電子帳簿保存法の2026年 要件緩和とAI-OCRで会計事務所が削る6工程

電子帳簿保存法の2026年時点の要件緩和を国税庁資料で整理し、AI-OCRで会計事務所の入力工程を6つに割る手順と、顧問先資料を通す前に決める守秘義務の4項目を解説します。

電子帳簿保存法の2026年 要件緩和とAI-OCRで会計事務所が削る6工程

電子帳簿保存法とは、帳簿書類を電子データで保存する要件を定めたルールのことです。

領収書1枚を仕訳に変えるまで、事務所では何手かけているでしょうか。紙をめくり、日付と金額と取引先を読み、会計ソフトに打ち、原本をファイルへ戻す。この手数が、要件緩和とAI-OCRの実用化によって、まとめて組み替えられる位置に来ています。本記事では、2026年時点で緩んだ要件と、AI-OCRを噛ませる工程、顧問先の帳票を外部サービスに通すときの線引きを整理します。本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で確認しています。国税庁が令和8年6月に公表した資料では、青色申告特別控除が65万円から75万円へ引き上げられ、令和9年分以後の所得税について適用されると説明されています。

電帳法の要件は2026年までにどこまで緩んだのか

先に結論から書きます。緩んだのは主にスキャナ保存の付随要件と、電子取引データの検索要件です。制度そのものが軽くなったというより、AI-OCRを前提にした運用が組みやすくなった、という表現のほうが実態に近いところがあります。

スキャナ保存については、国税庁の令和5年度税制改正の概要に3点の見直しが示されています。第一に、読み取った際の解像度・階調・大きさに関する情報の保存を求める要件が廃止されました。ただし同資料は、読み取る際の解像度200dpi以上や原則カラー画像といった要件自体に変更はない、と注意を添えています。第二に、入力を行う者やその監督者に関する情報を確認できるようにしておく要件が廃止されました。第三に、帳簿との相互関連性を確保する対象が重要書類に限定され、見積書や注文書のような一般書類では相互関連性の確保が不要となりました。いずれも令和6年1月1日以後にスキャナ保存が行われる国税関係書類について適用されます。

この3点目が、事務所の工数に効きます。従来は一般書類にも紐付け作業が発生していたため、AI-OCRで文字を拾えても、そのあとの人手が減りにくい構造でした。重要書類に絞られたことで、読み取りから登録までを一気通貫にできる書類の幅が広がっています。

電子取引データ保存の側では、検索機能を全て不要とする措置の対象者が拡大しました。同じ資料によると、基準期間である2課税年度前の売上高が1,000万円以下から5,000万円以下の保存義務者へ範囲が広がり、さらに、プリントアウトした書面を日付および取引先ごとに整理された状態で提示・提出できる保存義務者も対象に加えられました。加えて、所轄税務署長が相当の理由があると認め、ダウンロードの求めと書面の提示・提出の求めの双方に応じられる場合には、改ざん防止や検索機能などの要件に沿った対応を要せず単に保存しておける猶予措置が整備されています。

顧問先の多くがこの売上規模に収まる事務所であれば、検索要件の作り込みに時間を投じるより、原本の受け取り方と保存先の統一に時間を使ったほうが効きます。制度対応の全体像は電子帳簿保存法の完全義務化とAI対応で整理しているので、要件の骨格から確認したい場合はそちらを先に読むと重複が避けられます。

なお、緩和と同時に優遇の枠は広がっています。令和8年6月の資料には、優良な電子帳簿の要件を満たす場合の過少申告加算税の5%軽減措置に加えて、デジタルシームレス保存によって重加算税の10%加重の適用対象から除外される措置が示されています。後者は令和9年1月1日以後に法定申告期限が到来する国税について適用されると同資料に記載があります。

AI-OCRで領収書を仕訳に変える6工程と有資格者の確認ポイント

AI-OCRを入れる目的は、読み取り精度そのものではなく、人が触る回数を減らすことです。工程を6つに割り、どこを機械に渡し、どこで有資格者が止まるかを固定します。

第1工程は受領チャネルの統一です。顧問先から紙、PDF、写真、メール添付が混在して届く状態のままAI-OCRを入れても、前処理が人力で残ります。顧問先ごとに投函先を1つに寄せ、そこへ入ったものだけを処理対象とします。ここは制度要件というより運用設計の話なので、事務所側で決め切れます。

