文化庁のAIと著作権チェックリストを顧問先に説明する7つの型

文化庁のAIと著作権に関するチェックリスト&ガイダンスを土台に、士業が顧問先へ生成AIと著作権を説明するときの7つの型と、事務所側の守秘義務の設計を整理します。

文化庁のAIと著作権チェックリストを顧問先に説明する7つの型

チェックリスト&ガイダンスとは、AIと著作権の関係を立場別に整理した文化庁の資料のことです。

顧問先から、生成AIで作った画像や文章を商用で使ってよいかと聞かれる場面が増えています。この記事では、文化庁が公表した資料を土台に、士業が顧問先へ説明するときの7つの型を整理します。本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で確認しています。資料はAIと著作権に関するチェックリスト&ガイダンスとして公表されています。

立場を分けて整理した資料であることが最大の特徴

結論から書きます。この資料の価値は、AIと著作権の関係を、立場ごとに切り分けて整理した点にあります。開発者、提供者、利用者では、見るべき論点が違う。この当たり前が言語化されているので、顧問先の説明に転用しやすくなっています。

文化庁は資料を2部構成としています。第1部がAI開発・提供・利用のチェックリスト、第2部が権利者のためのガイダンスです。第1部では、AI開発事業者、AIサービス提供事業者、AI利用者、業務外利用者といった立場ごとに、リスクを下げるための観点が並んでいます。第2部は権利者の側から、把握しておく前提を整理する構成です。

士業の顧問先は、多くの場合AI利用者の立場に立ちます。自社でモデルを作るわけではなく、既存のサービスを使って画像や文章を作る。この立場で確認すべき観点が、資料の該当箇所に整理されています。事務所が説明するときは、まず顧問先がどの立場かを確定させるところから始めるのが筋になります。

背景として、著作権法の条文構造も押さえておきます。著作権法第30条の4は、著作物に表現された思想または感情を自ら享受し、または他人に享受させることを目的としない場合に、必要と認められる限度で利用できると定めています。同条は情報解析の用に供する場合を掲げており、ただし書きで、著作権者の利益を不当に害することとなる場合を除くとしています。著作権法第47条の5は、電子計算機による情報処理の結果の提供に付随する軽微な利用について定めています。生成物の側は、著作権法第21条の複製権をはじめとする支分権の枠組みで検討されます。

学習段階と生成・利用段階で、適用される条文が違う。この構造を顧問先に伝えられるかどうかが、説明の質を分けます。

なぜこの切り分けが効くのかを補足します。顧問先の相談は、たいてい混ざった形で持ち込まれます。うちのデザインが勝手に学習されているのではないか、という懸念と、自社で生成した画像を広告に使ってよいか、という照会が、同じ会話の中に同居している。前者は権利者としての相談で、後者は利用者としての相談です。立場も条文も違うのに、AIと著作権という同じ言葉で括られているために、話がほどけません。事務所が最初にやるべきなのは、この2つを机の上で物理的に分けることです。

もう一点、資料の位置づけについても押さえておきます。このチェックリスト&ガイダンスは、行政が実務者向けに考え方を整理したものであって、裁判所の判断を拘束するものではありません。顧問先に渡すときは、公的機関が示した整理として紹介する形になります。この距離感を間違えると、資料に書いてあるから大丈夫、という受け取られ方をします。

顧問先に説明するときの7つの型

ここからが実務です。相談の類型ごとに、説明の型を7つに整理します。

第1の型は、立場の確定です。顧問先が開発者なのか、サービス提供者なのか、単なる利用者なのか。ここを曖昧にしたまま説明を始めると、噛み合いません。自社サービスに生成AIを組み込んで顧客に提供している場合は、利用者ではなく提供者の立場に近づきます。この見極めを最初に行います。

第2の型は、学習段階と生成段階の切り分けです。相談の内容が、AIに学習させることの可否なのか、生成された成果物の利用の可否なのか。前者は著作権法第30条の4を中心に、後者は複製権や翻案権の枠組みで検討する話になります。顧問先はこの2つを混ぜて相談してくることが多いので、切り分けて整理し直すところが事務所の仕事になります。

第3の型は、生成物の類似性と依拠性という2つの軸の提示です。既存の著作物と似ているかどうかと、その著作物に依拠して作られたかどうか。この2軸で検討されるという枠組みを示すだけで、顧問先の理解は大きく進みます。断定的な結論を出すのではなく、検討の枠組みを渡すことが説明の目的になります。

