公益通報者保護法改正2026年12月施行|顧問先支援で押さえる5論点

公益通報者保護法の改正法が2026年12月1日に施行されます。社労士・弁護士事務所が顧問先の体制整備を支援する5ステップと、規程改定案の作成に生成AIを使う際の守秘義務の線引きを整理します。

公益通報者保護法改正2026年12月施行|顧問先支援で押さえる5論点

公益通報者保護法の改正法とは、内部通報体制の実効性を高める令和7年法律第62号のことです。

改正法の施行日まで残り約4か月になりました(出典: 消費者庁 公益通報者保護法と制度の概要)。この記事では、社会保険労務士事務所と法律事務所が顧問先の体制整備を支援するときに押さえておく論点と、規程改定案や研修資料の作成に生成AIをどう噛ませるかを整理します。本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で確認しています。

令和7年法律第62号が顧問先に与える変化の輪郭

消費者庁は、公益通報者保護法の一部を改正する法律について、令和7年3月4日に国会へ法案を提出し、同年4月24日に衆議院で修正議決、同年6月4日に参議院で可決して成立、同月11日に令和7年法律第62号として公布され、令和8年12月1日から施行されると公表しています(出典: 消費者庁 公益通報者保護法と制度の概要)。西暦に直すと2026年12月1日です。

改正の柱として示されているのは4点です。事業者が公益通報に適切に対応するための体制整備の徹底と実効性の向上、公益通報者の範囲拡大、公益通報を阻害する要因への対処、そして公益通報を理由とする不利益な取扱いの抑止・救済の強化です。詳細は消費者庁が公開している改正概要(公益通報者保護法、法定指針)にまとまっています。

顧問先の実務に直結するのは、行政措置の強化です。消費者庁の改正概要資料では、従事者指定義務に違反する事業者について、現行法の指導・助言・勧告に加えて、勧告に従わない場合の命令権と、命令違反時の刑事罰を新設する旨が示されています。刑事罰は30万円以下の罰金で両罰規定を伴い、対象は常時使用する労働者の数が300人を超える事業者に限られると説明されています(出典: 同資料)。従来は指導と勧告で止まっていた枠組みに、命令と罰則という段が加わる構造です。

前提として、現行のe-Gov法令検索 公益通報者保護法第11条には事業者がとるべき措置が置かれています。公益通報対応業務に従事する者を定めることと、公益通報に適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置をとることの2つが柱で、常時使用する労働者の数が300人以下の事業者については、いずれも努力義務として読み替える規定が置かれています。顧問先が300人を境にどちら側にいるかで、支援の設計が変わることになります。

消費者庁は施行に向けた資料も順次公開しています。公益通報ハンドブックは改正法準拠版が公表され、法定指針である令和3年内閣府告示第118号についても、2026年12月1日から施行される版と新旧対照表、指針の解説とその新旧対照表が並んで掲載されています(出典: 消費者庁 公益通報者保護法と制度の概要)。顧問先への説明資料は、この新旧対照表を起点に組み立てるのが最短です。

顧問先の体制を点検し、規程改定案まで持っていく5ステップ

事務所が受任する範囲は顧問契約によって幅がありますが、点検から改定案の提示までを分解すると次のようになります。

第1ステップは、顧問先の規模区分の確定です。常時使用する労働者の数が300人を超えるかどうかで、義務か努力義務かの区分が変わります(出典: e-Gov法令検索 公益通報者保護法第11条)。グループ会社をまたぐ場合、どの法人単位で数えるのかを顧問先と合意しておかないと、後の設計がぶれます。持株会社の下に複数の事業会社がある顧問先では、この確認だけで打ち合わせが1回分埋まることも珍しくありません。

第2ステップは、現行の内部公益通報対応体制の棚卸しです。従事者を誰に定めているか、その指定を書面で残しているか、通報窓口の受付経路が何本あるか、受付から調査・是正までの記録がどこに残っているかを一覧にします。ここは顧問先の担当者へのヒアリングが中心で、事務所の作業は質問票の設計と回答の整理になります。

第3ステップは、新旧対照表との突き合わせです。法定指針と指針の解説の新旧対照表を読み、変更箇所ごとに顧問先の現行運用が該当するかを確認します。この工程がいちばん時間を食います。

