弁理士のAI活用 調査と明細書の下ごしらえに使う7つの場面

弁理士業務でAIが効く7つの場面を整理。公開情報と未公開情報の線引き、文献抽出や書面点検の指示文、依頼者との取り決めまで実務目線で解説します。

弁理士のAI活用 調査と明細書の下ごしらえに使う7つの場面

弁理士のAI活用とは、調査と明細書作成の下ごしらえを寄せる業務設計のことです。

特許事務所の業務は、技術文書を読み、技術文書を書く作業が中心です。分量が多く、正確さが求められ、専門用語が密集しています。この記事では、弁理士の業務でAIが効く7つの場面と、依頼者の技術情報を扱ううえでの設計を整理します。本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で確認しています。生成AIサービスの利用については個人情報保護委員会の注意喚起が判断の出発点になります。

特許事務所で先に決めておくこと

順番から書きます。ツールを選ぶ前に決めるのは、依頼者の技術情報をどう扱うかです。

弁理士の守秘義務は弁理士法第30条に置かれています。同条は、正当な理由がなく業務上取り扱ったことについて知り得た秘密を漏らし、又は盗用してはならないと定めており、弁理士でなくなった後にも及ぶ構成です。

業務の範囲は弁理士法第4条に定められており、特許、実用新案、意匠、商標などに関する特許庁における手続の代理などが業務として挙げられています。

特許事務所が扱う情報には、他の士業にない特徴があります。出願前の発明の内容は、公になっていない技術情報そのものです。外に出た場合の影響が、依頼者の事業に直接及びます。営業秘密の枠組みは不正競争防止法第2条に定義が置かれており、公然と知られていないことが要素の一つになっています。

この性質から、出願前の発明の内容を外部の生成AIに入力することには、慎重な判断が要ります。事務所として、この点を最初に決めておきます。

個人情報の側では、安全管理措置が個人情報の保護に関する法律の個人情報保護法第23条に置かれています。発明者の個人情報を扱う場面では、この観点も重なります。

守秘義務の詳細は士業の生成AIと守秘義務で扱っています。

弁理士業務でAIが効く7つの場面

効果が出やすい順に挙げます。

第1は、公開文献の要約です。公開されている特許公報や技術文献を読み込ませ、要点を整理させます。すでに公開されている情報であるため、入力の判断が軽くなります。

第2は、公開文献からの情報抽出です。請求項の構成要素を並べる、実施例の条件を拾う、図面の説明との対応を確認する。探して並べる作業に効きます。

第3は、外国語文献の理解の補助です。英語や中国語の公報を読む場面で、要点の把握に使えます。ただし、翻訳の正確さが求められる場面では、翻訳の専門の仕組みを使います。読むための補助と、成果物としての翻訳は別の作業として扱います。前者は理解の速度を上げる用途であり、誤りがあっても原文に戻れば済みます。後者は正確さが成果物の品質そのものであるため、扱いが変わります。

第4は、依頼者向けの説明文の作成です。手続の流れ、中間対応の内容、費用の説明。技術と法律の両方を含む内容を、依頼者に伝わる形に直す作業です。

第5は、作成済み書面の点検です。請求項と明細書の対応、符号の一致、用語の統一。分量が多く、人が全文を突き合わせると見落とす領域です。

第6は、想定問答づくりです。依頼者との打合せの前に、聞かれそうなことを列挙させます。準備の抜けを減らす用途で、経験の浅い担当者ほど効果を感じます。回答は人が用意します。

第7は、事務所内のナレッジ検索です。過去の書面や手控えを引ける状態にすると、担当者が変わっても同じ品質で答えられます。ただし依頼者の情報を含むため、別の設計が要ります。詳細は士業事務所のRAG構築で扱っています。

向かない使い方も明確です。出願前の発明の内容を扱うこと、進歩性の判断をさせること、条文や審査基準を知識として尋ねること。1つ目は情報管理の問題であり、2つ目と3つ目は誤りが検出しにくい領域になります。

公開情報と未公開情報を分ける

特許事務所の設計で最も重要なのが、この線引きです。

公開されている情報は、外部の生成AIに入力しても、公になっていない情報が外に出ることにはなりません。公開特許公報、公開された技術文献、公になっている製品情報。これらを扱う作業では、入力の判断が軽くなります。

一方、出願前の発明の内容は、公になっていない情報そのものです。依頼者から受け取った発明の説明、実験のデータ、開発中の構成。これらを外部のサービスに入力することには、慎重な判断が要ります。

この線引きは、作業の単位でも分かれます。先行技術の調査で公開文献を読む作業は前者、明細書の下書きを作る作業は後者になります。同じ案件の中でも、工程によって扱いが変わるということです。

事務所として決めるのは、未公開情報を外部のサービスに出さないという原則を置くかどうかです。原則を置いたうえで、例外を認めるかどうか、認めるならどういう条件かを決めます。

原則を置く場合、明細書の作成という中核の業務でAIを使う場面は限られます。使えるのは、事務所の様式や過去の公開済み書面を材料にした作業までになります。この制約を前提に、他の場面で効率化を図る設計になります。