第2工程は原本区分の判定です。受け取った帳票が重要書類か一般書類かで、その後に必要な紐付け作業が変わります。前掲の令和5年度改正の概要に沿えば、契約書・領収書・送り状・納品書のように資金や物の流れに直結する書類が重要書類、見積書・注文書や納品書の写しが一般書類として例示されています。この区分は担当者の判断が割れやすいため、事務所内で帳票名の一覧を作って固定しておくと、後工程のばらつきが減ります。

第3工程がAI-OCRによる読み取りです。日付、金額、取引先名、税区分、インボイス登録番号を抽出させます。ここで生成AIを組み合わせるなら、読み取り結果の構造化と、疑わしい項目の自己申告までを1回で出させると後段が楽になります。

あなたは会計事務所の入力補助を担当します。以下のOCR結果から、
日付・取引先名・税抜金額・消費税額・税区分・登録番号をJSONで出力してください。

制約:
- 読み取れなかった項目は null とし、推測で埋めないこと
- 金額は半角数字、カンマなしで出力すること
- 判読に自信がない項目は confidence_low 配列に項目名を必ず列挙すること
- 出力はJSONのみとし、説明文を付けないこと

OCR結果:
"""
{ここにOCRの生テキストを貼る}
"""

第4工程は突合です。抽出結果を会計ソフトの取引先マスタと突き合わせ、初出の取引先と、金額が過去平均から外れた明細だけを人のレビュー対象に落とします。全件を目視する運用に戻ると、AI-OCRを入れた意味がほぼ消えます。

第5工程が勘定科目の推定です。過去仕訳を参照させると精度が上がりますが、顧問先の実データを外部モデルへ渡す話になるため、後述の守秘義務の節で決めた範囲を超えないようにします。摘要文だけを渡す、金額帯を丸めるなど、渡す粒度を先に決めておく方法があります。

あなたは会計事務所の仕訳補助です。以下の摘要と金額帯から、
候補となる勘定科目を3つ、確からしい順に挙げてください。

前提:
- 業種: 甲社(飲食業・法人)
- 使用中の勘定科目一覧: {ここに科目一覧を貼る}

出力:
1. 候補科目 / 選定理由 / 判断が割れる場合の分岐条件
2. 同上
3. 同上
最後に「税理士の確認を要する論点」を箇条書きで挙げてください。
固有名詞や口座番号などの識別情報は出力に含めないこと。

第6工程が有資格者による最終確認です。ここは工程から外しません。AIが出した科目候補と税区分は下書きの位置づけに留め、確定処理は税理士または税理士法人の責任で行う建て付けにします。特に、消費税の課税区分、インボイス登録番号の有無による仕入税額控除の扱い、交際費と会議費の切り分けのように、判断が課税所得に直結する箇所は、AIの出力をそのまま通さない運用にしておくほうが、後の説明責任が軽くなります。

工程を割ったうえで、どこを自動化するかの判断材料は記帳代行のAI自動化にも整理しています。AI-OCR単体で考えるより、記帳代行の全工程の中で位置づけたほうが投資判断がぶれません。

ツール選定では、JIIMAの認証制度が一次的な足がかりになります。前掲の令和8年6月の資料は、JIIMA認証を受けたソフトが税制上の優遇措置を受けるための機能要件を満たしているとしたうえで、認証ソフトが自身の作成する帳簿等に対応しているかは別途確認するよう促しています。認証があるから要件を満たすと読み替えず、対象帳簿の範囲まで見に行く姿勢が要ります。

顧問先の帳票をAI-OCRに通す前に決めておく4つのこと

判断の起点は、そのサービスが入力データを学習に使うかどうかです。ここが決まらないと、以降の同意設計も規程も書けません。

前提として、税理士の守秘義務は税理士法第38条に定めがあり、正当な理由がなくて税理士業務に関して知り得た秘密を他に洩らし、又は窃用してはならない、税理士でなくなつた後においても同様とする、と規定されています。公認会計士については公認会計士法第27条に同趣旨の規定が置かれています。AI-OCRに帳票を通す行為が、この「他に洩らし」に触れるかどうかは個別事情で変わるため、事務所として判断できる形に材料を揃えておく作業が実務になります。

1つ目に決めるのは、利用するサービスの学習利用とデータ保持の条件です。各ベンダーの公式ドキュメントで、入力データの学習利用の有無、保持期間、保存リージョン、サブプロセッサの範囲を確認し、その記載を印刷またはPDFで日付入りで残します。約款は改定されるため、確認日を添えて保管しておくと、後から経緯を示せます。法人プランと個人プランで条件が分かれる例が多い点は、生成AIの法人プランと学習利用の比較で観点を整理しています。

