LIBRAとは、東京弁護士会が会員向けに発行する会報誌のことです。
単位会の会報が特集を組んだという事実そのものが、弁護士業務における生成AIの位置づけが変わったことを示しています。この記事では、東京弁護士会の会報LIBRA 2026年7・8月合併号の特集をもとに、事務所の運用に落とすべき論点を7つに整理します。本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政や職能団体の見解は各公表資料で確認しています。特集が引く野村総合研究所のIT活用実態調査(2025年)では、生成AIを導入済みと回答した企業は57.7パーセントで、2023年の33.8パーセント、2024年の44.8パーセントから増え続けていると紹介されています(出典: LIBRA 2026年7・8月合併号 特集)。
単位会の会報が生成AIを正面から特集した意味
いま確認しておきたいのは、生成AIの利活用が個々の弁護士の工夫の段階から、会としての情報発信の段階へ移ったという事実です。
東京弁護士会の会報LIBRAの2026年7・8月合併号(第26巻第7号、通巻602号、2026年7月1日発行)は、弁護士業務における生成AIの利活用と留意点という特集を掲載しています。構成は、総論、各生成AIの比較、訴訟業務・企業法務・事務所運営における活用事例、そして活用上の主な注意点という順です。執筆は弁護士活動領域拡大推進本部AI部会およびAI研究部の会員が担当しています。特集の本体PDFは東京弁護士会のサイトで公開されています。
注目したいのは、特集が利活用の推奨と留意点の注意喚起を同じ号の中で並べている構成です。総論では、生成AIの導入にあたり、既に施行済みの情報セキュリティ規程ならびに日本弁護士連合会および当会のガイドラインの観点から留意すべき事項をあわせて注意喚起することで、利活用とのバランスを図る、という趣旨が述べられています。使うなという話でも、使えという話でもありません。
もう一点、特集は誤情報の実態を数字で示しています。裁判所の書面において当事者が幻覚的な内容や資料に依拠したと認定された事例を集めたデータベースをもとに、弁護士がAIを活用して問題になった事件は執筆時点で432件、うち65パーセントが米国に集中し、104件は2026年に入ってからの事例である、と紹介されています(出典: 前掲LIBRA特集)。国内の裁判例が条文に紐づいて整理されている日本では起きにくい現象という見方も示されつつ、将来の民事判決情報の公開に伴い、生成AIによる一次的なスクリーニングに頼らざるを得ない場面が増えるとの見通しも述べられています。
士業のチカラでも、弁護士法第72条をめぐるガイドラインの動きを別記事で整理しています。業際の議論と、事務所内の運用ルールの議論は、それぞれ別の軸として押さえておくと混乱しません。
東弁ガイドラインの5観点を事務所の運用に落とす
先に結論を書くと、東京弁護士会のガイドラインが示す5つの観点は、そのまま事務所のチェックリストに使えます。
特集によれば、東京弁護士会では2025年3月27日から、弁護士業務における生成AIサービスの適正利用ガイドラインが施行されています。その内容は、生成AIサービスの選定基準、誤情報とファクトチェック、依頼者への説明、弁護士報酬、安全管理措置という5つの観点から主要論点を整理するものだと紹介されています(出典: 前掲LIBRA特集)。同ガイドラインは適正利用を促進するための推奨事項であり、遵守を義務付けるものではなく、綱紀・懲戒の直接の基準とされるものではない、という位置づけも明記されています。この性格を取り違えると、事務所内の説明がぶれます。
第一の観点は、サービスの選定です。特集は、秘匿性の高い情報を入力する場合に確認すべき点として、入力情報が学習に利用されないこと、事業者が入出力された情報に正当な理由なくアクセスできないこと、暗号化等の厳格なセキュリティ対策が実施されていること、入出力情報が一定期間経過後に自動的に削除されるか利用者において削除できることを挙げ、利用規約等により確認することを推奨しています。無料版と有料版、個人版とエンタープライズ版でデータ処理契約の有無が違う点にも補足が加えられています。
第二の観点は、誤情報の検証です。出力結果を業務に用いる場合には一次資料の確認を含む検証を行う、という推奨です。特集の執筆者は、プロンプトで根拠として公的機関その他の信頼に足る機関のURLを示すよう指示し、出典を確認する運用を紹介しています。
第三の観点は、依頼者への説明です。秘匿性の高い情報を入力する場合には、その利用について説明を行い、必要に応じて同意を得る、委任契約書に明記するといった対応が求められるとされています。生成AIの活用方針を公表している事務所も見られる、という補足も付いています。
