面談報告書とは、顧問先との面談内容を整理して残す文書のことです。
顧問先との面談のあと、報告書の作成にどれだけの時間を使っているでしょうか。この記事では、株式会社デジライズが公開している石黒健太税理士事務所の事例を手がかりに、面談報告書の作成を生成AIで短縮する運用を、自分の事務所で再現する前に確認したい7点として整理します。本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、事例の数字は公開ページの記載で確認しました(確認日は2026年10月5日)。事例の数字は、導入した事務所自身の報告にもとづく一例です。
公開ページは、報告書の作成について「これまで1時間かかっていた作業がわずか20分」に短縮されたと記載しています(出典:デジライズ 石黒健太税理士事務所のAI導入事例、2026年10月5日確認)。ここで注目したいのは、時間の短縮そのものよりも、何を生成AIに任せ、何を人が持ち続けたかという設計のほうです。
面談報告書の作成を取り巻く状況 公開事例が示す課題と効果
事例の事務所は、京都を拠点とし、従業員規模は20名から49名と紹介されています。公開ページは、導入前の課題として、面談の前準備と報告書の作成に1社あたり合計3時間ほどかかっていたこと、チャットツールでの対応でスタッフの経験によって回答の質に差が出ていたことを挙げています(出典:デジライズ 石黒健太税理士事務所のAI導入事例、2026年10月5日確認)。
導入後の効果として、同ページは報告書作成が1時間から20分になったことと、月間16時間以上の負担を軽減できたことを記載しています(出典:同ページ)。あわせて、AIの回答案を使うことでスタッフ間の返信のトーンや品質がそろったこと、評価面談の準備でAIとの壁打ちを使っていることも紹介されています(出典:同ページ)。
この事例を読むときに押さえたい点が二つあります。一つ目は、数字の前提です。公開ページには、報告書の種類や面談の件数、計測の方法は書かれていません。時間の変化が、どの範囲の作業で、何件を平均した値なのかは、読み手には分かりません。二つ目は、ツールと運用の詳細です。同ページは今後の計画としてGoogleのNotebookLMなどの活用に触れていますが、現在どの生成AIを使い、入力する情報の範囲をどう決めているかは記載していません。データの扱いに関する記載も、同ページにはありません(出典:同ページ)。
つまり、この事例から分かるのは、面談の要約と報告書の下書きを生成AIに任せる運用で、事務所が時間の短縮を実感したという事実までです。同じ数字が、読み手の事務所でも出るとは限りません。事務所の規模が、たとえば所長と補助者あわせて数名の事務所で、顧問先が数十社なら、時間の短縮が積み上がるのは月次の面談が集中する時期でしょう。反対に、面談の内容が個別性の高い相談中心の事務所では、下書きに使える部分は限られます。再現する前に、自分の事務所の面談報告書がどのような構造になっているかを整理することが出発点になります。
税理士の業務の範囲についても、条文で確認しておきます。税理士法第2条は、税理士の業務として、税務代理、税務書類の作成、税務相談を挙げています(出典:e-Gov法令検索 税理士法第2条)。面談報告書は、この三つの業務の記録として扱われる場面もあれば、事務所内の記録にとどまる場面もあります。どちらの位置づけかは事務所で整理する論点です。報告書の最終的な内容を確定するのは税理士であり、生成AIは下書きを作る役割にとどまる、という構図を最初に置きます。
再現前に確認したい7点 面談の入力から報告書の確定までの流れ
ここからは、編集部が整理した運用上の確認点です。公開事例の再現手順ではなく、同じ発想で自分の事務所に取り入れる場合の確認項目です。想定は、税理士と補助者あわせて数名、月次の面談が十数社ある事務所です。
確認一。時間の内訳を実測します。入力は、直近の面談報告書の作成にかかった時間の記録です。出力は、前準備、面談中のメモ、面談後の報告書の作成という工程別の所要時間です。公開事例が示す1社あたり合計3時間ほどという数字は、事務所によって大きく異なるはずです(出典:デジライズ 石黒健太税理士事務所のAI導入事例、2026年10月5日確認)。自分の事務所の基準値がないと、導入後の効果を判断できません。
確認二。面談メモの取り方を決めます。生成AIに要約させる元データは、面談中の手書きメモか、担当者が打ち込んだ箇条書きか、録音の文字起こしかで、取り扱いの重さが変わります。録音と文字起こしを使う場合は、顧問先の同意の取り方も設計の対象になります。関連する論点は、面談の録音と文字起こしを事務所の運用ルールに落とす 同意取得の設計にまとめています。
確認三。報告書の型を先に決めます。生成AIに白紙から書かせると、毎回の構成がぶれます。事務所の報告書に毎回入れる項目、たとえば面談日、出席者、確認した数字、決まったこと、次回までの宿題を、型として固定しておきます。次のプロンプト例は、メモから報告書の下書きを作る用途です。顧問先の名称や金額には、架空の「A社」などを使います。
あなたは税理士事務所の補助者です。以下の面談メモから、報告書の下書きを作ってください。
条件:
- 項目は「面談日」「出席者」「確認した数字」「決まったこと」「次回までの宿題」の5つ
- メモに書かれていない事実は書かない。不明な点は「要確認」と明記する
- 税務上の判断や見解は書かない。判断が必要な論点は「税理士の確認事項」として最後にまとめる
- A社の月次試算表に関する面談という想定で、固有名詞は変更しない
面談メモ:
(ここに架空のA社のメモを貼り付ける)
確認四。有資格者の確認工程を組み込みます。下書きが出たら、数字と固有名詞を元の資料と照合し、税務上の判断に触れている箇所がないかを税理士が見ます。公開事例も、AIに要約を任せるという分担を述べているだけで、確認工程の詳細は書いていません。この部分は事例を読むだけでは分からないので、事務所で設計する領域です。
確認五。顧問先ごとのトーンの調整をどうするかを決めます。公開事例は、AIが顧客の理解度に合わせて専門用語を噛み砕いて説明できると述べています(出典:デジライズ 石黒健太税理士事務所のAI導入事例、2026年10月5日確認)。次のプロンプト例は、報告書の中の専門用語を、顧問先に伝わる言葉へ言い換える用途です。
次の報告書の文章を、経営者が読むことを想定して書き直してください。
条件:
- 専門用語は、初出のときだけ一文で補足する
- 数字と日付は変更しない
- 意味が変わりそうな箇所は、書き換えずに「税理士に確認」とコメントする
- 一文は80字以内にする
文章:
(ここに報告書の一部を貼り付ける)
確認六。保存場所と帳簿との関係を整理します。税理士法第41条は、税理士が税理士業務に関して帳簿を作成し、委嘱者別に、かつ一件ごとに、税務代理、税務書類の作成または税務相談の内容とそのてん末を記載することを定めています。この帳簿は閉鎖後5年間保存する、とも定めています(出典:e-Gov法令検索 税理士法第41条)。面談報告書と、この帳簿の記載とがどう関係するかは、事務所の実務に応じて税理士が整理します。生成AIの下書きをそのまま保存するのか、確定版だけを保存するのかも、ここで決めておきます。
確認七。効果の測り方を決めます。導入後に同じ工程別の時間を記録し、導入前の基準値と比べます。公開事例の数字を目標値に置くのではなく、自分の事務所の基準値からの変化を見ます(公開事例の数字の出典:デジライズ 石黒健太税理士事務所のAI導入事例、2026年10月5日確認)。数字は事務所ごとに実測し、計測した期間と件数も記録しておきます。
顧問先情報を生成AIに入れる前に決めておく守秘義務の論点
面談メモや報告書には、顧問先の財務情報や経営上の悩みが含まれます。生成AIにこれらを入力する運用は、守秘義務との関係で、事務所として設計する必要があります。
まず、条文を確認します。税理士法第38条は、税理士が正当な理由がなくて、税理士業務に関して知り得た秘密を他に洩らし、または窃用してはならないと定めています。税理士でなくなった後も同様とされています(出典:e-Gov法令検索 税理士法第38条)。生成AIのサービスに顧問先の情報を入力することが、この条文との関係でどう整理されるかは、サービスの契約内容と事務所の運用で変わります。本記事は条文の紹介にとどめ、個別の当てはめは行いません。
個人情報保護法の観点では、次の条文が関係します。第23条は、個人情報取扱事業者が、取り扱う個人データの漏えい、滅失、毀損の防止その他の安全管理のために必要かつ適切な措置を講じることを定めています(出典:e-Gov法令検索 個人情報の保護に関する法律第23条)。第25条は、個人データの取扱いの全部または一部を委託する場合に、委託を受けた者に対する必要かつ適切な監督を行うことを定めています(出典:e-Gov法令検索 個人情報の保護に関する法律第25条)。第27条は、法令に基づく場合などを除き、あらかじめ本人の同意を得ないで個人データを第三者に提供することを制限しています(出典:e-Gov法令検索 個人情報の保護に関する法律第27条)。生成AIのサービスが、委託先にあたるのか、第三者提供にあたるのかは、サービスの仕組みと契約内容によって整理が変わります。要確認の項目です。
行政側の見解として、個人情報保護委員会は、生成AIサービスの利用に関する注意喚起を公表しています(出典:個人情報保護委員会 生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について)。事務所の運用を決める前に、原文を確認します。
事務所の規程に落とすときの項目の例を挙げます。一つ目は、入力してよい情報の範囲です。顧問先の名称を伏せる、金額を丸める、個人名を入れないといった加工の基準を、事務所で決めます。二つ目は、使うサービスと設定です。入力した内容が学習に使われない設定になっているかを、提供元の公式ドキュメントで確認し、確認日を記録します。三つ目は、顧問先への説明です。面談の記録に生成AIを使うことを、契約時や更新時の説明で伝えるかどうかを決めます。四つ目は、入力の記録です。誰がいつ何を入力したかを追えるようにしておきます。
失敗例と回避策 面談報告書の下書きで起こりやすいこと
起こりやすい失敗を三つ挙げます。いずれも、事例の事務所で起きたという意味ではなく、同じ運用で一般に想定される場面です。
