freee Agent Hubとは、会計事務所が自前のAIエージェントを作れる開発基盤のことです。
プリセットのエージェントを買うのか、自分の事務所のルールに合わせて作るのか。freeeがこの二択を製品として分けたことで、会計事務所は選択を迫られる立場になりました。この記事では、内製に踏み込むかどうかを判断するための7つの軸と、顧問先データを自作エージェントに通す前に決めておく守秘義務まわりの論点を整理します。本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、製品仕様はベンダーの公表資料で確認しています。freeeは2026年8月7日のプレスリリースで、士業向けAIエージェント開発基盤 freee Agent Hub の正式提供を8月28日から開始すると公表しました(出典: freee プレスリリース)。
プリセット型と内製型に分かれた2026年8月28日の意味
freeeは2026年4月16日に freee Agent Hub を発表し、5月からオープンβ版として提供してきました(出典: freee プレスリリース)。当初は一つの製品構想でしたが、利用したアドバイザーからのフィードバックを受けて、freeeは構想を二つに分けています。
分岐の理由はプレスリリースに明記されています。事務所には、記帳や月次チェックのような多くの事務所で共通する定型業務を自動化したいというニーズと、事務所独自のルールや複雑なフローに合わせて自社専用のエージェントを構築したいというニーズの二つがあった、という整理です(出典: freee プレスリリース)。前者に応えるのが freee顧問先管理 のAIエージェント、後者に応えるのが freee Agent Hub という切り分けになりました。
前者は記帳、ルール整備、月次チェック、申告書チェックの4種のプリセットエージェントを提供し、9月15日から有償提供が始まります。申告書チェックエージェントは8月28日からアドバイザー制度のシンプルプランまたはプライムプラン契約者に無償提供され、月次チェックエージェントは9月14日まで期間限定で無償提供されます(出典: freee プレスリリース)。この有償化の線引きについては、うるチカラの姉妹メディアであるfreee顧問先管理AIエージェント9月15日有償化 事務所が決める6つの線引きで先に整理しました。
一方の freee Agent Hub は、ノーコードで自社専用のカスタムエージェントを作成し、事務所内で共有して使う基盤です。事業所単位で分離された作業空間を提供し、認証情報、コンテキスト、ブラウザセッション、ファイルのすべてを顧問先ごとに隔離する設計だと説明されています(出典: freee 士業向けサイト freee Agent Hub)。WebアプリではなくWindowsとmacOSのデスクトップアプリとして提供され、チャット履歴やスケジュールタスクはローカルファイルに保存される、という点も同ページに記載があります。
ここで押さえておきたいのは、内製という選択肢が急に降ってきたわけではないという点です。事務所が自前でシステムを組む動きは、MCPを介した業務データ連携という形で先行していました。この文脈は士業事務所のMCPサーバー構築手順 顧客管理と会計連携の7工程で扱っています。freee Agent Hub は、その内製の入口をノーコードまで下げてきた製品だと位置づけると理解しやすくなります。
内製に踏み込む前に通す7つの判断軸
判断軸を7つに絞ります。順番に潰していくと、自分の事務所が内製に向いているかが見えてきます。
第一の軸は、標準化されていない業務がどれだけあるかです。プリセットのエージェントは、多くの事務所に共通する工程を前提に作られています。逆に言えば、自分の事務所にしかない工程がほとんど無いなら、内製の投資対効果は薄くなります。顧問先の業種が偏っている、特定の会計ソフト以外の資料が毎月来る、といった事情がある事務所ほど内製の意味が出ます。
第二の軸は、暗黙知が誰かの頭の中にあるかどうかです。先行導入した株式会社SoVaのコメントでは、仕訳ルールの整備や判断が担当者の経験に依存しやすく、顧問先の増加に伴う統一基準の策定が課題だったと述べられています(出典: freee プレスリリース)。ベテランの判断がルール化されていない事務所ほど、それをエージェントに落とす過程そのものが標準化になります。
第三の軸は、前提となるシステムを持っているかです。freeeの公式FAQには、freee会計を利用していない場合は freee Agent Hub を単体で利用できないと明記されています(出典: freee 士業向けサイト)。freee会計のAPIを呼び出す設計のため、ここは判断以前の前提条件になります。他社の会計ソフトを主力にしている事務所は、この時点で別の基盤を検討する話になります。
