顧問先へのAI活用説明資料の作り方 伝える3点と質問への備え

顧問先に渡すAI活用の説明資料の作り方を解説。書く3点、下書きの手順、想定される5つの質問への備え、渡し方とタイミングまで実務目線で整理します。

顧問先へのAI活用説明資料の作り方 伝える3点と質問への備え

AI活用の説明資料とは、事務所の使い方を顧問先に一枚で伝える書面のことです。

生成AIを使っていますかと顧問先に聞かれて、答えに詰まる。この場面は、準備がない事務所ほど早くやってきます。この記事では、顧問先に渡すAI活用の説明資料に何を書くか、想定される質問にどう備えるかを、実務の順番で整理します。本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で確認しています。生成AIサービスの利用については個人情報保護委員会の注意喚起が判断の出発点になります。

なぜ説明資料が要るのか

理由は3つあります。順に見ていきます。

第1の理由は、顧問先の側でもAI利用のルール作りが進んでいることです。社内で生成AIの利用規程を整えている会社では、外部に委託している業務についても同じ観点で見るようになります。事務所がどう使っているかは、その延長線上で聞かれます。

第2の理由は、聞かれてから答えると印象が悪くなることです。準備なしにその場で答えると、内容が曖昧になり、後から訂正することになります。先に整理した資料があれば、同じ内容を落ち着いて伝えられます。

第3の理由は、説明できること自体が事務所の品質の証明になることです。使っていませんと答えるのも、使っていますとだけ答えるのも、どちらも説明としては弱くなります。使ったうえで、何を入力せず、誰が確認しているかまで答えられる事務所は、それだけで信頼を得ます。

逆に、資料を作らなくてよい場面もあります。顧問先が個人で、業務の性質上AIの利用に関わる場面が乏しい場合です。ただ、その判断は事務所が能動的に行うものであって、面倒だから作らないという理由とは違います。

作る資料は一枚で足ります。分厚い説明書を作る必要はありません。むしろ、要点が3つに整理されている一枚のほうが読まれます。事務所の内部向けの文書は別に持っておき、外に出すのは要点だけにします。事務所の運用そのものの設計は士業のAI活用ガイドで扱っています。

資料に書く3点

顧問先が知りたいのは、技術の中身ではありません。自社の情報がどう扱われるかです。書く内容は3点に絞れます。

第1点は、何に使っているかです。業務のどの工程でAIを使っているかを具体的に書きます。資料の要約、書面の下書き、記載漏れの点検。作業の種類が分かれば、顧問先は影響の範囲を理解できます。抽象的に業務効率化のために活用していますと書くと、かえって不安が残ります。

第2点は、何を入力しないかです。ここが最も重要な項目になります。個人を識別できる情報、口座番号やマイナンバーなどの識別番号、健康に関する情報。事務所として入力しないと決めているものを列挙します。あわせて、顧問先の情報を入力する場合は識別できる情報を落としてから入力する、という運用も書きます。

第3点は、誰が確認するかです。AIの出力をそのまま外に出さないこと、有資格者が確認して確定させること。この構造を明示します。顧問先が最も気にするのが品質の担保であるため、この一文が効きます。

3点に加えて、書いておくと質問が減る項目があります。使っているサービスが事務所の管理下にある法人向けのものであること、データの取扱いを確認していること、この2点です。ただし、サービス名は書きすぎないほうが実務では扱いやすくなります。サービスは入れ替わるため、名前を書くと更新のたびに資料を直すことになります。

文体は、専門用語を避けます。ハルシネーションのような語は、説明が要る時点で伝わりません。誤った内容が出力されることがあるため、と書けば足ります。

資料の下書きを作る手順

作り方を具体的に書きます。事務所の実態を先に整理してから、文章にします。

第1に、業務の棚卸しをします。どの業務のどの工程でAIを使っているかを書き出します。使っていない業務も並べておくと、資料に書く範囲を判断しやすくなります。

第2に、入力しない情報の一覧を確認します。事務所の規程やガイドラインに書いてあれば、そこから転記します。書いていなければ、これを機に決めます。資料を作る過程で内部のルールが整うことは、よくある副産物です。

第3に、確認の工程を確認します。誰がどの段階で出力を見るか、誰の名前で外に出すか。ここが曖昧なままだと、資料に書く内容も曖昧になります。

第4に、文章にします。3点それぞれを2文から3文で書きます。全体でA4一枚に収めます。

下書きを作るときの指示文の例です。事務所の内部文書から、顧問先向けの説明文を起こす用途です。

あなたは事務所の文書作成を手伝う役です。
以下の「内部ルール」から、顧問先に渡す説明資料の下書きを作成してください。

構成:
1. 何に使っているか
2. 何を入力しないか
3. 誰が確認するか

条件:
- 各項目は2文から3文にすること
- 専門用語を使わず、平易な表現にすること
- 内部ルールに書かれていない内容を補わないこと
- サービス名は書かず「事務所が契約した法人向けサービス」と表記すること
- 法的な評価や断定を書かないこと
- ですます調で統一すること

