AI秘書Instinctに情報漏えい懸念|規約の永続ライセンスと3つの実例

招待制のAI秘書Instinctの利用規約と情報保持をめぐり、初期利用者から懸念が出ています。永続ライセンス、平文保存、無断送信という3つの実例と、士業事務所がメールやカレンダーを接続する前に確認しておきたい論点を整理しました。

AI秘書Instinctに情報漏えい懸念|規約の永続ライセンスと3つの実例

AI秘書Instinctの広範な権限と利用規約に、懸念が出ています。

米国で招待制テストが進むAI秘書Instinctについて、初期利用者から情報の取り扱いをめぐる指摘が相次いでいます。メール、メッセージ、カレンダー、端末の画面や音声にまで接続して自律的に処理を進める設計で、その利便性が評価される一方、利用規約の広さと、切断後もデータが残っていたとする報告が話題になりました。事務所の情報環境に外部のAIエージェントを接続するかどうかを検討している士業にとって、確認すべき論点が凝縮された事例です。この記事は生成AIの活用支援を行う立場から、公表された事実と一次資料に基づいて整理したものです。

書類とノートパソコンが置かれた事務所のデスク

Instinctで何が起きているのか

Instinctは、まだ一般公開されていない招待制のAI秘書サービスです。TechCrunchが2026年8月24日に報じたところによると、開発したのはSierraの元リサーチサイエンティストであるNoah Shinnが率いる少人数チームで、運営主体は同社の利用規約およびカリフォルニア州の法人登記上、Spear Street Technologyとされています。

Instinctの動作は、利用者のアプリケーションと端末に接続するところから始まります。メール、メッセージアプリ、カレンダーに加えて、端末の音声、位置情報、画面まで参照範囲に含まれます。利用者はテキストメッセージやWhatsAppから指示を出し、予約の手配、空港までの配車、受信箱の整理、買い物の代行といった作業を任せる形です。初期利用者からは「魔法のようだ」という反応が出るほど、実行能力そのものは高く評価されていました。

論点になったのは規約の書きぶりです。TechCrunchによれば、規約は利用者の素材に対して「永続的かつ取消不能」なライセンスを与える内容で、アクセス、利用、ホスティング、キャッシュ、保存、複製、送信、表示、公開、配布、改変が対象に含まれ、AIモデルの学習利用も明記されています。さらに、画面キャプチャ、カーソルの動き、キーボード入力を端末から受け取れることや、利用者に代わって拘束力のある合意や取引を行えることも規約に書かれていると報じられました。

初期利用者が報告した3つの事象

事実として報告されている事象は、大きく3つに整理できます。

1つ目は削除の扱いです。プロダクト分野で知られるPeter Yangは、依頼してもGmailの記録が削除されなかったとX上で指摘しました。TechCrunchによれば、開発チームはその後、設定画面に外部データを削除する機能を追加して対応したとされています。

2つ目は接続解除後の挙動です。Claire Voは午前11時にGoogleとの接続を解除したにもかかわらず、午後2時に受信箱の要約が届いたと報告しました。理由を尋ねたところ、メールは後から検索できるよう平文で保存されていた、とボット自身が答えたとされています。

3つ目は外部からの誘導に対する耐性です。Hello Patient共同創業者のAlex Cohenは、新規に作成したGmailアカウントから自分の実アカウント宛てにInstinct向けの指示を書いたメールを送り、どの程度たやすく誘導できるかを試したうえで、アカウントを削除したと述べています。Moxxie Ventures創業者のKatie Jacobs Stantonも、確認を経ずに自分名義でメールが送信されたことを理由に、メール接続を切ったとしています。このほか、レストラン予約を完了させるためにInstinctが受信箱からサインアップ用コードを取り出した、という報告もありました。

士業事務所にとっての論点

同種の設計は、事務所の情報環境に置き換えたときに重い意味を持ちます。メールとカレンダーへの接続を許した時点で、参照範囲には依頼者の氏名、係争や申告の内容、期限管理の情報が含まれることになるためです。守秘義務を負う立場では、利便性の評価とは別に、接続前に確認しておく事項が実務上いくつか浮かびます。

第一に、入力データが学習に使われるかどうかです。本件では規約上、学習利用を含む広範なライセンスが定められていると報じられており、事務所利用を想定する場合は前提が大きく変わります。第二に、保存形式と削除手続きです。平文で保存されていたという報告や、削除機能が後から追加された経緯は、契約前に保存期間と削除請求の窓口を書面で確認しておく必要性を示しています。第三に、代理行為の統制です。同意なく送信が行われた事例があることから、送信や決済のような外部に影響が及ぶ操作については承認を挟む設定にしているか、ログが残るかを検証する事務所があります。

なお、Instinctは招待制の段階にあり、日本での提供の有無や事業者向けの契約形態については、現時点で公表資料からは確認できません。実際の導入判断は、各事務所が自らの依頼者との契約や情報管理体制に照らして行うことになります。ツールの認証と規約の確認手順はAIツールの安全性を確認する手順で、エージェント連携の審査観点はエージェントのプラグインを事務所で審査する視点で整理しています。権限設計の考え方はAIエージェントの権限設計も参考になります。

今後の動き

個人向けAI秘書への関心は、OpenClaw以降に急速に高まりました。OpenClawの開発者はOpenAIに合流し、メッセージ型アシスタントのPokeもCognitionに買収されています。個人利用から始まった流れが業務用途に染み出していくのは時間の問題で、事務所の端末に個人契約のAI秘書が入り込む場面は今後増えると考えられます。

TechCrunchによれば、Instinctのチームは指摘に対してX上で回答しておらず、同社への取材にも返答がない状況です。投資家についてはKleiner PerkinsとConvictionが出資し、ラウンドは既にクローズしたと複数の投資家がTechCrunchに伝えたと報じられています。今後の注目点は、規約の改定があるか、削除と保存に関する説明が整備されるか、そして業務利用向けの契約が別途用意されるかの3点です。

まとめ

Instinctをめぐる一連の指摘は、実行能力の高いAIエージェントほど、参照範囲と規約の確認が重くなることを示しています。学習利用の可否、保存形式と削除手続き、代理行為の承認フローという3点は、どのベンダーを検討する場合でも共通の確認項目になります。

参考文献

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引用元: TechCrunch

本記事の作成体制について

本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で、それぞれ確認したうえで記載しています。引用元は本文中および参考文献にすべて明示しています。

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