生成AIデザイン大量公開と意匠法改正|弁理士が今できる権利化の備え5つ

生成AIによるデザインの大量公開が意匠の新規性にどう効くかを現行の意匠法の条文で整理し、弁理士事務所が今から積める証跡運用と守秘義務上の論点を解説します。

生成AIデザイン大量公開と意匠法改正|弁理士が今できる権利化の備え5つ

生成AIデザインの大量公開とは、出願前の意匠の新規性を脅かす現象のことです。

依頼者の新製品デザインが世に出る前に、それとよく似た画像が生成AIで作られ、SNSや画像共有サイトに大量に流れる。この構図が意匠の権利化にどう効いてくるかを、現行の意匠法の条文に沿って整理します。制度側の見直しについては報道が先行している段階であり、本記事では確定した事実として扱いません。本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、職能団体の見解は公表資料で確認しています。

意匠法改正の議論はどの段階か、現行法で効いてくる条文はどれか

まず制度の状況です。生成AIやメタバースの広がりを受けて特許庁が意匠制度の見直しを検討しているという趣旨の報道は複数出ていますが、本記事の執筆時点で、改正法の成立や施行時期を特許庁の一次資料で確認できていません。したがって、この点は要確認として扱い、以下は現行法を前提に書きます。制度が動く前提で事務所の運用を組み替えるのは、順序として危うい進め方です。

現行法で効いてくるのは三か所です。いずれもe-Gov法令検索の意匠法で原文を確認できます。

一つ目は、意匠法第3条第1項の登録要件です。同項は、意匠登録出願前に日本国内または外国において公然知られた意匠、頒布された刊行物に記載された意匠または電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった意匠、およびこれらに類似する意匠を、登録を受けられないものとして掲げています。生成AIで作られたデザイン画像がウェブ上に公開されれば、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった状態にあたりうる資料が、従来とは桁の違う量で積み上がります。審査で引用される可能性のある資料の母集団が広がるという意味で、出願側の環境が変わります。

二つ目は、意匠法第3条第2項の創作非容易性です。同項は、その意匠の属する分野における通常の知識を有する者が、公然知られ、刊行物に記載され、または電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった形状等または画像に基づいて容易に創作をすることができたときは、登録を受けられないと定めています。生成AIが特定のジャンルのバリエーションを網羅的に出力して公開している状況では、この判断の土台になる資料も増えることになります。

三つ目は、意匠法第4条の新規性の喪失の例外です。同条は、権利を有する者の意に反して第3条第1項第1号または第2号に該当するに至った意匠について、その日から一年以内の出願であれば、該当しなかったものとみなす旨を定めています。権利を有する者の行為に起因して公開された場合も、同じく一年以内の出願について同様の扱いが置かれています。ただし第4条は、この適用を受けようとする者が、その旨を記載した書面を意匠登録出願と同時に特許庁長官に提出する手続を求めています。手続の期限と書面の要否は条文で確認しておく箇所です。

ここで実務上の悩みどころが出てきます。第三者が生成AIで作って公開したデザインは、依頼者の意に反して公開されたものにあたるのか、という論点です。依頼者が発表していないデザインと似たものが偶然生成された場合、そもそも依頼者の意匠が公開されたわけではないという整理もありえます。この当てはめは事案ごとに変わる領域であり、記事として一つの答えを示せる性質のものではありません。事務所としては、どちらの整理でも動けるように証跡を残しておく、という備え方が現実的です。

なお、意匠の定義そのものは意匠法第2条にあり、物品、建築物、画像の形状等であって視覚を通じて美感を起こさせるものとされています。仮想空間上のアイテムの扱いが議論になっているのは、この定義の射程に関わるためです。

生成AIの関与を証跡として残す六つの手順

制度が動く前でも、事務所として今日から積める備えがあります。中心は、誰がどこで創作的な判断をしたかを、後から示せる形で残すことです。意匠法第6条第1項は、願書に意匠の創作をした者の氏名および住所または居所を記載することを求めており、創作者が誰かという情報は制度の入口に置かれています。生成AIを使った制作過程では、ここが曖昧になりがちです。

