米第9巡回区控訴裁は2026年8月4日、Amazonの差止めを破棄しました(出典: 判決全文)。
AIエージェントが利用者に代わってウェブサイトを操作したとき、そのサイトに「アクセス」したのは誰なのか。この問いに、米国の連邦控訴裁判所が初めて正面から向き合いました。米連邦第9巡回区控訴裁判所は2026年8月4日、AmazonがPerplexity AIに対して得ていた予備的差止命令を破棄し、事件を地方裁判所へ差し戻しています。判決は公刊対象(FOR PUBLICATION)で、事件番号は26-1444です。本記事は判決全文(PDF)を直接読み、そこに書かれている内容だけを整理したものです。米国法の判断であり、日本法における評価は本記事の射程外となります。

破棄されたのは2026年3月の予備的差止命令です
破棄されたのは、地方裁判所が2026年3月に出した予備的差止命令です。経緯を判決文にそって整理すると、Amazonは2025年11月、Perplexity AIを相手取って連邦のコンピュータ詐欺不正利用防止法(CFAA、18 U.S.C. § 1030)とカリフォルニア州の類似法である包括的コンピュータデータアクセス詐欺防止法(CDAFA、Cal. Penal Code § 502)の違反を主張して提訴しました。争点になったのは、Perplexityが提供するブラウザ「Comet」に組み込まれた任意機能のAIエージェント「Assistant」が、利用者のパスワード保護されたAmazonアカウントにログインし、商品の検索や注文を実行していた点です。
北カリフォルニア地区連邦地方裁判所のMaxine M. Chesney判事は2026年3月、Amazonの主張が本案で認容される見込みが高いとして予備的差止命令を発令しました。判決文によると、地裁は口頭弁論の場で「際どい判断だ」と述べたうえで暫定的な判断を示していたとされています。Perplexityはこれを不服として控訴し、控訴審の係属中は差止めの効力が停止されていました。口頭弁論は2026年6月11日にシアトルで開かれ、Milan D. Smith, Jr.判事の執筆による判決が8月4日に言い渡されています(出典: 判決全文)。
CFAAに基づく私人の請求が通るには、判決文が整理するとおり、意図的なコンピュータへのアクセス、無権限または権限を超えたアクセス、それによる情報の取得、対象が保護対象コンピュータであること、そして1年間で合計5,000ドル以上の損失が生じたこと、という5つの要素が必要になります(出典: 判決全文)。控訴裁が取り上げたのは、このうち最初の「アクセス」の一点でした。
判断の核心は「アクセスしたのは利用者である」という認定です
控訴裁の結論は、Amazonのサーバにアクセスしたのは利用者であって、Perplexityではない、というものでした。理由の中心にあるのは技術構造の認定です。判決文によれば、利用者がAssistantに指示を出すと、Assistantは利用者の端末上でブラウザ画面のスクリーンショットを取得し、それをPerplexityのサーバへ送信して、Amazon.comをどう操作するかの指示を受け取ります。つまりPerplexityのサーバがAmazonのサーバと直接通信する経路は存在しない、という整理です。
そのうえで控訴裁は、CFAAの条文が「intentionally accesses(意図的にアクセスする)」の主語として「whoever」を置いていることに着目し、同法は人によるアクセスを想定していると述べました。Assistantがどれほど高度であっても、制定法上は人ではなく道具にあたるという判断です。「access」の意味については、連邦の最上級審が2021年に示したVan Buren判決(593 U.S. 374)の「コンピュータシステム自体、あるいはファイル・フォルダ・データベースといったその一部に入り込む行為」という定義が引用されています。
判断を補強する材料として、控訴裁は寛大の原則(rule of lenity)にも言及しました。CFAAは主として刑事法規であり、条文の解釈は民事でも刑事でも等しく適用されるため、意味が曖昧な場合には責任を認めない方向へ解する、という第9巡回区の先例に沿った説明です。判決文はさらに、Amazonの解釈を採用すると、Cometを使った利用者自身が共謀や幇助の理論で刑事責任を問われうる立場に置かれかねない、と懸念を示しています。
技術構造の説明としては、電子フロンティア財団(EFF)らが提出した意見書が「システムの性質を最も明確に説明している」として長く引用されました。なお第9巡回区は、エージェント型AIの責任帰属を直接扱った先例はほとんど存在しないとも述べており、既存のPower Ventures判決やBrandTotal判決はいずれも完全な類推の対象にはならないと整理しています。
判決は自ら射程を限定しています
見落とせないのは、控訴裁が判決の射程を自分で狭く区切っている点です。判決文には「私たちは、エージェント型AIを規律する新たな法制度を確立するものではありません」と明記されています(判決全文)。不法行為に基づく請求など他の法律構成でPerplexityが責任を免れるかどうかは判断の対象外であり、今回の判断はCFAA上の「アクセス」に限られる、という趣旨です。さらに脚注では、この結論はAmazonが自社の利用規約によってアクセスを規律する能力を損なうものではない、とも付け加えられています。技術的に可能かどうかと、契約上どう約束されているかは別のレイヤーだという整理です。
差止めが破棄された一方で、本案の審理は終わっていません。事件は地方裁判所へ差し戻されており、Amazonの広報担当者はThe Decoderに対し、今回の判断に同意しかねるとしたうえで、自社の主張に自信を持っており次の手を検討していると述べています。Perplexity側は、インターネット利用者が使いたいAIを選ぶ権利のために争い続けるとコメントしました。この件はReutersが報じ、The Decoderが日本時間8月5日に伝えています。
士業事務所の立場から見ると、この判決そのものより、判決文が描写した技術構造のほうが実務上の関心事かもしれません。ブラウザ操作型のAIエージェントは、画面のスクリーンショットを外部のサーバへ送って次の操作の指示を受け取る、という経路で動くものがあります。顧客の氏名や取引内容が表示された画面でエージェントを動かせば、その画面情報がどこへ送られ、どう保存され、学習に使われるのかという論点が出てきます。ベンダーが公表しているデータ取扱いのポリシーを確認し、エージェントを動かしてよい画面と動かさない画面を事務所として切り分けておく、という運用を採る事務所もあります。関連する整理はAIエージェントの士業業務での活用や事務所のAI利用ガイドラインでも扱っています。エージェントの権限設計という論点では、英国のAI安全機関が公表した試験中のインシデントも参考になります。
繰り返しになりますが、今回の判断は米国連邦法と州法の解釈に関するものです。日本の法令のもとで同じ構造をどう位置づけるかは本記事では扱っておらず、個別の判断が必要な場面では有資格者への確認が前提になります。
まとめ
米第9巡回区控訴裁は2026年8月4日、AmazonがPerplexityに対して得ていた予備的差止命令を破棄しました(出典: 判決全文)。理由は、CFAA上「アクセス」したのは利用者であってPerplexityではない、という認定です。判決は自ら射程を限定し、エージェント型AIの新しい法制度を作るものではないと明言しています。本案の審理は差し戻されており、決着はこれからです。
参考文献
- 米連邦第9巡回区控訴裁判所 Amazon.com Services, LLC v. Perplexity AI, Inc. 判決全文(No. 26-1444、2026年8月4日)
- Electronic Frontier Foundation「Appeals Court Agrees with EFF that Building a Web Browser Doesn’t Violate the CFAA」
- The Decoder「US appeals court allows Perplexity’s AI shopping agent back on Amazon」
- Reuters「Amazon loses US court ban on Perplexity’s AI shopping tools」
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引用元: The Decoder
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