第四の軸は、作った後に誰が面倒を見るかです。エージェントは作って終わりではありません。税制改正や顧問先の業態変化のたびに、プロンプトやルールを直す人がいります。担当者が退職したら止まる構成なら、内製ではなく属人化を新しい形でやり直しているだけになります。
第五の軸は、人が確認する工程を設計に組み込めるかです。freeeは、書き込み操作の前に利用者の承認を求めるフローを設け、判断が難しいものは利用者に選択させるか顧問先に確認するステータスに回す設計だと説明しています(出典: freee 士業向けサイト)。基盤側が用意しているこの仕組みを、事務所の業務フローとして実際に運用できるかは別問題です。人間が最終確認を担う工程の設計思想については、AI単独が医師超え60%、JAMA論考が問う人間の最終確認と士業への示唆でも扱いました。
第六の軸は、根拠を追える形で記録が残るかです。freee Agent Hub は、AIの処理をログとして記録し、いつ、何を、どの根拠で実行したのかを追跡できると説明しています(出典: freee 士業向けサイト)。ルール提案では、根拠の分類が過去の取引実績、事業所のポリシー、AIの推測のいずれかで示され、各提案にHIGH、MEDIUM、LOWの信頼度が付与されるとも記載があります。
第七の軸は、無償で試せる範囲で検証を回せるかです。申告書チェックエージェントは8月28日から無償提供、月次チェックエージェントは9月14日まで無償という条件が示されています(出典: freee プレスリリース)。プリセットで自分の事務所の業務がどこまで埋まるかを先に測ってから、埋まらなかった穴に対してだけ内製を当てる。この順番のほうが、いきなり内製から入るより判断を誤りにくくなります。
検証を回すときのプロンプトを2本置いておきます。1本目は、内製すべき工程を洗い出すためのものです。架空の事務所を前提にしています。
あなたは会計事務所の業務設計を支援するアシスタントです。
以下の月次業務リストを読み、次の3分類に振り分けてください。
A: どの会計事務所でもほぼ同じ手順で、市販のプリセットAIで置き換えられる工程
B: 当事務所固有のルールが絡み、カスタムエージェントの内製が向く工程
C: 有資格者の判断が中核で、AIに任せる対象から外すべき工程
各工程について、分類・理由・その工程で人が最終確認する箇所を必ず1行で示してください。
判断に必要な情報が不足している場合は、勝手に推測せず質問として列挙してください。
【月次業務リスト】
1. 顧問先A社から証憑をメールで回収し、freeeへアップロード
2. 未登録明細の仕訳入力
3. 残高ズレの原因調査
4. 月次試算表のレビューと顧問先への説明資料作成
(以下、実際のリストを貼り付け)
2本目は、カスタムエージェントに与えるルールを言語化するためのものです。ベテランの頭の中を引き出す用途で使います。
あなたは業務ヒアリングの聞き手です。
これから会計事務所のベテラン担当者に、仕訳判断のルールを言語化してもらいます。
以下の観点で、1問ずつ順番に質問してください。一度に複数の質問を投げないでください。
1. その勘定科目を選ぶときに見ている情報は何か(摘要・取引先・金額帯・過去実績のどれか)
2. 迷うのはどういうケースか。迷ったとき何を根拠に決めているか
3. 顧問先ごとに例外があるか。あるならその例外の条件は何か
4. 絶対に自動化してはいけないと考えている判断はどれか。その理由は何か
回答を受け取ったら、次の形式でルール候補として整理してください。
条件 / 処理 / 信頼度(高・中・低)/ 人の確認が必要か(要・不要)
内製の実装は、この2本で作った棚卸しとルール候補を、基盤のチャットに読ませるところから始まります。いきなり完成形を目指さず、信頼度の低いルールから人の確認に回す設計にしておくと、後戻りのコストが小さくなります。そして、出来上がったエージェントの出力を最終的に承認するのは有資格者である、という工程を業務フロー図の中に明示的に書き込んでおくことをおすすめします。
顧問先データを自作エージェントに通す前に決める3つのこと
内製は、ベンダーが決めたデータの流れではなく、事務所が自分でデータの流れを決める行為です。その分だけ、守秘義務まわりの整理を自前でやる必要が出てきます。
一つ目は、根拠条文の確認です。税理士の守秘義務は税理士法第38条に置かれており、税理士は正当な理由がなくて税理士業務に関して知り得た秘密を他に洩らし、又は窃用してはならない、と定められています(出典: e-Gov法令検索 税理士法第38条)。事務所の職員についても税理士法第54条に同趣旨の規定があり、使用人その他の従業者を対象としています(出典: e-Gov法令検索 税理士法第54条)。内製したエージェントを事務所内で共有して使うということは、この第54条が及ぶ範囲の人たちが日常的にそれを操作する、ということでもあります。公認会計士については公認会計士法第27条に守秘義務の規定があります(出典: e-Gov法令検索 公認会計士法第27条)。
