登記申請書の作成にAIを使う 形式を崩さないための3つの制約

登記申請書の作成にAIを使う際の3つの制約を解説。様式の渡し方、表記を変更させない指示、要件判断をさせない設計と確認工程の作り方を整理します。

登記申請書の作成にAIを使う 形式を崩さないための3つの制約

登記申請書の作成支援とは、既存の様式に沿って記載内容を埋める作業のことです。

登記申請書は、様式と記載事項が定められた書面です。それらしく整った文章が作れることと、要件を満たした申請書が作れることは別の話になります。この記事では、申請書の作成にAIを当てる場合の制約と、事務所として設ける確認の工程を整理します。本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で確認しています。生成AIサービスの利用については個人情報保護委員会の注意喚起が判断の出発点になります。

申請書の作成が難しい理由

生成AIとの相性を考えるうえで、申請書という書面の性質を押さえておきます。

第1に、記載事項が法令で定められています。商業登記法第17条は登記申請の方式について定めており、申請書に記載する事項が規定されています。書式の自由度が低く、要件を外した書面は使えません。

第2に、表記の一致が求められます。氏名の旧字、法人の商号、地番の表記。登記事項と一致していなければなりません。生成AIは表記を自然な形に直す傾向があるため、この性質が直接の障害になります。

第3に、添付書類との整合が要ります。申請書に書いた内容と、添付する書面の記載が一致していなければなりません。申請書だけを単体で作っても、整合の確認は別に要ります。

第4に、取扱いが変わることがあります。登記の実務は、法令の条文だけでなく通達や先例で示される取扱いに従う部分が多く、生成AIがこれらを正確に反映しているとは限りません。古い取扱いのまま出力される可能性があります。

これらを踏まえると、申請書の作成でAIに任せられる範囲は限られます。ゼロから作らせるのではなく、既存の様式に沿って記載内容を埋める補助として使う。この位置づけが現実的です。事務所全体での使いどころは司法書士のAI活用で扱っています。

制約1 様式は事務所のものを渡す

第1の制約です。生成AIに様式を作らせないことが出発点になります。

事務所には、過去に使った申請書の様式が蓄積されています。これを見本として渡し、その形式に沿って今回の内容を埋めさせる。この形であれば、形式が崩れる可能性が下がります。

渡す様式は、直近に受理された実績のあるものを選びます。古い様式を渡すと、その形式のまま出力されます。様式の管理そのものが、この使い方の前提になります。

事務所の様式が整理されていない場合、まずその整理から始めます。手続の種類ごとに、直近の様式を1つずつそろえる。この作業は道具を入れなくても進められ、担当者の引き継ぎにも効きます。

様式を整理するときは、依頼者の情報を落とした状態のものを作ります。過去の申請書をそのまま見本にすると、そこに含まれる氏名や地番ごと外部のサービスに渡すことになります。項目名と体裁だけを残し、内容を記号に置き換えた版を作っておけば、この問題が解消します。一度作れば繰り返し使えるため、初期の手間に見合います。

様式の版管理も決めておきます。いつ時点のものか、どの手続に使うものか、直近で受理された実績があるか。この3点が分かる形で管理しておくと、古い様式が混ざる事故を防げます。事務所の共有フォルダに手続ごとのフォルダを作り、その中に最新版だけを置く運用が単純で続きます。

制約2 表記を変更させない

第2の制約です。指示文で明示的に禁じます。

生成AIは、旧字を新字に直す、表記のゆれをそろえる、住所を一般的な形式に整える、といった処理を自然に行います。日常的な文書では親切な機能ですが、登記の書面では誤りになります。

