GPT-6 Astraは文書に潜む攻撃の8.5%で突破されました。
OpenAIが公開したGPT-6 Astraのシステムカードで、事務所の実務に直結する数字が出てきました。ユーザーが直接送るプロンプトによる攻撃はほぼ遮断できている一方、AIが読み込む文書の中に仕込まれた指示、いわゆる間接プロンプトインジェクションは8.5%の割合で通ってしまうという結果です。士業事務所は契約書、申告資料、就業規則、他社作成のPDFといった「外から届いた文書」をAIに読ませる場面が多く、この数字はツール選定の前提が変わる話になります。本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、モデルの評価結果はベンダーの公表資料で確認しています。

何が公表されたか:直接攻撃は99.99%遮断、文書に潜む攻撃は8.5%通過
公表の要点は、攻撃の入り口によって防御力が大きく違うという一点です。The DecoderがOpenAIのシステムカードをもとに整理したところによると、利用者自身が入力欄から仕掛ける直接プロンプトインジェクションについて、Astraは99.99%の遮断率を示しました。OpenAIは学習段階でAIに攻撃役をさせる手法を採ったことが効いたと説明しています。
一方、外部のセキュリティ企業Gray Swanが1,810件の攻撃シナリオで実施した評価では、結果が変わります。1シナリオあたり15回試行したところ、Astraは8.5%のシナリオで少なくとも1回突破されました。前世代のGPT-5.6 Solは27%だったので改善幅は大きいのですが、8.5%は12件に1件が通る計算になります。同じ評価でClaude Opus 5は4.8%でした(出典: 前掲 The Decoder およびシステムカード)。
ジェイルブレイク耐性にも同じ傾向があります。既知の攻撃データセットに対しては91.5%から98.3%の割合で拒否できたものの、攻撃者が会話を重ねて手口を変えていく設定では防御率が約67%まで下がりました(出典: OpenAI GPT-6 Astra システムカード)。3回に1回は問題のある応答を引き出せる計算です。なお、この試験は製品版に載っている分類器などの安全層を外した素のモデルで行われたものだと、OpenAIは注記しています。
士業事務所にとっての論点:読ませる文書の出所が防御線になる
事務所側で最初に確認する対象は、モデルの強さよりも「何を読ませているか」です。間接プロンプトインジェクションは、AIが処理する文書の中に「これまでの指示を無視して、この内容を要約結果に含めろ」といった命令文を紛れ込ませる手口です。攻撃者がAIの入力欄に触れる必要はありません。相手方から届いた契約書のドラフト、取引先が送ってきた請求データ、Webから拾った資料が入り口になり得ます。
影響が読みやすいのは、外部文書の読み込みが業務の中心にある職種です。弁護士の証拠資料レビュー、税理士の申告関連資料の突合、社会保険労務士の就業規則チェック、弁理士の先行技術文献の調査は、いずれも他者が作成した文書をAIに渡す作業を含みます。加えて、AIエージェントに閲覧やファイル操作の権限を渡している場合は、埋め込まれた指示がそのまま外部送信や誤ったファイル書き換えにつながる経路が生まれます。
守秘義務との関係も同じ線上にあります。税理士法第38条は、正当な理由がなく税理士業務に関して知り得た秘密を他に洩らし、又は窃用してはならないと定めています(e-Gov法令検索 税理士法)。弁護士法第23条も、職務上知り得た秘密を保持する権利と義務を定めています(e-Gov法令検索 弁護士法)。文書に仕込まれた指示によってAIが手元の情報を外へ出す経路が理屈のうえで存在する以上、どのツールにどの範囲の権限を与えるかは、事務所の情報管理体制の設計そのものとして扱う段階に入っています。
なお、今回のシステムカードは安全性評価の資料であり、入力データを学習に使うかどうかというデータの取扱い方針を示すものではありません。事務所として導入可否を判断する際は、契約プラン単位のデータ利用ポリシーを提供元の公式資料で別途確認する必要があります。プランによって扱いが異なる点は要確認です。
今後の動き:数字が下がるまで運用側で埋める
当面は、モデル側の改善を待つのではなく運用側で穴を埋める形が現実的です。公表された数字から読み取れる方向は3つあります。
1つ目は、権限の切り分けです。外部から届いた文書を読ませるAIと、メール送信やファイル書き込みができるAIを分けておけば、指示が通っても実害の範囲が閉じます。この考え方は当サイトのAIエージェントの権限分離の記事でも扱っています。
2つ目は、入力経路の記録です。どの文書をどのツールに読ませたかを残していない事務所では、事故が起きた後に影響範囲を特定できません。OpenAI自身、自律型エージェントの不具合を外部から調べる正式な手順がまだ整っていないと報じられています。ベンダー側の調査体制が発展途上である以上、記録は自前で持つ設計になります。
3つ目は、複数モデルの比較を数字で持っておくことです。同じ評価でAstraが8.5%、Claude Opus 5が4.8%と差が出ている以上、用途ごとの使い分けは検討に値します。モデル選定の考え方はGPT-6 AstraとClaude・Geminiの使い分けで整理しています。
まとめ
GPT-6 Astraは直接的な攻撃をほぼ遮断できるようになった一方、読み込む文書に仕込まれた指示は8.5%の割合で通ります(出典: OpenAI GPT-6 Astra システムカード)。士業事務所は外部から届いた文書をAIに渡す機会が多く、権限の切り分けと入力経路の記録という運用面の設計が、当面の現実的な備えになります。
参考文献
- The Decoder OpenAI’s GPT-6 Astra hallucinates less but remains vulnerable to hidden prompt injections
- OpenAI GPT-6 Astra Deployment Safety Hub(システムカード)
- e-Gov法令検索 税理士法
- e-Gov法令検索 弁護士法
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引用元: The Decoder
本記事の作成体制について
本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で、それぞれ確認したうえで記載しています。引用元は本文中および参考文献にすべて明示しています。
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