行政書士法改正2026とは、業務制限の趣旨を明確化した法改正のことです。
行政書士法の一部を改正する法律(令和7年法律第65号)が2025年6月13日に公布され、2026年1月1日から施行されました(出典: 日本行政書士会連合会 会長談話)。この記事では、業務制限規定の明確化と両罰規定の整備が補助金申請支援の現場に何をもたらしたのかを整理したうえで、生成AIを申請書類の作成工程にどう噛ませるか、どこから先を有資格者が持つのかという線引きを、条文と公表資料に沿って具体化します。本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁および職能団体の公表資料で確認しています。
2026年1月施行の改正で、補助金申請まわりの何が動いたのか
今回の改正で条文が動いたところは三つあります。いずれもe-Gov法令検索の行政書士法で原文を確認できます。
一つ目は、行政書士法第19条第1項の業務制限規定です。改正後の条文は、行政書士または行政書士法人でない者は、他人の依頼を受けいかなる名目によるかを問わず報酬を得て、業として第1条の3に規定する業務を行うことができない、という書き方になりました。改正前の条文になかった、いかなる名目によるかを問わず、という文言が加わったところが要点です。第1条の3が定める業務は、他人の依頼を受け報酬を得て、官公署に提出する書類、その他権利義務または事実証明に関する書類を作成することを業とする、というものですから、補助金の申請書一式はこの射程に入りうる書類群として扱われることになります。
二つ目は、行政書士法第23条の3の両罰規定です。改正後の条文には、第21条の2の違反行為が列挙されました。第21条の2は第19条第1項違反に対する罰則で、一年以下の拘禁刑または百万円以下の罰金と定められています。両罰規定に取り込まれたことで、行為者個人だけでなく、その者が所属する法人に対しても罰金刑が科されうる建て付けになりました。コンサルティング会社が組織として補助金申請の代行を請け負う形態は、法人自身が名宛人になりうるという点で、改正前とは景色が変わっています。
三つ目は、行政書士法第1条の使命規定の新設です。行政書士は、その業務を通じて、行政に関する手続の円滑な実施に寄与するとともに国民の利便に資し、もって国民の権利利益の実現に資することを使命とする、と置かれました。実務上の直接の効果は見えにくいものの、次に述べる日行連の姿勢と合わせて読むと、業界としての位置づけを明確にする意図がうかがえます。
日本行政書士会連合会が2025年11月1日付で公表した会長談話は、この改正の背景として、コロナ禍に給付金等の代理申請で多額の報酬を受け取っていた事例が散見されたことを挙げています。そのうえで、名目のいかんを問わず「対価を受領し、業として官公署に提出する書類その他権利義務又は事実証明に関する書類、実地調査に基づく図面類を作成すること」が第19条第1項の射程であることが明確化されたと説明しています。同談話は、これらが現行法においても変わりはなく、改正法の施行日前であってもこうした行為があれば同条の問題になるとも述べています。つまり、新しい規制が生まれたというより、従来から存在した規制の輪郭がはっきりしたと読むのが素直です。
ここが実務上いちばん誤解されやすいところです。2026年1月1日を境に急に何かが禁止された、という理解で走ると、それ以前の受任分は心配がないという誤った安心につながります。会長談話の趣旨は、改正はあくまで明確化であって、施行日は分水嶺ではない、という点にあります。
補助金申請の書類づくりに生成AIを噛ませる六つの工程
独占業務の輪郭がはっきりしたことは、行政書士事務所にとっては受任機会の拡大を意味します。一方で、公募期間は短く、要領は年度ごとに変わり、加点項目は毎回動きます。ここに生成AIを入れる余地があります。以下は、作成名義と最終判断を有資格者が持つことを前提に、下ごしらえの部分をAIに任せる工程設計です。
第一に、公募要領の構造化です。数十ページのPDFを読み込ませ、申請要件、対象経費、加点項目、提出書類、締切、実績報告の義務を項目ごとに抜き出させます。ここでAIに求めるのは要約ではなく、原文の該当箇所を引用したうえでの一覧化です。要約させると、読み落としてはいけない除外要件が消えます。抽出結果は原本のページ番号と一件ずつ突き合わせ、事務所側で一次チェックを入れます。
第二に、ヒアリングシートの生成です。抽出した要件から逆算して、顧問先に何を聞けば申請可能性が判定できるかをAIに設計させます。行政書士側の初回面談の質を上げる工程で、顧問先の固有情報をまだ入力しないため、情報管理上の負荷がもっとも軽い使い方です。
