導入事例の数字とは、事例の紹介者が示す前後比較の値のことです。
月96時間が34時間になった、という導入事例を読んで、自分の事務所でも同じ効果が出るのかと迷った経験はないでしょうか。この記事では、会計事務所向けの生成AI導入事例の記事を一つ取り上げ、記載された数字を読み手がどう確かめるかを、7つの視点として整理します。本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、事例の内容は公開ページの記載で確認しました(確認日は2026年10月5日)。事例そのものの真偽を評価するものではなく、読み手が自分の事務所に引き寄せて検証するための手順を示します。
取り上げるのは、AI鬼管理が公開している、税理士・会計事務所をClaude CodeやCodexで自動化した事例の記事です。同記事は2026年5月31日に公開され、同年9月1日に更新されたと表示されています(出典:AI鬼管理 税理士・会計事務所をClaude Code/Codexで自動化した事例10選、2026年10月5日確認)。
事例記事の数字を取り巻く状況 匿名化された10事例の中身
同記事は、A事務所からJ事務所まで、仮名の税理士事務所10件の事例を紹介しています。固有名詞は守秘義務を守るためにA事務所からJ事務所までの仮名に置き換えているが、業務の構造、所員の状況、改善前後の具体数値はすべて実例にもとづくと説明しています(出典:AI鬼管理 税理士・会計事務所をClaude Code/Codexで自動化した事例10選、2026年10月5日確認)。
記事に示された数字の例を見ます。同記事は、所員1人あたり月20時間から60時間規模の業務時間を取り戻していると記載しています。個別の事例では、所員の月96時間が34時間になった例(削減率65%)、所長の月35時間が9時間になった例(削減率74%)、所員の残業が月70時間から30時間になった例、顧問先の継続率が93%から97%になった例が示されています(出典:同記事)。
編集部で、示された数字の整合を確認します。96時間から34時間への変化は、62時間の減少で、削減率は約65%です。35時間から9時間への変化は、26時間の減少で、削減率は約74%です(出典:AI鬼管理 税理士・会計事務所をClaude Code/Codexで自動化した事例10選、2026年10月5日確認)。記事の削減率と、前後の時間から計算した値は一致しています。ただし、これは記事の中の数字が互いに矛盾していないことを確認したにすぎず、数字の元になった計測が正しいことを確かめたわけではありません。
匿名化された事例には、もう一つの特徴があります。事務所名が分からないため、読み手は事務所に直接確認できません。第三者が数字を再計算する手がかりも、記事に書かれた前後の値と図に限られます。この制約を踏まえて、数字を読む視点を整理します。
事務所の規模をたとえば所員が十数名の会計事務所として、月に数十時間の削減が一人分の働きに近い規模になることは、直感的に分かります。一方で、削減された時間が、事務所の売上や利益にどう結びついたかは、記事の数字だけでは分かりません。時間の削減と、経営の成果は、別の指標として扱います。
事例の数字を自分の事務所で確かめる7つの視点
ここからは、編集部が整理した確認の視点です。特定の事例の評価ではなく、どの導入事例にも使える観点です。
視点一。何の作業の時間かを確認します。月96時間が34時間になったと書かれていても(出典:AI鬼管理 税理士・会計事務所をClaude Code/Codexで自動化した事例10選、2026年10月5日確認)、記帳の入力、月次のレビュー、顧問先対応など、対象の作業が何かで意味が変わります。記事の前後比較の図や説明文から、対象の作業と、前後で変えた工程を読み取ります。読み取れない場合は、その数字を自分の事務所の判断材料にしない、という選択肢もあります。
視点二。誰の時間かを確認します。所員1人の時間なのか、所長の時間なのか、事務所全体の合計なのかで、数字の重みが変わります。同記事は、所員の例と所長の例を分けて示しています(出典:AI鬼管理 税理士・会計事務所をClaude Code/Codexで自動化した事例10選、2026年10月5日確認)。自分の事務所の誰の時間に置き換えられるかを考えます。
視点三。前の時間の水準を確認します。削減率が大きくても、前の時間が事務所の通常の水準より多かった場合は、効果が大きく見えます。月96時間という前の値は、その所員の業務の構成によるものと考えられます(出典:AI鬼管理 税理士・会計事務所をClaude Code/Codexで自動化した事例10選、2026年10月5日確認)。自分の事務所の同じ作業の時間を実測し、前の水準を比べます。