2つ目は、顧問先への説明と同意の取り方です。委任契約書や業務委託契約書に、外部クラウドサービスの利用と再委託の範囲を書き込む運用を採る事務所があります。個別の帳票ごとに都度同意を取る運用は現実的に回らないため、契約段階で範囲を定め、追加のサービスを入れるときに通知する形が扱いやすいところです。どこまで伝えるかの設計は事務所の方針が分かれる部分で、契約書に置く項目の考え方は別記事で扱っています。

3つ目は、入力してよいデータの粒度です。帳票画像そのものを渡すのか、OCR済みのテキストだけを渡すのか、氏名や口座番号をマスクしてから渡すのかで、リスクの形が変わります。読み取り工程は画像を渡さないと成立しませんが、勘定科目の推定工程はテキストだけで足りることが多く、工程ごとに渡す範囲を変える設計が採れます。前掲のプロンプト例で識別情報を出力に含めないよう指示しているのは、この考え方に沿ったものです。

4つ目は、記録の残し方です。誰が、いつ、どの顧問先の資料を、どのサービスに投入したかを追える状態にします。アカウントを個人のものではなく事務所管理のものに寄せ、退職時に権限を切れるようにしておくところまで含みます。事務所規程に落とすなら、対象サービスの列挙、承認者、禁止事項、記録の保存期間の4項目を骨格にしている例が見られます。

AI-OCR導入でつまずいた3つの場面と手前で止める方法

1つ目は、精度への期待値がずれる場面です。手書き領収書や感熱紙の劣化した明細では読み取りが落ちます。導入判断の前に、顧問先から実際に届いている帳票を無作為に抜き出して試すと、期待値が現実に寄ります。全体の精度ではなく、読み取れなかったものを人が拾う工程が回るかどうかで判断すると、運用に乗せやすくなります。

2つ目は、原本廃棄のタイミングを先走る場面です。スキャナ保存の要件を満たしていない状態でデータ化だけ進め、紙を処分してしまうと、要件充足の説明ができなくなります。前掲の令和5年度改正の概要が示すとおり、解像度や階調の要件自体は残っているため、読み取り設定を確認しないまま運用を始めないほうが安全側に倒れます。

3つ目は、AIの出力をそのまま確定してしまう場面です。生成AIは、実在しない登録番号や、それらしい科目名を出力することがあります。この種の誤りをどこで止めるかの設計は生成AIの架空判例・架空条文を止めるで扱った考え方がそのまま応用できます。出力の受け入れ条件を先に決め、条件を満たさないものは人の工程へ落とす。この分岐を運用に埋め込んでおくと、担当者の力量に依存しなくなります。

費用と工数を見積もる 5人規模の会計事務所の場合

以下は実測値ではなく、工程数から逆算した参考値です。根拠となる料金は各ベンダーの公開価格を確認してください。

費用は、AI-OCRの従量課金または月額、会計ソフトの連携オプション、保存基盤の3層で発生します。読み取り枚数に応じた従量課金が中心のため、顧問先数ではなく月間の帳票枚数で見積もると実態に近づきます。初期構築では、顧問先ごとの受領チャネルの統一と、帳票区分の一覧作成が最も時間を食う部分で、ここは外注しにくい領域です。

体制面では、運用の持ち主を所内で1人決めておく設計が回りやすいところです。根拠は単純で、ツールの管理者権限、プロンプトの改訂、読み取り失敗分の再処理ルールを一箇所に集めると、属人化の代わりに責任の所在が明確になるためです。分散管理すると、約款改定の追随が漏れやすくなります。

なお、優遇措置を取りに行く場合は届出の期限が絡みます。前掲の令和8年6月の資料には、適用を受ける年分または事業年度の法定申告期限までに届出書を提出する例として、個人事業者が令和8年分から適用を受けるなら令和9年3月15日までという説明が置かれています。すでに優良な電子帳簿で青色申告特別控除65万円の適用を受けている場合、改めて届出書を提出しなくても75万円の適用を受けられるとも記載されています。

デジタルシームレス保存が2027年に効いてくる論点

2026年の要件緩和は入口の話で、本番は2027年からの優遇措置だと見ています。令和7年度税制改正による見直しの概要によると、国税庁長官が定める基準に適合するシステムとは、デジタル庁が管理する仕様に従って送受信されたデジタルインボイス、または預貯金口座における決済データについて、新設された要件に従って保存できる機能を有するシステムを指します。

