特許庁のAI審査支援チーム体制とAI出願動向 弁理士が押さえる7論点

特許庁のAI審査支援チームの体制と、AI関連発明の出願状況調査のデータを踏まえて、弁理士が出願戦略と明細書作成で生成AIをどこまで使えるかを7つの論点に整理します。

特許庁のAI審査支援チーム体制とAI出願動向 弁理士が押さえる7論点

AI審査支援チームとは、特許庁がAI関連発明の審査を支える庁内組織のことです。

AI関連発明の出願を扱う弁理士にとって、審査側の体制がどう組まれているかは明細書の書き方に直結します。この記事では、特許庁が公表しているAI審査支援チームの体制と出願状況調査のデータを踏まえて、出願戦略と明細書作成で生成AIをどこまで使えるかを七つの論点に整理します。本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で確認しています。

審査側の体制はすでに全審査室へ広がっています

結論から書きます。AI関連発明の審査は、特定の審査室だけが扱う特殊な領域ではなくなりました。特許庁は、各審査部門の担当技術分野を超えて連携するAI審査支援チームを設け、最新のAI関連技術に関する知見や審査事例の蓄積と共有を行っています(出典: 特許庁 AI関連発明に関する審査環境の整備について)。

体制は段階的に強化されてきました。特許庁の同ページによると、2023年10月1日付けでAI担当官を10名程度から40名程度に増員し、全ての審査室に1名ずつ配置する形へ移行しています。さらに、令和6年4月1日付けで、AI関連技術の専門的知見に基づくサポートを行う外部有識者としてAIアドバイザーが新設されました(出典: 同ページ)。従来はAI技術の活用が多く見られる審査室にAI担当官を置いていたところを、全審査室に広げた形です。

弁理士側の実務にどう効くか。従来なら、AIを応用した発明を機械分野や化学分野の審査室が扱う際、AI技術そのものの水準をどう評価されるかに不確実性がありました。全審査室にAI担当官が配置され、相談の受け皿ができたことで、分野を問わずAI要素の評価がなされる前提に近づいています。逆に言えば、AIを添え物として書いた明細書は、分野を問わず中身を見られることになります。

出願の実勢も確認しておきます。特許庁の出願状況調査によると、AI関連発明の2023年の特許出願件数は約11,400件、そのうちAI技術そのものに特徴があるAIコア発明は約2,400件でした(出典: 特許庁 AI関連発明の出願状況調査)。AI関連発明は2014年以降に急増した一方、AIコア発明は近年横ばいという対比が示されています。同調査は、2022年から2023年にかけてビジネスに適合した情報通信技術の分類が付与された出願の増加が顕著であるとし、この傾向を生成AIに関連する技術やサービスの急速な発展に起因するものとみています(出典: 同調査)。

国際的な構図も出ています。同調査の図4では、AIコア発明の中国への出願件数が2014年の1,226件から2023年には101,459件へ増え、同年の米国への出願件数19,336件の5倍以上になったことが示されています(出典: 特許庁 AI関連発明の出願状況調査)。外国出願の戦略を顧客と話すとき、この数字は説明の起点として使えます。

技術トレンドの読み方も同じ資料から取れます。同調査の図3では、CNNに言及するAI関連発明とRNNまたはLSTMに言及するAI関連発明の出願件数が2021年にかけて増加した後に減少へ転じ、トランスフォーマに言及するAI関連発明は増加し続けていると整理されています(出典: 同調査)。明細書で用語を選ぶとき、審査官が見慣れている語彙の分布を知っておく価値はここにあります。

出願戦略と明細書作成で生成AIを使う7論点

結論として、生成AIを入れてよい工程と入れてはいけない工程を、出願プロセスの段階ごとに切り分けるのが先です。明細書全体をAIに書かせるかどうかという二択で考えると、判断が粗くなります。

論点1は、先行技術の当たりをつける工程です。技術内容を抽象化した説明文をAIに渡し、関連しそうな技術領域や用語の言い換え候補を挙げさせます。ここで得るのは検索キーワードの候補であって、調査結果そのものではありません。実際の調査はJ-PlatPatなどの検索系で行います。

論点2は、発明の把握を助ける質問生成です。発明者へのヒアリング前に、AIに想定質問を作らせます。技術の骨格が曖昧なまま書き始めると、後から補正の幅が狭くなります。質問リストを事前に持っておくと、ヒアリングの密度が上がります。

論点3は、明細書の構成案です。特許法第36条は、願書に明細書、特許請求の範囲、必要な図面及び要約書を添付すること、明細書には発明の名称、図面の簡単な説明、発明の詳細な説明を記載することを定めています。構成の枠は法定なので、AIに考えさせる余地は小さい領域です。AIに任せるのは、実施形態をどこまで並べるかといった分量配分の相談にとどめます。

