日本公認会計士協会は8月3日、犯収法調査への回答協力を会員に求めました。
日本公認会計士協会は2026年8月3日、公認会計士および監査法人を対象とした犯罪収益移転防止法(犯収法)とマネー・ローンダリング対策に関する調査への協力依頼をお知らせページで公表しました。監査法人向けの回答期限は2026年10月30日、個人会員向けは2027年4月30日とされています。回答時間の目安は5分と短いものの、対象期間は2025年7月から2026年6月までの業務全体におよびます。事務所の記録がどこまで整理されているかによって、5分で終わるか半日かかるかが分かれる調査です。この記事では公表内容を整理したうえで、顧客確認の記録づくりに生成AIを使うときの論点を、士業のチカラの視点で3つ挙げます。

犯収法調査で公表されたことの整理
公表内容の中心は、対象期間・回答期限・回答対象者の3点です。協会のお知らせによると、日本公認会計士協会は2025年7月から2026年6月までの業務を対象に調査を実施し、監査法人向け回答サイトの期限を2026年10月30日、個人会員向けの最終期限を2027年4月30日と案内しています。個人会員についても、監査法人と同じ2026年10月30日を目途とした回答が呼びかけられています。
回答対象は広めに設定されています。協会は、特定取引等を行ったか否かにかかわらず回答してほしいと案内しており、取引がなかったから対象外という整理にはならない建て付けです。一方で、回答する特定業務の範囲は限定されており、公認会計士として顧客のために行う代理または代行に係る業務が対象で、個人としての不動産取引や、税理士・行政書士など他の士業として行った業務は特定業務に当たらないと説明されています。複数資格を持つ実務家ほど、どの業務を数えるかで迷いやすい箇所です。
背景として協会が挙げているのが、金融活動作業部会(FATF)による第四次対日相互審査報告書です。2021年8月の公表以降、日本はマネロン・テロ資金供与対策で「重点フォローアップ国」と評価されており、公認会計士を含む士業について「自らが晒されているマネロン・テロ資金供与リスクについての理解が低いなどの指摘を受けており、改善が求められている状況にあります」と協会は記しています。今回の調査は、この指摘に対する遵守状況の把握という位置づけです。あわせて、金融庁が2026年7月17日付で公表した公認会計士及び監査法人におけるマネー・ローンダリング、テロ資金供与及び拡散金融対策に関するガイドラインにより、調査回答への協力が求められていると案内されています。
なお、回答がない場合や回答内容の確認が必要と認められる場合には、協会から追加の確認が行われ、その結果を踏まえて金融庁との情報共有その他の対応が行われる場合があるとも書かれています。単なるアンケートとは重みが違う点は押さえておきたいところです。
士業事務所にとっての論点はどこか
論点は、調査そのものよりも、その前提になる記録が事務所に残っているかどうかにあります。犯収法は特定事業者に対する取引時確認等を定めており、e-Gov法令検索で確認できる第4条は、本人特定事項、取引を行う目的、顧客等が自然人であれば職業、法人であれば事業の内容などの確認を規定しています。調査で問われるのは、この確認と記録が日々の業務の中で回っていたかという実態です。
ここで生成AIをどう位置づけるかが、2026年の事務所にとって新しい論点になります。顧客の本人確認書類や取引の経緯を要約させれば作業は速くなりますが、投入する情報は顧客の氏名・住居・生年月日といった本人特定事項そのものです。外部のクラウドサービスに入力する行為が守秘義務や個人情報の取扱いとどう関係するかは、事務所ごとの契約形態と利用しているプランによって前提が変わります。少なくとも、入力データが学習に使われるかどうかはベンダーの公表ポリシーで確認しておきたい部分で、確認できない場合は公表資料からは確認できないものとして扱い、運用を保守側に倒す整理が現実的です。守秘義務まわりの基本的な考え方は、士業と生成AIの守秘義務の記事でも取り上げています。
もうひとつは本人確認そのもののデジタル化です。マイナンバーカードの公的個人認証を使った本人確認は導入事業者が増えており、この動きはJPKI導入事業者の一覧でも触れました。書類の目視確認を前提にした運用と、電子的な検証を前提にした運用では、残る記録の質が変わります。今回の調査は2025年7月からの業務が対象なので、途中で運用を切り替えた事務所は期間内に二つの方式が混在している可能性があります。
回答前にできる初動と今後の見通し
初動として整理しやすいのは、次の4点です。第一に、2025年7月から2026年6月までの業務を洗い出し、公認会計士としての代理・代行に係る業務がどれだったかを切り分けておくこと。第二に、監査法人については回答用のIDとパスワードが2026年8月4日に各法人の代表住所宛に郵送されたと協会が案内しているため、事務局で受領を確認しておくこと。第三に、協会が用意した2026年度犯収法調査回答上の留意点という解説動画を、回答担当者だけでなく実務担当者にも共有しておくこと。第四に、監査法人所属で法人内の遵守状況確認が行われている常勤者は個人回答が不要とされているため、法人と個人で二重に動かないよう役割を決めておくことです。
生成AIの使いどころとしては、回答そのものではなく前段の棚卸しに限定する運用を採る事務所があります。契約書や業務記録から日付と業務種別だけを抽出させ、判断は人が行うという分け方です。顧客名や本人特定事項を伏せた形で処理すれば、投入する情報量を抑えたまま作業時間を短縮できます。逆に、回答内容の判断そのものをAIに委ねる使い方は、追加確認や金融庁との情報共有があり得る調査の性質を考えると、慎重に見ておきたいところです。
今後の見通しとしては、FATFの評価が重点フォローアップと位置づけられている以上、士業に対するリスク理解の確認は一過性で終わらないと考えられます。金融庁のガイドラインが2026年7月に公表されたばかりであることも踏まえると、来年度以降も同種の調査が継続する前提で、記録の作り方そのものを設計し直す事務所が増えていく段階です。
まとめ
日本公認会計士協会は2026年8月3日、犯収法とマネロン対策に関する調査への協力を会員に依頼しました。監査法人は2026年10月30日、個人会員は2027年4月30日が回答期限です。対象は2025年7月からの1年間の業務で、取引の有無を問わず回答が求められています。回答自体は5分でも、その前提となる顧客確認の記録が整っているかが実質的な論点になります。
参考文献
- 日本公認会計士協会 犯罪収益移転防止法及びマネー・ローンダリング・テロ資金供与対策に関する調査へのご協力のお願い
- 金融庁 公認会計士及び監査法人におけるマネー・ローンダリング、テロ資金供与及び拡散金融対策に関するガイドライン
- e-Gov法令検索 犯罪による収益の移転防止に関する法律
※士業のチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴事務所の業務に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
https://shigyonochikara.jp/contact/
引用元: 日本公認会計士協会
本記事の作成体制について
本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で、それぞれ確認したうえで記載しています。引用元は本文中および参考文献にすべて明示しています。
本記事には特定の資格者による監修は入っていません。個別の事案について法令の当てはめや手続の可否を判断する必要がある場合は、当該分野の有資格者にご相談ください。本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別具体的な法律判断・税務判断・労務判断を提供するものではありません。
記載内容に誤りを見つけられた場合は、お問い合わせよりご指摘ください。確認のうえ速やかに訂正し、訂正履歴を記事内に残します。編集方針の詳細は運営者情報をご覧ください。