Anthropicの高リスク用途要件とは、助言や判断にAIを使うときの人の関与を定める規定のことです。
AIに任せられるのはどこまでで、有資格者が見るのはどこからか。この線引きを、ベンダー側の利用規約が文章にした形で示してきました。この記事では、Anthropicが2026年11月12日に施行する利用ポリシーの高リスク用途要件を一次情報で確認し、士業事務所の規程にどう反映するかを7手順で整理します。本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で確認しています。Anthropicの利用ポリシーは、2026年11月12日の施行日を明記しています(出典: Anthropic Usage Policy)。
利用ポリシーの更新で公表された事実
まず、公表されている内容を整理します。Anthropicは2026年10月8日付のニュースで、利用ポリシーを更新し、更新後のポリシーは11月12日に施行されると公表しました(出典: Anthropic 2026 usage policy update)。変更点には、欺瞞的な活動に関する節の新設、選挙に関する節の名称変更、兵器関連の記載の拡充、法執行・刑事司法に関する記載、高リスク用途の要件の明確化などが挙げられています。
士業事務所に関係するのは、高リスク用途の部分です。同ニュースによると、健康、法的権利、金融、生計、重要なサービスへのアクセスに影響する製品では、資格のある人が関与し、AIの提案を見直して必要なら変更できる権限を持つこと、そして影響を受ける個人にAIが使われたことを伝えることが求められる、と説明されています(出典: Anthropic 2026 usage policy update)。
利用ポリシーの本文では、この部分は High-risk Use Case Requirements の節にあります。助言や判断については、資格のある人が高リスクのAI提案を実質的に見直し、変更または修正する権限を持つこと、それが個人への助言として届けられる前、または判断の実施に使われる前に行われること、と書かれています。さらに、そのAI提案に基づく助言を受ける個人や判断の対象となる個人には、AIが使われたことを明確に伝える、とされています(出典: Anthropic Usage Policy)。
対象領域は、法務、医療、金融、与信、保険、住宅、雇用、教育と資格、医療アクセス、公的給付とサービス、法的地位と裁定の11領域です(出典: Anthropic Usage Policy)。士業の主要な業務領域である法務、金融、雇用が含まれています。ただし、自事務所の個別の業務がこの要件に当たるかどうかは、本記事では評価しません。ポリシー本文と契約内容を踏まえた、各事務所の判断事項です。
速報としての整理は、Anthropic利用ポリシー更新の速報にもあります。
対象外とされている業務の書きぶり
次に、ポリシー本文が除外として挙げている点を確認します。本文によると、高リスクのAI提案に関連はするものの、それ自体は提供しないワークフローを支援する用途は、要件の対象から除かれています。例として、一般的な教育コンテンツ、ウェルネスのコンテンツ、社内の下書きや調査、個人への判断を伴わない固定の計算式の適用が挙がっています(出典: Anthropic Usage Policy)。
また、社内での下書き、調査、要約、分析のうち、最終的な高リスク提案そのものではないものは対象外、という記載もあります。一方で、この要件は、高リスクのAI提案を行うために製品を使う人に適用される、と書かれています。
ここで事務所の運用に影響するのは、AIの出力が、顧問先や依頼者に届く助言や判断の本体になっているかどうか、という点です。たとえば、AIが作った下書きを有資格者が読み、自分の言葉で書き直して届ける運用と、AIの出力をほぼそのまま届ける運用とでは、ポリシーの読み方が変わり得ます。この線引きの判断は有資格者の領分であり、本記事は結論を示しません。
規程に落とす7手順
ここからは、事務所の規程やチェックリストに反映する手順の一例です。規範としての断定ではなく、運用例として示します。
手順1は、AIを使う業務の棚卸しです。顧問先向けの回答、書面の下書き、申告書や届出の作成補助など、AIが関わる業務を一覧にします。入力は業務の一覧、出力は業務ごとの関与度の整理です。
手順2は、各業務を二つに分けることです。一つは、AIの出力が社内の下書きや調査にとどまるもの、もう一つは、AIの出力が助言や判断の内容として届くものです。後者が、高リスク用途要件を読み直す対象になります。
手順3は、見直しの工程を明文化することです。ポリシー本文は、資格のある人が実質的に見直し、変更できる権限を持つことを求めています。事務所の規程では、見直す人の資格、見直した記録の残し方、見直しの結果で出力を直せることを書く運用例があります。
手順4は、AI利用の告知の設計です。本文は、助言を受ける個人にAIが使われたことを明確に伝える、としています。顧問契約書、重要事項の説明書、回答メールの定型文などに、AIを使うことがある旨を入れる運用が考えられます。告知の文言は、個々の契約や職務規程と照らして、有資格者が決めます。