論点4は、用語の統一チェックです。明細書内で同じ概念に別の語が当てられている箇所を洗い出します。ここは生成AIが素直に効きます。人が読み返して見落とす表記ゆれを、機械的に拾えます。

論点5は、AI関連発明特有の記載充実です。学習データ、前処理、モデル構造、入出力の関係。この四点のうちどれかが薄いと、発明の詳細な説明としての記載が問われる場面が出てきます。AIには、薄い箇所を質問形式で指摘させます。書き足す内容は弁理士が判断します。

論点6は、外国出願を見据えた表現の点検です。日本語で自然な表現が、翻訳段階で意味の幅を広げてしまうことがあります。翻訳前に、曖昧さが残る表現をAIに指摘させると、後工程の手戻りが減ります。

論点7は、弁理士による最終確認です。AIが出した文章のうち、技術的事実、数値、引用文献、条番号は一つずつ人が確認します。とりわけ引用文献は、生成AIが実在しない文献を作り出す典型的な領域です。この確認工程を手順に固定しておくのが、七つの論点の中で最も重要です。

記載の抜けを洗い出すプロンプト例です。

あなたは特許明細書の記載充実を補助します。
以下の発明の詳細な説明の草稿を読み、AI関連発明として記載が薄いと思われる箇所を
質問形式で挙げてください。

観点:
- 学習データの種類と取得方法
- 前処理の内容
- モデルの構造と学習方法
- 入力と出力の対応関係

制約:
- 文章の加筆は行わないでください(人が書きます)
- 先行技術文献の番号や名称は出力しないでください
- 必ず質問の形で、12個以内に絞ってください

草稿:
(ここに匿名化した草稿を貼る)

用語統一を点検するプロンプト例です。

以下の明細書草稿から、同一と思われる概念に異なる用語が使われている箇所を抽出し、
表記ゆれの候補として一覧にしてください。

制約:
- どちらの用語に統一すべきかの判断は行わないでください
- 該当箇所の原文を、前後20文字とともに引用してください
- 新しい用語の提案は行わないでください

草稿:
(ここに匿名化した草稿を貼る)

どちらも、AIには指摘と抽出だけを担わせ、書くことと決めることは人が持つ設計になっています。特許庁が公表しているAI関連技術に関する特許審査事例の読み解きについては、AI発明の審査事例と明細書の書き方でも扱いました。

未公開の発明情報をAIに入れる前に決めること

結論を先に書きます。特許実務における生成AI利用の最大の論点は、出願前の発明情報が新規性を失う経路を作らないことです。弁理士の守秘義務と、発明の新規性という二つの軸が同時に走ります。

守秘義務の根拠は弁理士法第30条にあります。同条は、弁理士または弁理士であった者は、正当な理由がなく、その業務上取り扱ったことについて知り得た秘密を漏らし、または盗用してはならない、と定めています。条文は資格を失った後も同様の規律を置いています。未公開の発明内容は、この秘密の中核にあたる情報です。

実務で決めるのは三点です。一点目は、入力してよい情報の粒度です。発明の技術的な核心をそのまま入れるのか、抽象化した記述にとどめるのか。事務所として基準を一つ決めておかないと、担当者ごとに判断が割れます。二点目は、使用するサービスと契約形態です。各社の法人向けプランでは入力データの学習利用が既定でオフになっている旨が案内されていますが、プラン変更やユーザー追加のたびに設定が維持されているかを確認する運用が要ります。三点目は、依頼人への説明です。出願業務に生成AIを使う旨と使う範囲を、委任契約の段階で説明し、書面に残します。

日本弁理士会は弁理士業務におけるAI利活用のガイドラインを公表しています。事務所内のルールへどう落とすかは、弁理士業務AI利活用ガイドラインを事務所ルールにする手順で整理しました。ガイドラインをそのまま掲示しても運用は変わりません。入力してよい情報の類型、使ってよいサービス、最終確認の担当者。この三行を事務所規程に書くほうが、実際には守られます。

もう一つ、共同発明者や依頼人企業の社内規程との整合も確認対象です。企業によっては、外部のクラウドサービスへ未公開情報を出すこと自体に社内承認を求めている場合があります。弁理士側のルールだけ整えても、依頼人側の規程と食い違えば問題になります。受任時のヒアリング項目に、相手方のAI利用方針を一行加えておくと後が楽になります。

ありがちな3つの失敗

一つ目は、引用文献の創作です。生成AIに先行技術を尋ねると、実在しない文献番号がもっともらしい書式で返ってきます。この誤りは書式が整っているぶん見つけにくく、そのまま意見書に載ると信用を失います。回避策は単純で、文献番号をAIに出力させない制約をプロンプトに書き込むことです。

