育成就労制度とは、技能実習に代わり2027年4月に始まる人材育成の在留制度のことです。
施行までに何を準備し、そのうちどこを生成AIに任せられるのか。育成就労制度は2027年4月1日に始まり、技能実習の受入れは新規の枠組みへ切り替わります。本記事では、行政書士と社会保険労務士が受入企業の支援体制を組むときの工程を7つに分け、AIを噛ませてよい範囲と有資格者が握る範囲を整理します。本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で確認しています。
施行日と経過措置 2026年のうちに動く申請スケジュール
まず日程から押さえます。出入国在留管理庁の育成就労制度Q&Aによれば、根拠となる令和6年法律第60号の施行日は令和9年4月1日、すなわち2027年4月1日です。同日から育成就労制度の運用が始まります。
施行を待たずに動く手続があります。出入国在留管理庁の施行日前申請のページは、令和8年4月15日から監理支援機関の許可、同年9月1日から育成就労計画の認定に係る施行日前申請を外国人技能実習機構で受け付ける予定と案内しています。西暦に直すと、監理支援機関の許可申請は2026年4月15日から、育成就労計画の認定申請は2026年9月1日からです。つまり、受入企業側の準備は2026年のうちに始まります。
経過措置も同じQ&Aで案内されています。施行後も技能実習を継続できるのは、令和9年4月1日の時点で既に来日している技能実習生、または令和9年3月31日までに技能実習計画の認定の申請がなされ、原則として施行日から起算して3か月を経過するまでに技能実習を開始する技能実習生とされています。加えて、施行日時点で1号技能実習を行っている実習生が2号へ移行すること、2号を1年以上行っている実習生が3号へ移行することも可能とされています。
制度の細部は段階的に固まってきました。出入国在留管理庁の育成就労制度のページの更新情報を見ると、2026年1月に分野別運用方針が閣議決定され、2026年2月に運用要領が掲載された後、介護、建設、農業、外食業、鉄道、自動車整備、工業製品製造業、ビルクリーニング、リネンサプライ、木材産業、資源循環、物流倉庫といった分野ごとの上乗せ基準告示や分野別運用要領が順次追加されています。制度概要のPDFも令和8年7月改訂版が公開されました。
この積み上がり方が、士業側の実務に直結します。分野ごとに基準が異なるため、顧問先の属する分野の告示と運用要領を個別に確認する作業が発生するからです。分野の数だけ確認対象が増えるので、複数分野の顧問先を抱える事務所ほど、確認作業の設計が効いてきます。
受入企業の支援体制を組む7工程 AIに任せる範囲と握る範囲
結論から書くと、生成AIに任せられるのは資料の突き合わせと候補の列挙までで、分野別基準の適用判断と申請書類の最終確認は有資格者が握る構成にすると運用が安定します。7工程に分けて整理します。
第1工程は、顧問先の棚卸しです。技能実習生を受け入れている顧問先を、分野・人数規模・現在の在留資格・技能実習計画の認定時期で一覧化します。経過措置の適用可否は認定申請の時期で変わるため、この一覧が後の全工程の土台になります。作業は補助者が担えますが、抽出条件は有資格者が設計します。
第2工程は、分野別基準の収集です。顧問先が属する分野の上乗せ基準告示と分野別運用要領を、出入国在留管理庁の制度概要・関係法令のページと運用要領のページから集めます。ここは分野が増えるほど量が膨らむので、集めるところまでを機械的に済ませ、読み込みに時間を残す設計にします。
第3工程は、要件の一覧化です。集めた資料から、受入企業に求められる体制上の要件を項目として抜き出します。生成AIが役に立つのはこの工程です。PDFから項目を抜き出す作業は機械的で、誤りが起きても人の確認で拾えます。ただし、抜き出した項目が漏れていないかの確認は原文に戻って行います。
第4工程は、顧問先の現状との差分把握です。第3工程の要件一覧と、第1工程で棚卸しした顧問先の現状を突き合わせ、足りない体制を洗い出します。ここで出てくるのは、社内の相談体制、日本語学習の機会の提供、記録の保存といった、実際に人と時間を割く必要がある項目です。
第5工程は、スケジュールの逆算です。育成就労計画の認定に係る施行日前申請の受付が2026年9月1日から始まることを踏まえ、顧問先ごとに着手時期を割り付けます(日程の出典は施行日前申請のページ)。監理支援機関を通す形をとるか、自社で体制を組むかによって、必要な期間が変わります。
