中国でClaudeのトークンが公式価格の約1割で流通していると報告されました。
海外のAI業界で、生成AIの「調達経路」をめぐる報告が話題になっています。THE DECODERは2026年8月23日、中国でAnthropicのClaudeのAPIトークンが公式価格の1割程度で取引されている実態を伝えました。元になっているのは、オックスフォード大学のチャイナ・ポリシー・ラボに所属するZilan Qianの分析で、メディアChinaTalkに掲載されています。一見すると日本の士業事務所には遠い話ですが、AIツールを「どこから買うか」という調達の論点として読むと、事務所の情報管理に接続します。本記事はAI業界のニュースとして事実を整理し、最後に士業×AIの視点を1つだけ添えます。

何が起きたか:「中継ステーション」という迂回経路
報告の核心は、中国の開発者コミュニティで「中継ステーション(transfer station)」と呼ばれるAPIプロキシの存在です。中国国外のサーバーに置かれたこのプロキシが、利用者のリクエストを正規の所在地から来たかのように転送し、応答を返します。支払いは人民元建てで、WeChatやAlipayが使われます。VPNも海外発行のクレジットカードも要らない、というのがQianの説明です。
Anthropicは、主要なAI提供事業者の中でも中国に対して厳しいアクセス制御を敷いてきたとされます。電話番号、海外クレジットカード、請求先住所の確認に加え、一部の利用者には身分証と自撮り画像による本人確認を求め、中国など非対応地域の主体が直接・間接に過半を保有する企業の利用を禁じています。それでも迂回が成立している、というのが今回の報告の骨子です。
価格が下がる仕組みも複数挙げられています。無料クレジットの刈り取り、企業向け・教育向けの割引の転用、月額200ドルのMaxプランを複数人でトークン枠として分け合う運用、そして盗用されたカードで入金された口座の混入です。さらに、プロキシが利用者とAnthropicの間に立つ構造を利用し、Opus 4.7向けのリクエストを安価なSonnetや中国製モデルのQwenへ密かに振り替える「すり替え」も指摘されています。ドイツのCISPA ヘルムホルツ情報セキュリティセンターが17のAPIプロキシを調べたところ、すり替えは広範に見られ、「Gemini-2.5」を称するあるエンドポイントは医療系ベンチマークで37パーセントにとどまったとされています。公式の数値は83.82パーセントでした。
なぜ重要か:価格ではなくログが本体という見立て
Qianが最も重い論点として挙げるのは、価格そのものではなく利用ログです。プロキシを通過するリクエストは、プロンプト、応答、ツール呼び出し、試行の履歴まで運営者から見える可能性があります。コーディング用のエージェントを通せば、コードベースや作業の文脈といった、より広い情報が経路上に乗ります。実際、出所の明示がないままClaude Opus 4.6の推論出力を含むデータセットがHuggingFace上で流通している、とも指摘されています。
ただしQianは、中継ステーションの運営者がこうしたログを組織的に収集して販売している証拠は現時点で確認できていない、と留保を置いています。あくまで「極端に安い価格が成り立つ説明として、ログの二次利用という可能性がある」という組み立てです。中国の開発者の間では、トークン販売は顧客獲得で、利益はログにあるという見方が語られている、と報告は伝えています。
入力データの取り扱いは、士業読者にとって導入可否を分ける論点です。正規の提供元であれば、入力が学習に使われるかどうかは公開されている規約やポリシーで確認できます(Anthropicの場合はプライバシーポリシーと商用利用規約が公開されています。個別条項の解釈はここでは扱いません)。一方、非公式の再販経路については、そもそもどの主体がどこまでログを保持するのかを示す公表資料が存在せず、確認する手段がありません。事務所の情報管理の観点では、この「確認できない」という状態そのものが検討材料になります。関連する整理は無料版AIの業務利用と事務所規程の論点や税理士の守秘義務とAI入力範囲の考え方でも取り上げています。
今後の動き:蒸留対策と、規制が動きにくい構造
背景には、モデルの出力を使って別のモデルを鍛える「蒸留」をめぐる攻防があります。Anthropicは過去に、DeepSeek、Moonshot、MiniMaxによる大規模な蒸留を指摘し、2万4,000超の偽アカウントから1,600万件を超えるリクエストが行われたとしています。中国の支配下にある企業へのサービス提供を停止し、子会社経由の抜け道も閉じました。AnthropicとOpenAI、Googleは、無許可のモデル複製に共同で対処する動きも見せています。
一方で、蒸留を通常の商慣行とみる声も業界内に存在します。サティア・ナデラやマーク・ザッカーバーグが公に異なる立場を示し、2026年7月下旬にはNvidiaやMicrosoft、Metaを含む25社が、蒸留への早すぎる規制に警告を出したと報じられています。米政府が蒸留そのものを理由に規制へ動く可能性は高くない、というのが記事の見立てで、当面は各社が自社の利用規約で対処する構図が続きそうです。
士業×AIの視点で言えば、ここから読み取れるのは「安さには理由がある」という一点です。事務所でAIを導入する際、正規の提供元と直接契約するか、公式の再販パートナーを経由するかで、規約とデータの扱いを確認できる範囲が変わります。極端に安価なAPI窓口を見かけたときに、提供主体・課金経路・ログの保持方針を公表資料で確認する、という手順を運用に組み込む事務所があります。逆に、確認できる資料が出てこない窓口は候補から外す、という判断を採る事務所もあります。
まとめ
中国でClaudeのトークンが公式価格の1割程度で流通しているという報告は、アクセス制限が迂回市場を生むという構造を示しています。価格の裏側には、モデルのすり替えと、経路上に残る利用ログという二つの論点があります。事務所のAI調達では、提供主体とデータの扱いを公表資料で確認できるかどうかが、そのまま検討の材料になります。
参考文献
- THE DECODER「How China’s gray market sells Claude tokens at a fraction of the price」
- ChinaTalk「How to buy cheap Claude tokens in China」(Zilan Qian による分析)
- CISPA ヘルムホルツ情報セキュリティセンター APIプロキシに関する調査(arXiv)
- Anthropic プライバシーポリシー
- Anthropic 商用利用規約
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引用元: THE DECODER
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