第一に、依頼者側の制作フローを聞き取ります。生成AIをどの工程で使っているか、プロンプトは誰が書いているか、出力からどれを選び、どこを人が手直ししているかを、工程図として書き出します。この聞き取りをしないまま出願準備に入ると、後から創作の経緯を再現できません。

第二に、証跡の保存方法を依頼者と決めます。プロンプト、生成日時、使用したモデルとバージョン、出力候補の一覧、選択の理由、人による修正の前後の画像を、案件フォルダに時系列で残す運用にします。設計データのバージョン管理を既に行っている企業であれば、そこに寄せるのが早い方法です。

第三に、公開のタイミングを管理します。展示会、プレスリリース、クラウドファンディング、SNSでの先出しといった行為は、意匠法第4条の適用を検討する場面につながります。同条は一年以内の出願と、出願と同時の書面提出を求めているため、いつ何を公開したかの記録が実務上の要になります。依頼者の広報部門と設計部門が別に動いている企業では、この記録が抜けやすい箇所です。

第四に、出願前の調査範囲を広げます。従来の公報中心の調査に加えて、画像共有サイトやデザイン投稿サービス上の公開物も視野に入れる運用に切り替えます。網羅は現実的ではないため、依頼者の製品分野で影響の大きいサービスを絞り込み、定点で見る形にします。

第五に、調査結果と証跡を出願方針の判断材料として整理します。似た公開物が見つかった場合に、意匠の要部をどこに置くか、部分意匠として出すか、関連意匠を組むかといった選択に反映させます。ここは有資格者である弁理士の判断領域であり、AIに任せる部分ではありません。

第六に、依頼者への説明資料としてまとめます。生成AIの普及によって出願前の環境がどう変わったか、事務所として何を記録してもらいたいかを、一枚で説明できるようにしておくと、証跡の運用が定着しやすくなります。

工程の聞き取りを設計するプロンプトが次のものです。依頼者名や製品名は伏せて使います。

あなたはデザイン制作プロセスの聞き取り項目を設計するアシスタントです。
以下の前提で、依頼者に確認すべき質問を作成してください。

前提:
- 依頼者は製造業で、新製品の外観デザインを社内で制作している
- 制作の一部の工程で画像生成AIを使っている可能性がある
- 目的は、創作の経緯を後から再現できる記録を整えること

出力形式:
- 工程ごとに質問を分類し、質問文だけを列挙する
- 各質問に、その回答で何が分かるのかを1行で添える

制約:
- 法的な評価や結論を書かないでください
- 依頼者を誘導する聞き方(はい・いいえで答えが決まる形)は避けてください
- 記録として残すべき成果物の名称も、質問の中で具体的に尋ねてください

公開物の調査結果を整理するプロンプトが次のものです。収集した公開情報を貼り付けて使います。

あなたは公開情報の整理を担当するアシスタントです。
以下の公開デザイン情報を、次の形式で一覧に整理してください。

出力形式(1件ごとに):
- 掲載先の名称
- 公開日(記載がある場合のみ。無ければ「記載なし」)
- 掲載URL
- 形状の特徴(記載や画像説明から読み取れる範囲のみ)
- 生成AIの利用が明示されているか(明示・不明のいずれか)

制約:
- 類似しているかどうかの判断は書かないでください
- 公開日が不明なものを推測で埋めないでください
- 記載のない情報は「記載なし」と書いてください

【収集した公開情報】
(ここに貼り付け)

この二つに共通するのは、AIに判断させず、整理だけをさせている点です。類似判断や要部の認定は弁理士の業務であり、そこを機械の出力で置き換えると、出願方針の根拠が説明できなくなります。事務所内でのAI活用の切り分け方は、弁理士のAI活用事例でも整理しています。

依頼者の未公開デザインをAIに入れる前に決めること

意匠の案件は、性質上、未公開の情報の塊です。出願前のデザイン画像を外部のサービスに入力することは、依頼者の事業計画そのものを外に出す行為に近くなります。ここは精度の話より先に決めておく領域です。

弁理士法第30条は、弁理士または弁理士であった者は、正当な理由がなく、その業務上取り扱ったことについて知り得た秘密を漏らし、または盗用してはならないと定めています。同法第4条は弁理士の業務を定めており、特許庁における手続の代理やこれらの手続に係る事項に関する鑑定その他の事務を業とすると規定しています。業務の中身が手続と鑑定である以上、そこで扱う情報の秘匿性は高くなります。

