展示会後の社内共有とは、見聞きした情報を事務所の判断材料に変える作業のことです。
展示会に行った所長や担当者が持ち帰るのは、名刺とパンフレットと印象です。この記事では、2026年9月に開催された会計事務所博覧会2026を題材に、見学後の情報を事務所内で共有し、製品の比較に使える形へ整える7つの手順を示します。本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、開催概要は主催者のプレスリリースで確認しています。出展各社の製品の優劣は評価せず、情報の整理方法に絞って解説します。
開催概要の事実
主催者のプレスリリースによると、会計事務所博覧会2026は、2026年9月10日と11日の2日間、東京都立産業貿易センター浜松町館で開かれました。主催はジャスネットコミュニケーションズ株式会社と税界タイムス編集局で、テーマは「AIと人が共存する、新しい仕事のかたち。」です。出展社数は49社で、前年の47社から増えています。会計・税務システム、生成AI、RPA、クラウドなどを扱う企業が出展し、2つのセミナー会場で約20の講演や実践企画が予定されていました(出典: PR TIMES 会計事務所博覧会2026)。
対象は税理士、公認会計士、会計事務所職員、関連事業者などで、参加費は無料、事前登録制です(出典: 同上)。実際に見学した事務所にとっては、すでに終わった催しですが、会場で得た情報の使い道は、見学後の数週間で決まります。
展示会の情報が使われないまま消える理由
展示会では、短い時間に多くの製品の説明を受けます。説明の内容は、各社の言葉で語られ、比較の軸が揃っていません。見学した本人の頭の中では整理されていても、事務所の他の職員には伝わりません。名刺の山と、メモの断片だけが残り、導入の議論が進まない状態は、よく起こります。
この問題を避けるには、見学の直後に、共通の項目で情報を書き出す作業を挟みます。以下の7手順は、見学後に事務所で行う作業を、順に示します。
見学後の社内共有7手順
手順1 見学した製品を業務の工程に紐づける
まず、聞いてきた製品を、事務所の業務の工程のどこに当たるかで分けます。記帳、仕訳、月次の確認、決算、申告、顧問先とのやり取りなどです。製品名で整理すると、似た機能の製品が離れて並びます。工程で整理すると、比較の対象が見えてきます。
手順2 各社の説明を共通の問いで書き直す
次に、各社の説明を、同じ問いで書き直します。問いは、何を入力して何が出力されるか、人が確認する工程はどこか、顧問先のデータはどこに保存されるか、費用の体系は何か、の四つです。説明で触れられなかった項目は、空欄にせず「確認できず」と書きます。確認できていない項目が、次に問い合わせる内容になります。
手順3 聞いた数値は発言として記録する
展示会では、削減率や導入件数など、数値が語られます。これらは提供元の発表であり、第三者の検証がある数値とは区別します。記録するときは、誰が、いつ、どの場面で言ったかを添えます。後で資料を見直したとき、出典が分からない数字は、判断材料として使えません。
手順4 セミナーの内容は主催者の資料と照合する
セミナーで聞いた内容は、記憶ではなく配布資料や公式の公開資料で照合します。聞き間違いや記憶違いが、そのまま事務所の判断に入り込むのを防ぐためです。公開資料がない内容は、発言として記録し、事実としては扱いません。
手順5 気づきを職員全員が読める場所に残す
見学者のメモを、事務所の共有フォルダに置きます。置くときは、見学者の感想と、事実として確認できた情報を分けて書きます。読む側の職員が、どこまでが事実で、どこからが意見かを区別できるようにします。顧問先の情報は、このメモに含めません。
手順6 試験導入の候補を絞る
比較の結果から、試験導入の候補を絞ります。候補は、一度に多くを選ばず、二つ程度までに絞るのが現実的です。試験の対象業務、期間、測る指標を決めて、候補ごとに同じ条件で試せるようにします。測る指標には、確認にかかる時間も含めます。
手順7 見送る製品の理由も記録する
導入しない製品についても、見送る理由を記録します。理由が、費用なのか、機能なのか、データの取り扱いの説明が足りなかったのか、によって、次回の判断が変わります。記録があれば、一年後に同じ製品の話が出たとき、議論を最初からやり直さずに済みます。
比較メモの書き方 一製品一枚の考え方
