決めておかないと、途中で切り替えることになり、記録の所在が分かれます。
司法書士の業務範囲そのものは条文で確認できます。司法書士法第3条は業務の見出しで、裁判所若しくは検察庁に提出する書類若しくは電磁的記録を作成することを掲げています。書類だけでなく電磁的記録の作成が条文上に並んでいる点が、デジタル化後の実務では読みどころになります。日本司法書士会連合会も裁判IT化へ向けた対応のページで、司法書士は裁判所提出書類作成関係業務や簡裁訴訟代理等関係業務等を通じて紛争解決を支援していると述べています。
なお、すべてが一斉に変わったわけではありません。裁判所の概要ページによれば、民事執行手続は遅くとも令和10年6月までに全面デジタル化されることになっており、改正民訴法の全面施行時点では全面デジタル化されていないため、引き続き裁判所に書面で申し立てることになります。また、全面施行前に提起された訴えについては、引き続き書面により審理や送達が行われます。事務所が抱える継続案件は、旧法適用と新法適用が当面併走します。
本人訴訟支援で工程が変わる6場面と、AIに任せる範囲
以下は、相談の受付から終結までのうち、デジタル化で作業の中身が変わった6場面です。各場面で、司法書士本人が判断する部分と、下ごしらえを生成AIに任せられる部分を分けて示します。
第1場面は、初回相談での方式決定です。本人にシステムを使ってもらうか、書面で進めるかを決めます。本人の端末環境、メールを日常的に確認する習慣があるか、期日の通知に気づける状態かを聞き取ります。ここは人が判断する部分です。高齢の当事者で通知の見落としが心配なら、書面で進めたうえで事務所が伴走する形もあり得ます。
第2場面は、送達方式の説明です。裁判所の概要ページは、システムを利用してオンラインで送達を受ける旨を届け出ることで電子判決書などの裁判書類をオンラインで送達される仕組みを説明し、根拠として改正民訴法109条の2を挙げています。同ページによれば、この送達の効力は、当事者がシステムにサインインして書類を閲覧した時、ダウンロードした時、閲覧またはダウンロードできる旨の措置が取られた旨の通知が発せられた日から1週間を経過した時のいずれか早い時に生じます。この1週間という区切りは、本人に伝わっていないと危ない情報です。
第3場面は、書類作成そのものです。ここが司法書士法第3条に掲げられた業務にあたる部分で、事務所の中核です。作成物が紙から電磁的記録に寄ったことで、様式の整え方とファイル形式の管理が新しい作業として乗ります。裁判所の概要ページは、電磁的記録の複製のファイル形式について、原則としてPDF形式、MP4形式、MP3形式、JPEG形式またはPNG形式とする必要があると説明しています。
第4場面は、証拠の整理です。同ページによれば、オンラインで書証の写しに代わる画像情報をPDF形式で提出できるようになった一方、電磁的記録そのものを証拠調べの対象とする規定も新たに設けられました。本人が持っているスマートフォンの画面録画やメッセージのやり取りを、どの形式でどう出すかという相談が増える場面です。
第5場面は、費用の説明です。裁判所の概要ページは、申立手数料が原則としてペイジーを利用して現金で納付する形になったこと、送達のための郵便費用が申立手数料に一本化されたため別途納付する必要がなくなったことを説明しています。収入印紙と郵券の実務が変わったので、本人への説明も差し替えが要る部分です。
第6場面は、記録の管理です。常時ダウンロードできるということは、事務所の手元にデータが溜まるということでもあります。どこに保存し、誰がアクセスでき、案件終結後にどうするかを決めておかないと、管理の外にファイルが散ります。
6場面の前段として、本人のアカウント準備という工程が新しく生まれています。裁判所は概要ページで、システムを利用するためのアカウント登録等についてmintsの案内ページを参照するよう示しています。事務所が代わりに登録することはできないため、本人に手を動かしてもらう場面が出てきます。ここでつまずくと、その後の工程がすべて止まります。相談の初回に、本人の端末で登録まで進められるかを一緒に確認しておくと、後の手戻りが減ります。
