特許庁ステータスレポート2026を弁理士が読む AI出願動向と審査対応の6視点

特許庁ステータスレポート2026の構成とAI関連発明の出願動向を一次情報で確認し、弁理士事務所が依頼人説明と所内運用に落とすための6つの視点と守秘義務の線引きを整理します。

特許庁ステータスレポート2026を弁理士が読む AI出願動向と審査対応の6視点

ステータスレポートとは、特許庁が毎年公表する統計と施策成果の要約集のことです。

年に一度届くこの冊子を、目次だけ見て棚に戻していないでしょうか。この記事では、特許庁ステータスレポート2026の構成を確認したうえで、AI関連発明の出願動向を一次情報で押さえ、弁理士事務所が実務に落とす読み方を6つの視点に整理します。本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で確認しています。特許庁は2026年3月に、2025年の統計情報と政策の成果を掲載した特許庁ステータスレポート2026を取りまとめたと公表しています(出典: 特許庁 特許庁ステータスレポート2026をとりまとめました)。

ステータスレポート2026はどう組まれているか

結論から書きます。このレポートは統計編と施策編の二部構成で、弁理士が実務に使えるのは主に第1部の統計と第2部第1章の審査・審判です。理由は、依頼人への説明材料と、自所の出願戦略の前提が、その2か所に集まっているからです。

特許庁の公表によると、ステータスレポート2026は第1部が「数字で見る知財動向」、第2部が「2025年の施策成果」という構成です。第1部第1章が我が国の知財動向、第2章が世界の知財動向で、第2部は第1章が審査・審判、第2章が国際的取組、第3章が支援施策と法改正等に分かれています(出典: 特許庁 特許庁ステータスレポート2026をとりまとめました)。全ページで日本語と英語が併記されており、国内外への情報発信ツールとして作られています(同ページ)。

実務上ありがたいのは、掲載図表がExcel形式でダウンロードできる点です(出典: 特許庁 特許庁ステータスレポート2026)。依頼人向けの資料に数字を引くとき、PDFから手で写す必要がありません。全体版のPDFに加えて章ごとの分割版も配布されているため、必要な章だけ取ることもできます(同ページ)。

冊子そのものは4月下旬以降、特許庁の出願課受付カウンターや工業所有権情報・研修館の相談窓口、知財総合支援窓口で無償配布されています(出典: 特許庁 特許庁ステータスレポート2026)。依頼人との面談で紙を渡したい場面では、こちらのほうが早い場合があります。

AI関連発明の出願動向を、依頼人にどう説明するか

数字は特許庁の別調査に整理されています。ステータスレポートと合わせて読むと、依頼人への説明が組み立てやすくなります。

特許庁審査第四部審査調査室が2025年10月に公表した「AI関連発明の出願状況調査」によると、AI関連発明の特許出願件数は2014年以降急激に増加し、2023年の出願件数は約11,400件でした。一方、AI技術そのものに特徴があるAIコア発明の出願件数は近年横ばいで、2023年は約2,400件でした(出典: 特許庁 AI関連発明の出願状況調査)。

この2つの数字の差が、実務的には効きます。AIそのものを作る出願は伸び止まり、AIを各分野に適用する出願が伸びている。同調査は、2022年から2023年にかけて、ビジネスに適合した情報通信技術を示すG06Qが主分類として付与された出願の増加が顕著だったとし、生成AIに関連する技術やサービスの急速な発展に起因すると考えられると述べています(同調査)。依頼人が「AIで何か出願できないか」と持ちかけてきたとき、この構図を先に共有すると、話が具体になります。

国際比較も押さえておく価値があります。同調査によると、AIコア発明の中国への出願件数は2014年に1,226件で、米国への2,733件の半分以下でした。それが2023年には中国への出願件数が101,459件、米国への出願件数が19,336件となり、中国が米国の5倍以上になっています(出典: 特許庁 AI関連発明の出願状況調査)。ただし、中国への特許出願の91.3パーセントは中国籍出願人によるものとされており、外国出願戦略の材料として読む際は、この内訳を添えないと数字が独り歩きします(同調査)。