手順2の共通の問いは、一製品につき一枚のメモにまとめると扱いやすくなります。メモの冒頭には、製品名、提供元、説明を受けた日、説明をした担当者の役職を書きます。次に、業務の工程のどこに当たるか、四つの共通の問いへの答え、確認できなかった項目、聞いた数値と発言者を続けます。最後に、見学者の所感を、事実の欄とは別の欄に書きます。
一枚にまとめる利点は、後から並べ替えられることです。工程ごとに並べれば、同じ工程の製品を比較できます。費用の体系ごとに並べれば、月額型と従量型の違いが見えてきます。表を使わず文章で書く場合でも、項目の順番を揃えておけば、複数のメモを続けて読んだときに違いが分かります。
メモの言葉づかいにも気を配ります。提供元が使った言葉と、見学者が言い換えた言葉を混ぜないようにします。たとえば、自動化という言葉は、人の確認が残る場合にも、残らない場合にも使われます。どちらの意味で語られたのかが分からない場合は、その箇所に要確認と書いておき、問い合わせの対象にします。
事務所の立場別に見る着眼点
同じ展示会でも、事務所の立場によって着眼点は変わります。所長や代表の立場では、導入にかかる費用の全体像と、事務所の業務の進め方への影響が中心になります。実務の中心を担う有資格者は、確認の工程が増えるのか減るのか、自分の判断の部分に機械の出力がどう関わるのかを見ます。事務スタッフは、日々の入力や整理の操作が現実的か、画面の使いやすさはどうかを見ます。
これらの着眼点は、どれも正当で、互いに補い合います。見学者がひとりの場合、他の立場の着眼点が抜け落ちます。共有の場では、見学者が自分の立場からの所感を述べたあと、他の職員が自分の立場から質問する時間を設けると、抜けが見つかりやすくなります。
社内勉強会の進め方
メモが揃ったら、短い社内勉強会を開きます。進行は、見学者による製品ごとの要約、質問と意見の交換、試験導入の候補の絞り込みの順が分かりやすい流れです。要約では、事実と所感を分けて話します。質問の時間では、確認できなかった項目に注目して、追加の問い合わせの内容を決めます。
勉強会の記録には、決まったことと、決まらなかったことの両方を残します。決まらなかった理由が、情報の不足なのか、意見の相違なのかによって、次の行動が変わります。情報の不足なら問い合わせを、意見の相違なら試験導入での検証を、次の一手にします。会の最後に、次に誰が何をいつまでに行うかを確認すると、議論が実行につながります。
共有用のプロンプト例
次のプロンプトは、見学時のメモを、手順2の共通の問いで整理する補助です。
以下は、展示会で聞いた製品説明のメモです。「入力と出力」「人が確認する工程」「データの保存場所」「費用の体系」の四項目で整理してください。メモに書かれていない項目は推測せず「確認できず」と書いてください。数値は、誰が言ったかを添えて「提供元の発言」として区別してください。
【メモ】
(ここに匿名化したメモを貼り付ける。顧問先の情報は入れない)
もう一つは、複数の製品メモから、追加で問い合わせる質問を作るためのものです。
以下は、複数の製品について「確認できず」と記録された項目の一覧です。提供元に問い合わせるための質問文を、製品ごとに短い文章で作ってください。質問は事実の確認に限り、評価や推測を含めないでください。
【一覧】
(ここに整理済みの項目を貼り付ける)
出力は下書きです。問い合わせの前に、担当者が内容を確認します。
一年後に効いてくる記録の残し方
展示会の記録は、翌年以降の見学でも役に立ちます。同じ提供元が翌年も出展していれば、前年の説明と今年の説明を並べて読めます。機能が増えたのか、料金の体系が変わったのか、データの取り扱いの説明が変わったのかが、記録から分かります。主催者が公表した出展社数は前年の47社から49社に増えており、毎年の顔ぶれも変わっていきます(出典: PR TIMES 会計事務所博覧会2026)。
記録の保管場所は、事務所の共有フォルダの中に、年ごとのフォルダを作る形が単純です。フォルダの名前に開催年を入れ、中に製品ごとのメモと、勉強会の記録を置きます。個人の連絡先を含む名刺の情報は、別の場所に分けて保管し、閲覧できる職員を限ります。保管期間の目安も、あらかじめ決めておくと、古い個人情報が残り続けることを避けられます。
記録を残す習慣は、展示会に限らず、オンラインの製品説明会や営業の訪問を受けた場合にも使えます。同じ共通の問いで整理しておけば、どの経路で得た情報でも、同じ土俵で比較できます。
守秘義務・規程上の論点