二つ目は、記録をどこまで残すかの設計です。税理士法第41条は、税理士が税理士業務に関して帳簿を作成し、委嘱者別に、かつ、一件ごとに、税務代理、税務書類の作成又は税務相談の内容及びそのてん末を記載することを定めています(出典: e-Gov法令検索 税理士法第41条)。AIエージェントが処理した内容と、人がどこで確認して何を修正したかは、この帳簿の記載内容と無関係ではありません。基盤側の実行ログと、事務所が作る帳簿の関係をどう整理するかは、内製に入る前に決めておきたい論点です。ログ設計そのものの考え方はMCPに監査ログの標準はない 士業が2026-07-28版で組む証跡7設計で扱いました。
三つ目は、顧問先への説明と同意の扱いです。freee Agent Hub はデスクトップアプリとして提供され、チャット履歴やスレッド、スケジュールタスクのデータはネットワーク経由ではなくローカルファイルに保存される、と公式FAQに記載があります(出典: freee 士業向けサイト)。とはいえ、AIモデルへの推論リクエスト自体がローカルで完結するとは書かれていません。どのデータがどこへ出るのかは、事務所が自分でベンダーに確認し、その回答を記録として残しておく形が現実的です。
事務所規程に落とすなら、運用例として次の4項目が考えられます。第一に、カスタムエージェントを作成できる人と、公開して事務所内共有に回せる人を分けること。第二に、顧問先の個人情報や決算未確定情報を含むデータを扱うエージェントには、作成時点で分類ラベルを付けること。第三に、スケジュール実行を設定したエージェントは、実行結果を誰がいつ確認するかまでを一組で登録すること。第四に、エージェントの改修履歴を残し、改修後は有資格者がテストケースで出力を確認してから本番に戻すこと。プロンプトに顧問先情報を入れる場合の運用ルールはプロンプトに個人情報を入れる前に 士業事務所が決める運用ルール7項目にまとめてあります。
なお、これらはあくまで運用の一例です。個別の事案でどう整理するかは、事務所の顧問先構成と受任契約の内容によって変わります。
内製でつまずく3つの型と回避策
一つ目の型は、作れる人が一人しかいない事務所での属人化です。ノーコードで作れるということは、逆に言えば作った人以外は中身の意図が分からないということでもあります。回避策は、エージェントを作った時点で、条件と処理と例外を日本語のドキュメントとして別に残すことです。基盤の中だけに知識を置かない。この一手間が、担当者の異動や退職のときに効きます。
二つ目の型は、無償期間の検証が本番と別物になっているケースです。デモデータや過去の綺麗な月次データで検証すると、精度が高く見えます。実際に効くのは、資料が揃わない顧問先、月末に大量の証憑が来る顧問先、勘定科目の運用が独特な顧問先です。回避策は、無償で試せる期間に、あえて手のかかる顧問先の実データで回すことです。そこで人の確認が何件必要になったかを数えておくと、有償化後の判断材料になります。
三つ目の型は、AIの提案をそのまま通してしまう運用です。freeeは、AIの判断に人間の確認を組み込むHITLの仕組みを採用し、書き込み操作の前に承認を求めるフローを設けていると説明しています(出典: freee 士業向けサイト)。ただ、承認ボタンが習慣として押されるようになると、仕組みは形骸化します。回避策は、承認する人と処理を依頼した人を分けること、そして信頼度がMEDIUMとLOWの提案については承認理由を一言残す運用にすることです。
費用と工数の見積もり方
現時点で、freee Agent Hub 自体の価格は公表されていません。プレスリリースに書かれているのは、freee顧問先管理のAIエージェントが9月15日から有償提供になること、申告書チェックエージェントがアドバイザー制度のシンプルプランまたはプライムプランの契約者に無償提供されることまでです(出典: freee プレスリリース)。Agent Hub の提供条件については、決定次第お知らせするという記載にとどまります。この点は要確認として扱い、導入判断の前にfreeeへ直接確認する形になります。
工数の見積もりでは、ライセンス費用より人件費の比重が大きくなります。ルールの言語化に何時間かかるか、テストケースを何本用意するか、改修の頻度をどう見るか。この3つを月あたりの時間で置いて、事務所の時間単価を掛けるのが素直な計算です。効果の側は、削減できた作業時間ではなく、確認に回った件数の減り方で測るほうが実態に合います。
体制の話をすると、作る人と使う人と承認する人を最初から分けておくのが無難です。一人事務所の場合はこの分離ができないため、代わりにチェックリストを外部化して、自分の判断を後から検証できる形にしておく方法があります。
内製の広がりが事務所に突きつける次の論点