第4の型は、利用するサービスの規約の確認です。著作権法の議論とは別に、サービス提供者が定める利用規約で、生成物の商用利用の可否や責任分担が定められています。法律の議論だけをして規約を見ていない相談は、実務上の答えになりません。

第5の型は、社内での記録の残し方です。どのサービスで、どのような指示で、いつ生成したか。この記録があると、後から争いになったときに事実関係を説明できます。当メディアで整理したAI生成物の表示ルールを事務所規程に落とす工程と同じ考え方で、顧問先の社内ルールにも展開できます。

第6の型は、生成物への痕跡の付与です。主要なAI提供者は、生成物に機械可読なマーキングを付ける対応を進めています。当メディアで扱ったClaudeのテキスト電子透かしの全世界適用がその例です。生成物がAI由来であることが後から判定され得る前提で、顧問先の運用を組み立てる視点が要ります。

第7の型は、判断を保留する場面の明示です。個別の生成物が既存の著作物と似ているかどうかは、実物を見なければ検討できません。相談の場で結論を出せない類型があることを、先に伝えておく。この線引きを最初に置いておくと、期待値のずれが起きません。

7つの型のうち、事務所が最初に整えるのは第1から第3です。ここが定型化されていれば、相談の入口で会話が整理されます。第4以降は、相談の内容に応じて必要な範囲で使う形になります。

型を持つ意味は、時間の使い方が変わることにあります。相談のたびに一から組み立てていると、事実確認の前に説明で時間が終わります。枠組みを先に渡し、そのうえで事実を聞く順序にすると、同じ面談時間でも中身が濃くなります。顧問先の側も、何を持ってくればよいかが分かるようになります。

顧問先の相談内容を整理するプロンプト例

あなたは士業事務所の相談整理を補助する役割です。
以下の相談内容を、検討しやすい形に整理してください。

出力形式:
1. 相談者の立場(AI開発者 / サービス提供者 / 利用者 のいずれか、判断根拠も)
2. 相談が学習段階の話か、生成・利用段階の話か
3. 事実として確認が必要な事項(箇条書き)
4. 検討の枠組みとして関係しそうな条文(条番号のみ、評価は書かない)
5. この場では判断できない事項

条件:
- 法的な評価や結論を書かないこと
- 相談内容に書かれていない事実を補わないこと
- 相談者の名称は架空の「A社」で表記すること
- 最終的な判断は有資格者が行う前提で出力すること

顧問先向けの説明資料の骨子を作るプロンプト例

あなたは士業事務所の顧客向け資料を作る補助役です。
生成AIと著作権について、顧問先向けの説明資料の骨子を作ってください。

前提:
- 対象は自社の広報素材に生成AIを使いたい中小企業の担当者
- 法律の専門知識は前提としない
- 事務所が結論を断定するのではなく、確認の手順を渡す構成

構成:
1. 学習段階と生成段階を分けて考える理由
2. 生成物を使う前に確認する5項目
3. 記録として残しておく情報
4. 事務所に相談するタイミングの目安

条件:
- 全体で1200字程度、平易な日本語
- 断定的な法的評価は書かないこと
- 出典として参照した公的資料を末尾に列挙すること

守秘義務と事務所規程の側で決めておくこと

この領域の相談を受けるとき、事務所側でもAIを使って調べることになります。そこで守秘義務の設計が要ります。

根拠条文は職種ごとに分かれます。弁護士は弁護士法第23条、弁理士は弁理士法第30条、中小企業診断士については登録に関する制度の枠組みで守秘の取扱いが定められており、行政書士は行政書士法第12条に規定が置かれています。自分の職種の条文を原文で確認しておくと、規程の言い回しが定まります。

そのうえで、この類型の相談で特に注意する点が3つあります。

一つ目は、顧問先の生成物そのものを外部AIに投入する場面です。未公表の広報素材や新製品の画像を、類似性の検討のために外部サービスへ投入すると、情報の管理の問題が生じます。個人データを含む場合は、個人情報保護法第27条の第三者提供の規律も並行して論点になります。投入してよい範囲を先に決めておく必要があります。

二つ目は、第三者の著作物を検討のために投入する場面です。類似性を検討するために、比較対象の著作物をAIに読み込ませることがあります。この行為自体の位置づけは、著作権法第30条の4の枠組みで論点になり得ます。事務所として整理しておく領域です。