展示会後の製品比較では、デモの場で顧問先のデータを使って試す場面が出ることがあります。会計事務所の業務では、顧問先の財務情報や個人情報を扱います。税理士法第38条は、税理士が正当な理由がなく税理士業務に関して知り得た秘密を洩らし、又は窃用してはならないと定めています。この条文はe-Gov法令検索の原文で確認しました。
個人データの第三者提供については、個人情報保護法第27条が、個人情報取扱事業者による第三者提供の制限を定めています。製品の試用で顧問先のデータを提供元に渡す場合の扱いは、個別の事情で判断が分かれます。本記事は当てはめを行わず、有資格者の判断事項とします。
運用の例として、試用には架空のデータか匿名化したデータだけを使う、提供元の担当者に見せる画面には顧問先の情報を表示しない、試用の申し込み時にデータの取り扱いの説明を書面で受け取る、といった方法があります。見学者のメモや名刺に載った個人の連絡先も、事務所内での保管場所と閲覧範囲を決めておきます。
失敗例と回避策
一つ目は、見学者個人の印象だけで製品が選ばれる例です。説明の巧みさが評価に影響し、事務所の業務への適合が確認されないまま話が進みます。回避策は、手順2の共通の問いで書き直し、他の職員の目に触れる形にすることです。
二つ目は、提供元の数値をそのまま社内の目標値にしてしまう例です。測定条件が不明な数値を目標にすると、試験の結果の評価を誤ります。回避策は、手順3のとおり発言として記録し、自事務所で測り直すことです。
三つ目は、導入した製品の運用が、見学者ひとりに依存する例です。見学者が異動や退職をすると運用が止まります。回避策は、手順5のとおり、情報を共有の場所に残すことです。
費用・工数・体制
見学後の整理にかかる工数は、見学した製品の数によって変わります。目安として、一製品あたりの整理に、書き直しと問い合わせの準備で、短い時間を見込んでおくと、全体の見通しが立ちます。具体的な時間は事務所ごとに異なるため、最初の数製品で実測して、残りの見積もりに使います。体制は、見学者が一次整理を行い、所長か管理職が比較の結果を確認する流れが考えられます。
今後の展望と編集部の考察
テーマに「AIと人が共存する」と掲げた展示会が開かれ、出展社数が前年から増えたことは、会計業界でAI関連の製品を紹介する場が広がっていることを示します(出典: PR TIMES 会計事務所博覧会2026)。製品の選択肢が増えるほど、事務所の側に、比較の軸と記録の習慣が求められます。
今後の論点は、展示会で得た情報を、事務所の資産として蓄積できるかです。毎年の見学の記録が残れば、製品の変化や、各社の説明の一貫性も追えます。これは編集部の考察であり、特定の事務所への助言ではありません。
よくある質問
見学していなくても、この手順は使えますか
使えます。オンラインの説明会や資料請求で得た製品情報も、同じ共通の問いで整理できます。
提供元の削減率は信頼できますか
提供元の発表であり、測定条件は個別に確認する必要があります。信頼できるかの判断は、分母や期間を確認したうえで行います。確認できない部分は要確認として扱ってください。
試用で顧問先のデータを使ってもよいですか
使ってよいかは、契約書の文言と扱う情報の内容で変わります。本記事は当てはめを行いません。有資格者が判断してください。
何社くらい比較すればよいですか
社数に決まりはありません。業務の工程ごとに候補を絞り、同じ条件で比較できる数に抑えるのが現実的です。
見送った製品の記録は本当に必要ですか
次回の判断を速くする効果があります。見送りの理由が残っていれば、同じ議論を繰り返さずに済みます。
参考文献
- PR TIMES 会計事務所博覧会2026 開催のお知らせ
- e-Gov法令検索 税理士法
- e-Gov法令検索 個人情報の保護に関する法律
- 個人情報保護委員会 生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について
関連記事: 経理AI Forwardを会計事務所が導入する前の5つの問い、MF AIの月次仕訳を会計事務所が判断する7つの軸
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本記事の作成体制について
本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で、それぞれ確認したうえで記載しています。引用元は本文中および参考文献にすべて明示しています。
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