第三に、事業計画の骨子づくりです。ヒアリング結果をもとに、公募要領の審査項目に一対一で対応する見出し構成を作らせます。審査員は要領の項目順に読むので、構成が要領と噛み合っているかどうかで通過率が変わります。ここは文章を書かせる前に構成だけを詰める工程として独立させたほうが、後戻りが減ります。
第四に、加点項目と添付書類のチェックリスト化です。経営革新計画の承認、賃上げ表明、事業継続力強化計画といった加点要素と、それぞれに必要な証憑を一覧にします。抜けが致命傷になる領域なので、AIの出力をそのまま使わず、要領原文との照合を人が行います。
第五に、文章の推敲です。専門用語の統一、一文の長さ、主語の欠落、数値と証憑の整合をAIに点検させます。書くこと自体よりも、書いたものを別の目で読ませる用途のほうが、生成AIの精度は安定します。
第六に、有資格者による最終確認です。作成名義は行政書士が持ち、内容の妥当性、事実関係、顧問先の実態との整合を確認します。AIの出力に存在しない制度名や誤った金額上限が混じることは珍しくないため、金額と制度名は一次情報に当たり直す工程を固定します。この工程を省いた運用は、書類の品質以前に、事務所の責任の所在を曖昧にします。
次のプロンプトは、第一の工程で使うものです。公募要領の本文を貼り付けて使います。
あなたは補助金申請の実務を支援するアシスタントです。
以下の公募要領の本文から、次の6区分で情報を抽出し、区分ごとに箇条書きにしてください。
1. 申請要件(対象者・対象事業・除外要件)
2. 対象経費と対象外経費
3. 加点項目と、それぞれに必要な証憑
4. 提出書類の一覧
5. スケジュール(公募締切・交付決定・事業実施期間・実績報告)
6. 実績報告および財産処分に関する義務
制約:
- 各項目には、原文の該当箇所を必ずそのまま1文引用してください
- 原文に書かれていない事項は「記載なし」と書き、推測で補わないでください
- 金額・期限・比率は原文の表記のまま転記し、単位を変換しないでください
【公募要領本文】
(ここに貼り付け)
次のプロンプトは、第五の推敲工程で使います。顧問先が特定できる固有名詞は伏せ、甲社のような仮名に置き換えたうえで入力する前提です。
あなたは事業計画書のレビュー担当です。
以下の草案を、審査員の視点で点検してください。書き直しはせず、指摘だけを返してください。
観点:
1. 公募要領の審査項目と、見出しが対応しているか(対応表で示す)
2. 数値の根拠が本文中に示されているか。示されていない数値を全て列挙する
3. 一文が80字を超えている箇所を列挙する
4. 主語が欠落して読み手が誤読しうる箇所を列挙する
5. 事実の記述と、見込み・計画の記述が混在している箇所を列挙する
制約:
- 断定的な評価(優れている・不十分である)ではなく、根拠を添えた指摘の形にしてください
- 法令の適否についての判断は書かないでください
【草案】
(ここに貼り付け)
工程を六つに割る意味は、AIに任せる範囲を工程単位で線引きできるところにあります。第一と第二は顧問先の固有情報をほとんど含まないため入力のハードルが低く、第三以降は顧問先情報が入るため、後述する規程上の手当てが必要になります。この濃淡を設計せずに一気通貫でAIに投げると、事務所として説明できない運用になります。
顧問先の資料をAIに入れる前に決めておく三つのこと
補助金申請の支援は、決算書、賃金台帳、設備見積、事業の内実といった、顧問先にとって外に出したくない情報の塊を扱います。行政書士法第12条は、行政書士は正当な理由がなく、その業務上取り扱った事項について知り得た秘密を漏らしてはならないと定め、行政書士でなくなった後も同様とすると続きます。同法第19条の3は、使用人その他の従業者にも同様の義務を置いています。第22条は、第12条または第19条の3の違反について、一年以下の拘禁刑または百万円以下の罰金と定めており、これらはいずれもe-Gov法令検索の行政書士法で原文を確認できます。事務所の補助者やパート職員が入力する運用を組むなら、この点は避けて通れません。
一つ目に決めるのは、どのプランのどのモデルを使うかです。生成AIサービスは、無償の個人向けプランと法人向けプランとで、入力内容を学習に使うかどうかの既定値が異なることがあります。事務所として使う以上、契約上どう扱われるかをベンダーの公式ドキュメントで確認し、その版数と確認日を記録に残すところまでを一組にします。ベンダー側の方針は改定されるため、確認した日付が残っていない記録は、後から検証できません。個人情報保護委員会も生成AIサービスの利用に関する注意喚起を公表しており、入力した情報がどう扱われるかを利用者側が把握しておくという発想は、事務所の記録づくりと同じ方向を向いています。
