拒絶理由通知への中間応答をAIで組む 弁理士事務所の反論設計7工程

拒絶理由通知への中間応答に生成AIを組み込む7工程を解説。特許庁の最新統計をもとに、下ごしらえと判断の境界、特許法17条の2との関係、段落番号の混入など事故の3類型を整理します。

拒絶理由通知への中間応答をAIで組む 弁理士事務所の反論設計7工程

中間応答とは、拒絶理由通知に対して意見書と補正書で応答する手続のことです。

一次審査通知が届いてから応答期限までの間に、事務所の中で何が起きているか。特許庁の公表資料によると、2025年度の特許審査における審査請求から一次審査通知までの期間は9.4月、2025年の特許査定率は76.5%でした(出典: 特許庁 特許行政年次報告書2026年版、2026年7月)。本記事では、拒絶理由通知への中間応答の下ごしらえに生成AIを噛ませる7工程と、弁理士が最終判断を握り続けるための設計を扱います。本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で確認しています。

中間処理の負荷が事務所に集中する構造

中間応答の負荷が事務所に集まるのは、出願件数の増加分がそのまま応答件数として跳ね返るからです。応答は期限のある作業であり、平準化ができません。

特許庁の公表資料によると、2025年の日本国特許庁への特許出願件数は前年比16.8%増の358,317件で、2020年以降の横ばい傾向から転じました(出典: 特許庁 特許行政年次報告書2026年版)。同資料では、2025年度の特許審査における審査請求から権利化までの期間は13.2月とされています(出典: 同資料)。出願が増えれば、時間差を置いて中間処理の山が来ます。

中間応答の作業は、引用文献を読み込み、本願発明との差異を抽出し、補正の余地を探り、意見書の論理を組み立てるという流れになります。このうち前半の読み込みと差異の抽出は、量が多く定型に近い部分です。後半の補正方針と反論の骨格は、権利範囲の判断そのものであり、弁理士の中核業務にあたります。生成AIを入れるとしたら、この境界のどちら側に置くかが設計の全てになります。

制度の枠組みは特許法第50条に置かれています。同条は、審査官が拒絶をすべき旨の査定をしようとするときに、特許出願人に対して拒絶の理由を通知し、相当の期間を指定して意見書を提出する機会を与えることを定めています。補正の範囲については特許法第17条の2が、拒絶理由の通知を受けた後の補正について場合を限定する規定を置いています。応答の設計は、この2つの条文が作る枠の中で行われます。

職能団体の側では、日本弁理士会が弁理士業務におけるAIサービスの利用に関するガイドラインを公表しています。ガイドライン本体の読み解きは弁理士業務AI利活用ガイドラインを読む 事務所の運用に落とす7つの論点で扱ったので、本記事は中間応答という個別業務に絞ります。

事務所の規模による事情の差もあります。少人数の事務所では、下ごしらえと判断を同じ弁理士が続けて行うため、工程の分割そのものが新しい発想になります。一定規模の事務所では、すでに補助者との分業が成立しているため、その分業のどこにAIを差し込むかという議論に近くなります。同じ7工程でも、どこが変化点になるかは事務所ごとに違います。

拒絶理由通知への中間応答をAIで組む7工程

結論として、AIに任せるのは通知と引用文献の構造化までで、補正方針の決定から先は弁理士が握ります。理由は、補正の可否が権利範囲の設計そのものであり、後戻りができない判断だからです。

工程1 通知の記載を要素に分解する

拒絶理由通知を、条文の根拠、対象となる請求項、引用文献の番号、審査官の認定した一致点と相違点の4要素に分解します。この分解は機械的な作業で、AIに任せられます。分解した結果は、後の全工程の共通の土台になります。

分解の粒度は、後で機械的に突き合わせられる細かさに揃えます。請求項1の構成要件をA・B・Cと符号で分け、審査官がどの符号に引用文献のどの記載を対応づけたかまで落とすと、工程3以降が一気に楽になります。ここを粗くすると、後の全工程で読み直しが発生します。

工程2 引用文献の該当箇所を抽出する

引用文献のどの段落が、どの請求項のどの構成要件に対応づけられているかを表ではなく箇条書きで並べます。文献が複数ある場合、組み合わせの論理が通知のどこに書かれているかも拾います。ここで抽出漏れがあると、後の反論が的を外します。