使う指示文の型

事務所で共有する指示文の例を挙げます。公開情報を扱う前提で書きます。

公開文献から構成要素を抽出する型です。

あなたは技術文献から情報を抜き出す役です。以下の公開文献から、指定した項目だけを
抽出してください。

抽出する項目:
- 請求項に記載された構成要素
- 実施例に記載された条件・数値の範囲
- 解決しようとする課題として記載されている内容
- 効果として記載されている内容

条件:
- 文献に記載がない項目は「記載なし」と出力すること
- 抽出した箇所は、文献中の表現をそのまま引用すること
- 段落番号や請求項番号を併記すること
- 新規性や進歩性についての評価を書かないこと
- 一般的な技術知識で補わないこと

公開文献:
"""
(ここに貼り付け)
"""

作成済み書面の点検に使う型です。

あなたは書類の点検役です。以下の書面を読み、次の観点で疑わしい箇所だけを列挙してください。
修正案は書かず、指摘のみを出力してください。

観点:
- 請求項に記載された用語で、明細書中に対応する記載がないもの
- 明細書中の符号で、図面の説明に対応がないもの
- 同じ構成を指す用語が、複数の表記で使われている箇所
- 数値の範囲が、請求項と明細書で食い違っている箇所

出力形式:
- 観点 / 該当箇所の引用(20字以内) を1行ずつ
- 指摘がない観点は出力しないこと

新規性や進歩性についての評価は書かないでください。

書面:
"""
(ここに貼り付け)
"""

点検で拾えるのは形式の不整合までです。記載が要件を満たしているかどうかは判断の領域であり、弁理士が行います。特許法第36条は特許出願について定めており、願書に記載する事項が規定されています。要件の確認は原典で行います。

守秘義務と規程 技術情報の扱い

設計として決めるのは5点です。

第1に、入力してよい情報の区分。公開情報はそのまま、事務所の様式は識別できる情報を落としてから、出願前の発明の内容は入力しない。この3段階が出発点になります。

第2に、依頼者との取り決めです。依頼者の側で、自社の技術情報を外部のAIサービスに入れることを禁じている場合があります。受任の段階で確認しておくと、後から問題になりません。企業の知財部門ほど、この点に敏感です。

第3に、確認の工程です。出力を外に出す前に、用語、符号、数値、条番号の4点を確認します。条文が含まれていたらe-Gov法令検索の原典で確認します。生成AIは実在しない条番号を、実在するものと同じ文体で出力します。

第4に、記録です。どの案件でAIを使ったかを記録に残します。既存の案件管理に一項目足す形で足ります。未公開情報を扱わない原則を置いている場合でも、公開情報を使った作業の記録は残しておくと、後から説明できます。

第5に、退職時の扱いです。事務所を離れる人のアカウントを止める手順を、入退職の手続き一覧に組み込んでおきます。

日本弁理士会の公表情報や弁理士に関する案内は、所属する団体の考え方を確認する材料になります。規程への落とし方は士業事務所のAI利用規程テンプレートで扱っています。

依頼者との関係をどう設計するか

特許事務所では、依頼者との関係に固有の論点があります。

第1に、依頼者が企業である場合、その企業の情報管理の規程が事務所にも及びます。外部のAIサービスへの技術情報の提供を禁じている企業では、事務所の判断だけでは使えません。

第2に、依頼者の側でもAI利用が進んでいます。発明の説明を自社でAIに整理させたうえで事務所に持ち込む例が出てきます。この場合、持ち込まれた段階で情報がどう扱われたかを、事務所としては把握できません。

第3に、共同開発など、複数の当事者が関わる案件では、扱いがさらに複雑になります。依頼者の同意だけでは決めきれない場面が生じます。

第4に、外国出願が絡む案件では、海外の代理人とのやり取りが発生します。相手方の情報管理の運用まで含めて考えると、事務所の中だけで完結しない部分が残ります。

これらの論点は、事務所が単独で解決できるものではありません。受任の段階で扱いを確認し、記録に残す。この積み重ねが、実務上の対応になります。

確認の仕方としては、依頼者の情報管理の規程で外部のAIサービスの利用について定めがあるかを聞く形が単純です。定めがある場合はその内容に従い、定めがない場合は事務所の運用を説明して了解を得る。この2通りで整理できます。聞かずに進めると、後から判明したときに信頼を損ねます。

外国出願が絡む案件では、相手方の代理人にも同じ確認が要るかどうかが論点になります。事務所として管理できる範囲を超えるため、依頼者と相談したうえで方針を決める領域です。少なくとも、事務所自身がどう扱っているかを説明できる状態にしておくことが出発点になります。

事務所内で完結する仕組みを検討する場合

未公開情報を扱う制約を回避する方法として、事務所内で完結する仕組みを用意する選択肢があります。

この設計であれば、情報が事務所の外に出ません。出願前の発明の内容を扱う作業にも、原理的には使えることになります。依頼者への説明としても、外部に出していないという事実は説明の材料として強く働きます。

ただし、費用と手間がかかります。仕組みの構築、維持、更新。扱う件数が多い事務所でなければ、投資に見合いません。また、事務所内で完結していても、誰がどの案件の情報にアクセスできるかという内部の権限設計は別に要ります。