ここで論点になるのは、AI-OCRの位置づけです。デジタルシームレス保存が想定しているのは、そもそも紙やPDFを経由しないデータ連携です。読み取りという工程が発生している時点で、この枠組みの外にあります。つまり、AI-OCRは紙が残る顧問先への現実解であって、行き先そのものではありません。

事務所としては、顧問先を2群に分ける発想が要ります。デジタルインボイスに移行できる顧問先は、読み取り工程ごと消す方向へ。当面は紙が残る顧問先は、AI-OCRで人手を薄くする方向へ。この振り分けを2026年のうちに済ませておくと、令和9年以後の優遇措置に乗せる顧問先の選定が前倒しできます。電子取引データの保存そのものは電子帳簿保存法第7条に規定があり、財務省令で定めるところにより電磁的記録を保存しなければならない、と条文に書かれています。優遇に乗るかどうかの前に、この保存が回っているかが土台になります。

よくある質問

2026年の要件緩和で、スキャナ保存の解像度要件はなくなったのですか

いいえ、なくなったのは解像度・階調・大きさに関する情報の保存を求める要件です。前掲の令和5年度改正の概要は、読み取る際の解像度200dpi以上や原則としてカラー画像などの要件自体に変更はない、と明記しています。読み取り機器の設定を緩めてよいという意味には読めません。

AI-OCRを使えば電子帳簿保存法の要件を満たせますか

いいえ、AI-OCRは読み取りの手段であって、要件充足そのものとは別の話です。要件は保存の方法に関するもので、電子帳簿保存法第4条は財務省令で定めるところにより電磁的記録の保存をもって書類の保存に代えることができると規定しています。ツール選定では前掲のJIIMA認証が確認の出発点になります。

顧問先の領収書をクラウドのAI-OCRに通してよいですか

このまま答えを出せる問いではなく、税理士法第38条の守秘義務との関係で、事務所が判断する材料を揃える形になります。判断材料は、そのサービスの学習利用と保持条件、顧問先との契約に書かれた再委託の範囲、投入するデータの粒度の3つです。本記事の守秘義務の節で挙げた4項目を先に決めておく方法があります。

検索要件が不要になる売上高の基準はいくらですか

基準期間である2課税年度前の売上高が5,000万円以下です。令和5年度改正の概要に、1,000万円以下から5,000万円以下へ対象者の範囲が拡大されたと示されています。加えて、書面を日付および取引先ごとに整理された状態で提示・提出できる保存義務者も対象に追加されています。

青色申告特別控除の75万円は、いつから適用されますか

令和9年分以後の所得税についてです。令和8年6月の国税庁資料に記載があり、優良な電子帳簿またはデジタルシームレス保存のいずれかの要件を満たしたうえで電子申告を行うことが前提とされています。すでに65万円の適用を受けている場合の再届出は不要とも説明されています。

生成AIに過去の仕訳データを学習させても問題ないですか

問題の有無を一律に言える性質のものではなく、渡すデータの範囲とサービスの条件で評価が変わります。過去仕訳には顧問先の取引先名や金額が含まれるため、まず学習利用の有無を公式ドキュメントで確認し、次に顧問先との契約でカバーされる範囲を確認する、という順序で検討している事務所があります。工程ごとに渡す粒度を変える設計も選択肢です。

事務所規程には何を書けばよいですか

対象サービスの列挙、投入前の承認者、禁止事項、記録の保存期間の4項目を骨格にしている例が見られます。加えて、約款改定時の再確認の担当と頻度を書いておくと、条件が変わったことに気付かないまま運用が続く事態を減らせます。税理士業務全般でのAIの使いどころは税理士のAI活用にまとめています。

参考文献

※士業のチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴事務所の業務に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
https://shigyonochikara.jp/contact/

本記事の作成体制について

本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で、それぞれ確認したうえで記載しています。引用元は本文中および参考文献にすべて明示しています。

本記事には特定の資格者による監修は入っていません。個別の事案について法令の当てはめや手続の可否を判断する必要がある場合は、当該分野の有資格者にご相談ください。本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別具体的な法律判断・税務判断・労務判断を提供するものではありません。

記載内容に誤りを見つけられた場合は、お問い合わせよりご指摘ください。確認のうえ速やかに訂正し、訂正履歴を記事内に残します。編集方針の詳細は運営者情報をご覧ください。