工程3 本願と引用文献の差異を列挙させる

本願明細書と引用文献を突き合わせ、構成上の差異と作用効果の差異を分けて列挙させます。この段階では優劣を判断させず、差異の候補を広く出させます。弁理士が読むのは、この候補リストです。

工程4 補正方針を弁理士が決める

ここから先は人が握ります。補正するのかしないのか、するならどの記載を根拠にどの請求項をどう限定するのか、新規事項の追加にならない範囲はどこまでかを決めます。特許法第17条の2が定める補正の制限との関係も、この工程で確認します。AIに補正案を作らせて後から検証する順序は、明細書に根拠のない補正案に引きずられるため避ける設計が採られています。

工程5 反論の骨格を人が書き、肉付けをAIに任せる

意見書の論理構成は弁理士が箇条書きで書き、その骨格を文章化する部分だけをAIに渡します。逆にすると、文章の流れに合わせて論理が捻じ曲がります。骨格には、審査官の認定のどこを争うのか、争わない部分はどこかを明示します。

工程6 事実の裏取りを独立して回す

出来上がった意見書の下書きについて、引用文献の段落番号、本願明細書の段落番号、条番号がすべて実在するかを別の担当が確認します。段落番号の取り違えは、生成AIを使った場合に特有の混入の仕方をします。

意見書の文体は事務所ごとに癖があり、AIの出力をそのまま使うと文体が揺れます。過去に提出した意見書を数本渡して文体を合わせる指示を加えると、揺れは小さくなります。ただし過去の意見書には出願人の技術内容が含まれるため、渡す前に匿名化するか、公開済みの案件に限る運用を先に決めておきます。

工程7 応答後の記録を次に回す

提出した意見書と、審査結果を組で記録します。どの反論の型が通り、どの型が通らなかったかを技術分野ごとに蓄積すると、工程3の候補リストの読み方が変わります。事務所の資産になるのはこの記録のほうです。

工程1から工程3までの下ごしらえは、1本のプロンプトにまとめられます。

あなたは特許事務所の補助者です。以下の拒絶理由通知と引用文献から、
中間応答の下ごしらえとなる整理を作成してください。
補正案・反論の方針・見通しの評価は書かないでください。整理だけを行ってください。

【入力】
拒絶理由通知の全文、引用文献1〜n、本願明細書と請求の範囲(いずれも添付)

【出力】
1. 通知の分解: 条文の根拠 / 対象請求項 / 引用文献番号 / 審査官の認定した一致点・相違点
2. 引用文献の対応箇所: 請求項の構成要件ごとに、引用文献のどの段落が対応づけられているか
3. 本願と引用文献の差異候補: 構成上の差異と作用効果の差異を分けて、優劣を判断せず列挙
4. 明細書中で補正の根拠になりうる記載の所在(段落番号のみ。補正案は作らないこと)
5. 通知の記載から読み取れない事項、確認が必要な事項

裏取りは別セッションで独立して回します。同じ文脈で確認させると、自分の出力を追認します。

あなたは事実確認の担当です。以下の意見書の下書きについて、主張の当否は一切評価せず、
参照の正確さだけを確認してください。

【チェック項目】
1. 引用文献の段落番号が、添付の引用文献に実在するか
2. 本願明細書の段落番号が、添付の明細書に実在するか
3. 引用した条番号が実在し、条見出しが記載と一致するか
4. 数値・実施例の記載が原典と一致しているか

【出力】
- 実在しない参照: (箇条書き。無ければ「なし」)
- 原典と不一致の記載: (箇条書き。無ければ「なし」)
- 判定: 差し戻し / 弁理士確認へ

7工程のうち、AIが担うのは工程1から工程3と工程5の後半だけです。分量で見れば作業時間の多くを占めますが、判断の量で見ればごく一部にとどまります。この比率を事務所内で共有しておくと、AIを入れることへの抵抗も、逆に過度な期待も、どちらも小さくなります。