深層学習の技術別では、CNNに言及するAI関連発明とRNNまたはLSTMに言及するAI関連発明の出願件数が2021年にかけて増加した後に減少へ転じ、トランスフォーマに言及するAI関連発明の出願件数は増加し続けているとされています(同調査)。明細書に書く技術用語の選び方にも関わる部分です。

先行技術調査へのAI活用については特許庁のAI先行技術調査と弁理士の実務、審査事例の読み方についてはAI関連発明の審査事例と出願実務で扱っています。

事務所の実務に落とす6つの視点

結論を先に置きます。年次レポートは読んで終わりにせず、事務所の3つの場面に配る形にすると使われます。依頼人への説明資料、所内の年度方針、そして若手への教材です。以下、視点を6つに分けます。

視点1 依頼人別に「効く図表」を1枚ずつ決める

レポート全体を渡しても読まれません。依頼人の業種と出願傾向に応じて、使う図表を1枚か2枚に絞ります。製造業ならAI適用発明の主分類推移、ソフトウェア系ならG06Qの増加、海外展開を検討中なら各国出願件数の推移。Excel形式の図表データが提供されているので(出典: 特許庁 特許庁ステータスレポート2026)、自所のフォーマットに貼り替えるところまで年に一度やっておくと、面談のたびに作り直さずに済みます。

視点2 生成AIには要約させ、数字は人が拾う

レポートのPDFを生成AIに読ませて要約を作るのは有効です。ただし、数字と図表番号は生成AIに任せません。PDFから数値を抜く処理は誤りが混じりやすく、依頼人に渡す資料に誤った件数が載ると事務所の信用に直結します。要約はAI、数値の転記は人。この線を最初に引きます。

以下は、レポートの章を読み解く際のプロンプト例です。

あなたは特許事務所のリサーチ担当です。以下は特許庁の公表資料の
本文です。次の3点だけを日本語で整理してください。
第一に、この章が扱っているテーマの一覧。
第二に、依頼人への説明で使えそうな論点を3つ。
第三に、数値が登場する箇所の「見出しと図表番号」のみ。
数値そのものは転記せず、どこを人が確認すべきかを示すに留めてください。

【本文】
(ここに貼り付け)

数値の転記を明示的に禁じる設計にしています。抽出はAI、確認は人、という工程を分けておく狙いです。

視点3 AI関連発明の相談を受ける前に、社内用語を揃える

AIコア発明とAI適用発明の区別は、特許庁の調査が用いている整理です。同調査は、AI技術そのものに特徴がある発明をAIコア発明、AIを各技術分野に適用した発明をAI適用発明とし、両者をあわせてAI関連発明と定義しています(出典: 特許庁 AI関連発明の出願状況調査)。所内でこの用語を揃えておくと、依頼人の技術者との会話で、どちらの話をしているかが最初に確定します。

視点4 明細書ドラフトのAI利用は、記載要件の確認工程とセットにする

明細書の記載事項は特許法第36条に定めがあります。願書に明細書、特許請求の範囲、必要な図面および要約書を添付すること、明細書には発明の名称、図面の簡単な説明、発明の詳細な説明を記載することが規定されています。生成AIに下書きを作らせる場合でも、この記載事項を満たしているかの確認は人の工程として残します。

実務では、AIが作った文章は読みやすいぶん、抜けに気づきにくいという難点があります。チェックリストを条文の項目立てに沿って作り、ドラフトごとに機械的に潰すやり方が、いまのところ最も漏れにくい形です。

視点5 依頼人の未公開情報をAIに入れる前の線引き

弁理士の守秘義務は弁理士法第30条にあります。正当な理由がなく、その業務上取り扱ったことについて知り得た秘密を漏らし、又は盗用してはならない旨が定められています。この条文はe-Gov法令検索の原文で確認しています。