第4ステップは、規程改定案の作成です。内部通報規程、就業規則の関連条項、従事者の指定に関する内部文書の3つが主な対象になります。ここで作るのはあくまで案であり、最終的な内容の確定は有資格者が行います。

第5ステップは、社内周知と研修です。消費者庁は令和7年改正に関する研修動画を公開しており、顧問先の社内研修の素材として案内できます(出典: 消費者庁 公益通報者保護法と制度の概要)。事務所が一次資料を読み込んで説明資料を作る手間を、公表資料の活用で減らせる場面です。

生成AIを噛ませやすいのは第3ステップと第4ステップです。新旧対照表の変更点を構造化する作業と、規程改定案の骨組みを作る作業は、いずれも入力する情報を公表資料と汎用の規程雛形に限定できます。顧問先固有の情報を入れずに済むのが、この2工程の利点です。

次のプロンプトは、新旧対照表の該当部分を貼り付けて使う想定です。

あなたは社会保険労務士事務所の実務担当者です。以下に貼り付けた新旧対照表の記述のみを根拠に、
変更点を一覧化してください。

制約:
- 貼り付けた資料に書かれていない事実は書かない。読み取れない箇所は「要確認」と明記する
- 各変更点について「旧」「新」「顧問先が点検すべき運用項目」の3点を書く
- 法的な当てはめや評価は書かない。資料の記述と、点検の観点のみ
- 顧問先の社名・担当者名は入力していないので、一般論として書く

【貼り付け資料】
(ここに法定指針の新旧対照表の該当部分を貼る)

もう1本、規程改定案の骨組みを作るためのプロンプトです。顧問先の現行規程をそのまま貼るのではなく、条見出しと構成だけを抜き出して使う運用にすると、入力情報を絞れます。

以下の条見出し一覧をもとに、内部通報規程の改定案の構成を提案してください。

制約:
- 条文本文は書かず、条見出しと各条に置く要素の箇条書きに留める
- 追加を検討する条には「追加候補」と明示し、根拠として参照すべき公表資料名を添える
- 社名は書かず、A社と表記する
- 有資格者が確認する前提の下書きであることを冒頭に明記する

【条見出し一覧】
(ここに顧問先の現行規程の条見出しだけを貼る)

出力された一覧や構成案は、有資格者が消費者庁の公表資料と1対1で照合する工程を挟みます。生成AIは条番号や告示番号を取り違えることがあり、そのまま顧問先に渡すと事務所の信用に直結します。特に施行日、労働者数の区分、罰金額といった数値は、担当者が原典の記載を1つずつ確認する運用にしておくと安全側に倒れます。

通報者を特定させる情報とAIの距離をどう取るか

ここからは守秘義務と事務所規程の論点です。公益通報の支援業務は、扱う情報の性質が他の労務相談と大きく異なります。

現行のe-Gov法令検索 公益通報者保護法第12条には公益通報対応業務従事者の義務が置かれ、公益通報対応業務に関して知り得た事項であって公益通報者を特定させるものを、正当な理由がなく漏らしてはならない旨が定められています。同法第21条には、この規定に違反して同条に規定する事項を漏らした者を30万円以下の罰金に処する旨の罰則が置かれています。事務所の担当者が顧問先の従事者に指定される場合、この義務の名宛人になり得ます。

士業側の守秘義務も重なります。社会保険労務士についてはe-Gov法令検索 社会保険労務士法第21条に秘密を守る義務が置かれ、正当な理由がなくて業務に関して知り得た秘密を他に漏らし、または盗用してはならない旨と、開業社会保険労務士または社会保険労務士法人の社員でなくなった後も同様である旨が定められています。弁護士についてはe-Gov法令検索 弁護士法第23条に秘密保持の権利及び義務が置かれ、職務上知り得た秘密を保持する権利を有し義務を負う旨と、法律に別段の定めがある場合はこの限りでない旨が定められています。

これらを踏まえると、実務上の線引きははっきりします。通報の内容、通報者の氏名や所属、通報を受けた日時、調査の経過といった、通報者を特定させ得る情報は、クラウド型の生成AIに入力しない運用が現実的です。AIに入れてよいのは、消費者庁の公表資料、汎用の規程雛形、事務所が独自に作った質問票のような、顧問先を離れても成立する情報に限る。この境界を事務所の方針として先に決めておけば、担当者が案件ごとに判断する場面がほとんどなくなります。