現実的な判断としては、当面は公開情報を扱う作業に限定し、未公開情報については従来どおりの作業を続ける形になります。事務所内の仕組みは、扱う件数と、依頼者からの要求の水準を見ながら、中期の検討課題として置いておきます。

もう一点、事務所内で完結する仕組みを持つ場合でも、出力の確認工程は変わりません。情報が外に出ないことと、出力が正しいことは別の話です。用語、符号、数値、条番号の確認は、どちらの設計でも残ります。

導入でつまずくパターン

1つ目は、出願前の発明の内容を外部のサービスに入力した例です。公になっていない技術情報そのものであり、扱いが最も重い部類に入ります。

2つ目は、進歩性の判断をAIに求めた例です。判断の領域であり、それらしい説明が返るぶん誤りに気づきにくくなります。

3つ目は、条文や審査基準を知識として尋ねた例です。取扱いが変わっている可能性があり、古い内容が出力されることがあります。

4つ目は、依頼者への確認を省いた例です。企業の知財部門は情報管理に敏感であり、事前の確認を欠くと信頼を損ねます。

5つ目は、用語の表記をAIが統一してしまった例です。特許の書面では、用語の使い分けに意味があります。指示文で変更を禁じます。

6つ目は、点検に通したから確認が済んだと理解した例です。拾えるのは形式の不整合までであり、記載が要件を満たしているかは判断の領域です。

費用と体制、導入の順番

費用は、法人向けプランのライセンス料が中心になります。金額は事業者と契約形態で変わるため、各社の料金ページで確認します。特許の調査に特化したツールを検討する場合は、扱う件数との釣り合いを見ます。

工数は、線引きの整理に集中します。参考値として、公開情報と未公開情報の区分を決めるのに数日、指示文の型を整えるのに半日ほど見ておくと、無理なく形になります。

体制では、運用を持つ人を決めます。あわせて、出力を確定させる弁理士を明示します。技術分野ごとに担当が分かれている事務所では、分野ごとに使い方が変わる面もあるため、共有の場を作っておくと型が育ちます。

導入の順番としては、公開文献を扱う作業から始めます。入力の判断が軽く、効果も見えやすくなります。そこで型が固まってから、他の場面に広げるかどうかを検討します。導入全体の進め方は士業事務所のAI導入の進め方にまとめています。

これから変わること

技術文献の検索と分類の仕組みは、進化が続いています。調査の作業がどこまで機械に寄るかは、今後の見どころになります。

一方で、未公開情報の扱いという制約は残ります。むしろ、生成AIの利用が広がるほど、依頼者の側の情報管理の要求は厳しくなる方向に働きます。事務所として、この要求に答えられる運用を持っていることが、選ばれる条件になっていきます。

制度面では、個人情報保護法の見直しの議論が続いています。委員会の公表資料は個人情報保護委員会の報道発表で追えます。知的財産に関する制度については、所管する行政機関の公表資料を追う体制が要ります。

もう一点、AIが生成した技術的な内容の扱いという論点も立ち上がっています。この領域は議論が進行中であり、公表された一次情報を追いながら判断していく段階です。

よくある質問

出願前の発明の内容を入力してよいですか

公になっていない技術情報そのものであり、扱いが最も重い部類に入ります。外部のサービスに入力しない原則を置く事務所が多く見られます。例外を認めるなら、その条件を事務所として決めておきます。

どの作業から始めるのがよいですか

公開文献を扱う作業からです。公開されている情報であるため入力の判断が軽く、要約や情報抽出の効果も見えやすくなります。そこで型が固まってから、他の場面に広げるかどうかを検討します。

進歩性の判断に使えますか

判断の領域であり、向きません。それらしい説明が返るぶん、誤りに気づきにくくなります。構成要素の抽出や対比の材料の整理までを任せ、判断は弁理士が行います。

依頼者への確認は要りますか

企業の知財部門では、外部のAIサービスへの技術情報の提供を禁じている場合があります。受任の段階で扱いを確認しておくと、後から問題になりません。事務所の判断だけでは決めきれない領域です。

用語の統一はさせてよいですか

特許の書面では、用語の使い分けに意味があります。生成AIは表記を自然な形にそろえる傾向があるため、指示文で変更を禁じます。点検で表記のゆれを指摘させるのは有効ですが、直すのは人が判断します。

点検に通せば記載要件は満たせますか

拾えるのは形式の不整合までです。記載が要件を満たしているかどうかは判断の領域であり、弁理士が確認します。特許法第36条の記載事項は原典で確認します。

参考文献

※士業のチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴事務所の業務に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
https://shigyonochikara.jp/contact/

本記事の作成体制について

本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で、それぞれ確認したうえで記載しています。引用元は本文中および参考文献にすべて明示しています。

本記事には特定の資格者による監修は入っていません。個別の事案について法令の当てはめや手続の可否を判断する必要がある場合は、当該分野の有資格者にご相談ください。本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別具体的な法律判断・税務判断・労務判断を提供するものではありません。

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