一つ目は、要約が事実と違う場合です。生成AIはメモにない内容を補って書くことがあります。たとえば、面談で決まっていない次回の対応が、決まったことの欄に入ってしまう場合です。回避策は、プロンプトにメモにない事実は書かないと明記することと、下書きを元のメモと並べて照合する工程を省かないことです。
二つ目は、税務上の判断が混ざる場合です。報告書の中に、生成AIが一般論として書いた税務上の見解が入り込むと、顧問先への助言として読まれるおそれがあります。回避策は、報告書の型に税理士の確認事項の欄を設け、判断が必要な論点はそこに集めて、税理士が内容を確定する運用にすることです。
三つ目は、野良ツール化です。担当者ごとに別の生成AIを使い、どの情報がどこに入力されたか事務所で把握できなくなる場合です。回避策は、使ってよいサービスを事務所で指定し、入力の記録を残すことです。事務所全体のAI活用の線引きは、税理士のAI活用 業務別の使いどころ7つと顧問先情報の線引きで整理しています。
費用・工数・体制の見積もりの考え方
公開事例のページには、導入にかかった費用や構築の工数は書かれていません(出典:デジライズ 石黒健太税理士事務所のAI導入事例、2026年10月5日確認)。そのため、事務所が自分で見積もる必要があります。
見積もりの項目は、三つに分けられます。一つ目は、ライセンス費用です。使う生成AIのプランの料金を、提供元の公式ページで確認します。料金は改定されることがあるため、確認日を記録します。二つ目は、初期の構築工数です。報告書の型の作成、プロンプトの調整、試用のための時間を見込みます。三つ目は、運用の担当です。プロンプトの更新、利用状況の確認、規程の見直しを誰が持つかを決めます。
小さな事務所では、所長が兼務するのが現実的です。その場合は、月に一度、利用状況と下書きの修正量を確認する時間を、あらかじめ予定に入れておきます。修正の量が多いのに時間が減らない場合は、型かプロンプトが事務所の実務に合っていない可能性があります。
今後の展望と考察 時間の使い道まで設計できるか
公開事例の見出しは、短縮によって生まれた時間を伴走型支援に活かす、という方向を示しています(出典:デジライズ 石黒健太税理士事務所のAI導入事例、2026年10月5日確認)。短縮した時間をどう使うかまで決めておかないと、時間は別の作業に吸収されます。
論点になるのは、短縮した時間を、顧問先との対話の増加に使うのか、新しい業務の受け入れに使うのか、所内の育成に使うのかという選択です。事例の事務所は、スタッフがAIとの壁打ちを評価面談の準備に使っているとも紹介されており、人材育成の面にも使い道が広がっています。
編集部の考察として、面談報告書は、生成AIの導入を始める題材として扱いやすい業務の一つです。理由は、入力が事務所の内部で作ったメモであること、出力が事務所の内部文書であること、確認工程を置きやすいことです。一方で、顧問先に直接出す文書へ範囲を広げる段階では、確認の重みが変わります。段階を分けて進めることが論点になります。
よくある質問
公開事例と同じ時間短縮は、自分の事務所でも見込めますか。
事務所の面談の形や件数によって変わります。公開ページには計測の方法が書かれていないため、同じ数字を見込む根拠は読み取れません。導入前の所要時間を実測し、試用の期間で比較して判断します。
面談の録音を生成AIに入れても大丈夫ですか。
録音や文字起こしの扱いは、守秘義務と個人情報保護法の整理が必要な論点です。税理士法第38条や個人情報保護法の関連条文を踏まえ、サービスの契約内容と設定を確認したうえで、事務所の規程と顧問先への説明を決めます。
報告書の下書きは、税理士が全文を読む必要がありますか。
確定する責任は税理士にあるため、数字、固有名詞、税務上の判断に触れた箇所を中心に、元のメモと照合する工程を置く運用が考えられます。どこまでを確認の対象にするかは、事務所の規程で決めます。
無料の生成AIでも試せますか。
試すことはできますが、入力した内容の扱いはサービスとプランによって異なります。顧問先の情報を入れる前に、提供元の公式ドキュメントで、入力内容が学習に使われるかを確認します。架空のデータで試す段階から始める方法もあります。
使う生成AIは、ChatGPT、Claude、Geminiのどれがよいですか。
公開事例のページは、現在使っているツールを明記していません。選ぶ際は、データの取り扱い、料金、事務所の既存環境との相性を比べます。どのサービスも、設定や契約の内容を事務所で確認することが前提です。
参考文献
※士業のチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴事務所の業務に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
https://shigyonochikara.jp/contact/
本記事の作成体制について
本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で、それぞれ確認したうえで記載しています。引用元は本文中および参考文献にすべて明示しています。
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