三つ目は、事務所自身の成果物です。意見書や説明資料をAIで下書きすると、その成果物にAI由来の痕跡が残ります。顧問先に渡す資料の作り方について、事務所としての方針を持っておくことになります。この点は当メディアのAI生成物の表示ルールで整理したとおりです。

これら3点は、既存の秘密保持規程に条項を足す形で対応できます。

補足すると、この類型の相談は顧問先の事業判断に直結します。広報素材を作り直すか、そのまま使うか。その判断の材料を事務所が提供する以上、どの範囲まで確認したうえでの助言なのかを明示しておく実務が要ります。実物を確認していない段階での一般論なのか、実物を見たうえでの検討なのか。この区別を書面に残しておくと、後から認識のずれが生じたときに立ち返れます。当メディアで扱ったPerplexityを士業の調査実務で使う際の出典検証と同じで、どこまで確認したかを可視化しておくことが要点になります。

説明の場面で起きやすい3つの誤解

顧問先との会話でずれが生じやすい点を3つ挙げます。

一つ目は、学習に使われたら著作権侵害だという理解です。著作権法第30条の4は、思想または感情を享受することを目的としない利用について定めており、情報解析の用に供する場合を掲げています。同時にただし書きで、著作権者の利益を不当に害することとなる場合を除くとしています。条文の構造を示さずに結論だけを伝えると、顧問先の理解が固定化します。条文を一緒に読む時間を取るほうが、結果として説明が早く終わります。

二つ目は、AIが作ったものだから著作権が発生しないという理解です。この点は生成の過程における人の関与の程度によって議論が分かれる領域で、一律の答えはありません。顧問先が自社の生成物を保護したいのか、他社の権利を侵害しないようにしたいのか。目的によって説明すべき内容が変わります。

三つ目は、サービスの利用規約で商用利用が認められていれば何をしてもよいという理解です。規約は提供者との契約関係の話であって、第三者の権利との関係は別に検討する必要があります。この2つを分けて説明できるかどうかが、相談の質を決めます。

四つ目の誤解として、他社も使っているから大丈夫という理解も挙げておきます。生成AIの利用が広がると、業界内の慣行が形成されつつあるように見えます。ただし慣行が権利関係を変えるわけではありません。他社の事例は参考情報として扱い、自社の判断とは切り分ける。この線引きを顧問先に伝えておかないと、業界全体が同じリスクを抱えたまま進むことになります。

回避策は共通しています。結論ではなく枠組みを渡す。条文を一緒に読む。契約の話と権利の話を分ける。他社の事例と自社の判断を分ける。

相談対応の工数と体制

この類型の相談は、単発で終わらないのが特徴です。顧問先が生成AIを使い続ける限り、類似の相談が繰り返されます。だから個別対応するより、説明資料を作って渡すほうが総工数は下がります。

資料の作成に要する時間は、骨子の設計に半日、文案の作成と確認にもう半日、というのが目安です。一度作れば複数の顧問先に使い回せます。業種ごとに差し替える箇所を決めておくと、応用が利きます。

体制としては、資料の作成を有資格者が担い、個別相談の一次整理を実務担当者が行う形が回りやすくなります。相談の類型を分類し、資料で足りるものと有資格者の判断が要るものを仕分ける。この仕分けができると、有資格者の時間を判断に集中させられます。

なお、文化庁の資料は改訂され得ます。参照するときは最新版かどうかを確認する運用にしておくと、古い版を根拠にした説明を避けられます。この点は要確認の作業として、定期的に組み込んでおくのが安全です。

顧問先の業種によって、力点も変わります。製造業なら製品画像や図面、小売なら広告素材、コンテンツ産業なら成果物そのものが論点の中心になります。同じチェックリストを使っても、どの項目を厚く説明するかは業種で違う。この差分を最初に整理しておくと、資料の使い回しが効きます。

もう一点、相談の受け方についても触れておきます。この類型は、顧問先が既に生成物を作ってしまってから相談に来るケースが多くなります。事後の相談は選択肢が狭まるので、生成AIを使い始める前に一度整理する機会を設けるほうが、顧問先にとっても事務所にとっても楽になります。定例の打ち合わせで話題として振っておくだけでも、事前相談が増えます。

