JICPA、デジタル監査証拠の研究文書15号を公表 AI-OCRなど8技術

JICPAが2026年10月13日に公表したデジタル監査証拠の研究文書第15号を解説。スキャナ保存やAI-OCRなど8技術の論点、自動化バイアス、旧文書の廃止と事務所の初動を整理します。

JICPA、デジタル監査証拠の研究文書15号を公表 AI-OCRなど8技術

JICPAは10月13日、デジタル監査証拠に関する研究文書を公表しました。

日本公認会計士協会(JICPA)のテクノロジー委員会が、テクノロジー委員会研究文書第15号「デジタル監査証拠に関する研究文書」を公表しました。スキャナ保存、電子契約、クラウド、AI-OCRなど8つの技術領域ごとに、監査上の影響と留意点を整理した文書です。同時に、従来の「電子的監査証拠に係る研究文書」は廃止されました。本記事は士業のチカラ編集部が、JICPAの公表ページと研究文書本文という一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文には触れていません。

ノートパソコンに表示された分析ダッシュボード。監査でのデータアナリティクス活用のイメージ

デジタル監査証拠の研究文書15号、公表の事実関係

JICPAの公表ページによると、本研究文書は2026年10月7日の常務理事会の承認を受けて公表されました。添付は前書文と本文のPDFで、本文は目次を除いて36ページの構成です。

前書文では、企業の業務のデジタル化が財務報告に関連する内部統制にも及び、財務諸表監査や内部統制監査に影響しうるという問題意識が示されています。そのうえで、デジタル化された監査証拠について会員の理解を促すため、具体的な事例を示すことが目的とされています。

同じ日に、監査基準報告書500研究文書第1号「電子的監査証拠に係る研究文書」の廃止のお知らせも掲載されました。廃止日は2026年10月7日で、第15号の公表と同日付です。旧文書を研修資料や事務所内のマニュアルで参照している場合は、参照先を見直す場面が出てきます。

研究文書本文の冒頭では、本文書が一般に公正妥当と認められる監査の基準を構成するものではなく、会員が遵守すべき基準等とも位置付けられていない旨が明記されています。内容は2026年8月31日時点の情報に基づくとされています。

8つの技術領域と、AIに関する記述

本文は、スキャナ保存、電子署名・電子契約書と暗号化技術、ワークフローシステム、EDIシステム、ブロックチェーン、クラウドサービス、残高確認状の電子化、テクノロジー・ツールの8領域で構成されています(出典: 研究文書本文PDF)。各領域とも「環境変化・新技術の登場」「事例」「監査上の影響局面」「留意すべき事項」「参照すべき基準等」の5項目を並べる形式です。

士業×AIの観点で注目されるのは、最後のテクノロジー・ツールの章です。事例として、データアナリティクス、プロセスマイニング、AI-OCRが挙げられています。AI-OCRについては、証憑から契約金額や納品日などの項目を抽出し、会計システムのデータと全件突合する使い方が紹介されています。一方で、証憑の誤読のリスクは残るため、突合結果のレビューは欠かせないとしています。

同じ章では「自動化バイアス」にも触れています。ツールが出した結果を無批判に受け入れてしまう傾向のことです。AIが「リスクなし」と判定した場面で、監査人が深掘りを怠る危険が例として示されています。軽減策としては、経験のあるメンバーや専門的な知識を持つメンバーの関与、脆弱性が高まりやすい状況のチーム内共有が挙げられています。

残高確認状の電子化の章では、電子署名、タイムスタンプ、多要素認証を活用した確認の仕組みが取り上げられています。監査人、被監査会社、確認先が同じクラウド上でやり取りする形態です。

士業事務所にとっての論点

影響が最も大きいのは、公認会計士と監査法人です。研究文書は基準ではありませんが、監査チームの研修や監査調書の様式を見直す際の参考資料になります。AI-OCRやデータアナリティクスを監査に組み込んでいる事務所では、自動化バイアスへの対応を手続にどう織り込むかが論点になります。

税理士や、記帳代行・経理支援を担う事務所にも関係します。顧問先の証憑がスキャナ保存や電子契約に移るほど、監査人から求められるデジタル証憑の形式や保存状態も変わってくるためです。スキャナ保存や電子署名の章は、顧問先のペーパーレス化を支援する際の確認事項の参考になります。

AIツールやクラウドに証憑データを載せる場面では、守秘義務との関係も論点になります。顧問先や被監査会社のデータをAI-OCRやクラウド型の突合ツールに入力する前に、入力データの学習利用の有無、保存場所、アクセス権限を契約書と事務所規程で確認しておく方法があります。研究文書のクラウドサービスの章でも、利用状況と統制の評価可能性を事前に検討する重要性が示されています。

今後の展望・初動アクション

研究文書は、IAASB(国際監査・保証基準審議会)がテクノロジーの発展に伴う基準改訂や新たなガイダンスの要否を継続的に議論していることにも触れています。国際的な議論の進展に応じて、国内の実務指針が動く可能性があります(時期は要確認)。

事務所の初動としては、次のような対応を採るところがあります。

  • 旧「電子的監査証拠に係る研究文書」を参照している研修資料やマニュアルの洗い出し
  • 監査で使うAI-OCRや分析ツールについて、出力のレビュー手順が文書化されているかの確認
  • 顧問先のスキャナ保存・電子契約の導入状況の棚卸し
  • AIツールやクラウドに入力するデータの範囲と、守秘義務に関する事務所規程の照合

JICPAテクノロジー委員会の一連の発信は、研究文書第14号のデータアナリティクスの論点や研究文書第13号のオープンデータの論点とあわせて読むと整理しやすくなります。

まとめ

JICPAは2026年10月13日、テクノロジー委員会研究文書第15号「デジタル監査証拠に関する研究文書」を公表しました(出典: JICPA)。8つの技術領域ごとに監査上の影響と留意点を整理し、AI-OCRの誤読リスクや自動化バイアスにも触れています。旧研究文書は同日付で廃止されたため、参照資料の差し替えから着手する段階です。

参考文献

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引用元: 日本公認会計士協会

本記事の作成体制について

本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で、それぞれ確認したうえで記載しています。引用元は本文中および参考文献にすべて明示しています。

本記事には特定の資格者による監修は入っていません。個別の事案について法令の当てはめや手続の可否を判断する必要がある場合は、当該分野の有資格者にご相談ください。本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別具体的な法律判断・税務判断・労務判断を提供するものではありません。

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