契約書レビューAIとは、契約条項を抽出し論点の候補を提示する仕組みのことです。
契約書レビューの支援ツールは種類が増え、機能の一覧を並べても違いが見えにくくなりました。事務所にとって意味があるのは、機能の多さではなく、自分たちの案件で手数が減るかどうかです。この記事では、契約書レビューAIを選ぶときの5つの観点と、導入前に確認しておく事項を整理します。本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で確認しています。生成AIサービスの利用については個人情報保護委員会の注意喚起が判断の出発点になります。
2つの系統を分けて考える
まず、検討の対象を整理します。契約書のレビューに使える道具は、性質の違う2つの系統に分かれます。
第1の系統は、契約書レビューに特化したツールです。条項の抽出、自社の雛形との差分、論点の候補提示といった機能が、契約書という文書の構造を前提に作られています。同種の契約を大量に扱う場面では、手数が少なく済みます。
第2の系統は、汎用の生成AIサービスです。契約書に特化した機能はありませんが、指示文で作業を定義できます。契約書以外の文書にも同じ道具を使えるため、事務所全体で見たときの費用が抑えられます。
どちらから入るかで迷ったら、汎用の系統から試すほうが判断材料が増えます。汎用で足りる業務に特化型を入れると費用に見合わず、逆に特化型でなければ手数が減らない業務もあります。この線引きは、汎用を使ってみて初めて分かります。
見落とされやすいのが、特化型ツールの基盤です。契約書に特化して作られていても、内部で汎用の生成AIを利用している場合があります。その部分のデータの扱いは基盤側の条件に従うため、提供元のドキュメントで確認します。
なお、いずれの系統でも共通するのは、最終的な判断が弁護士に残るという構造です。抽出と提示までを道具が担い、採否は人が決めます。この構造は道具の性能が上がっても変わりません。ツール選定全般の考え方は士業の業務効率化AIツール比較で扱っています。
観点1 依頼者情報の取扱いと契約形態
最初に見る観点です。ここで落ちるツールは、他がどれだけ良くても候補に残りません。
確認する項目は4つです。入力が学習に使われるか。データはどれくらいの期間保持されるか。処理はどの地域で行われるか。管理者が利用状況を把握できる機能があるか。この4点を、契約しようとしているプランについて公式ドキュメントで確認します。
汎用サービスであれば、Anthropicはプライバシーポリシーと商用利用規約を、GoogleはGemini APIの利用規約を、MicrosoftはMicrosoft 365 Copilotのプライバシーを公開しています。
契約書は、依頼者の事業の内容がそのまま書かれた文書です。取引条件、価格、当事者の関係。守秘義務の対象として、最も慎重に扱う種類の情報になります。弁護士の守秘義務は弁護士法第23条に置かれており、職務上知り得た秘密を保持する権利を有し、義務を負うと定められています。
個人情報の側では、安全管理措置が個人情報の保護に関する法律の個人情報保護法第23条に、第三者提供の制限が個人情報保護法第27条に置かれています。ただし、契約書に含まれる法人間の取引条件は個人情報には当たらない場面が多く、個人情報保護法の枠組みだけで判断すると守るべき範囲が狭くなります。
この観点で候補を2つか3つに絞れれば、その後の検討は速くなります。逆に、機能の比較から入ると、気に入ったツールが使えないと分かった時点で振り出しに戻ります。
契約書を扱う場面では、依頼者の側の事情も見ておきます。依頼者の会社が、自社の情報を外部のAIサービスに入れることを社内規程で制限している場合があります。事務所が問題ないと判断しても、依頼者との合意が取れていなければ使えません。契約書のレビューを受任する段階で、この点を確認しておく事務所が出てきています。
観点2 扱う契約の種類との相性
2つ目の観点は、事務所が実際に扱っている契約と噛み合うかです。
特化型ツールは、想定している契約類型があります。売買、業務委託、秘密保持、賃貸借といった定型的な契約では、条項の抽出も差分の検出も精度が出ます。一方、案件ごとに構成が大きく変わる契約や、日本語の慣行が独特な契約では、想定から外れることがあります。