視点四。後の時間に含まれない作業を確認します。AIの出力を人が確認する時間、プロンプトを調整する時間、設定を保守する時間が、後の時間に含まれているかを確認します。含まれていない場合、見かけの削減が大きくなります。記事から読み取れないときは、含まれていない可能性を前提に、自分の事務所で測ります。
視点五。計測の方法と期間を確認します。一か月の値なのか、数か月の平均なのか、繁忙期を含むのかで、数字は変わります。同記事は、数字を前後比較の図と説明文から示していると読み取れますが、計測の期間や方法の詳細は、読み手が確認できる形では示されていません。
視点六。時間以外の指標を確認します。時間の削減が、品質の低下と引き換えになっていないかを見る指標として、差し戻しの件数、顧問先からの指摘、確認工程での修正の量があります。顧問先の継続率のような経営の指標は、AI以外の要因にも左右されるため、因果をそのまま読みません。
視点七。自分の事務所で測れる形に直します。事例の数字を目標値にせず、自分の事務所の同じ作業の前の時間を測り、試用の期間で後の時間を測ります。次のプロンプト例は、事例記事から、確認すべき項目を抜き出す用途です。記事の本文は、公開されている部分だけを貼り付けます。
次の導入事例の記事から、数字の読み方を確認するための表を作らず、箇条書きで整理してください。
抽出する項目:
- 数字ごとに、対象の作業、対象の人、前の時間、後の時間、計測の期間
- 記事に書かれていない項目は「記載なし」と明記する
- 記事に書かれていない内容を推測で補わない
- 数字どうしの計算が合っているかを確認する
記事本文:
(ここに公開されている事例記事の本文を貼り付ける)
次のプロンプト例は、自分の事務所の計測結果を、事例の数字と並べて整理する用途です。実在の所員名や顧問先名は使いません。
以下は、会計事務所の月次レビュー作業について、AI導入前後に測った時間のメモです。
次の点を整理してください。
- 工程ごとの前後の差
- AIの出力確認や修正にかかった時間を、後の時間に含めた場合の差
- 数字の根拠として足りない情報の一覧
- 測定の期間が短い場合に注意すべき点
実在の個人名は使わず、「所員A」「所員B」と表記してください。
メモ:
(ここに架空の計測メモを貼り付ける)
数字を事務所の説明に使う前に決めておく守秘義務と規程の論点
事例の数字を読む作業と、自分の事務所の数字を測る作業は、守秘義務の整理とつながっています。測定のために、実際の業務データをAIに入力する場面が出てくるからです。
守秘義務の条文を確認します。税理士法第38条は、税理士が正当な理由がなくて、税理士業務に関して知り得た秘密を他に洩らし、または窃用してはならないと定めています(出典:e-Gov法令検索 税理士法第38条)。公認会計士法第27条は、公認会計士が正当な理由がなく、その業務上取り扱ったことについて知り得た秘密を他に漏らし、または盗用してはならないと定めています(出典:e-Gov法令検索 公認会計士法第27条)。個人情報保護法第23条は、個人データの安全管理のために必要かつ適切な措置を講じることを定めています(出典:e-Gov法令検索 個人情報の保護に関する法律第23条)。
事例記事の匿名化の説明も、この観点で読むことができます。同記事は、守秘義務を守るために仮名に置き換えていると述べています(出典:AI鬼管理 税理士・会計事務所をClaude Code/Codexで自動化した事例10選、2026年10月5日確認)。自分の事務所が事例を公開する側に回る場合も、匿名化の範囲を、顧問先との契約や説明に照らして決める必要があるかを、事務所で整理します。数字や業種、規模の組み合わせから、顧問先が特定される場合があるためです。
また、同記事は、規約や設定項目が変わり得るため、導入時点で最新の公式ポリシーを確認するよう促す記載を置いています(出典:同記事)。事務所の規程では、使うサービスの規約と設定を確認する日付を記録し、定期的に見直す手順を入れます。
規程に入れる項目の例を挙げます。一つ目は、効果測定のために入力してよいデータの範囲です。実際の顧問先のデータではなく、架空のデータや集計済みの数字で測れる範囲を先に決めます。二つ目は、測定の記録の保管場所です。三つ目は、事例を外部に発表するときの確認手順です。四つ目は、事例の数字を顧問先や採用の説明に使う場合の、出典と計測条件の併記です。
関連する記事として、公開事例を読む例を石黒健太税理士事務所の面談報告書の事例で、事務所のルール整備を税理士のAI活用 業務別の使いどころ7つと顧問先情報の線引きで扱っています。