日本弁理士会はAIサービスの利用に関するガイドラインを公表しており、会員がAIサービスを使う際の考え方を示しています。事務所の規程を作るときは、この公表資料と自事務所の運用を突き合わせるところから始めると、方向がぶれません。会の各種規則は日本弁理士会の規則ページにまとまっています。

決めておく項目は四つです。一つ目は、入力してよい情報の類型です。出願前のデザイン画像、図面、依頼者名、製品分野のうち、どこまでを外部サービスに入れてよいかを線引きします。画像そのものは入れず、文章化した特徴だけを入れるという運用も選択肢になります。

二つ目は、使用するサービスと契約プランです。入力内容が学習に使われるかどうかは、プランと利用経路によって扱いが異なります。ベンダーの公式ドキュメントで確認し、確認した日付と版数を記録に残します。個人情報保護委員会も生成AIサービスの利用に関する注意喚起を公表しており、入力情報の扱いを利用者側が把握しておくという発想は、事務所の記録づくりと同じ方向を向いています。

三つ目は、依頼者への説明です。業務委託契約や委任契約に、業務遂行の補助として生成AIを利用する旨と、入力する情報の範囲を書き込む方法が実務的です。依頼者側にも社内規程がある場合が多いため、双方の規程の整合を取っておくと後の摩擦が減ります。

四つ目は、事務所内の記録です。誰がどの案件でどのサービスに何を入力したかを追える状態にします。個人アカウントでの利用が広がると、この追跡ができなくなります。事務所のシャドーAI対策で整理したとおり、禁止を掲げるより、使ってよい道具を明示するほうが機能します。

権利化でつまずく失敗パターン

一つ目は、依頼者の公開行為を把握しないまま出願準備を進める失敗です。展示会での先行公開やクラウドファンディングの立ち上げは、設計部門ではなく広報や事業開発の判断で走ることが多く、事務所に情報が入りません。案件受任時に、公開予定の一覧を出してもらう運用にしておくと抜けが減ります。

二つ目は、証跡を残さないまま生成AIを制作に組み込む失敗です。後から創作の経緯を問われたときに、プロンプトも出力候補も残っていないと、何を根拠に説明するかがなくなります。残すコストは小さく、残さないコストは後で効いてきます。

三つ目は、AIの出力した類似判断をそのまま方針に使う失敗です。画像の見た目が似ているかどうかと、意匠として類似するかどうかは別の話です。整理は機械に任せられますが、判断は弁理士が持つ工程として固定します。

四つ目は、制度改正の報道を前提に運用を先に変えてしまう失敗です。改正の内容も時期も確定していない段階で運用を組み替えると、想定と違う形で制度が動いたときに二度手間になります。今の条文でできる備えを先に積むほうが、無駄が出ません。

費用・工数・体制

証跡運用の立ち上げにかかる工数は、聞き取り項目と保存ルールの設計に二日程度、依頼者向け説明資料の作成に半日程度、事務所内の規程整備に一日から二日程度が目安になります。既存の案件管理システムに保存先を作るだけで済む事務所であれば、さらに軽くなります。

生成AIの費用面では、法人向けサービスが利用者一人あたり月額数千円の帯にあります。整理と一覧化に使う限りでは処理量も大きくないため、費用より運用設計のほうが重い論点です。

体制としては、証跡運用の持ち主を事務所の中の一人に固定します。依頼者ごとに保存ルールが違う状態になると、担当者が替わったときに追えなくなります。一人事務所の場合の順序は、一人事務所でのAI活用の進め方で整理しています。

依頼者側の負担も設計に入れておきます。証跡の保存を求めるということは、依頼者の設計部門に作業を増やす提案でもあります。ここで効くのが、保存の粒度を段階に分ける考え方です。全案件で全工程を記録するのではなく、出願を予定している案件だけを対象に、プロンプトと出力候補と最終決定の三点に絞って残す、という形から始めると受け入れられやすくなります。運用が定着してから、対象案件や記録項目を広げていく順序が現実的です。