確認の方法は、事務所で実際に扱っている契約書で試すことです。きれいに整った見本ではなく、相手方から届いた実際の書式、条項の順序が独特なもの、和文と英文が混在するもの。事務所の現実に近いものを渡して、そこで使えるかを見ます。
見る点は3つです。第1に、条項の切り出しが正しいか。第2に、指摘の粒度が実務に合っているか。細かすぎる指摘が大量に出ると、選別に時間がかかります。第3に、指摘の根拠が示されるか。根拠が示されなければ、結局は自分で条項を読み直すことになります。
汎用サービスで同じ作業を行う場合の指示文の例です。
あなたは契約書から情報を抜き出す役です。以下の契約書から、指定した項目だけを抽出してください。
抽出する項目:
- 契約期間・更新に関する条項
- 解除・解約に関する条項
- 損害賠償・責任制限に関する条項
- 秘密保持に関する条項
- 権利の帰属に関する条項
- 準拠法・管轄に関する条項
条件:
- 該当する条項がない項目は「該当条項なし」と出力すること
- 抽出した条項は、契約書中の表現をそのまま引用すること
- 条項番号を併記すること
- 有利不利の評価や、修正の提案は書かないこと
- 当事者は 甲、乙 のまま扱うこと
契約書:
"""
(ここに貼り付け)
"""
抽出だけを行わせ、評価は人が下す形です。評価まで任せると、確認の手間が抽出の手間を上回ります。
観点3 事務所の雛形との突き合わせ
3つ目の観点は、事務所が持っている雛形や過去の書面と組み合わせられるかです。
契約書レビューの実務は、ゼロから読むより、事務所の標準的な条件と比べる作業に近い性質があります。この比較を道具が支援できるかどうかで、手数が変わります。
特化型ツールでは、自社の雛形を登録して差分を見る機能を持つものがあります。汎用サービスでも、雛形を一緒に渡せば同じ作業ができます。
あなたは契約書の比較を行う役です。以下の「事務所の雛形」と「相手方案」を比較し、
差異のある箇所だけを列挙してください。
条件:
- 差異のある条項について、雛形側の記述と相手方案側の記述を併記すること
- 有利不利の評価や、修正案は書かないこと
- 雛形にあって相手方案にない条項は「相手方案に対応条項なし」と記すこと
- 相手方案にあって雛形にない条項は「雛形に対応条項なし」と記すこと
- 条項番号を併記すること
- 当事者は 甲、乙 のまま扱うこと
事務所の雛形:
"""
(ここに貼り付け)
"""
相手方案:
"""
(ここに貼り付け)
"""
この作業でAIに評価をさせない理由は、評価が案件の文脈に依存するからです。同じ条項でも、依頼者の立場や取引の実態によって意味が変わります。差分の抽出までを機械に任せ、その差分が問題かどうかは弁護士が判断する。この分担が実務に合います。
雛形が複数ある事務所では、どの雛形と比べるかの判断も要ります。取引の類型、依頼者の立場、取引の規模によって、事務所が標準としている条件は変わります。この判断は道具には任せられないため、比較を始める前に人が選びます。逆に言えば、この選択さえ済んでいれば、あとの差分抽出は機械的な作業になります。
過去の書面から標準的な条件を引き出す使い方もあります。事務所が過去に締結や修正に関わった契約の蓄積があれば、そこから同種の事案での記載を集めることができます。この設計は士業事務所のRAG構築で扱っています。ただし、過去の書面には依頼者の情報がそのまま含まれるため、外部への入力とは別の設計が要ります。
観点4 費用と、扱う件数との釣り合い
4つ目の観点は費用です。金額そのものより、事務所が扱う件数との釣り合いを見ます。
特化型ツールは、件数に応じた従量制を採るものと、月額固定のものがあります。契約書のレビューが業務の中心である事務所と、月に数件しか扱わない事務所では、有利な形が変わります。
汎用サービスは、一アカウントあたり月額数千円の水準が中心です。事業者と契約形態で変わるため、各社の料金ページで確認します。件数に関係なく定額であるため、扱う量が少ない事務所でも負担が読めます。