失敗例と回避策 事例の数字を鵜呑みにしたときに起こりやすいこと
起こりやすい失敗を三つ挙げます。いずれも、特定の事務所で起きたという意味ではなく、一般に想定される場面です。
一つ目は、事例の削減率を、そのまま自分の事務所の導入計画の目標にしてしまう場合です。たとえば、事例が示す削減率の65%を目標に置くと、達成できなかったときに、導入そのものが失敗だったと受け取られます(出典:AI鬼管理 税理士・会計事務所をClaude Code/Codexで自動化した事例10選、2026年10月5日確認)。回避策は、自分の事務所の前の時間を測り、小さな範囲の試用で後の時間を測って、現実的な目標を置くことです。
二つ目は、削減された時間を、何に使うかを決めていない場合です。時間が空いても、別の作業に吸収され、成果が見えなくなります。回避策は、空いた時間の使い道を、顧問先との対話、新しい業務、所内の育成のように、導入前に決めておくことです。
三つ目は、AIの出力の確認時間を数えていない場合です。出力の確認と修正に時間がかかると、削減は見かけだけになります。回避策は、確認と修正の時間を、後の時間に含めて測る運用にして、記録の様式にも確認の欄を設けることです。
費用・工数・体制
効果を測るための費用と工数を見積もります。測定のために新しいツールを入れなくても測れます。作業ごとの時間の記録は、スプレッドシートでも取れます。
見積もりの項目は、三つに分けられます。一つ目は、記録の工数です。所員が作業のたびに時間を記録する手間が発生します。二つ目は、集計と確認の工数です。月に一度、所長が記録を集計し、前後の差を確認する時間を見込みます。三つ目は、AIのライセンス費用です。使うサービスの料金は、提供元の公式ページで確認し、確認日を記録します。
小さな事務所では、測定の担当を所長か主任に決め、月に一度の振り返りを予定に入れておく方法が考えられます。測定が負担になって続かなくなるのを避けるため、対象の作業を一つか二つに絞って始めます。
今後の展望と考察 数字の公開が増えるほど読み手の確認が重要になる
導入事例の数字は、生成AIの活用が広がるにつれて、増えていくと見込まれます。論点になるのは、数字の根拠をどこまで読み手が確認できる形で示すかです。計測の方法、期間、対象の作業、確認時間の扱いが記載されている事例ほど、読み手は自分の事務所に引き寄せて検証できます。
編集部の考察として、事務所が事例を読む側であると同時に、顧問先や採用の場で自らの数字を示す側になる場面も出てきます。そのときは、読む側の視点で自分の数字を点検することが、説明の信頼につながります。数字を出すこと自体よりも、計測の条件を添えて出すことが論点になります。
よくある質問
事例の数字は、信用してよいのでしょうか。
数字の真偽は、公開されている情報だけでは確かめられません。記事の数字どうしの整合を確認したうえで、対象の作業、計測の期間、確認時間の扱いが書かれているかを見て、自分の事務所で測り直す材料として使います。
匿名の事例は、参考にならないのでしょうか。
匿名でも、業務の構造や工程の分け方は参考にできます。一方で、事務所に直接確認できないため、数字は目標値ではなく、仮説として扱うのが適切です。
自分の事務所の効果は、どう測ればよいですか。
対象の作業を一つか二つ選び、導入前の所要時間を実測します。試用の期間に、AIの出力の確認と修正の時間を含めて後の時間を測り、差を比べます。測定の期間と件数も記録します。
事例の数字を顧問先への説明に使ってもよいですか。
出典と計測の条件を添えて使う運用が考えられます。事例の数字が自分の事務所の結果でないことが分かる形で示すことが、論点になります。
時間の削減以外に、何を見ればよいですか。
差し戻しの件数、確認工程での修正の量、顧問先からの指摘を見ます。時間の短縮が品質の低下と引き換えになっていないかを確認するための指標です。
参考文献
- AI鬼管理 税理士・会計事務所をClaude Code/Codexで自動化した事例10選
- e-Gov法令検索 税理士法
- e-Gov法令検索 公認会計士法
- e-Gov法令検索 個人情報の保護に関する法律
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本記事の作成体制について
本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で、それぞれ確認したうえで記載しています。引用元は本文中および参考文献にすべて明示しています。
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