2026年7月閣議決定の第Ⅱ期AI基本計画 士業事務所が読む7つの論点

第Ⅱ期人工知能基本計画が2026年7月に閣議決定されました。エージェント型AIとAXを軸に据えた内容を一次資料から整理し、士業事務所が業務と顧問先支援に落とす7つの論点をまとめます。

2026年7月閣議決定の第Ⅱ期AI基本計画 士業事務所が読む7つの論点

第Ⅱ期人工知能基本計画とは、政府がAX推進の方針を定めた計画のことです。

政府のAI政策の親文書が、わずか半年あまりで書き換わりました。内閣府の公表によれば、人工知能基本計画は令和8年7月14日に閣議決定されており、前の計画は令和7年12月23日の閣議決定でした(出典: 内閣府 人工知能基本計画)。この記事では、第Ⅱ期の計画が何を新しく打ち出したのかを一次資料から整理したうえで、士業事務所が自分の業務と顧問先支援に落とすときの論点を7つに分けて示します。本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で確認しています。

半年で書き換わった親文書 エージェント型AIが軸に据わりました

結論から書くと、第Ⅱ期の計画で軸に据わったのはエージェント型AIです。ツールとしてのAIから、意思決定と実行を担う主体としてのAIへ、という前提の置き換えが計画全体を貫いています。

内閣府が公表した概要資料では、AIは業務を支援するツールから意思決定・実行を担う主体へと進化した、という現状認識が冒頭に置かれています。そのうえで、エージェント型AIが産業や安全保障を含む広範な分野で業務全体を自律的に回す基盤になりつつあり、その社会実装の在り方が経済力や防衛力といった国力に直結するという整理が示されています(出典: 内閣府 第Ⅱ期人工知能基本計画(概要))。半年前の計画が信頼できるAIによる日本再起を掲げていたことと比べると、抽象度がひとつ下がり、実装の話に寄っています。

計画は4つの基本的な方針で構成されています。AIを使う、すなわちAI利活用の加速的推進。AIを創る、すなわちAI開発力の戦略的強化。AIの信頼性を高める、すなわちAIガバナンスの主導。そしてAIと協働する、すなわちAI社会に向けた継続的変革です(出典: 内閣府 第Ⅱ期人工知能基本計画(概要))。士業事務所の実務に近いのは1つ目と4つ目ですが、3つ目のガバナンス方針は制度改正の予告として読む価値があります。

とりわけ士業に関わりが深いのは、社会全体のAXを進める観点から、府省庁横断で法制度・ガイドライン・運用ルールについて抜本的な見直しを行う、と書かれている部分です(出典: 内閣府 第Ⅱ期人工知能基本計画(概要))。士業の業務は制度の上に成り立っているため、制度が見直されれば業務の輪郭も動きます。実際、弁護士の分野では法務省がAI等法務業務支援サービスと弁護士法第72条の関係についてのガイドラインを公表しており、当サイトでもこのガイドラインの内容を整理した記事を出しています。特許庁も業務におけるAI活用の基本方針を策定しており、弁理士の実務への影響をまとめた記事で扱いました。第Ⅱ期の計画は、この種の分野別の動きが今後さらに増えるという前提を置いています。

ガバナンス面では、人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律第16条に基づく調査研究等をより機動的に運用し、同法を含めた制度等を能動的かつ不断に見直す、という方向が示されています(参考: 内閣府 第Ⅱ期人工知能基本計画(概要))。同条は、国が国内外の動向に関する情報の収集や、不適切な方法による研究開発・活用に伴って国民の権利利益の侵害が生じた事案の分析などを行い、その結果に基づいて活用事業者などに対する指導、助言、情報の提供その他の必要な措置を講ずる、と定めています。AIを使う側の事業者に対して国が働きかける根拠が置かれている条文であり、士業事務所も活用事業者の一つとして射程に入り得ます。

士業事務所が実務に落とすときの7つの論点

結論から書くと、計画そのものを読み込む価値があるのは、事務所の中期の投資判断と、顧問先支援メニューの設計です。日々の業務手順が明日変わるわけではありません。

論点1 エージェント型AIを前提に業務を棚卸しする

計画が前提を置き換えたのなら、事務所側も前提を合わせておく意味があります。従来のチャット型の使い方は、人が指示を出して人が結果を受け取る構造でした。エージェント型は、複数の工程をまたいで自律的に処理が進みます。事務所の業務のうち、どこまでを人が指示する形で残し、どこからを自動で回してよいのかを線引きする作業が、棚卸しの中身になります。