ツール側のデータ利用ポリシーの確認も欠かせません。生成AIの提供者は、入力データを学習に使うかどうか、どの程度の期間保持するかをモデルやプランごとに定めています。たとえばAnthropicは、Mythosクラスのモデルについて、ファーストパーティ・サードパーティを問わず全トラフィックに30日間のデータ保持を求める方針を示し、そのデータを新しいモデルの学習には使わないこと、安全性以外の目的には使わないことを公表しています(出典: Anthropic Claude Fable 5 and Claude Mythos 5)。事務所で使うモデルとプランを固定し、その条件を規程に書き写しておくと、顧問先から問われたときに答えられる状態を保てます。

事務所規程に書く項目は5つで足ります。使用を認めるツールとプランの名称、入力してよい情報の範囲、入力しない情報の例示、有資格者が確認する工程、記録の残し方です。特に公益通報の支援業務については、入力しない情報の例示として、通報者を特定させ得る一切の情報を明記しておく運用例があります。規程の作り方そのものは社労士向け生成AIガイドブックの読み解きでも整理しています。

施行前によく起きる3つのつまずきと回避策

1つ目は、規模区分の確認を後回しにして規程改定に着手してしまうケースです。常時使用する労働者の数が300人以下の事業者については、従事者を定めることと体制整備の措置をとることが努力義務として読み替えられる規定が置かれています(出典: e-Gov法令検索 公益通報者保護法第11条)。区分が変われば、顧問先に提示する優先順位も工数見積もりも変わります。着手前に顧問先と数え方を合意しておく手順を、事務所の作業手順書に固定しておくと避けられます。

2つ目は、生成AIが出力した条番号や告示番号をそのまま資料に載せてしまうケースです。法定指針は令和3年内閣府告示第118号で、2026年12月1日から施行される版と現行版が並行して公開されています(出典: 消費者庁 公益通報者保護法と制度の概要)。どちらを参照したのかが資料上で判別できないと、顧問先の担当者が誤った版で運用を組む余地が生まれます。参照した資料のURLと取得日を、成果物のフッターに残す運用が有効です。

3つ目は、通報事案の相談を受けた流れで、事案の要約をそのまま生成AIに投げてしまうケースです。急ぎの照会ほど起きやすく、しかも起きた後に取り消せません。回避策は技術的なものより運用的なもので、公益通報の支援業務については使用するツールを事務所内の閉じた環境に限る、あるいはAIを使わない前提で工程を組む、といった選択を先にしておくことです。この考え方は内部統制の文書化とAIでも触れています。

支援業務の工数と、事務所内の役割分担

費用面で顧問先が新たに負担するのは、規程改定と研修にかかる実務コストが中心です。消費者庁が公益通報ハンドブックの改正法準拠版や研修動画を無償で公開しているため、素材の調達費用は抑えられます(出典: 消費者庁 公益通報者保護法と制度の概要)。

事務所側の工数は、初回の資料読み込みと社内テンプレートの整備に集中します。改正概要、法定指針の新旧対照表、指針の解説の新旧対照表を読み込み、点検用の質問票と規程改定案のテンプレートを作るところまでで、初回は数日規模を見込む想定になります。テンプレートができた後は、顧問先ごとの点検と改定案提示が半日から1日程度に収まる見込みです。公的な統計は確認できていないため、この目安は要確認として扱い、自事務所の実績値で置き換えて管理してください。

役割分担は、資料読み込みと質問票の整理を事務スタッフが担い、規程改定案の内容確定と顧問先への説明を有資格者が持つ形が現実的です。生成AIは事務スタッフ側の工程を短縮する道具として位置づけ、有資格者の確認工程を短縮する用途には使わない設計にしておくと、品質の担保がぶれません。

顧問先への提示物の形も、あらかじめ揃えておくと効率が上がります。点検結果の一覧、変更点と現行運用の差分、規程改定案、社内周知のスケジュール案の4点をひとつの提案書にまとめる形式にしておけば、顧問先ごとに構成を考え直す手間がなくなります。提案書のフッターには、参照した公表資料の名称と取得日を残しておきます。改正法の施行前は資料が更新される可能性があり、どの時点の資料に基づく提案なのかを後から辿れる状態にしておくことが、事務所側の説明材料になります。