指示文には、氏名、商号、地番、日付、金額を変更しない条件を入れます。あわせて、元の資料に記載がない事項を補わない条件も入れます。

あなたは事務所の書面作成を手伝う役です。
以下の「様式」の形式に沿って、「今回の情報」を当てはめた下書きを作成してください。

条件:
- 様式の項目名・順序・体裁をそのまま維持すること
- 氏名・商号・地番・日付・金額は、今回の情報に記載された表記をそのまま使い、
  新字への変換や表記の統一を行わないこと
- 今回の情報に記載がない項目は「(未記載)」と残し、推測で補わないこと
- 手続の可否や要件についての判断を書かないこと
- 様式にない項目を追加しないこと

様式:
"""
(事務所の既存様式を貼り付け)
"""

今回の情報:
"""
(匿名化した箇条書きを貼り付け)
"""

未記載と残された箇所が、追加で確認する対象になります。この形にしておくと、埋めるべき箇所が可視化されます。

制約3 要件の判断はさせない

第3の制約です。添付書類の要否、記載事項の充足、手続の可否。これらは判断であり、AIには任せません。

理由は、誤りが検出しにくいためです。それらしい説明が返ってくるため、正しいかどうかを確かめる作業が、自分で調べる作業とほぼ同じ手間になります。時間の節約になりません。

要件は法務省の登記に関する情報や法務局の案内で確認します。事務所でよく扱う手続については、要件の一覧を作っておくと確認が速くなります。この一覧を作る作業自体が、要件を原典で確認する作業になります。

判断させない代わりに、確認すべき項目を列挙させる使い方はできます。

あなたは書類の点検役です。以下の申請書の下書きについて、次の観点で確認が要る箇所を
列挙してください。指摘のみを出力し、修正案や可否の判断は書かないでください。

観点:
- 「(未記載)」のまま残っている項目
- 添付書類の一覧に挙げられているが、申請書の本文で言及されていない書類
- 申請書の本文で言及されているが、添付書類の一覧にない書類
- 同じ人物や法人について、表記が複数出てくる箇所
- 日付の前後関係が矛盾している箇所

出力形式:
- 観点 / 該当箇所の引用(20字以内) を1行ずつ
- 該当がない観点は出力しないこと

申請書の下書き:
"""
(ここに貼り付け)
"""

添付書類の一覧:
"""
(ここに貼り付け)
"""

拾われた箇所は候補であり、実際に問題かどうかは司法書士が判断します。この分担を守れば、確認の作業が軽くなります。

守秘義務と規程 申請に関する情報の扱い

申請書に載る情報は、依頼者の権利関係そのものです。設計を整理します。

司法書士の守秘義務は司法書士法第24条に置かれています。正当な事由がある場合でなければ、業務上取り扱った事件について知ることのできた秘密を他に漏らしてはならないと定められています。

入力する情報の区分を決めます。事務所の様式そのものは、依頼者の情報を含まないため、そのまま入力してよい区分に置けます。今回の情報として渡す部分は、識別できる情報を落としてから入力する区分になります。

ただし、申請書の作成では表記の一致が求められるため、氏名や地番を置き換えると作業になりません。この矛盾をどう扱うかが、実務上の判断になります。選択肢は2つです。第1に、置き換えたうえで下書きを作り、最終的な表記を人が入れる。第2に、外部のサービスに渡さず、事務所内で完結する形を選ぶ。

第1の方法を採る場合、置き換え表を案件ごとに手元に残し、最後に戻す作業が発生します。この手間と、作業が軽くなる効果を比べて判断します。手続の種類によっては、手間のほうが上回ることもあります。

判断の目安としては、記載する当事者の数と、様式の複雑さで考えます。当事者が少なく様式が単純な手続では、置き換えの手間に対して得られる効果が小さくなります。逆に、当事者が多く記載事項が多い手続では、下書きができることの効果が大きくなります。事務所で扱う手続を並べて、どちらに寄るかを整理しておくと、案件ごとに迷わずに済みます。

第2の方法、つまり外部に出さない形を選ぶ場合、事務所内で完結する仕組みが要ります。この設計は費用と手間がかかるため、扱う件数が多い事務所でなければ見合いません。当面は、外部に出さないと決めた手続については従来どおりの作業とし、出せる手続だけAIを使う、という切り分けが現実的です。