もうひとつ、事務所の側で決めておきたいのが、証拠のファイル形式を誰が整えるかです。本人が持ち込むのは、スマートフォンで撮った写真や、メッセージアプリの画面をそのまま保存したファイルであることが多くなります。指定された形式へ変換する作業は事務処理ですが、どの部分を証拠として出すかの判断は司法書士の領域です。この2つを同じ人が続けて行うと、変換の流れで判断まで済ませてしまいがちなので、工程として分けておくほうが安全です。
このうち、第2・第5場面の説明文書づくりと、第6場面の管理台帳の様式づくりは、生成AIに下書きを任せられます。
あなたは司法書士事務所の事務局を補助するアシスタントです。
本人訴訟の当事者(法律の専門家ではない一般の方)に渡す説明メモを作成してください。
【説明する内容】
・裁判所のシステムを使うと、記録をいつでも確認できること
・オンラインで送達を受ける届出をした場合、通知が届いたら早めに確認すること
・確認しないまま一定期間が過ぎると、送達の効力が生じる扱いになること
・費用の納付方法が変わったこと(収入印紙の貼付ではない方法になったこと)
【制約】
・A4一枚(800字以内)、ですます調
・法律用語は初出で括弧書きの言い換えを添える
・「〜すべきです」「〜しなければなりません」といった断定的な指示は書かない
・具体的な日数や金額は空欄(__)にしておき、事務所が最新の公表資料で埋める前提にする
・最後に「ご不明な点は当事務所までご連絡ください」を入れる
出力形式:見出し4つ+各見出し3〜4文
あなたは司法書士事務所の記録係です。
本人訴訟支援案件の記録管理台帳の項目案を作成してください。
【前提】
・裁判所のシステムからダウンロードした電磁的記録を事務所内で保管する
・案件ごとに保存場所とアクセス権を管理したい
・案件終結後の取扱いを事前に決めておきたい
【出力する項目】
・台帳に載せる列名(10項目以内)
・各列の記入例(架空の案件で。実在の人名・事件番号は使わない)
・案件終結時のチェック項目(5つ以内)
【制約】
・出力は箇条書きのみ
・保存期間や法定の年数は書かないこと(事務所が別途確認する前提)
・個人情報を含む記入例は作らないこと
いずれの下書きも、司法書士本人が公表資料と突き合わせる工程を挟みます。とくに日数と金額は、生成AIが自信ありげに埋めてくる箇所です。プロンプト側で空欄にさせておき、人が最新の公表資料から書き込む形にしておくと、事故が減ります。存在しない条番号や判例を止める関門については生成AIの架空判例・架空条文を止める記事で扱っています。全面施行後の電子記録を事務所の工程としてどう捌くかという全体像は民事裁判IT化の全面施行後の実務対応の記事にまとめてあり、本記事はそのうち本人訴訟支援の場面を切り出したものです。
本人の記録を事務所が預かることの意味
デジタル化で見落とされやすいのが、事務所の手元に残るデータの量が増えたことです。常時ダウンロードできる状態は便利ですが、便利さの分だけ守秘義務の運用が問われます。
司法書士法第24条は秘密保持の義務の見出しで、司法書士又は司法書士であつた者は、正当な事由がある場合でなければ、業務上取り扱つた事件について知ることのできた秘密を他に漏らしてはならないと定めています。条文はe-Gov法令検索の原文で確認しています。この規定は、紙で預かるかデータで預かるかを区別していません。区別していないからこそ、データで預かる場合の運用を事務所が自分で決めることになります。
決める項目は3つです。ひとつは、保存場所です。事務所の共有フォルダに置くのか、案件管理システムに入れるのか、担当者の端末に残さない運用にするか。本人訴訟支援では、本人のアカウントで取得した記録を事務所が預かる構図になるため、誰の管理下にあるデータなのかを整理しておく必要が出てきます。
ふたつめは、生成AIへの入力範囲です。書面の下書きや証拠の整理に生成AIを使う場合、事件の記録そのものを入れるのか、争点の構造だけを匿名の設例に置き換えて入れるのかで、論点の重さが変わります。相手方の氏名や住所が含まれる書面は、本人の情報ではなく第三者の情報でもあるため、より慎重な扱いになります。実務としては、事件記録は入れず、書面の型と論点の並べ方だけをAIに相談する運用を採る事務所があります。