判断の材料として、現在その作業にかかっている時間を先に把握しておきます。時間が把握できていないと、ツールの費用が高いのか安いのかを判断できません。この整理は、ツール選定と関係なく事務所の資産になります。
契約の解約条件も確認します。年間契約が前提のツールでは、合わないと分かっても途中で止められません。試用の期間が用意されているか、月単位で解約できるかを、契約の前に確認しておきます。
補助金の活用を検討する場合は、IT導入補助金の公式サイトで対象ツールと申請要件を確認します。登録されたITツールが対象になるため、使いたいツールが登録されているかを先に調べます。
観点5 守秘義務と規程への収まり
5つ目の観点は、事務所の運用ルールに収まるかどうかです。ここを見ずに導入すると、契約したのに使えない状態が生まれます。
見る点は3つあります。第1に、入力してよい情報の区分と、そのツールが求める入力が合っているか。契約書の全文を渡さないと機能しないツールは、事務所の入力ルールと衝突する場合があります。第2に、出力を確認する工程を挟めるか。第3に、退職時にアカウントを止められるか。
匿名化の扱いも整理しておきます。契約書は当事者名を置き換えても、取引の内容そのものから相手が特定できる場面があります。業種と規模と取引の性質が揃えば、名前がなくても分かることがあります。この点まで含めて、事案ごとに判断する領域として扱います。
依頼者への説明も準備しておきます。何に使っているか、何を入力しないか、誰が確認するかの3点を答えられる状態にします。日本弁護士連合会の意見書・声明などの公表資料は、所属する団体の考え方を確認する材料になります。
規程への落とし方は士業事務所のAI利用規程テンプレートで扱っています。
選定でつまずくパターン
1つ目は、指摘の多さを性能と誤解した例です。指摘が大量に出るツールは、選別の手間が増えます。実務では、指摘の数より粒度と根拠の示し方が効きます。
2つ目は、見本の契約書で試して判断した例です。整った書式では精度が出ても、相手方から届く実際の書式では崩れることがあります。事務所の現実に近いもので試します。
3つ目は、評価まで任せてしまった例です。有利不利の判断は案件の文脈に依存します。評価を出させると、その妥当性を確かめる作業が増え、時間の節約になりません。
4つ目は、基盤のデータの扱いを確認しなかった例です。特化型ツールでも、内部で汎用の生成AIを利用している場合があります。提供元のドキュメントで確認します。
5つ目は、実務の担当者を評価に入れなかった例です。ツールに詳しい人が試して良いと判断したものが、実際に契約書を読む人には使いにくかった、という食い違いが起きます。
6つ目は、選定の理由を記録に残さなかった例です。次の見直しのときに比較をゼロからやり直すことになります。観点ごとに一行ずつ書き残しておきます。
7つ目は、導入したものの雛形が整っていなかった例です。差分を見る使い方は、比較対象になる事務所の標準があって初めて成立します。雛形が担当者ごとにばらばらだと、差分の意味が読めません。道具を入れる前に、事務所の標準的な条件を整理しておく作業が要ります。この整理は、道具を入れるかどうかにかかわらず事務所の資産になります。
8つ目は、契約書以外の文書にも同じツールを使おうとした例です。契約書に特化した道具は、その構造を前提に作られています。議事録や報告書に当てても、想定と違う結果になります。用途を広げたいのであれば、汎用の系統を別に持つほうが噛み合います。
導入後に確認すること
導入したら、効果を測る基準を先に決めておきます。
測り方は2つです。一件あたりの所要時間の変化を見る方法と、差し戻しや見落としの件数を見る方法。どちらを採るかを決めておかないと、成果があったかどうかの議論が感覚論になります。
計測は厳密にしすぎないほうが続きます。担当者の感覚で、この作業にどれくらいかかっているかを一行書く。導入前と導入後で比べる。この程度で判断には足ります。
続けるか止めるかの判断も、期限を決めます。3か月後に判断すると決めておけば、惰性で契約が続くことを防げます。