出願前の発明の内容は、新規性との関係でも取り扱いに神経を使う情報です。実務的に決めておくのは3点です。第一に、使ってよいツールを列挙し、契約種別まで指定します。入力データの学習利用の扱いは、ツールと契約形態で異なるためです。第二に、伏せ字にする項目を型にします。依頼人名、発明者名、製品名、具体的な数値実施例のうち、どこまで伏せるかを決めます。第三に、依頼人への説明の枠を先に定めます。生成AIを業務に使う旨を委任契約にどう書くかは、担当者ごとの判断に委ねない領域です。

権限設計は士業事務所の生成AI権限設定 有資格者と補助者で分ける5階層のルールにまとめています。特許庁への手続の代理は弁理士法第4条に業務として規定され、同法第75条には弁理士または弁理士法人でない者の業務の制限が置かれています。AIツールが手続の代理に近い動きをする場面をどう評価するかは、議論が続いている領域です。事務所としては、AIの出力を依頼人や特許庁へそのまま流さない運用にしておくのが、いまの実務では無難な立て付けになります。

視点6 年次レポートを若手の教材として使う

統計を読む訓練は、実務書では代替しにくい部分です。若手に対して、図表を1枚選ばせ、そこから読み取れることと読み取れないことを口頭で説明させる。この演習を年に一度入れるだけで、依頼人への説明の解像度が変わります。読み取れないことを言語化させるのが要点で、数字が示していない範囲を勝手に埋めない習慣がつきます。

もう1本、演習用のプロンプト例を挙げます。

以下は特許出願件数の推移データです。次の2点に分けて出力してください。
第一に、このデータから直接読み取れる事実を箇条書きで。
第二に、このデータからは読み取れないが、依頼人から聞かれそうな問いを
箇条書きで。第二の項目には推測で答えず、問いの形のままにしてください。

【データ】
(ここにExcelから貼り付け)

年次レポートの活用で起きやすい3つの失敗

ひとつ目は、前年版の数字を使い続けることです。ステータスレポートは毎年更新され、2026年版は2025年の統計を扱っています(出典: 特許庁 特許庁ステータスレポート2026をとりまとめました)。事務所の提案書テンプレートに数字を直書きすると、翌年そのまま流用されます。回避策は、数字を差し込み欄にして、出典と取得年を併記する形にしておくことです。

ふたつ目は、調査の対象年を取り違えることです。AI関連発明の出願状況調査は2023年までの出願データをもとにした更新版で、2025年10月に公表されています(出典: 特許庁 AI関連発明の出願状況調査)。公表年と対象年がずれているため、依頼人に説明する際は対象年を明示します。公表年だけを言うと、最新の出願動向として受け取られます。

みっつ目は、生成AIにPDFを丸投げして数字を拾わせることです。図表の数値はグラフ画像として提供されている箇所があり、テキスト抽出では拾えません。特許庁は掲載図表のExcel形式ダウンロードを用意していますが、全ての図表のデータではない旨も注記しています(出典: 特許庁 特許庁ステータスレポート2026)。Excelに無い図表の数値は、人が本文で確認します。

導入と運用にかかる工数の目安

新しいツールは要りません。かかるのは、年に一度の読み込みと社内展開の工数だけです。

初期整備としては、レポートの通読と自所向けの抜粋作成に一日弱、依頼人別の図表テンプレート作成に半日弱、若手向けの演習設計に半日弱を見込みます。数名規模の事務所なら、公表直後の一週間のうちに二日ほど確保すれば形になります。これは公表統計ではなく編集部が支援現場で見てきた範囲の目安なので、自所での実測に置き換えてください。

ランニングでは、依頼人向け資料への数字の差し替えが年に一度発生します。差し込み欄の設計をしておけば、作業は数時間で終わります。生成AIの利用料は、要約用途であれば法人プランの範囲で収まるため、この取り組みのために追加契約する必要は通常ありません。費用対効果の測り方は士業事務所のAI費用対効果をどう測るか|ROI測定の7手順を参照してください。