第四の観点は、弁護士報酬です。生成AIの利用によってより高い付加価値を提供できる場合には、提供される価値に応じた柔軟な報酬設計を採用することも否定されない、という整理が示されています。時間短縮分をそのまま値下げに回すのか、価値に応じた設計にするのかは、事務所ごとの経営判断になります。
第五の観点は、安全管理措置です。特集は、2024年6月から施行されている弁護士情報セキュリティ規程と、同規程に基づき各弁護士等において策定が義務付けられている情報セキュリティを確保するための基本的な取扱方法、いわゆるキホトリについて、改めて確認し適宜見直すことが必要だとしています。生成AIを入れたら、キホトリの記載も更新の対象になります。
なお特集は、日本弁護士連合会のAI戦略ワーキンググループが2025年9月に弁護士業務における生成AIの利活用等に関する注意事項を取りまとめ、2026年2月に更新版を公表したことにも触れています。こちらは会員限定の資料であり、特集も詳細な引用を控えています。会員であれば日弁連の会員専用サイトから参照する形になります。
事務所の運用に落とすときは、5観点を5枚のチェックシートにするのが早道です。以下は、自所の現状を棚卸しするためのプロンプト例です。事件名や当事者名は入れず、架空の表記で使います。
あなたは法律事務所の情報管理体制を点検するアシスタントです。
以下の5観点それぞれについて、点検項目を5つずつ、
「はい/いいえ」で答えられる質問形式にして出してください。
【5観点】
(1)生成AIサービスの選定基準
(2)誤情報とファクトチェック
(3)依頼者への説明
(4)弁護士報酬
(5)安全管理措置
【条件】
・質問は事務所の実務担当者が単独で答えられる粒度にする
・法的評価を伴う質問(違法かどうか等)は入れない
・各観点の最後に、いいえが1つでもある場合の次の一手を1行添える
・根拠が不明な点は「要確認」と明記する
出力されたチェックシートは、そのまま使わず所内の担当者が現行のキホトリと突き合わせ、最終的な採否は弁護士が判断します。この確認工程を省くと、チェックシートだけが増えて運用が伴わない状態になります。
チェックシートを作ったあとは、所内で答え合わせをする場を一度だけでも設けると定着します。特集の総論は、生成AI活用の課題として最も多く挙げられたのがリテラシーやスキルの不足で70.3パーセント、次いでリスクを把握し管理することが難しいが48.5パーセントだった調査結果を引いています(出典: 前掲LIBRA特集)。この2つはどちらも、文書を配るだけでは埋まりません。実際に自所の案件を抽象化した題材で手を動かす回を1度置くと、どこで迷うかが可視化されます。迷った箇所をそのまま規程の但し書きに反映していくと、現場で使える文書になります。
依頼者の秘密をAIに入れる前に決める3つのこと
入力の可否は、ツールの契約形態で先に決まります。設定の話はその後です。
一つめは、根拠となる義務の確認です。弁護士の秘密保持については弁護士法第23条が秘密保持の権利および義務を定めています。特集も、東弁ガイドラインの内容が弁護士職務基本規程23条の秘密保持義務、6条の信用、37条の法令等調査義務とも関係するものだと述べています。職務基本規程は日弁連の会規であり法令ではありませんので、条番号を引くときは法令と会規を混ぜないよう注意します。
二つめは、個人情報の扱いです。特集は、個人情報保護委員会が令和5年6月2日の生成AIサービスの利用に関する注意喚起等において、個人情報取扱事業者があらかじめ本人の同意を得ることなく生成AIサービスに個人データを含むプロンプトを入力し、当該個人データが応答結果の出力以外の目的で取り扱われる場合に個人情報保護法違反となる可能性を指摘していると紹介しています。原文は個人情報保護委員会のサイトで確認できます。条文の側では、個人情報保護法第27条の第三者提供の制限と、同法第23条の安全管理措置が検討の対象になります。特集が示す対応は、利用規約の確認、学習利用からのオプトアウト等の設定、入力情報の匿名化・抽象化、本人からの同意取得であり、それでもリスクが残る場合には入力しないという選択も含めて検討するという整理です。
三つめは、著作権の段階分けです。特集は、生成AIの利用における入力・生成・利用の各段階ごとに検討する必要があるとし、情報解析を目的とする限りでは著作権法第30条の4の適用が考えられるものの、既存の著作物と類似する生成物を得ることを目的として当該著作物を入力する場合には同条の適用が否定される可能性を挙げています。出力・利用段階では同法第30条第1項の私的使用目的の複製等の権利制限規定が適用され得るとしつつ、その範囲を超えた利用では権利侵害が問題となり得るとしています。根拠として引かれているのは文化庁のAIと著作権に関する考え方についてです。