第6工程は、書類作成と有資格者の確認です。在留諸申請に関する書類の作成は行政書士の業務範囲に関わるため、誰が作るかを最初に決めておきます。報酬を得た書類作成の制限については、2026年1月に施行された改正で趣旨が明確化されました。詳しくは改正行政書士法19条1項の報酬要件 AI時代の書類作成で確認する6論点で整理しています。
第7工程は、記録です。どの資料のどの版に基づいて判断したかを残します。分野別の告示が順次追加されている段階なので、半年前の判断が最新の基準と食い違う可能性があります。判断の根拠となった資料の公開日を記録しておくと、後から差分だけを追えます。
第3工程で使えるプロンプトの例を挙げます。顧問先を特定できる情報は入れず、公開資料のみを対象にしています。
あなたは公開資料の整理を補助するアシスタントです。法的な結論は出さず、記載事項の抜き出しだけを行ってください。
対象:
(ここに公開されている運用要領・告示の該当箇所を貼る)
依頼:
1. 受入れ側の企業に求められる体制上の要件を、箇条書きで抜き出してください。
2. 各項目について、原文のどの見出しの下にあったかを併記してください。
3. 原文に書かれていない内容を補わないでください。推測は必ず除いてください。
4. 抜き出せなかった箇所があれば、その旨を末尾に列挙してください。
第4工程の差分把握を補助するプロンプトの例も示します。
以下の2つのリストを突き合わせ、差分を出力してください。
リストA(求められる体制の項目):
(第3工程の出力を貼る)
リストB(現状の体制。架空の設定):
- 相談窓口: 総務担当者1名が兼務
- 日本語学習: 外部教材の貸与のみ
- 記録: 出勤簿と給与台帳のみ保管
出力形式:
- リストAにあってリストBに無い項目
- リストBにあるが内容が薄いと読める項目
- 判断できない項目(情報不足)
条件:
- 適否の結論は書かないでください
- 判断できない項目は、無理に分類せず情報不足として出してください
どちらのプロンプトも、AIに結論を出させず、人が確認すべき箇所を漏れなく拾わせる使い方です。制度が固まりきっていない段階では、AIの学習データに最新の告示が入っていない可能性が高いので、原文を貼って読ませる形に限定するのが安全です。記憶で答えさせると、旧制度の技能実習の要件が混ざります。
7工程を通すと、生成AIが関与するのは第3工程と第4工程、それに第1工程の一覧化に限られます。有資格者の関与は第2工程の資料選定、第4工程の差分の解釈、第6工程の書類確認に集中します。この配分を先に決めておけば、施行が近づいて案件が立て込んだときにも、確認工程が削られる事態を避けられます。
工程を回すうえで効いてくるのが、第3工程の出力形式をそろえておくことです。要件を抜き出すときに、項目名・原文の見出し・出典資料の公開日という3つの列を毎回そろえておくと、分野が増えても一覧の形が崩れません。分野ごとにばらばらの形式で抜き出すと、後で横並びに見られなくなり、顧問先が複数分野にまたがったときに突き合わせができなくなります。
もう1つ、第4工程の差分把握では、判断できない項目を無理に分類させないことが重要になります。情報不足のまま分類させると、AIは不足を補って断定的な出力を返します。情報不足という第3の選択肢を用意しておけば、追加ヒアリングが必要な項目が自動的に浮かび上がり、顧問先への質問リストがそのまま出来上がります。この質問リストは、第5工程のスケジュール割り付けにもそのまま使えます。
第6工程の書類作成については、下書きの生成そのものより、提出前の突き合わせにAIを使うほうが効果が出ます。記載事項の抜けや、複数書類間で数値や日付が食い違っていないかの照合は機械的な作業であり、人が目視で行うと見落としが出やすい領域です。ただし、照合の結果として何を直すかの判断は有資格者が行います。
顧問先の外国人材データをAIに入れる前に決める4つのこと
育成就労の支援では、外国人材の氏名、国籍、生年月日、在留カード番号、技能実習計画の認定番号といった情報を扱います。いずれも特定性が高く、入力先の構造を確認せずにクラウドのAIサービスへ投入する運用は避けたいところです。
行政書士法第12条は、行政書士について、正当な理由がなくその業務上取り扱った事項について知り得た秘密を漏らしてはならないと定めています。同法第19条の3は使用人その他の従業者にも同趣旨の義務を定めています。社会保険労務士については社会保険労務士法第21条が、正当な理由がなくて業務に関して知り得た秘密を他に漏らし、または盗用してはならないと定めています。補助者が作業する場面でも、これらの条文が及ぶ範囲は変わりません。