二つ目に決めるのは、顧問先への説明と同意の取り方です。委任契約書または業務委託契約書に、業務遂行の補助として生成AIを利用する旨、入力する情報の範囲、学習利用の有無、再委託の有無を書き込む方法が実務的です。個別案件ごとに口頭で確認する運用は、担当者が替わった瞬間に途切れます。顧問先から利用を望まない旨の申し出があった場合の代替手順、たとえば固有名詞と数値を伏せて入力する、あるいはローカル環境の処理に切り替えるといった選択肢も、あらかじめ用意しておくと現場が止まりません。この論点は顧問先へのAI利用の説明と告知の実務でも扱っています。
三つ目に決めるのは、事務所内の利用範囲と記録です。誰がどのツールを使ってよいか、どの工程まで入力してよいか、ログをどこに残すかを規程に落とします。個人アカウントでの野良利用が広がると、何が入力されたのかを事後に追えなくなり、顧問先に説明できません。実際、事務所での私物アカウント利用は各所で問題になっており、事務所のシャドーAI対策で整理したとおり、禁止だけを掲げても解決しません。使ってよい道具を明示し、そこに人を集める設計のほうが現実的です。
規程に書く粒度としては、ツール名と契約プラン、入力してよい情報の類型、入力してはならない情報の類型、工程ごとの承認者、記録の保存場所と保存期間、顧問先への説明方法、違反時の報告経路、という七項目が最小構成になります。この構成は行政書士事務所に限らず、AI事業者ガイドラインを事務所規程に落とし込む考え方と共通します。
独占業務の明確化とAI活用が交差する失敗パターン
一つ目は、AIが出力した制度名や金額上限をそのまま申請書に載せてしまう失敗です。補助金は年度ごとに要領が変わるため、学習時点の古い情報がもっともらしい形で出力されます。実在しない加点項目が混じっていても、文章として整っていると気づきにくい。対策は単純で、金額、比率、期限、制度名の四つは、当該年度の公募要領の原文と一件ずつ突き合わせる工程を、承認フローの中に固定することです。
二つ目は、外部の支援会社との連携形態が曖昧なまま進む失敗です。マーケティングやツール提供を担う会社と組んで補助金支援を行う場合、書類作成の対価が誰にどう帰属しているかが、改正後の第19条第1項および第23条の3のもとでは前より鋭く問われることになります。紹介手数料という整理なのか、書類作成の対価が含まれているのかは、契約書の文言と実際の金銭の流れの両方で見られます。連携そのものが妨げられるわけではありませんが、対価の性質を契約書と請求書で説明できる状態にしておくことが実務上の論点になります。
三つ目は、AIツールを事務所に入れたものの、誰も使わないまま契約だけが続く失敗です。原因はたいてい、工程を割らずに丸ごと任せようとしたことにあります。前述の六工程のうち、まず第一の公募要領の構造化だけを回すと決めれば、成果が一週間で見えます。範囲を絞ることが定着の近道です。
四つ目は、補助者が良かれと思って顧問先の決算書をそのまま個人アカウントに貼り付ける失敗です。これは技術の問題ではなく、規程と教育の問題です。入力してよい情報の類型を紙一枚に落として席に貼るくらいの具体性がないと、現場では守られません。
AI導入の費用と工数、誰が運用を持つか
費用の目安は、法人向けの生成AIサービスが利用者一人あたり月額数千円の帯にあります。五人規模の事務所であれば、月額の総額は数万円の範囲に収まる計算です。これに対して削減されるのは、公募要領の読み込みとチェックリスト化にかけている時間で、案件一件あたり数時間規模の作業が中心になります。件数が月に数件ある事務所であれば、投資判断としては見合いやすい水準といえます。
初期構築の工数は、規程の整備に一日から二日、プロンプトの型づくりに半日程度、補助者への説明に半日程度を見ておくと現実的です。難所は技術ではなく、入力してよい情報の線引きを事務所として決め切るところにあります。ここは所長ないし社員行政書士が判断するほかなく、外注できません。
運用の持ち主は、事務所の中の一人に固定します。ツールの契約管理、プロンプトの改訂、顧問先向け説明文の更新、ログの保管を一人に寄せたほうが、記録が揃います。複数人で分担すると、誰も全体を見ていない状態になりがちです。一人事務所の場合は、一人事務所でのAI活用の進め方で整理した順序が参考になります。
独占業務の明確化がAI時代の行政書士に問うもの