説明の型を持つことが事務所の差になる

今後の論点を3つ。

一つは、生成AIの利用が広がるほど、この類型の相談が一般化するという点です。いまは先進的な顧問先からの相談ですが、数年のうちに日常的な照会になります。そのとき、都度調べて答える事務所と、説明の型を持っている事務所とでは、対応速度が変わります。

二つ目は、痕跡の付与が進むことの影響です。主要な提供者が生成物にマーキングを付ける流れは続いており、当メディアでもSunoの電子透かし導入を扱いました。AI由来かどうかが後から判定され得る環境では、顧問先の社内記録の重みが増します。事務所からの助言も、記録の設計に踏み込むものへ変わっていきます。

三つ目は、士業の側の役割の変化です。この領域で顧問先が求めているのは、白黒の結論ではなく、判断のための枠組みと、判断できない場面の見極めです。断定を避けながら実務を前に進める説明ができるかどうか。ここは資格者の経験が最も効く領域で、AIが代替しにくいところでもあります。文化庁の資料は、その説明の土台として使える公的な材料です。使い込んでおく価値があります。

最後に、この領域を扱う士業の立ち位置について触れておきます。生成AIと著作権の相談は、弁護士だけの領域ではありません。弁理士は知的財産の実務家として、中小企業診断士は事業計画の観点から、行政書士は契約書面の作成の場面で、それぞれ接点を持ちます。職種によって踏み込める範囲は異なりますが、顧問先の相談の入口に立つのは、日常的に接している士業です。入口で適切に整理し、必要な場合に適切な職種へ繋ぐ。この役割が果たせるかどうかが、顧問先からの信頼を左右します。

そのためには、自分の職種で踏み込める範囲を自覚しておく作業が要ります。どこまでが一般的な情報提供で、どこからが個別の判断なのか。この線を自分の中で引いておくと、相談の場で迷いません。当メディアで整理したAIリーガルテックと業際の論点も、根は同じ問いを扱っています。

よくある質問

文化庁のチェックリストはどこで確認できますか

文化庁のサイトで公表されています。AI開発・提供・利用のチェックリストと、権利者のためのガイダンスの2部構成です。改訂される場合があるため、参照時に最新版かどうかを確認することになります。

顧問先が生成AIで作った画像を商用利用してよいですか

個別の生成物を見ないと検討できない類型です。既存の著作物との類似性と依拠性という2つの軸で検討される枠組みを伝えたうえで、実物を確認する流れになります。あわせて利用しているサービスの規約も確認する必要があります。

学習に使われた著作物の権利者は何ができますか

文化庁の資料の第2部が、権利者の立場から前提となる事項を整理しています。まずはそこを確認する形が実務的です。個別の事案については、事実関係を確認したうえでの検討になります。

著作権法第30条の4はどういう条文ですか

著作物に表現された思想または感情を自ら享受し、または他人に享受させることを目的としない場合に、必要と認められる限度で利用できると定めた条文です。情報解析の用に供する場合が掲げられ、ただし書きで著作権者の利益を不当に害する場合が除かれています。原文はe-Gov法令検索で確認できます。

事務所が調査でAIを使うときの注意点は何ですか

顧問先の未公表の資料や、第三者の著作物を外部サービスに投入する場面が論点になります。投入してよい範囲を事前に決め、記録を残す運用にしておく形が採られています。

顧問先向けの説明資料は作ったほうがよいですか

同種の相談が繰り返される類型なので、資料を作ったほうが総工数は下がります。業種ごとに差し替える箇所を決めておくと、複数の顧問先に応用できます。

生成物にAIの痕跡が残ると何が変わりますか

AI由来であることが後から判定され得るため、顧問先の社内記録の重みが増します。いつ、どのサービスで、どのような指示で生成したかを残す運用の必要性が高まります。

参考文献

※士業のチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴事務所の業務に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
https://shigyonochikara.jp/contact/

本記事の作成体制について

本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で、それぞれ確認したうえで記載しています。引用元は本文中および参考文献にすべて明示しています。

本記事には特定の資格者による監修は入っていません。個別の事案について法令の当てはめや手続の可否を判断する必要がある場合は、当該分野の有資格者にご相談ください。本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別具体的な法律判断・税務判断・労務判断を提供するものではありません。

記載内容に誤りを見つけられた場合は、お問い合わせよりご指摘ください。確認のうえ速やかに訂正し、訂正履歴を記事内に残します。編集方針の詳細は運営者情報をご覧ください。