手順5は、ツール側の契約の確認です。事務所がClaudeを直接使うのか、他社の業務ツールを通じて使うのかで、契約上の当事者が変わります。本文は、クラウド事業者や再販事業者経由の利用者も対象に含めると書いています(出典: Anthropic Usage Policy)。他社ツール経由の場合は、そのツール提供元の規約も確認します。
手順6は、記録の保管です。いつ、どの業務で、誰が見直したかを残します。事故が起きたときに、経緯をたどれるようにするためです。
手順7は、年に数回の見直しです。ポリシーは更新されるため、施行日や改定履歴を規程の台帳に書き、改定のたびに読み直す運用があります。規程の見直しの仕組みは、AI利用規程の四半期点検と改定履歴の7手順でも整理しています。
規程文面と告知文の下書きに使うプロンプト例
手順3と手順4の文面は、生成AIで下書きを作る方法があります。ただし、最終的な文言は、事務所の責任者が決めます。実在の顧客情報は入れず、架空の名称で作ります。
あなたは士業事務所の規程づくりの補助役です。
次のポリシー抜粋だけを根拠に、事務所規程の草案を作ってください。
抜粋にないことは補わず、不明な点は「要確認」と書いてください。
条件:
- 事務所名は「甲事務所」
- 項目は「見直しの担当」「見直しの記録」「依頼者への告知」の3つ
- 各項目は、運用例として「〜という運用があります」の形で書く
- 法令の当てはめや適否の評価は書かない
抜粋:
(ここにポリシー本文の該当箇所を貼る)
次の規程草案を、依頼者向けの案内文に直してください。
専門用語を避け、AIを補助的に使うことがある旨と、最終的な内容は有資格者が確認する旨を、
短い2段落でまとめてください。断定的な保証は書かないでください。
規程草案:
(ここに草案を貼る)
返ってきた文面は、そのまま使わず、ポリシー本文と照合します。AIが原文にない規定を補っていないか、日付や数字が合っているかを、担当者が一つずつ見ます。
架空の事例で見る業務の仕分け
仕分けのイメージをつかむために、架空の事務所の例を挙げます。実在の事務所や案件とは関係がありません。
甲事務所は、社会保険労務士三名の事務所です。顧問先からの就業規則に関する問い合わせに、担当者がAIで回答案を作っています。回答案を担当者が読み、条文を自分で確かめ、言葉を改めてから顧問先へ送る場合、AIの出力は社内の下書きにとどまっているという見方があります。一方、AIの出力をほぼそのまま貼り付けて返信する場合は、AIの出力が助言の本体になっているという見方もあり得ます。どちらに近いかを、事務所の実際の流れに沿って整理しておくことが、手順2の仕分けです。
同じ甲事務所で、社内の勉強会用にAIで判例や通達の一覧を作る場合は、依頼者に届く助言ではないため、ポリシー本文の除外の例に近い用途です(出典: Anthropic Usage Policy)。ただし、その一覧を元に顧問先へ助言する段階に進めば、見直しと告知の工程が必要かどうかを、改めて検討することになります。仕分けは一度で終わりではなく、業務の流れが変わるたびに見直す対象です。
事務所の規模別に見る運用の組み立て方
同じ要件でも、事務所の規模によって現実的な運用は変わります。以下は編集部が想定した運用例で、特定の事務所の実態ではありません。
所員が一人から三人の小規模な事務所では、見直しの担当者が代表者本人になることが多く、記録も簡素になりがちです。この規模では、案件フォルダに「AI利用あり」「見直し済み」の二行を残すだけでも、後から経緯をたどる材料になります。台帳を作り込むより、毎回同じ場所に同じ書式で残すことのほうが、続けやすいという考え方があります。
所員が十人前後の中規模の事務所では、AIを使う担当者と、見直す有資格者が別の人になる場面が増えます。この規模では、見直しの依頼と完了を、社内チャットや案件管理ツールの項目で見える化する運用例があります。見直す人が複数いる場合は、誰がどの業務の見直しを担当するかを、あらかじめ表にせず文章で規程に書いておくと、改定のたびに直しやすくなります。
複数の拠点を持つ事務所や法人では、拠点ごとに業務ツールが異なることがあります。この場合は、拠点ごとの利用ツールと、その提供元の規約の確認日を、本部で一覧にしておく運用があります。ポリシーの改定が公表されたときに、どの拠点のどのツールに影響し得るかを、本部がまとめて確認できるためです。
規程の条項に入れる項目の考え方
規程の条文そのものは、各事務所が自分の言葉で決めるものです。ここでは、項目の立て方だけを整理します。
第一に、目的と適用範囲です。AIを使う業務のうち、依頼者に届く助言や判断の内容に関わるものを、どの範囲として扱うかを書きます。範囲の線引きは、前述の棚卸しの結果を元にします。
第二に、見直しの担当と権限です。誰が見直すのか、見直す人が出力を変更できることをどう担保するのかを書きます。ポリシー本文が、見直す人に変更または修正する権限を求めていることを踏まえた項目です(出典: Anthropic Usage Policy)。
第三に、告知の方法です。依頼者へAIの利用を伝える方法を、契約時の書面、回答時の定型文、ウェブサイトの掲示などから選びます。
