厚生労働省が第32回過労死等防止対策推進協議会の議事録を公表しました。
厚生労働省は、令和8年6月5日に開催された第32回過労死等防止対策推進協議会の議事録を、厚生労働省の公表ページで公開しました。議題は過労死等の防止対策の実施状況と今後の取組で、労働時間規制の見直し議論をめぐって当事者代表委員や労働者代表委員から強い懸念が示されたことが、発言単位で記録されています。数値目標の達成状況も細かく開示されており、社労士事務所が顧問先に伝えるべき材料が一度に揃った資料になっています。本記事は公表された議事録の内容を整理したもので、個別の事案への当てはめは扱いません。
議事録で公表された数値と、達成状況のギャップ
議事録でまず目を引くのは、大綱の数値目標と現状との開きです。同議事録によれば、週60時間以上働いている雇用者の割合は令和7年で7.7パーセントとされ、業種別では運輸業・郵便業が3か年とも最も高い水準にあります。勤務間インターバル制度を導入している企業の割合は令和7年で6.9パーセントとされ、目標の15パーセントとは大きな隔たりがある状況です。労働者数50人未満の小規模事業場におけるストレスチェックの実施割合は、令和6年で33.5パーセントにとどまると報告されています。出典はいずれも第32回過労死等防止対策推進協議会 議事録です。
行政側の取組も具体的な件数で示されました。同議事録によれば、おおむね3年程度の期間に複数の過労死等の労災認定を受けた企業を対象とする過労死等防止計画指導は、令和6年度が42件、令和7年度が35件と報告されています。過労死等防止対策に係る令和8年度予算は、令和7年度より全体で23.4億円の増額とされました。公務部門についても、国家公務員のうち15.5パーセントが労働基準法上の上限規制を超えて働いている実態が委員から指摘され、地方公共団体では令和6年度に98.8パーセントの事業場でストレスチェックが実施されたと総務省から説明されています。
労災請求件数の増加要因についても、厚生労働省が一定の整理を示しました。精神障害に係る請求件数の増加は、対人関係や上司とのトラブルといった職場環境の要因に加え、労災認定基準の改正でパワーハラスメントやカスタマーハラスメントが追加されたこと、社会全体で気分障害等の患者数が長期的に増加していることなどが複合的に関係していると考えられる、という整理です。医療・福祉業で特に請求件数が増えている背景としては、業務の質と量の増加、人手不足、それに伴うハラスメントが生じやすい状況が挙げられました。
社労士事務所が押さえる施行スケジュールと顧問先への説明
顧問先対応の観点で重要なのは、議事録に登場した3つの施行スケジュールです。第一に、労働者数50人未満の事業場へのストレスチェックの実施義務の拡大は、令和10年4月からの施行が予定されていると説明されました。第二に、カスタマーハラスメント対策については、昨年成立した労働施策総合推進法等の一部改正法に基づき、本年10月の施行が予定され、事業主が講じる内容を盛り込んだ指針が本年2月に示されたと報告されています。第三に、人事院はカスタマーハラスメント対策に関する人事院規則を本年4月に制定し、本年10月からこの規則に基づく対策を実施していくと説明しました。
ストレスチェック制度そのものの根拠は労働安全衛生法第66条の10に置かれており、検査の実施、結果の通知、高ストレス者からの申出に応じた医師による面接指導、面接指導結果の記録といった一連の流れが条文上定められています。50人未満の事業場に対象が広がる際に、この一連の流れをどの体制で回すかが実務上の論点になります。議事録では、令和8年2月に50人未満の事業場に即した実施体制と実施方法のマニュアルが公表・周知され、令和8年度から高ストレス者の面接指導を無料で行う地域産業保健センターの体制拡充が進められていることも説明されました。小規模事業場を顧問先に多く抱える事務所では、この支援策の存在を先に伝えておく実務対応を採るところがあります。制度の詳細は全事業場へのストレスチェック義務化と社労士の実務対応でも整理しています。
労働時間規制そのものの見直しについては、議事録の中で意見が明確に分かれました。過労死弁護団全国連絡会議が作成した労働時間規制緩和に反対する意見書が委員から資料提出され、裁量労働制の拡大には反対であるとの意見が述べられています。一方で使用者側委員の代理からは、裁量労働制は適正に運用されれば良い制度であり、濫用防止を前提に拡充が必要との意見が示されました。厚生労働省の労働条件政策課長は、裁量労働制の対象の在り方の見直しについては労働政策審議会で労使双方の立場と職場の実情を踏まえた議論を求めたい、と述べています。勤務間インターバルについては、原則11時間を空ける義務化の方向で検討すべきという意見と、段階的な導入を求める意見の双方が紹介されました。関連する実務論点は勤務間インターバルと就業規則見直しの考え方にまとめています。
今後の動きと、事務所側の初動
今後の焦点は労働政策審議会に移ります。議事録では、裁量労働制、変形労働時間制、現行の労働時間規制の運用の3点について引き続き議論を行う必要があるとされており、方向性が固まる前段階にあることが読み取れます。決着していない論点を確定情報として顧問先に伝えないことが、この時期の実務上の分かれ目になります。
事務所側の初動としては、次のような対応を採るところがあります。ひとつは、本年10月施行が予定されるカスタマーハラスメント対策について、顧問先の規程整備の進捗を洗い出しておくことです。詳細はカスハラ対策義務化と規程整備の進め方で扱っています。もうひとつは、令和10年4月に迫るストレスチェックの対象拡大に向けて、50人未満の顧問先を先に洗い出しておくことです。さらに、労働政策審議会の議論については、確定した内容と検討中の内容を分けた社内メモを用意しておく整理です。
こうした資料整理の下ごしらえに生成AIを使う事務所も増えています。公表済みの議事録から数値と施行日を抽出して一覧化する、複数回の協議会資料の差分を洗い出す、といった用途は、原典が公開情報であるため取り扱いのハードルが比較的低い作業です。一方で、顧問先名や個別の労務トラブルの内容を含むメモをそのままAIに入力する運用は、守秘義務と情報管理の観点から論点になります。入力したデータが学習に使われるかどうかはサービスと契約プランによって異なるため、事務所として使うツールについてはベンダーの公表資料を確認したうえで判断する段階です。生成AIの業務活用の考え方は社労士向け生成AIガイドブックの解説でも整理しています。
まとめ
第32回過労死等防止対策推進協議会の議事録が公表され、勤務間インターバルの導入割合6.9パーセント、50人未満事業場のストレスチェック実施割合33.5パーセントといった達成状況と、労働時間規制の見直しをめぐる委員間の意見の隔たりが明らかになりました。カスハラ対策の本年10月施行と、ストレスチェック対象拡大の令和10年4月施行という2つの期日が、顧問先対応の当面の軸になります。
参考文献
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引用元: 厚生労働省
本記事の作成体制について
本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で、それぞれ確認したうえで記載しています。引用元は本文中および参考文献にすべて明示しています。
本記事には特定の資格者による監修は入っていません。個別の事案について法令の当てはめや手続の可否を判断する必要がある場合は、当該分野の有資格者にご相談ください。本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別具体的な法律判断・税務判断・労務判断を提供するものではありません。
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