もう一つ、特集が独自に踏み込んでいるのが利益相反と情報遮断の論点です。同一事務所で利益相反関係にある複数の事件を扱う場合、従来はアクセス権限の制御やウォールにより情報が遮断されます。ところが事務所内で共通の生成AIを使い、ある事件の情報を入力してそれが学習または参照の対象になると、他の弁護士が別の事件で同じAIを使った際にその情報が出力される可能性がある、と指摘されています。形式的にアクセス権限が分離されていても、AIを介して情報が共有される結果になりうる。対応として、事件が係属している間は当該事件の情報をAIに学習させない、あるいは入力自体を制限するといった運用も考えられるが、実効性は技術的専門家の関与も得ながら慎重に検討する必要がある、とされています。事務所のナレッジ共有を進めたい方向と、遮断を守る方向が正面からぶつかる論点です。規程への落とし込みは職種別の差分をまとめた記事も参考になります。
特集が挙げる失敗パターンと事務所側の回避策
失敗は、確認工程を人が持たなかったところで起きます。
一つめは、架空の裁判例が書面に載る事故です。特集は、米国ニューヨーク連邦地裁のMata v. Avianca, Inc事件で、生成AIが作った架空の判例が原告の書面に引用され法廷に提出された事例を、生成AIによる誤情報が法廷に提出された事例として報道された最初のものと紹介しています。回避策は単純で、汎用の生成AIが出力内で言及する判例は内容を鵜呑みにせず、判例データベースで確認してから書面に記載するという運用です。文献・判例調査そのものを汎用AIではなくリーガルテック側の機能で行う、という切り分けも示されています。
二つめは、設定の初期値による意図しない公開です。特集の脚注では、あるサービスでデフォルト設定として検索履歴がリンクを知っている者であれば誰でも閲覧可能とされており、利用者の認識と異なり意図せず第三者から閲覧可能な状態となっていた事例が報告されている、と触れられています。導入時に設定画面を1つずつ確認し、スクリーンショットを残す運用にしておくと、後から棚卸しができます。
三つめは、プランの取り違えです。特集は主要3サービスについて、組織向けプランではデータ処理契約が適用される一方、個人向けプランでは適用外とされている点に注意が必要だと繰り返し述べています。事務所で契約しているプラン名と、所員が実際に使っているアカウントのプランが一致しているかは、意外とずれます。契約書の写しとアカウント一覧を突き合わせる点検を、半期に一度は回したいところです。
導入の費用と工数、誰が持つか
費用の議論はプラン差から入ると早いです。特集は主要サービスの価格帯を整理しており、個人向けと組織向けでデータ処理契約の有無が変わることを繰り返し指摘しています(出典: 前掲LIBRA特集)。金額は各社が随時改定しますので、提案や稟議の場では各社の公式料金ページを開いて確認する運用にしておきます。
工数のほうは、ツール代より体制づくりに寄ります。以下は編集部が置いた目安であり、統計にもとづく実績値ではありません(出典: 公表統計ではなく想定値)。5名規模の事務所であれば、現行のキホトリと利用実態の棚卸しに3時間、5観点のチェックシート作成と所内説明に4時間、委任契約書のひな形改訂の検討に3時間、といった配分が現実的です。その後は四半期ごとに、サービス仕様と利用規約の変更を確認する定例を置きます。特集も最後に、サービス仕様、利用規約、法令・ガイドライン、技術的リスクの変化に応じて運用を見直すことを挙げています。
体制面では、所内で生成AIの窓口をひとり決めるのが実務的です。窓口が設定変更とアカウント管理を持ち、案件ごとの入力可否は担当弁護士が判断する。この二層に分けると、判断が止まりません。契約書レビュー系のツール選定については別記事の選定基準も合わせて確認できます。
会報特集のあとに動きうる論点
ここから先は、会や関係機関の公表物が出てから動く領域です。
第一に、単位会レベルでの情報発信が他会にも広がるかという点です。東京弁護士会は2025年3月にガイドラインを施行し、2026年7・8月号で特集を組みました。他の単位会が同様の整備を進めれば、事務所が参照すべき文書が増えます。複数会に登録している弁護士は、どの会の文書に従うかを整理しておく必要が出てきます。
第二に、日弁連のAI戦略ワーキンググループの注意事項が2026年2月に更新されている以上、今後も改訂が重なる可能性が論点になります。会員限定資料であるため外部での引用はできませんが、事務所内の規程がどの版を前提にしているかを記録しておくと、改訂のたびの差分確認が楽になります。