みっつめは、本人への説明です。事務所が生成AIをどの工程で使うのかを、受任時に伝えておくと後の説明が楽になります。依頼者への説明と告知の設計は依頼者へのAI利用の説明と告知の記事で扱っています。本人訴訟支援の場合、本人が手続の主体であるぶん、事務所の関与範囲を明示する意味が代理案件よりも大きくなります。
規程に落とすなら、事件記録の保存場所、生成AIへの入力可否、案件終結後の取扱い、例外の承認者の4項目です。この4項目が決まっていれば、担当者が判断に迷ったときの参照先ができます。分量は1ページで足ります。読まれない規程は運用されないので、迷う場面での参照しやすさを優先する設計になります。
本人訴訟支援に固有の論点として、本人のアカウントで取得した記録を事務所の端末に置く場面をどう位置づけるかがあります。代理案件であれば事務所が当事者の代理人として記録を保持しますが、本人訴訟支援では手続の主体が本人のままです。事務所が持つのは、書類作成のために預かった資料という位置づけになります。この違いを受任時の書面に一行書いておくと、案件終結後の返却や削除の話がしやすくなります。実務では、終結時に事務所側の保存分をどうするかを本人と確認する欄を、受任書面に設けている例があります。
支援の現場で起きやすい3つのつまずき
ひとつ目は、通知の見落としです。オンライン送達では、当事者がシステムにサインインして書類を閲覧またはダウンロードした時のほか、閲覧できる旨の措置が取られた旨の通知が発せられた日から1週間を経過した時にも効力が生じる仕組みです(出典は前掲の裁判所の概要ページ)。本人がメールを日常的に見ない生活習慣だと、この期間が静かに過ぎます。事務所として、通知が来たら本人へ電話で一報を入れる運用にしている例があります。
ふたつ目は、旧法案件と新法案件の取り違えです。全面施行前に提起された訴えは、引き続き書面で審理や送達が行われます(出典は同ページ)。事務所が同時期に両方を抱えると、書面で出すべき案件をシステムに載せようとして手戻りが起きます。案件管理台帳に、どちらの適用かを示す列を1つ足しておくだけで防げます。
みっつ目は、生成AIが埋めた数字をそのまま本人に渡してしまう型です。手数料の納付方法や送達の効力発生時期は、本人の行動を左右する情報です。下書きの段階では空欄にしておき、公表資料を開いて人が埋める工程を分けておくのが安全です。人が確認する位置をどこに置くかという設計はAIエージェントの人間介在をどこに置くかの記事で整理しています。
移行期の工数と、事務所の体制
新しい支出は、事務所側にはほとんど発生しません。裁判所のシステムの利用そのものに事務所が費用を払う構造ではないためです。動くとすれば、記録を保管するストレージと、案件管理の仕組みの見直しです。
工数として見込むのは、説明資料の作り直しと、案件台帳の項目追加です。本人訴訟支援を年間で数件から十数件扱う規模の事務所であれば、説明メモの整備に半日、台帳の項目追加に2時間、初回の運用確認に数件分の立ち会い、という配分に収まることが多いはずです(参考値。案件の性質と本人の端末環境で変わります)。
体制としては、説明メモの管理者を1人置く形が現実的になります(参考。事務所規模により兼務が前提です)。裁判所の公表資料が更新されたときに差し替える担当を決めておかないと、古い説明メモが事務所に残ります。一人事務所の場合は、説明メモのファイル名に参照日を入れておくだけでも、更新忘れに気づきやすくなります。
執行手続の全面デジタル化までが次の区切りになる
当面の論点は、旧法適用事件が終わるまでの併走期間をどう乗り切るかに集まります。事務所の中に二重の運用が残るあいだは、取り違えのリスクが続くためです。
次の区切りとして視野に入るのが、民事執行手続のデジタル化です。裁判所の概要ページは、民事執行手続について遅くとも令和10年6月までに全面デジタル化されると述べています。判決を取った後の回収まで見据えると、本人訴訟支援の設計はここまで含めて考える対象になります。現時点で書面申立てが残っている部分が、いずれ切り替わる前提です。
もうひとつ論点になりそうなのが、本人がシステムを使いこなせるかどうかの差です。オンラインが任意である以上、使える人と使えない人の間で、記録へのアクセスのしやすさに差が出ます。この差を埋める役回りが、司法書士の本人訴訟支援に求められる部分として大きくなっていくと見ています。事務所としては、書面で進める案件でも記録の整理を代行できる体制を残しておくのが現実的な備えになります。