論点2 まず着手する工程を1つに絞る

計画は政府における率先導入を掲げていますが、事務所規模でこれをそのまま真似すると散らかります。実務では、繰り返し発生し、成果物の正解が事務所内で判定でき、外部に出す前に確認工程を置ける業務から始める形が採られています。書式の下書き、資料の要約、確認リストの整形などが該当しやすい領域です。最初の一歩の設計は、当サイトの社労士事務所の生成AI導入ステップの記事でも扱っています。

論点3 自分の業際に関わる見直しの監視先を決める

府省庁横断の見直しが進むということは、士業ごとに見るべき役所が増えるということでもあります。弁護士なら法務省、税理士なら国税庁、社会保険労務士なら厚生労働省、弁理士なら特許庁、行政書士なら総務省とデジタル庁、というように、監視先を事務所内で明文化し、担当者を割り当てておくと取りこぼしが減ります。四半期に一度、更新の有無を確認する程度の頻度で足ります。

論点4 顧問先支援メニューに中小企業のAXを組み込む

計画は、中堅・中小企業におけるAI導入や、地方の課題解決プロジェクトの創出を支援する方向を示しています(参考: 内閣府 第Ⅱ期人工知能基本計画(概要))。顧問先が補助金や支援策を使う場面で、士業が相談を受ける機会は増えると見込まれます。中小企業診断士や行政書士に限らず、税理士や社会保険労務士でも、AI導入に伴う業務フローの変更が就業規則や経理処理に波及するため、接点は生まれます。

論点5 所内のリテラシー水準を決める

計画は、全ての国民のAIに関するリテラシー向上とリ・スキリング支援を掲げています。事務所単位では、全員が同じ水準である必要はなく、誰がどの水準まで扱えるかを決めるほうが実務的です。プロンプトを書ける人、出力を検証できる人、規程を設計できる人で役割を分け、研修の内容を分けます。

論点6 判断責任の所在を工程表に書き込む

計画は、AI利活用時における権利侵害や損害が発生した場合などの責任分界について継続的に検討するとしています(参考: 内閣府 第Ⅱ期人工知能基本計画(概要))。国の議論が続いている以上、事務所側では自前で線を引いておく形になります。工程表に確認者の欄を設け、空欄のまま次の工程へ進めない運用にするのが、最も単純で効きます。

論点7 年次で読み直す前提を作る

概要資料には、本基本計画は当面毎年変更し、適切なベンチマークを設定してモニタリングすると書かれています(出典: 内閣府 第Ⅱ期人工知能基本計画(概要))。一度読んで終わりにできる文書ではありません。年に一度、計画の更新と自事務所のツール棚卸しを同じ時期に回す運用が省力です。棚卸しの手順は当サイトのAIツール契約を年1回棚卸しする記事にまとめています。

計画の読み込み自体も生成AIに手伝わせられます。概要資料を読み込ませて、自分の職種に関わる記述だけを抜き出すと、年次の確認が軽くなります。

あなたは行政文書の読解を補助するアシスタントです。
添付した政府計画の資料から、以下の条件で記述を抽出してください。

【抽出対象】
- 士業(弁護士・税理士・公認会計士・司法書士・行政書士・社会保険労務士・弁理士・中小企業診断士)の業務に影響しうる記述
- 法制度・ガイドライン・運用ルールの見直しに言及した記述
- 中小企業支援に言及した記述

【出力形式】
- 記述ごとに「原文の抜粋」「該当ページ」「想定される影響先の職種」の3項目
- 抜粋は資料に書かれている文言のまま、改変しないこと

【厳守事項】
- 資料に書かれていない内容を補わないでください
- 該当が見つからない項目は「該当なし」と明記してください
- 法令解釈や、事務所が取るべき対応の結論は書かないでください

抽出結果は、そのまま所内の共有メモには使えません。原文に当たり直す工程を挟みます。次のプロンプトは、抽出結果を所内会議の議題に整形するためのものです。

以下は、政府計画から抽出した記述の一覧です。
所内会議の議題メモに整形してください。

【条件】
- 議題は5件以内に絞り、影響が大きいと考えられる順に並べる
- 各議題に「事実として書かれていること」と「事務所として決めること」を分けて書く
- 「決めること」は問いの形で書き、結論は書かないこと
- 出典として資料名とページを各議題に付す