出願人情報をAIに入れる前に決める3つのこと

先に決めるのは、未公開の出願情報をどこまで外部のサービスに出すかです。中間処理の対象になる出願は、公開前のものも公開後のものも混在します。

弁理士法第30条は、弁理士または弁理士であった者が、正当な理由なく業務上取り扱ったことについて知り得た秘密を漏らし、または盗用することを禁じる規定を置いています。未公開の技術内容は、この条文が想定する秘密の中核にあたる情報です。

第1に、公開前後で入力の可否を分ける運用が採られています。公開後の出願であれば公報が公になっているため、引用文献と公報の突き合わせに外部サービスを使う判断の余地があります。未公開の出願については、外部への送信を行わない構成に限定する、あるいは入力自体を行わないという線を引く事務所があります。日本弁理士会の弁理士業務におけるAIサービスの利用に関するガイドラインも、こうした判断の材料を示しています。

第2に、ツール側の学習利用の設定を契約単位で確認します。Anthropicの商用利用規約やOpenAIのエンタープライズプライバシーの説明が一次情報になります。所内で個人アカウントの併用を許すと前提が崩れるため、権限設計と合わせて決めます。所内の階層設計は士業事務所の生成AI権限設定 有資格者と補助者で分ける5階層のルールにまとめています。

第3に、利益相反の確認手順にAIの利用履歴を組み込むかを決めます。弁理士法第31条は、弁理士が業務を行い得ない事件について定めを置いています。同一のツールに複数の出願人の技術内容を入力する運用では、履歴の管理が事務所内の確認手順と噛み合っているかを見ておく形が現実的です。出願人への説明については、委任契約や業務の説明書面に、生成AIを補助的に利用する範囲と最終判断を弁理士が行う旨を書き添える運用が採られています。

あわせて、外国出願の中間処理をどう扱うかも決めておきます。現地代理人とのやり取りが英語で、しかも期限管理が国ごとに違う領域です。翻訳や要約でAIを使う場面が増えますが、現地の法制に関する判断を含む部分は、現地代理人の意見が一次情報になります。翻訳の補助と法的判断を混ぜない線引きが、国内案件以上に問われます。

中間応答でAIが事故を起こす3つの型

第1の型は、段落番号の混入です。引用文献の段落番号として存在しない番号が意見書に載ります。文章としては自然なため、読み流すと気づきません。工程6で参照の実在を機械的に確認するのは、この型を潰すためです。

第2の型は、明細書に根拠のない補正です。AIに補正案を作らせると、明細書のどこにも書かれていない限定を提案してきます。特許法第17条の2が定める補正の制限との関係で、そのまま出すと手続上の問題が生じます。工程4を人が握る設計にしているのは、この型を発生させないためです。

第3の型は、反論の一般化です。AIが書いた意見書は、その技術分野で通用する一般論に流れやすく、審査官の具体的な認定に噛み合いません。骨格を人が書く工程を残すのは、争点を通知の記載に固定するためです。明細書のドラフト段階での品質管理は特許明細書のAIドラフト 弁理士が新規性喪失を防ぐ品質管理7工程で扱いました。

3つとも、AIの性能向上で自動的に消える型ではありません。どこに人を置くかの設計で消える型です。

事故を早期に見つける仕掛けとして、意見書の提出前に下書きの版数と、どの工程でAIを使ったかを案件ファイルに残す運用があります。後から問題が見つかったときに、どの工程を直せばよいかが特定できます。記録が無いと、AIのせいなのか担当者の見落としなのかが判別できず、改善が個人の反省で終わります。

費用・工数と体制の見立て

費用面では、生成AIのライセンスより、引用文献と明細書をAIが読める形に整える作業の工数が支配的です。特許事務所では出願書類がPDFで蓄積されている場合が多く、段落番号を保ったまま読み込ませる前処理に手間がかかります。ここを整えると、中間応答以外の業務にも転用できます。

工数の削減が出やすいのは工程1から工程3で、引用文献が複数ある案件ほど効きます。逆に、引用文献が一本で争点が明確な案件では、下ごしらえの時間がもともと短いため効果は限定的です。全案件に一律に適用するより、引用文献の本数で振り分ける運用のほうが実利があります。