よくある質問
本人訴訟の当事者にもオンライン手続は義務づけられていますか
義務づけの対象は訴訟代理人等です。裁判所の概要ページは、誰でもオンラインで訴えを提起したり準備書面を提出したりできるようになるとしたうえで、弁護士などの訴訟代理人等についてはオンラインによる手続が義務化されていると説明しています。
オンライン送達の効力はいつ生じますか
3つの時点のうち最も早い時です。裁判所の概要ページによれば、当事者がシステムにサインインして裁判書類を閲覧した時、ダウンロードした時、閲覧またはダウンロードできる旨の措置が取られた旨の通知が発せられた日から1週間を経過した時のいずれか早い時に効力が生じます。
司法書士は電磁的記録の作成もできますか
条文に明記があります。司法書士法第3条は業務の見出しで、裁判所若しくは検察庁に提出する書類若しくは電磁的記録を作成することを掲げています。実際の業務範囲は各事務所の登録内容や案件の性質によります。
全面施行前に提起した案件はどうなりますか
引き続き書面で進みます。裁判所の概要ページは、オンラインで訴えを提起したり送達を受けたりできるのは全面施行後に提起する訴え等に限られ、全面施行前に提起された訴えについては引き続き書面により審理や送達が行われると説明しています。
民事執行の手続もデジタル化されていますか
全面施行時点ではされていません。裁判所の概要ページは、民事執行手続について遅くとも令和10年6月までに全面デジタル化されるとしたうえで、改正民訴法の全面施行時点では全面デジタル化されていないため引き続き書面での申立てが必要だと述べています。
本人の事件記録を生成AIに入れてもよいですか
事務所として先に決めておく論点です。司法書士法第24条は、司法書士又は司法書士であつた者は正当な事由がある場合でなければ、業務上取り扱つた事件について知ることのできた秘密を他に漏らしてはならないと定めています。個別の入力行為の評価は事情によるため、保存場所・入力可否・終結後の取扱い・例外承認者の4項目を規程で先に定める運用が現実的です。
本人のアカウント登録を事務所が代わりに行えますか
代わりに登録する運用は想定されていません。裁判所は概要ページで、システムを利用するためのアカウント登録等についてmintsの案内ページを参照するよう示しており、本人が手続の主体である以上、登録も本人が行う前提になります。事務所としては、初回相談の場で本人の端末から登録まで進められるかを一緒に確認しておく段取りが現実的です。
証拠として出せるファイル形式に決まりはありますか
指定があります。裁判所の概要ページは、電磁的記録の複製のファイル形式について、原則としてPDF形式、MP4形式、MP3形式、JPEG形式またはPNG形式とする必要があり、これらに変換できない場合は記録媒体により提出することになると説明しています。本人が持ち込むファイルをどう整えるかは、事務所側の作業として見込んでおく部分です。
説明メモは事務所で作り直す必要がありますか
費用と送達の部分は差し替えの対象になります。裁判所の概要ページによれば、申立手数料は原則としてペイジーを利用して現金で納付する形になり、郵便費用は申立手数料に一本化されました。収入印紙と郵券を前提にした説明資料が残っていると、本人に誤った案内をすることになります。
参考文献
※士業のチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴事務所の業務に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
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本記事の作成体制について
本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で、それぞれ確認したうえで記載しています。引用元は本文中および参考文献にすべて明示しています。
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