第三に、事務所のナレッジ蓄積と情報遮断の折り合いをどこでつけるかという点です。特集が示した利益相反の論点は、事務所内で生成AIを共通基盤として使おうとするほど重くなります。案件ごとにプロジェクトを分ける機能で足りるのか、係属中の事件は入力自体を止めるのか、技術側の仕様変更で前提が変わる可能性もあります。ベンダーのリリースノートを追う担当を置いておくと、仕様が変わったときに規程の見直しが遅れません。
第四に、若手育成の場の問題です。特集の脚注には、尋問事項案の作成作業が従前はOJTの一環として若手のスキルアップにつながっていたところ、生成AIの利活用が進むにつれてその場がなくなることを危惧する、という執筆者の個人的見解が記されています。効率化と育成のどちらを取るかではなく、育成の場を別途どう設計するかという問いとして、事務所の経営課題に上がってきます。
よくある質問
東京弁護士会のガイドラインは守らないと懲戒になりますか
特集によれば、同ガイドラインは適正利用を促進するための推奨事項であり、遵守を義務付けるものではなく、綱紀・懲戒の直接の基準とされるものではないと位置づけられています。ただし内容が秘密保持義務や法令等調査義務と関係するものだとも述べられていますので、生成AIを使う際に確認しておく資料として扱うのが実態に合います。
個人向けプランと組織向けプランで何が変わりますか
特集の整理では、主要サービスの組織向けプランにはデータ処理契約が適用される一方、個人向けプランでは適用外とされている点が繰り返し指摘されています。個人向けでも学習利用を拒否する設定が可能なサービスはありますが、契約上の扱いは別物です。事務所で使うなら、契約しているプラン名まで確認する運用になります。
汎用の生成AIで判例調査をしてもよいでしょうか
特集は、文献・判例調査において汎用型の生成AIは誤情報を生成するリスクが高いことから、リーガルテックのサービスに組み込まれた生成AIを利用することを推奨しています。汎用AIを使う場合でも、出力内で言及された判例は判例データベースで確認してから書面に載せる、という工程を人が持つ整理です。
事務所で共通のAIを使うと利益相反の問題が出ますか
特集は、事務所内で共通の生成AIを使い、ある事件の情報が学習または参照の対象になると、別の事件で同じAIを使った際にその情報が出力される可能性を指摘しています。形式的にアクセス権限を分けていてもAIを介して情報が共有される結果になりうる、という論点整理です。対応の実効性は技術的専門家の関与も得て検討する必要があるとされています。
生成AIを使ったことを依頼者に伝える必要はありますか
特集が紹介する東弁ガイドラインでは、秘匿性の高い情報を入力する場合には、その利用について説明を行い、必要に応じて同意を得る、委任契約書に明記するといった対応が求められるとされています。どこまで説明するかは案件の性質と入力する情報の秘匿性によって変わりますので、事務所として基準を決めておくと運用が安定します。
AIで効率化した分、報酬は下げるべきでしょうか
東弁ガイドラインは、生成AIの利用によってより高い付加価値を提供できる場合には、提供される価値に応じた柔軟な報酬設計を採用することも否定されないという整理を示しています。時間に比例させるのか価値に比例させるのかは、事務所の料金体系そのものの設計問題です。
著作物を生成AIに入力するだけで著作権の問題になりますか
特集は、入力行為自体が複製に該当し得るとしたうえで、情報解析を目的とする限りでは著作権法第30条の4の適用が考えられると整理しています。他方、既存の著作物と類似する生成物を得る目的で入力する場合は同条の適用が否定される可能性があるとも述べています。個別の当てはめは事案ごとの判断になりますので、入力の目的を記録しておく運用が参考になります。
参考文献
- 東京弁護士会 LIBRA 2026年7・8月合併号 特集 弁護士業務における生成AIの利活用と留意点
- 東京弁護士会 LIBRA ON LINE
- 東京弁護士会 LIBRA 2026年7・8月合併号 全文PDF
- 個人情報保護委員会
- 日本弁護士連合会
- e-Gov法令検索 弁護士法
- e-Gov法令検索 個人情報の保護に関する法律
- e-Gov法令検索 著作権法
※士業のチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴事務所の業務に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
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本記事の作成体制について
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