内部ルール:
"""
(ここに貼り付け)
"""

出力はあくまで下書きです。事務所の言葉に直してから使います。

想定される問い合わせへの備え

資料を渡すと、質問が返ってきます。よく出るものを整理しておきます。

第1の質問は、入力した情報が学習に使われるのかというものです。答えは契約しているプランによって変わります。学習利用の扱いを公式ドキュメントで確認し、その内容を答えます。Anthropicはプライバシーポリシーを、GoogleはGemini APIの利用規約を、MicrosoftはMicrosoft 365 Copilotのプライバシーを公開しています。

第2の質問は、当社の情報は入力しないでほしいというものです。事務所として応じられるかどうかを、先に決めておきます。応じる場合、その顧問先の案件だけAIを使わない運用にできるか、作業フローの中で切り分けられるかを確認しておきます。

第3の質問は、AIが間違えた場合の責任はどうなるのかというものです。書面は有資格者が確定させたものとして外に出るため、作業の分担にかかわらず責任の所在は変わりません。この構造を説明します。

第4の質問は、効率化したのだから報酬を下げてほしいというものです。これは価格の話なので、別に整理しておきます。考え方は士業のAI活用と報酬設計で扱っています。

第5の質問は、当社でも同じように使いたいので教えてほしいというものです。相談として受けるのか、業務として受けるのかを事務所として決めておきます。

答えは、担当者が言えるようにしておきます。所長だけが答えられる状態だと、担当者が面談の場で聞かれたときに止まります。3点の説明と、この5つへの答えを、所内で共有しておきます。

想定される問い合わせを洗い出す作業も、機械に手伝わせられます。作った説明資料を渡して、読み手が抱きそうな疑問を列挙させる方法です。

あなたは資料の読み手の立場で疑問点を挙げる役です。
以下の説明資料を読み、読み手が抱きそうな疑問を列挙してください。

条件:
- 疑問だけを出力し、回答は書かないこと
- 資料に書かれていない事項について生じる疑問を優先すること
- 答えにくい疑問や、批判的な疑問も含めること
- 15件以内で、出そうな順に並べること
- 資料の内容を評価しないこと

説明資料:
"""
(ここに貼り付け)
"""

出てきた疑問のうち、資料に書き足すもの、口頭で答えるもの、答えないと決めるものを仕分けします。この仕分けをしておけば、面談の場で慌てずに済みます。

守秘義務と規程 説明の土台になる部分

説明が成り立つのは、その裏に運用があるからです。運用がなければ、資料は言葉だけになります。

守秘義務の根拠は、それぞれの資格法に置かれています。弁護士は弁護士法第23条、税理士は税理士法第38条、公認会計士は公認会計士法第27条、司法書士は司法書士法第24条、行政書士は行政書士法第12条、社会保険労務士は社会保険労務士法第21条、弁理士は弁理士法第30条です。個人情報の側では、安全管理措置が個人情報の保護に関する法律の個人情報保護法第23条に、第三者提供の制限が個人情報保護法第27条に置かれています。

説明資料にこれらの条番号を書く必要はありません。顧問先が知りたいのは条文ではなく運用だからです。ただし、事務所の側でこれらを踏まえた設計になっていることが、説明の中身を支えます。

顧問契約の見直しのタイミングで、AI利用に関する条項を置く事務所も出てきています。事務所が指定した法人向けの生成AIサービスを、事務所の管理の下で業務の補助として利用する、という粒度で書いておく形です。書面に書き込むかどうかは事務所の判断ですが、説明資料と契約書の内容が食い違わないようにします。

内部の規程やガイドラインが整っていれば、説明資料はその要約として作れます。逆に、内部が整っていない状態で外向けの資料だけを作ると、実態と離れた内容になります。順番としては、内部を整えてから外向けを作ります。規程の条立ては士業事務所のAI利用規程テンプレートで扱っています。

渡し方とタイミング

作った資料をいつ渡すかも設計します。

第1の方法は、顧問契約の更新時にまとめて渡す方法です。契約書類と一緒に配れるため、手間が少なく済みます。顧問契約が中心の事務所と相性が良い方法です。

第2の方法は、新規の依頼を受けた段階で渡す方法です。業務案内や事務所の案内書面に同封します。スポットの依頼が多い事務所は、この方法が実務に合います。

第3の方法は、聞かれたときに渡す方法です。準備だけしておき、質問が出たときに出します。手間は最も少なくなりますが、能動的に信頼を作る機会は失います。

第4の方法は、事務所のウェブサイトに掲載する方法です。誰でも読める状態にしておくと、問い合わせの前の段階で理解が得られます。掲載する場合、内容が古くならないように更新の担当を決めておきます。