決めておきたい1つ目は、入力してよい情報の範囲です。分野、人数規模、在留資格の種類、認定の時期といった構造情報だけを残し、氏名や在留カード番号は入力対象から外す運用を採る事務所があります。第3工程と第4工程は構造情報だけで回せるため、この線引きでも作業は成立します。個人情報保護委員会は生成AIサービスの利用に関する注意喚起を公表しており、入力内容と利用目的の関係を確認する視点が示されています。
2つ目は、使用するツールの契約形態です。無料版と業務用契約でデータの扱いが異なることが多く、Anthropicは商用向けサービスにおける学習利用の扱いを公式のプライバシーセンターで説明しています。事務所が実際に契約している形態のドキュメントを確認したうえで、所内で使えるツールを列挙します。プロンプトに個人情報を入れる前の判断軸はプロンプトに個人情報を入れる前に 士業事務所が決める運用ルール7項目で整理しています。
3つ目は、顧問先から預かるファイルの扱いです。技能実習計画の認定通知や在留カードの写しをそのままアップロードする操作は、意識せずに行われがちです。ファイルには本文以外に作成者情報や編集履歴が残っていることがあり、テキストを貼り付ける場合と含まれる情報量が違います。アップロード機能を使う場面を棚卸しし、許可する範囲を限定しておくと、確認の対象が有限になります。
4つ目は、誰がどの工程を担うかです。資料の収集と項目の抜き出しは補助者、分野別基準の適用と書類の最終確認は有資格者、という分け方が現実的です。階層ごとの権限設計は士業事務所の生成AI権限設定 有資格者と補助者で分ける5階層のルールで整理しています。
施行前の支援でつまずく3つの失敗と回避策
1つ目の失敗は、生成AIに制度の内容を記憶で答えさせてしまうことです。育成就労は分野別の告示が2026年に入ってから順次追加されており、モデルの学習時点によっては旧制度の技能実習の要件を返します。回避策は、原文を貼って読ませる形に限定し、記憶での回答を求めないことです。制度名が近い旧制度が存在する場合、混同は特に起きやすくなります。
2つ目の失敗は、経過措置の適用可否を一律で判断してしまうことです。継続の可否は技能実習計画の認定申請の時期と、実際に技能実習を開始する時期で分かれます。顧問先ごとに日付を確認しないまま、一律に切り替えが必要と案内すると、不要な手続を勧めることになります。判断の基準は育成就労制度Q&Aに案内があるため、原文に当てて確認します。
3つ目の失敗は、顧問先への案内を口頭だけで済ませることです。担当者が交代すれば内容は消えます。一次情報のURLを添えた短い文書を渡し、社内で共有できる形にしておくほうが残ります。制度が動いている時期は、案内した時点の資料の版も併記しておくと、後で差分を説明しやすくなります。
4つ目として挙げておきたいのが、要件一覧を一度作って更新を止めてしまうことです。分野別の告示は追加が続いており、半年前に作った一覧が現在の基準と食い違う可能性があります。回避策は、一覧に出典資料の公開日を列として持たせ、更新確認の日付も記録することです。どの項目がいつ確認されたものかが分かれば、全件を作り直さずに差分だけを追えます。
これらの失敗はいずれも、制度が動いている時期に特有のものです。施行後に基準が安定すれば影響は小さくなりますが、それまでは版管理と記録の設計が支援の品質を決めます。
施行までの工数と体制 分野の数で見積もる
費用面では、生成AIの利用料そのものより、分野別資料の読み込みにかかる時間のほうが大きくなります。顧問先が1分野に集中している事務所と、複数分野にまたがる事務所では、必要な工数が変わります。分野の数を先に数え、1分野あたりの読み込みと要件整理にかかる時間を実測してから、全体を見積もる順序が現実的です(分野別資料の所在は制度概要・関係法令のページから辿れます)。
初期の工数は3つに分かれます。第一に、顧問先の棚卸しと分野の特定。第二に、分野別資料の収集と要件一覧化。第三に、顧問先ごとの差分把握と案内文の作成です。第二の作業は分野の数に比例して増えるため、生成AIで抜き出しを機械化する効果が最も出ます。
運用の持ち手も決めます。制度資料の追跡は担当者を1名決めて育成就労制度のページの更新情報を定期的に確認し、顧問先への案内は担当ごとに割り振る形をとる事務所があります。更新が続いている時期なので、確認の頻度を月次以上にしておくと、告示の追加を見落としません。