あわせて、確認工程が形骸化していないかを点検します。ツールの指摘を追うだけになり、条項全体を読まなくなる変化が起きていないか。道具が信頼できるほど、この変化は起きやすくなります。
指摘されなかった箇所に問題がないとは限りません。ツールは、想定している契約類型の枠内で指摘を出します。枠から外れた条項や、その契約に固有の事情に関わる部分は、そもそも検出の対象になっていない場合があります。指摘がゼロだったから安全、という読み方をしないことが、この道具の使い方の要になります。
若手の育成に対する影響も、事務所として見ておく価値があります。条項を一つずつ読み込む作業を通じて契約の構造を理解していた部分が、道具に置き換わると、その学びの機会が減ります。抽出結果を検算する作業自体を学びとして位置づける、雛形との差分の意味を所内で議論する、といった運用で補っている事務所もあります。道具を入れる判断と、育成の設計は別に考えます。
よくある質問
特化型と汎用型はどちらがよいですか
事務所が扱う契約の種類と件数によって変わります。同種の契約を大量に扱うなら特化型の手数が少なく、契約書以外の業務にも使いたいなら汎用型のほうが事務所全体で見た費用が抑えられます。まず汎用型で試すと、特化型を検討するときの比較対象ができます。
評価まで任せてよいですか
有利不利の判断は案件の文脈に依存するため、抽出と差分の提示までを道具に任せ、評価は弁護士が下す形が実務に合います。評価を出させると、その妥当性を確かめる作業が増え、時間の節約になりません。
依頼者の契約書をそのまま入力してよいですか
事務所として先に決めておく問題です。個別の事案で入力が許されるかどうかは、扱う情報の性質と契約内容によって整理が変わるため、弁護士の判断が要ります。実務では、法人向けプランに限定し、データの取扱いを確認したうえで運用する例が多く見られます。
試すときは何を見ますか
条項の切り出しが正しいか、指摘の粒度が実務に合っているか、指摘の根拠が示されるか。この3点です。事務所で実際に扱っている契約書、特に相手方から届く書式で試します。
特化型ツールなら基盤の確認は不要ですか
確認します。契約書に特化して作られていても、内部で汎用の生成AIを利用している場合があり、その部分のデータの扱いは基盤側の条件に従います。提供元のドキュメントで確認します。
導入後の効果はどう測りますか
一件あたりの所要時間の変化か、差し戻しや見落としの件数のどちらかを先に決めておきます。厳密な計測は続かないため、担当者の感覚で導入前後を比べる程度で判断には足ります。
参考文献
- e-Gov法令検索 弁護士法
- e-Gov法令検索 個人情報の保護に関する法律
- 個人情報保護委員会 生成AIサービスの利用に関する注意喚起等
- 日本弁護士連合会 意見書・声明など
- Anthropic プライバシーポリシー
- Microsoft 365 Copilot のプライバシー
- IT導入補助金
- 情報処理推進機構 情報セキュリティ関連の各種ガイドライン
※士業のチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴事務所の業務に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
https://shigyonochikara.jp/contact/
本記事の作成体制について
本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で、それぞれ確認したうえで記載しています。引用元は本文中および参考文献にすべて明示しています。
本記事には特定の資格者による監修は入っていません。個別の事案について法令の当てはめや手続の可否を判断する必要がある場合は、当該分野の有資格者にご相談ください。本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別具体的な法律判断・税務判断・労務判断を提供するものではありません。
記載内容に誤りを見つけられた場合は、お問い合わせよりご指摘ください。確認のうえ速やかに訂正し、訂正履歴を記事内に残します。編集方針の詳細は運営者情報をご覧ください。