もうひとつ、支援業務の受任範囲の書き方も整理しておきたいところです。点検と改定案の提示までを引き受けるのか、社内周知や研修の実施まで含めるのか、施行後の運用相談を継続的に受けるのかで、必要な工数は大きく変わります。顧問契約の中に含めるのか、スポットの業務として切り出すのかも含めて、事務所としての標準形を持っておくと、見積もりのばらつきが減ります。改正対応は施行日という明確な期限があるため、複数の顧問先から同時期に依頼が集中しやすい構造です。受任の順序をどう決めるかも、事前に方針を持っておきたい部分になります。

施行後を見据えて論点になること

第1の論点は、命令と罰則が加わった後の顧問先の意思決定です。行政措置が段階化されると、顧問先の経営層が体制整備に配分する資源の判断材料が変わります。事務所が示せるのは公表資料の記載と、顧問先の現行運用との差分までで、そこから先の判断は顧問先が行います。この線引きを提案書の書式に組み込んでおくと、期待値のずれが起きにくくなります。

第2の論点は、通報窓口の外部委託の広がりです。体制整備の実効性が問われる局面が増えれば、窓口機能を外部に置く選択が検討されます。士業事務所が受け皿になる場合、従事者としての義務と、士業としての守秘義務が重なる構造になります。受任時の契約書で、どちらの立場でどこまでを引き受けるのかを書き分ける実務が想定されます。窓口機能を担う場合、生成AIの利用範囲はさらに絞られることになります。

第3の論点は、記録の残し方です。調査と是正の経過をどこまで文書化するかは、実効性の説明と、通報者を特定させ得る情報の管理という相反する要請の間にあります。事務所が顧問先に助言する際、文書化の粒度そのものを論点として提示できるかどうかが差になります。関連して、規程整備の進め方はカスハラ義務化への規程整備でも整理しています。

よくある質問

改正法の施行日はいつですか

2026年12月1日です。消費者庁は、令和7年6月11日に令和7年法律第62号として公布され、令和8年12月1日から施行されると公表しています(出典: 消費者庁 公益通報者保護法と制度の概要)。

従業員300人以下の顧問先も対応が求められますか

現行法では、常時使用する労働者の数が300人以下の事業者について、従事者を定めることと体制整備の措置をとることが努力義務として読み替えられる規定が置かれています(出典: e-Gov法令検索 公益通報者保護法第11条)。改正後の取扱いは消費者庁の改正概要資料と法定指針の新旧対照表で確認してください。

新設される刑事罰の内容は何ですか

消費者庁の改正概要資料では、従事者指定義務に違反する事業者に対する命令権と、命令違反時の刑事罰を新設する旨が示されています。刑事罰は30万円以下の罰金で両罰規定を伴い、対象は常時使用する労働者の数が300人を超える事業者に限られると説明されています(出典: 改正概要(公益通報者保護法、法定指針))。

顧問先の通報事案を生成AIに要約させてよいですか

事務所ごとの判断になりますが、避ける運用例が一般的です。公益通報者保護法第12条には公益通報対応業務従事者の義務が置かれ、公益通報者を特定させる事項を正当な理由がなく漏らしてはならない旨が定められています。社会保険労務士や弁護士の守秘義務も重なるため、入力しない情報の範囲を事務所の方針として先に決めておく運用が考えられます。

顧問先向けの研修資料はゼロから作る必要がありますか

消費者庁が令和7年改正に関する研修動画と、改正法準拠版の公益通報ハンドブックを公開しています(出典: 消費者庁 公益通報者保護法と制度の概要)。これらを素材に、顧問先の業種や規模に合わせた補足を加える構成にすると、作成工数を抑えられます。

生成AIに入れてよい情報の線引きはどう決めますか

顧問先を離れても成立する情報に限る、という基準を置く運用例があります。具体的には消費者庁の公表資料、汎用の規程雛形、事務所が独自に作った質問票です。顧問先の社名、通報の内容、通報者に関する情報は入力しない、と規程に例示まで書いておくと、担当者が都度判断せずに済みます。

事務所の担当者が顧問先の従事者に指定されることはありますか

あり得ます。その場合、公益通報者保護法第12条の義務の名宛人になり得るため、受任時の契約でどの立場でどこまでを引き受けるのかを書き分けておく運用が考えられます。指定の有無と範囲は顧問先が決める事項であり、事務所は選択肢と制約を提示する立場に留まります。

参考文献

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本記事の作成体制について

本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で、それぞれ確認したうえで記載しています。引用元は本文中および参考文献にすべて明示しています。

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