個人情報の側では、安全管理措置が個人情報の保護に関する法律の個人情報保護法第23条に置かれています。申請書には氏名と住所が含まれるため、個人情報の観点も重なります。

記録も残します。どの案件でAIを使ったかを既存の案件管理に一項目足す形で足ります。依頼者への説明としては、何に使っているか、何を入力しないか、誰が確認するかの3点を答えられる状態にします。日本司法書士会連合会の公表情報は、所属する団体の考え方を確認する材料になります。規程への落とし方は士業事務所のAI利用規程テンプレートで扱っています。

確認工程の設計

自動化した部分が増えるほど、確認の設計が重要になります。

見る観点は4つです。氏名と商号の表記が登記事項や添付書類と一致しているか。地番と家屋番号の表記が一致しているか。日付の前後関係が矛盾していないか。未記載のまま残っている項目がないか。

この4点に絞る理由は、量が増えても運用が保つためです。全文を読み直す設計にすると、件数が増えたときに確認が形だけになります。

確認する人は、その申請に責任を負う司法書士です。下書きを作る担当と確認する担当が分かれている場合、下書きを作った側が、どこで迷ったか、どこを推測で埋めたかを一行添えます。この一行の有無で、確認する側の負荷が変わります。

確認の記録も残します。誰がいつ確定させたかを案件記録に一行足すだけで足ります。

確認の負荷を下げる工夫として、照合の作業を機械的にする方法もあります。登記事項証明書の記載と、作成した申請書の記載を並べて突き合わせる。この作業は目視でも可能ですが、件数が多い場合や項目が多い場合には、機械に拾わせたほうが見落としが減ります。ただし、機械が拾えるのは表記の差までであり、その差が問題かどうかの判断は人が行います。

もう一点、確認する順番も決めておきます。表記の照合を先に行い、そのうえで内容の妥当性を見る。順番を決めておかないと、内容を読みながら表記も見るという形になり、どちらも中途半端になります。作業の性質が違うものは、分けて行うほうが精度が上がります。

導入でつまずくパターン

1つ目は、ゼロから申請書を作らせた例です。形式が崩れ、要件を外した書面が出てきます。既存の様式を見本として渡します。

2つ目は、表記の変更を禁じなかった例です。旧字が新字に直り、地番の表記が一般的な形式に整えられます。指示文で明示的に禁じます。

3つ目は、添付書類の要否をAIに尋ねた例です。取扱いが変わっている可能性があり、古い内容が出力されることがあります。原典で確認します。

4つ目は、匿名化と作業の両立を検討せずに始めた例です。表記の一致が求められる作業で識別情報を置き換えると、作業そのものが成立しません。手続の種類ごとに、外部に出すかどうかを先に判断します。

5つ目は、確認の観点を絞らなかった例です。全文を読み直す設計は、件数が増えると形骸化します。

6つ目は、期限が迫った案件で新しいやり方を試した例です。出力の手直しに時間を取られ、かえって余裕がなくなります。試す案件は期限に余裕のあるものを選びます。

7つ目は、様式の版管理をせずに始めた例です。古い様式が混ざったまま使われると、そこから作られる下書きも古い形式になります。どの様式が最新かが分かる状態を先に作ります。

8つ目は、下書きができたことで安心してしまう例です。体裁が整っているぶん、要件の確認が省かれやすくなります。下書きは作業の途中であって、完成ではありません。この認識を所内で共有しておきます。

費用と体制、導入の順番

費用は、法人向けプランのライセンス料の範囲に収まります。登記の申請システムを使っている事務所では、そちらの機能で足りる部分もあるため、まず既存の環境を確認します。金額は事業者と契約形態で変わるため、各社の料金ページで確認します。

工数は、様式の整理に集中します。参考値として、よく扱う手続の様式をそろえるのに数日、指示文の型を整えるのに半日ほど見ておくと、無理なく形になります。様式の整理は道具を入れなくても価値がある作業です。