二つ目は、明細書の丸投げです。草稿全体をAIに書かせると、技術的には整っているが発明の核心が拡散した文章が出てきます。実施形態が平板に並び、どこが効果の源泉なのかが読み取れません。結果として、拒絶理由への応答で使える材料が減ります。中間応答をAIで組み立てる際の型については、拒絶理由への中間応答とAIの使いどころで扱いました。

三つ目は、体制の変化を追わないことです。特許庁のAI関連の施策ページは更新が続いています。AI担当官の増員もAIアドバイザーの新設も、ページ上の更新情報として告知されました(出典: 特許庁 AI関連発明に関する審査環境の整備について)。四半期に一度、特許庁のAI関連発明のページを確認する担当を決めておくだけで、情報の取りこぼしが減ります。

費用・工数・体制

生成AIの導入費用そのものは、事務所の規模に対して小さく収まります。主要な法人向けプランはユーザー単位の月額課金で、数千円の帯にあります。弁理士三名と事務員三名の事務所で全員分を契約しても、月額は数万円の範囲です。

工数面で効くのは、用語統一と記載の抜け出しです。一件の明細書について、これらを人が読み返す作業に一時間から二時間かかっていた事務所が、下書きの指摘をAIに任せることで半分程度まで縮めた例が報告されています。ここで挙げた数字は事務所ごとの前提に依存する概算であり、自事務所で数件を実測してから判断する進め方を勧めます。

体制の要点は、検証を担当者本人に閉じさせないことです。AIの指摘を受けて書き足した箇所は、別の弁理士が読む運用にすると、抜けの再発が減ります。小規模事務所で分担が難しい場合は、時間を空けて読み返す運用でも一定の効果があります。

今後の論点

出願状況調査が示すとおり、AI関連発明は技術分野をまたいで広がり続けています。弁理士の専門性も、特定分野の技術知識だけでは足りなくなります。機械や化学を主戦場にしてきた弁理士が、学習データや評価指標の書き方を押さえているかどうかが、受任の分かれ目になる場面が増えます。

もう一つの論点は、AIが生成した発明の扱いです。発明者の認定や、AIの寄与をどう記載するかは、国際的にも議論が続いている領域です。現時点では確立した実務が固まっているとは言えず、要確認の領域として扱うのが妥当です。特許庁のAI関連の施策ページと審査事例の更新を追いながら、依頼人へ説明できる範囲を都度更新していく姿勢が現実的です。特許庁が示す中長期の方向性については、特許庁のAIビジョンと弁理士の出願実務で整理しています。

よくある質問

AI審査支援チームはいつ発足したのですか

特許庁のページには令和3年1月20日の日付で公表されており、各審査部門の担当技術分野を超えて連携する組織として発足したと記載されています(出典: 特許庁 AI関連発明に関する審査環境の整備について)。その後、2023年10月1日付けで体制が強化されました。

AI担当官は何名いるのですか

特許庁の同ページによると、2023年10月1日付けでAI担当官を10名程度から40名程度に増員し、全ての審査室に1名ずつ配置する形になりました(出典: 特許庁 AI関連発明に関する審査環境の整備について)。最新の人数は同ページの更新情報で確認する運用が確実です。

AI関連発明の出願はどれくらい増えているのですか

特許庁の出願状況調査では、2023年のAI関連発明の特許出願件数は約11,400件、AIコア発明は約2,400件と報告されています(出典: 特許庁 AI関連発明の出願状況調査)。AI関連発明は2014年以降に急増し、AIコア発明は近年横ばいという対比が示されています。

明細書の草稿を生成AIに書かせてよいですか

禁止されているという話ではありません。ただし、未公開の発明情報を外部サービスへ渡す経路が生じるため、入力する情報の粒度と使用するサービスを事務所として先に決めておく運用が採られています。弁理士法第30条の守秘義務との関係が論点になります。

生成AIに先行技術文献を挙げさせてよいですか

実在しない文献番号が返る事例が知られているため、文献番号を出力させない制約をプロンプトに入れる運用が広がっています。検索は検索系のデータベースで行い、AIには検索語の候補出しを担わせる分担が安全です。

依頼人にAI利用を伝える必要がありますか

法令上の一律の定めがあるという話ではありませんが、委任契約の段階で説明し書面に残す事務所が増えています。後から発覚するより、使う範囲を明示したうえで弁理士が最終確認する運用を説明するほうが、関係を保ちやすくなります。

外国出願の戦略にこの調査は使えますか

使えます。特にAIコア発明の各国出願件数の推移は、どの国を押さえるかの議論の出発点になります。中国への出願件数が2023年に101,459件に達したという数字は、依頼人への説明で伝わりやすい材料です(出典: 特許庁 AI関連発明の出願状況調査)。

参考文献

※士業のチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴事務所の業務に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
https://shigyonochikara.jp/contact/

本記事の作成体制について

本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で、それぞれ確認したうえで記載しています。引用元は本文中および参考文献にすべて明示しています。

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