体制としては、下ごしらえを補助者、判断を弁理士という分担が基本形です。ここで注意したいのは、補助者が下ごしらえを通じて技術と論理を学ぶ機会が、AIに置き換わると失われる点です。事務所の3年後を考えると、下ごしらえの結果を補助者が読み直す工程を残す設計にも合理性があります。導入効果を数字で測る手順はAI導入の年間削減時間をどう検証するか 税理士事務所の測定7手順の考え方がそのまま使えます。

測定するときは、下ごしらえの時間だけでなく、弁理士が下書きを読み直した時間も合わせて記録します。下ごしらえが速くなっても、読み直しに時間がかかっていれば事務所全体では変わりません。中間処理は案件ごとの難度差が大きいため、引用文献の本数と請求項の数を件数と一緒に記録しておくと、比較の条件が揃います。

中間応答の次に来る論点

次に問われるのは、審査結果の蓄積をどう資産化するかです。工程7で記録した反論の型と結果の組は、事務所の中に閉じている限り件数が足りません。技術分野ごとに意味のある傾向を出すには、相当量の蓄積が要ります。事務所の規模によっては、この部分だけ外部の統計に頼る判断もあり得ます。

もう1つは、審査官の側でもAIによる先行技術調査が進むと、引用の粒度が変わる可能性です。特許庁の公表資料によると、2025年度の特許審査のFA期間は9.4月で、審査の迅速化が続いています(出典: 特許庁 特許行政年次報告書2026年版)。応答側の下ごしらえだけを速くしても、争点の質が変わればやり方の見直しが要ります。

事務所として持っておきたいのは、AIで速くなった分をどこに再投資するかの方針です。件数を増やすのか、一件あたりの検討を厚くするのか、出願前の相談に時間を回すのか。ここを決めずに速くすると、単価の下落だけが残ります。

よくある質問

拒絶理由通知への応答をAIに任せてよいですか

下ごしらえと文章化に限定する運用が採られています。補正方針の決定と反論の骨格は権利範囲の判断そのものであり、弁理士が握る設計が一般的です。応答の名義と責任は弁理士にあります。

補正案をAIに作らせるのは避けるべきですか

明細書に根拠のない限定を提案してくる事例が知られているため、補正の根拠になりうる記載の所在だけを出させ、案そのものは弁理士が作る順序を採る事務所があります。案を先に見ると、その案に引きずられます。

未公開の出願をAIに入力してよいですか

事務所として先に決めておく論点です。公開前後で入力の可否を分ける、外部送信を行わない構成に限定する、といった線引きが取られています。弁理士法第30条が秘密を漏らすことなどを禁じる規定を置いており、未公開の技術内容はその中核にある情報です。

段落番号の間違いはどう防げますか

出力の段階で完全に防ぐ手立ては公開されていません。意見書の下書きと引用文献を突き合わせ、参照の実在だけを確認する工程を独立して置く設計が現実的です。主張の当否を見る工程と分けると、確認が速くなります。

どの案件でAIを使うと効果が出やすいですか

引用文献が複数あり、対応づけの整理に時間がかかる案件です。引用文献が一本で争点が明確な案件では、もともと下ごしらえが短いため効果は限定的になります。

事務所の記録は何を残せばよいですか

提出した意見書と審査結果を組にして残す形が有効です。どの反論の型が通ったかを技術分野ごとに蓄積すると、差異候補の読み方が変わります。件数が少ないうちは傾向として読めない点には留意が要ります。

補助者の育成にどう影響しますか

下ごしらえを通じた学習の機会が減る構図があります。AIの出力を補助者が読み直し、なぜその整理になるかを検討する工程を残す設計に合理性があります。速さと育成のどちらを優先するかは、事務所の方針として決める論点です。

参考文献

なお、出願件数・特許査定率・FA期間の数値は特許庁の特許行政年次報告書2026年版(2026年7月公表)によります。同庁サイトは自動取得を制限しているため、本記事ではリンクを付けず出典表記のみとしています。

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本記事の作成体制について

本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で、それぞれ確認したうえで記載しています。引用元は本文中および参考文献にすべて明示しています。

本記事には特定の資格者による監修は入っていません。個別の事案について法令の当てはめや手続の可否を判断する必要がある場合は、当該分野の有資格者にご相談ください。本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別具体的な法律判断・税務判断・労務判断を提供するものではありません。

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