freeeは、顧問先を横断してカスタムエージェントを実行できる機能や、Googleなどとの外部連携機能を今後提供予定としています(出典: freee プレスリリース)。顧問先横断の実行が可能になると、いま構造的に守られている顧問先ごとの分離という前提が変わります。そのときに、どの範囲までを横断させるかを決めるのは事務所側です。
もう一つの論点は、内製したエージェントが事務所の資産になるかどうかです。特定ベンダーの基盤の上で作ったものは、その基盤を離れると持ち出せません。ルールを日本語のドキュメントとして別に持っておくと、基盤を乗り換えるときの資産として残ります。内製の価値は、動くエージェントそのものよりも、言語化されたルールのほうにある。この見方をしておくと、投資の判断がぶれにくくなります。
よくある質問
freee Agent Hub とfreee顧問先管理のAIエージェントは何が違うのですか
前者は事務所が自分でエージェントを作る開発基盤、後者はfreeeが作ったプリセットのエージェント群です。freeeは、共通する定型業務を支援するものと事務所独自のエージェントを構築できるものの二つに分けて展開すると説明しています(出典: freee プレスリリース)。
freee会計を使っていない事務所でも内製できますか
freee Agent Hub については、公式FAQにfreee会計を利用していない場合は単体で利用できないと記載があります(出典: freee 士業向けサイト)。freee会計のAPIを呼び出す設計のためです。他社ソフトを主力にしている事務所は、別の基盤を検討する話になります。
顧問先の資料をカスタムエージェントに読ませても守秘義務の問題は生じませんか
その判断は、事務所ごとの受任契約とデータの流れ方によって変わるため、一律には言えません。税理士法第38条が定める守秘義務の枠組みを前提に、どのデータがどこへ送信されるかをベンダーに確認し、顧問先への説明と記録の残し方を決めておく、という順序で整理する事務所が多くなっています(出典: e-Gov法令検索 税理士法第38条)。
事務所の職員が作ったエージェントの責任は誰が持つのですか
責任の所在は事務所の内部規程と業務フローの設計次第です。税理士法第54条は使用人その他の従業者にも守秘義務を課しており、職員が操作する場合もこの枠組みの中に入ります(出典: e-Gov法令検索 税理士法第54条)。作成権限と公開権限を分ける運用例が現実的です。
内製とプリセットのどちらから始めるとよいですか
無償で試せるプリセットを先に回し、自分の事務所の業務がどこまで埋まるかを測ってから、埋まらない部分に内製を当てる順序が手戻りが少なくなります。申告書チェックエージェントの無償提供と月次チェックエージェントの期間限定無償提供という条件が示されているため、検証コストを抑えやすい局面です(出典: freee プレスリリース)。
AIが作った仕訳の根拠は後から確認できますか
freeeは、提案レポートの中に勘定科目、税区分、判断の根拠を明記し、根拠の分類として過去の取引実績、事業所のポリシー、AIの推測のいずれかを示すと説明しています(出典: freee 士業向けサイト)。各提案にはHIGH、MEDIUM、LOWの信頼度が付与されるとも記載があります。
小規模な事務所でも内製する意味はありますか
事務所の規模より、標準化されていない工程がどれだけあるかで決まります。顧問先の業種が偏っていて独自ルールが多い事務所なら、規模が小さくても内製の効果が出ます。逆に、汎用的な記帳代行が業務の中心なら、プリセットで足りる可能性が高くなります。
参考文献
- freee プレスリリース 税理士事務所向けAIエージェントとfreee Agent Hubをfreee Advisor Day 2026にて公開(2026年8月7日)
- freee プレスリリース 認定アドバイザー向けにfreee Agent Hubと新たなAPIを提供(2026年4月16日)
- freee 士業様向けサイト freee Agent Hub
- e-Gov法令検索 税理士法
- e-Gov法令検索 公認会計士法
※士業のチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴事務所の業務に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
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本記事の作成体制について
本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で、それぞれ確認したうえで記載しています。引用元は本文中および参考文献にすべて明示しています。
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