事務所側の請求の建て付けも整理しておきます。証跡運用の設計と定期的な点検は、従来の出願手数料の中に含まれていない作業です。初期の設計を一時金として、以後の点検を年次の管理費用として分けておくと、何に対する対価かが依頼者にも見えます。無償で抱え込むと、担当者が替わったときに運用ごと消えます。

制度が動く前に事務所ができること

意匠制度の見直しが議論されている背景には、公開情報の量が人の手による制作を前提とした水準から外れつつあるという現実があります。仮に制度が動くとしても、審査で参照される資料が増えたという事実そのものは消えません。だとすれば、事務所の側で積める備えは、制度の帰趨とあまり関係なく有効です。

もう一つ押さえておきたいのは、依頼者の側でも同じ変化が起きているという点です。競合他社の新製品を予想するデザイン画像が生成AIで作られて出回る状況は、依頼者にとっては自社の開発情報が推測されやすくなることを意味します。出願のタイミングを早めるか、部分意匠や関連意匠で守りの範囲を広げるか、公開の順序を組み替えるかといった選択は、権利化の技術論であると同時に事業判断でもあります。弁理士が早い段階で相談の輪に入っているかどうかで、取れる選択肢の幅が変わります。

残る論点は二つあります。一つは、創作者の記載をめぐる実務です。意匠法第6条第1項は創作をした者の氏名を願書に記載することを求めており、生成AIを深く使った制作で誰を記載するかは、依頼者側の理解とも擦り合わせが要る領域です。もう一つは、調査範囲をどこまで広げるかという線引きです。網羅は現実的でない以上、どこまで見て、どこから見ないのかを事務所として説明できる基準を持つことが、次の差になります。

よくある質問

意匠法の改正はもう決まっているのですか

本記事の執筆時点では、改正法の成立や施行時期を特許庁の一次資料で確認できていません。制度の見直しが検討されているという趣旨の報道はありますが、本記事では要確認として扱っています。最新の状況は特許庁の公表資料で確認してください。

第三者が生成AIで作って公開したデザインは新規性に影響しますか

意匠法第3条第1項は、出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった意匠などを登録要件から外す形で規定しています(e-Gov法令検索)。個々の公開物が引用される資料になるかどうかは審査での判断であり、事案ごとに変わる論点です。

依頼者が先に発表してしまった場合はどうなりますか

意匠法第4条に新規性の喪失の例外が置かれており、一定期間内の出願について、該当しなかったものとみなす扱いが定められています(e-Gov法令検索)。同条は書面の提出など手続の要件も定めているため、公開日の記録と手続の期限管理が実務上の要になります。

生成AIで作ったデザインは意匠登録の対象になりますか

意匠法第6条第1項は、願書に意匠の創作をした者の氏名および住所または居所を記載することを求めています(e-Gov法令検索)。制作過程における人の関与をどう位置づけるかは論点として残っており、事務所としては創作の経緯を記録に残しておく備えが実務的です。

依頼者の出願前の図面を生成AIに入力してよいですか

事務所として線引きを決めておく領域です。弁理士法第30条が秘密を守る義務を定めており(e-Gov法令検索)、日本弁理士会もAIサービスの利用に関するガイドラインを公表しています。入力の可否は、サービスの契約条件と依頼者の同意の有無を踏まえて事務所ごとに決める話になります。

公開物の調査はどこまで広げればよいですか

網羅は現実的ではないため、依頼者の製品分野で影響の大きいサービスを絞り込み、定点で見る形が現実的です。どこまで見たかを記録に残しておくと、依頼者への説明ができます。

事務所として最初に着手するとよいのはどこですか

依頼者の制作フローの聞き取りと、公開予定の把握です。この二つが分かっていないと、証跡の設計も出願の期限管理も組めません。ツールの選定はその後で足ります。

参考文献

※士業のチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴事務所の業務に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
https://shigyonochikara.jp/contact/

本記事の作成体制について

本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で、それぞれ確認したうえで記載しています。引用元は本文中および参考文献にすべて明示しています。

本記事には特定の資格者による監修は入っていません。個別の事案について法令の当てはめや手続の可否を判断する必要がある場合は、当該分野の有資格者にご相談ください。本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別具体的な法律判断・税務判断・労務判断を提供するものではありません。

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