第四に、記録と保管期間です。保管期間は、事務所の文書管理規程や、各士業の業務に関する保存の考え方と合わせて決めます。
第五に、改定の手続です。ポリシーやツールの規約が変わったときに、誰が確認し、いつまでに規程へ反映するかを書きます。
施行日までに事務所で進めておく準備の流れ
施行日から逆算すると、準備を進める期間は限られます。編集部が想定する流れの一例として、まず十月中に業務の棚卸しと仕分けを終え、十一月の上旬に規程草案と依頼者向けの案内文をまとめ、施行日の前に所員へ周知する、という進め方があります。日付は事務所の事情で前後します。
周知の場面では、所員から出やすい質問を先に集めておくと進行が楽になります。たとえば、自分の業務は見直しの対象になるのか、告知はいつ誰が行うのか、ツールを変えたときはどう記録するのか、といった質問です。回答は、規程の条文と台帳の記載を示す形にすると、個人の解釈に頼らずに済みます。
守秘義務と顧問先への説明の論点
高リスク用途要件を規程に入れるときは、守秘義務との関係も整理します。各士業の秘密保持に関する条文は、e-Govで原文を確認できます。弁護士法は第23条、税理士法は第38条、社会保険労務士法は第21条、行政書士法は第12条にあります。当てはめは、各事務所の有資格者の判断事項です。
個人情報の取り扱いについては、個人情報保護委員会の生成AIサービスの利用に関する注意喚起が公表されています。AIに入力する情報の範囲、顧問先への説明、同意の取り方は、ポリシーの更新とは別に、事務所として決めておく項目です。
顧問先への説明では、AIを使うことがある旨、AIの出力は有資格者が見直す旨、入力する情報の範囲、の三点を伝える運用例があります。同意書の様式は、事務所ごとに異なります。
失敗例と回避策
失敗の一つ目は、AIの出力を、見直しを経ずに依頼者へ送ってしまうことです。たとえば、定型の回答メールをAIが作り、そのまま送信ボタンが押される運用になっていた場合、ポリシー本文が求める見直しの工程が抜け落ちます。回避策としては、送信前に有資格者の確認欄を設ける運用があります。
二つ目は、ツール提供元の規約を読まずに、業務ツールを通じてAIを使い始めることです。本文は再販事業者経由の利用者も対象に含めると書いているため、ツール提供元の規約と、元のポリシーの両方を台帳に書いておく運用があります。
三つ目は、告知の文言が現場でばらばらになることです。担当者ごとに言い回しが違うと、後から確認しにくくなります。回避策としては、定型文を一つ決めて、共有フォルダに置く運用があります。
費用と工数、今後の論点
規程の草案づくりと台帳の整備は、主に事務所内の作業です。工数の目安は、業務の棚卸しに半日、規程草案と告知文の作成に半日から一日程度を見込む事務所があります。これは編集部の想定であり、事務所の規模や業務の幅によって変わります(要確認)。新たな費用は、ポリシー自体には発生しません。
今後の論点は、施行日までに、自事務所の業務のどこが助言や判断の本体に当たり得るかを、有資格者が整理しておくことです。ポリシー本文には、除外される業務の例も書かれているため、除外の範囲を読み込むことが、過剰な運用を避ける材料にもなります。
よくある質問
施行日はいつですか
Anthropicの利用ポリシーは、2026年11月12日の施行を明記しています(出典: Anthropic Usage Policy)。
社内の下書きにも見直しが必要ですか
本文は、社内での下書き、調査、要約、分析のうち、最終的な高リスク提案そのものではないものは対象外と記載しています。当てはめは有資格者の判断事項です。
告知の文言は決まっていますか
本文は、AIが使われたことを明確に伝える、としています。具体的な文言や方法までは、確認した範囲では示されていません。
他社のツールを通じて使う場合も関係しますか
本文は、クラウド事業者や再販事業者経由の利用者も対象に含めると書いています。ツール提供元の規約も確認する運用があります。
対象の領域はどこですか
法務、医療、金融、与信、保険、住宅、雇用、教育と資格、医療アクセス、公的給付とサービス、法的地位と裁定の11領域です。
規程にはどこまで書けばよいですか
見直しの担当、記録、告知の三つを軸にする運用例があります。詳細は事務所の責任者が決めます。
参考文献
- Anthropic Usage Policy
- Anthropic 2026 usage policy update
- 個人情報保護委員会 生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について
- e-Gov法令検索 弁護士法
- e-Gov法令検索 税理士法
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本記事の作成体制について
本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で、それぞれ確認したうえで記載しています。引用元は本文中および参考文献にすべて明示しています。
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