担当は、所内の情報発信を持っている人が兼ねるのが現実的です。レポートの公表は例年春先なので、繁忙期との重なりを見て年間計画に組み込みます。

統計の読み手としての弁理士に、何が残るか

AI関連発明の出願が伸び、適用先が広がるほど、依頼人の側でも情報は取れるようになります。特許庁の資料は誰でも無料で読めますし、要約は生成AIが数分で作ります。

論点になるのは、数字の解釈です。中国への出願件数が米国の5倍以上という数字は、そのままでは外国出願戦略の指針になりません。中国への出願の91.3パーセントが中国籍出願人によるものという内訳(出典: 特許庁 AI関連発明の出願状況調査)を添えて初めて、依頼人の判断材料になります。この「添える」部分が、実務家の仕事として残る領域です。

もうひとつの論点は、読み取れないことを言える力です。統計が示していない範囲を、示していないと言い切れるかどうか。生成AIは問われれば何かを答えてしまうため、ここは人の側の役割として残ります。商標分野での実務の切り分けは商標調査にAIを組み込む7工程 弁理士事務所が引く確認と守秘の線で扱っています。

よくある質問

ステータスレポートと特許行政年次報告書はどう違いますか

ステータスレポートは、最新の統計情報と政策の成果をいち早く発信することを目的とした要約集です。特許庁は、日本語と英語を併記した構成で国内外への情報発信ツールとして作成していると説明しています(出典: 特許庁 特許庁ステータスレポート2026)。用途に応じて使い分ける形になります。

図表データはどこから取れますか

特許庁のステータスレポート2026のページに、掲載図表のExcel形式ダウンロードが用意されています。ただし、全ての図表のデータではない旨が注記されているため、必要な図表が含まれているかは個別に確認します(出典: 特許庁 特許庁ステータスレポート2026)。

AI関連発明の定義はどこに書かれていますか

特許庁の「AI関連発明の出願状況調査」に定義が置かれています。AI技術そのものに特徴がある発明をAIコア発明、AIを各技術分野に適用した発明をAI適用発明とし、両者をあわせてAI関連発明としています(出典: 特許庁 AI関連発明の出願状況調査)。AIコア発明はFIとしてG06Nが付与された特許出願と定義されています(同調査)。

明細書のドラフトを生成AIに作らせてよいですか

事務所の運用として決める事項です。記載事項は特許法第36条に規定があり、要件を満たしているかの確認は弁理士が行う工程として残す設計が実務では一般的です。ドラフトの出所を案件記録に残しておくと、後の検証がしやすくなります。

依頼人の発明内容をクラウドのAIに入れても平気ですか

平気かどうかは、ツールのデータ取扱いと事務所の運用設計で決まります。守秘義務の根拠は弁理士法第30条にあり、条文の当てはめは個別の事情によるため、事務所としての判断は有資格者が行う領域です。実務上は、出願前の発明内容を伏せ字なしで入力しない運用から始める事務所が多く見られます。

中国の出願件数が多いという数字を、依頼人にどう伝えますか

内訳とセットで伝えるのが実務的です。AIコア発明の2023年の中国への出願件数は101,459件で米国の19,336件を大きく上回りますが、中国への特許出願の91.3パーセントは中国籍出願人によるものとされています(出典: 特許庁 AI関連発明の出願状況調査)。件数の多さがそのまま日本企業の出願先としての優先度を意味するわけではありません。

若手にレポートを読ませるとき、どこから始めさせますか

第1部第1章の我が国の知財動向から入るのが素直です。自所の担当案件と直結する統計が並んでいるため、実感を持って読めます。読み取れることと読み取れないことを分けて説明させる演習を添えると、統計を扱う型が身につきます。

参考文献

※士業のチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴事務所の業務に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
https://shigyonochikara.jp/contact/

本記事の作成体制について

本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で、それぞれ確認したうえで記載しています。引用元は本文中および参考文献にすべて明示しています。

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