体制では、様式を管理する人を決めます。古い様式が混ざったまま使われると、そこから作られる下書きも古い形式になります。管理といっても、受理された申請書を見て様式を差し替えるだけの作業です。担当を決めておかないと、誰もやらないまま古い版が残ります。

導入の順番としては、まず1つの手続で試します。事務所でいちばん件数が多い手続を選ぶと、効果が読みやすくなります。そこで型が固まってから、他の手続に広げます。導入全体の進め方は士業事務所のAI導入の進め方にまとめています。

これから変わること

登記手続の電子化が進むほど、申請書の作成という作業そのものの形が変わります。システムの入力画面に沿って項目を埋める形になれば、書面としての様式を扱う場面は減ります。行政手続のオンライン化の動きはデジタル庁の重点計画で確認できます。

一方で、依頼者から受け取る資料の確認と、記載内容の整合の確認は残ります。この部分は、形式が電子化されても人の判断が要る領域です。

制度面では、個人情報保護法の見直しの議論が続いています。委員会の公表資料は個人情報保護委員会の報道発表で追えます。登記に関する取扱いについては、法務省の民事関連の公表情報を追う体制が要ります。

申請書の作成にAIを使う場面は、当面のところ限定的です。効果が大きいのは、その前後にある資料の確認と依頼者への説明の部分になります。この見立ては、道具の性能というより、書面に求められる正確さの水準から来ています。性能が上がっても、表記の一致と要件の充足を人が確認する構造は変わりません。

事務所として現実的な判断は、申請書そのものより周辺に投資することです。必要書類の洗い出し、受領資料の確認、依頼者への案内。ここで浮いた時間を、申請書の確認に回す。全体として見れば、この配分のほうが手続の質を落とさずに作業を軽くできます。

よくある質問

申請書をゼロから作らせてよいですか

形式が崩れ、要件を外した書面が出てきます。事務所の既存の様式を見本として渡し、その形式に沿って記載内容を埋めさせる形にします。様式そのものを作らせる使い方は向きません。

氏名の旧字はどう扱いますか

指示文で表記の変更を明示的に禁じます。生成AIは旧字を新字に直す傾向があり、日常の文書では親切な機能ですが、登記の書面では誤りになります。禁じたうえで、人が登記事項と照合します。

添付書類の要否を尋ねてよいですか

尋ねる使い方は誤りが混ざりやすくなります。取扱いが変わっている可能性があり、古い内容が出力されることがあります。要件は法務省や法務局の案内で確認します。

匿名化すると作業にならないのですが

表記の一致が求められる作業では、この矛盾が生じます。選択肢は、置き換えたうえで下書きを作り最終的な表記を人が入れる方法と、外部のサービスに渡さず事務所内で完結する形を選ぶ方法です。手続の種類ごとに判断します。

確認は何を見ますか

氏名と商号の表記、地番と家屋番号の表記、日付の前後関係、未記載のまま残っている項目の4点です。全文を読み直す設計にすると、件数が増えたときに確認が形だけになります。

どの手続から試しますか

事務所でいちばん件数が多い手続を選ぶと、効果が読みやすくなります。あわせて、期限に余裕のある案件で試します。期限が迫った案件で新しいやり方を試すと、かえって余裕がなくなります。

参考文献

※士業のチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴事務所の業務に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
https://shigyonochikara.jp/contact/

本記事の作成体制について

本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で、それぞれ確認したうえで記載しています。引用元は本文中および参考文献にすべて明示しています。

本記事には特定の資格者による監修は入っていません。個別の事案について法令の当てはめや手続の可否を判断する必要がある場合は、当該分野の有資格者にご相談ください。本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別具体的な法律判断・税務判断・労務判断を提供するものではありません。

記載内容に誤りを見つけられた場合は、お問い合わせよりご指摘ください。確認のうえ速やかに訂正し、訂正履歴を記事内に残します。編集方針の詳細は運営者情報をご覧ください。