社会保険労務士との連携も工数に影響します。受入後の労務管理、社会保険の適用、相談体制の整備は労務側の領域と重なるため、どちらがどこを持つかを先に決めておくと、顧問先が同じ質問を両方に投げる無駄が減ります。
施行まで残り半年強 いま論点になっていること
第一の論点は、分野別基準の追加がいつ止まるかです。2026年に入って告示が順次追加されている状況では、要件一覧を作っても更新が必要になります。一覧を作りっぱなしにせず、資料の公開日を添えて版管理する運用が要ります。
第二の論点は、監理支援機関を通す形と自社で体制を組む形の選択です。施行日前申請の受付が監理支援機関の許可から先に始まる構造になっているため、監理支援機関側の準備状況が受入企業のスケジュールに影響します。顧問先が既存の監理団体と関係を持っている場合、その団体が許可を取る見込みかどうかを早めに確認しておくことになります。
第三の論点は、士業側の役割分担です。在留手続と労務管理が同時に動くため、行政書士と社会保険労務士のどちらかだけでは支援が完結しません。事務所として両方を扱えないなら、連携先を先に確保しておくほうが、施行直前の駆け込みに対応できます。
よくある質問
育成就労制度はいつから始まりますか
2027年4月1日からです。出入国在留管理庁の育成就労制度Q&Aは、根拠となる令和6年法律第60号の施行日が令和9年4月1日である旨を案内しています。
施行前にできる手続はありますか
あります。施行日前申請のページは、令和8年4月15日から監理支援機関の許可、同年9月1日から育成就労計画の認定に係る施行日前申請を外国人技能実習機構で受け付ける予定と案内しています。
いま技能実習生を受け入れている企業はどうなりますか
一律ではありません。育成就労制度Q&Aは、施行日時点で既に来日している技能実習生、または令和9年3月31日までに技能実習計画の認定の申請がなされ、原則として施行日から起算して3か月を経過するまでに技能実習を開始する技能実習生について、引き続き認定計画に基づいて技能実習を続けられる旨を案内しています。
2号や3号への移行はできますか
育成就労制度Q&Aは、施行日時点で1号技能実習を行っている実習生が2号へ移行することが可能であり、2号を1年以上行っている実習生が3号へ移行することも可能である旨を案内しています。個別の可否は認定の状況によるため、原文と自社の記録で確認します。
分野ごとの基準はどこで確認しますか
出入国在留管理庁の制度概要・関係法令のページから、分野別の上乗せ基準告示を確認できます。分野別の運用要領は運用要領のページに順次掲載されているため、顧問先の分野に対応する資料を個別に集めます。
生成AIに制度の内容を聞いてもよいですか
記憶で答えさせる使い方は避けるのが実務的です。分野別の告示が2026年に入って順次追加されている段階のため、学習時点によっては旧制度の要件が返ります。原文を貼って読ませ、抜き出しと突き合わせに用途を限定すると、誤りが混ざりにくくなります。
行政書士が申請書類を作る場合の注意点はありますか
報酬を得た書類作成の制限については、2026年1月に施行された改正で趣旨が明確化されました。改正行政書士法19条1項の報酬要件で整理しているとおり、誰が作業を行い、対価が何に対して支払われるのかを説明できる形に業務フローを揃えておくことになります。
参考文献
- 出入国在留管理庁 育成就労制度
- 出入国在留管理庁 育成就労制度Q&A
- 出入国在留管理庁 育成就労制度に係る施行日前申請
- 出入国在留管理庁 育成就労制度の制度概要・関係法令
- e-Gov法令検索 行政書士法
- e-Gov法令検索 社会保険労務士法
- 個人情報保護委員会 生成AIサービスの利用に関する注意喚起等
- Anthropic Privacy Center データの学習利用について
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本記事の作成体制について
本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で、それぞれ確認したうえで記載しています。引用元は本文中および参考文献にすべて明示しています。
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