どの方法でも共通するのは、渡した記録を残すことです。いつ誰に渡したかが分かれば、後から確認できます。案件記録に一行足すだけで足ります。

作成でつまずくパターン

1つ目は、抽象的に書きすぎた例です。業務効率化のために活用していますとだけ書くと、何をしているのか伝わらず、かえって不安を残します。作業の種類まで具体的に書きます。

2つ目は、専門用語を使った例です。読み手は技術の専門家ではありません。誤った内容が出力されることがある、という平易な表現で足ります。

3つ目は、サービス名を書き込んだ例です。サービスは入れ替わるため、更新のたびに資料を直すことになります。事務所が契約した法人向けサービス、という粒度で書いておきます。

4つ目は、内部が整っていない状態で資料だけ作った例です。実態と離れた内容になり、質問されたときに答えられません。順番としては内部を先に整えます。

5つ目は、所長だけが説明できる状態にした例です。担当者が面談の場で聞かれたときに止まります。3点の説明と想定質問への答えを、所内で共有しておきます。

6つ目は、作ったきり更新していない例です。使い方もサービスも変わります。年に一度は内容を見直す日を決めておきます。

費用と体制

費用は、資料の作成そのものにはかかりません。かかるのは工数です。参考値として、業務の棚卸しと内部ルールの確認に半日から1日、文章にして所内で確認するのにさらに半日ほど見ておくと、無理なく形になります。

体制では、資料を持つ人を決めます。内容の更新と、所内への共有を担当します。あわせて、想定質問への答えを共有する場を作ります。月に一度の所内の集まりで一度扱えば足ります。

外部の支援を使う場合も、何を入力しないかの部分だけは事務所の中で決めます。業務内容と顧問先の性質によって変わるため、外から決められる部分ではありません。

なお、顧問先の側から先に問い合わせが来た場合は、その内容自体が資料に書くべき項目を教えてくれます。聞かれたことを記録しておき、次の版に反映します。

資料を作る作業には、副次的な効果もあります。外に出す文章にするためには、事務所の中で曖昧だった部分を決める必要が出てきます。何を入力しないのか、誰が確認するのか。書こうとして初めて、決まっていないことに気づく事務所は少なくありません。その意味で、説明資料の作成は内部の運用を点検する作業でもあります。

これから変わること

顧問先の側でAI利用のルール作りが進むほど、事務所への質問は具体的になります。どのサービスを使っているか、データがどこで処理されるか、といった踏み込んだ質問が増えることが見込まれます。答えられる範囲を、事務所として先に決めておきます。

制度面では、個人情報保護法の見直しの議論が続いています。委員会の公表資料は個人情報保護委員会の報道発表で追えます。規定が変われば、説明の内容も見直しの対象になります。

もう一つ、顧問先から受け取る資料の側にも変化があります。顧問先がAIで作った資料が事務所に届く場面が増えます。受け取る側としてどこを確認するかという観点が、いずれ説明資料の項目になっていく可能性があります。

説明資料は、事務所が自分の業務をどう理解しているかの表明でもあります。作る過程で内部の運用が整うという副産物のほうが、実は価値が大きい場面もあります。

よくある質問

説明資料はどれくらいの分量が適当ですか

A4一枚で足ります。何に使っているか、何を入力しないか、誰が確認するかの3点をそれぞれ2文から3文で書きます。分厚い資料は読まれません。内部向けの詳しい文書は別に持っておきます。

サービス名は書いたほうがよいですか

書きすぎないほうが実務では扱いやすくなります。サービスは入れ替わるため、名前を書くと更新のたびに資料を直すことになります。事務所が契約した法人向けサービス、という粒度で書き、具体のサービス名は所内の一覧で管理します。

当社の情報は入力しないでほしいと言われたらどうしますか

応じられるかどうかを先に決めておきます。応じる場合、その顧問先の案件だけAIを使わない運用が作業フローの中で切り分けられるかを確認しておきます。決めていないと、その場で判断することになります。

AIが間違えた場合の責任はどう説明しますか

書面は有資格者が確定させたものとして外に出るため、作業の分担にかかわらず責任の所在は変わりません。この構造を説明します。あわせて、確認の工程を作業フローに置いていることを伝えると、答えが具体的になります。

渡すタイミングはいつがよいですか

顧問契約が中心の事務所は更新時、スポットの依頼が多い事務所は新規の依頼を受けた段階が実務に合います。ウェブサイトに掲載する方法もありますが、内容が古くならないように更新の担当を決めておきます。

担当者にも説明できるようにする必要がありますか

所長だけが答えられる状態だと、担当者が面談の場で聞かれたときに止まります。3点の説明と、よく出る質問への答えを、所内で共有しておきます。月に一度の集まりで一度扱えば足ります。

参考文献

※士業のチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴事務所の業務に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
https://shigyonochikara.jp/contact/

本記事の作成体制について

本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で、それぞれ確認したうえで記載しています。引用元は本文中および参考文献にすべて明示しています。

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