生成AIの普及によって、申請書類らしい文章を出力すること自体の希少性は下がりました。だからこそ、今回の改正が業務制限の輪郭を明確にした意味は小さくありません。書類を作れることと、報酬を得て業として作成できることは別だという構造が、条文の文言として見えやすくなったからです。
この先に残る論点は二つあります。一つは、AIが下書きした書類を有資格者が確認して名義を持つ運用が、どこまで実質を伴っているといえるのかという問いです。確認が形式的な承認に堕すれば、名義だけが残ります。もう一つは、事業者側がAIで自作した申請書を行政書士が点検するという、レビュー型の需要にどう応えるかという問いです。作成の受任とは性質が異なるため、報酬の建て付けと責任範囲を事務所ごとに設計する必要が出てきます。
いずれも、条文が答えを与えてくれる種類の問いではありません。事務所として、どこまでを自分の判断として引き受けるかを決めることが、AI時代の差になっていきます。
よくある質問
2026年1月1日より前に受任した補助金申請の支援は、改正の影響を受けますか
日本行政書士会連合会の会長談話は、今回の改正が明確化であり、改正前の法においても取扱いは変わらないという趣旨を述べています(出典: 日本行政書士会連合会 会長談話)。したがって、施行日を境に取扱いが切り替わるという理解ではなく、施行日前の行為についても同じ枠組みで見られることが論点になります。個別の案件についての判断は、事案の内容を踏まえて所属の行政書士会や弁護士に相談する領域です。
コンサルティング料という名目で受け取っていれば問題は生じませんか
行政書士法第19条第1項は、いかなる名目によるかを問わず報酬を得て、という文言を含む条文になっています(e-Gov法令検索)。名目の付け替えによって射程の外に出るという整理が成り立つかどうかが、まさに今回明確化された論点です。
生成AIに公募要領を読み込ませること自体に制約はありますか
公募要領は公開資料であり、顧問先の固有情報を含みません。したがって、入力そのものについての情報管理上の負荷は相対的に軽いといえます。ただし、要領のPDFに実施団体の著作物が含まれる場合の取扱いや、出力を第三者に配布する場合の扱いは別途の検討事項になります。
AIが作成した書類の作成名義はどうなりますか
作成名義は、書類を作成した行政書士が持ちます。AIは下書きを生成する道具であり、内容の妥当性と事実関係を確認して名義を負うのは有資格者です。この構図を手順の中に明示的な工程として置くことが、実務上の要になります。
補助者に生成AIを使わせても差し支えありませんか
行政書士法第19条の3は、使用人その他の従業者に対しても秘密を守る義務を課しています(e-Gov法令検索)。補助者の利用を認めるかどうかは事務所の判断ですが、認める場合は、入力してよい情報の範囲と承認者を規程で定め、記録を残す運用が前提になります。
中小企業診断士や税理士と連携して補助金支援を行う形はどうなりますか
連携そのものが妨げられるわけではありません。論点は、書類作成の対価が誰にどう帰属しているかを、契約書と請求書で説明できるかどうかに集約されます。役割分担と報酬の建て付けを文書で明確にしておくことが実務的な備えになります。
事務所として最初に着手すべき順序はどれですか
規程の骨子づくりが先です。使ってよいツールと、入力してよい情報の類型を決めてから、工程にAIを入れます。順序を逆にすると、動き出した運用を後から縛り直すことになり、現場の反発を招きます。
参考文献
- e-Gov法令検索 行政書士法(昭和26年法律第4号)
- 日本行政書士会連合会 会長談話 行政書士法第19条第1項及び第23条の3の改正の趣旨等について
- 総務省 行政書士制度
- 個人情報保護委員会 生成AIサービスの利用に関する注意喚起
※士業のチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴事務所の業務に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
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本記事の作成体制について
本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で、それぞれ確認したうえで記載しています。引用元は本文中および参考文献にすべて明示しています。
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