【抽出結果】
(ここに前工程の出力を貼り付け)

問いの形で止めるのは、結論は所内の議論で出すものだからです。生成AIに結論を書かせると、議論そのものが省略されます。

計画が掲げる信頼性を事務所の守秘義務規程にどう落とすか

結論から書くと、計画の信頼性という言葉を事務所の言葉に翻訳すると、投入データの範囲、確認者、記録の3点になります。国の議論を待つ性質のものではありません。

計画は、AI法などの制度による対応に加えて、技術による対応と組織管理による対応に統合的に取り組む、という枠組みを示しています(参考: 内閣府 第Ⅱ期人工知能基本計画(概要))。このうち事務所が自力で動かせるのは組織管理の部分です。

土台になるのは、各士業法の秘密を守る義務です。弁護士法第23条、税理士法第38条、社会保険労務士法第21条、行政書士法第12条、弁理士法第30条は、いずれも業務上知り得た秘密を漏らすことを禁ずる規定を置いています。文言は職種ごとに少しずつ違い、盗用まで対象に含むもの、資格を失った後も及ぶことを明記するものなど差があります。事務所の規程を書くときは、自分の職種の条文を原文で確認してから引くのが確実です。

顧客データの取扱いでは、個人情報保護法第27条が第三者提供の制限を定めています。同条は、利用目的の達成に必要な範囲内で個人データの取扱いを委託することに伴って提供される場合を、第三者に該当しないものとする旨も定めています。生成AIサービスの利用がこの委託の枠組みで整理できるかは、契約形態やデータの流れによって変わります。個人情報保護委員会が生成AIサービスの利用に関する注意喚起を公表しているため、事務所の整理はそこを起点に組み立てるのが素直です(参考: 個人情報保護委員会 生成AIサービスの利用に関する注意喚起等)。

ツール側の仕様も併せて押さえます。Anthropicは、商用プランについて既定では顧客の入力と出力を生成モデルの学習に使用しないと説明しています(参考: Anthropic Privacy Center)。ベンダーごとに設定項目もプランも違うため、事務所で使っている契約のドキュメントを当たり直す作業は避けられません。

規程に落とすなら、書く項目はおおむね決まります。使用を認めるツール、投入してよいデータの区分、匿名化の手順、成果物に反映する前の確認者、記録の保存期間、事故時の報告先。エージェント型AIを使う場合は、これに加えて、自動実行を認める範囲と、人の承認を挟む地点を明記する形が採られています。

読み違えやすい3点

ひとつ目は、政府が推進しているのだから使い方は自由だ、という読み方です。計画は推進とガバナンスを両輪として置いており、サイバーセキュリティの確保や、AIモデルの評価・トレーサビリティ・技術的制御に関する能力の確立も並べて掲げています(参考: 内閣府 第Ⅱ期人工知能基本計画(概要))。推進の記述だけを抜き出すと、計画の骨格を読み違えます。

ふたつ目は、規制緩和の予告と読んでしまうことです。計画に書かれているのは制度等の能動的かつ不断の見直しであって、緩和とも強化とも書かれていません。士業の業際に関わる部分は、分野ごとのガイドラインや検討会の議論を個別に追う以外に方法がありません。

みっつ目は、一度読んで終わりにすることです。当面毎年変更するという前提が明記されている以上、来年には別の重点が置かれている可能性があります。事務所の判断を計画の記述に強く紐づけすぎると、更新のたびに方針が揺れます。紐づけるのは計画の方向性であって、個別の文言ではないほうが安定します。

費用と工数はどこにかかるか

この論点整理に新しいツール費用はかかりません。かかるのは読む時間と、所内で議論する時間です。概要資料は分量が限られているため、担当者が目を通して抽出するだけなら短時間で終わります。負荷が出るのは、抽出した論点を事務所の方針に翻訳する会議の側です。

体制としては、監視先の割り当てを職種ごとに決め、四半期に一度の更新確認を持ち回りにする形が軽く回ります。年に一度、計画の更新に合わせて所内方針とツール棚卸しを同時に見直すと、単発の作業として立ち上げ直す手間が省けます。

顧問先向けにこの内容を資料化する場合は、計画の記述をそのまま並べても伝わりません。顧問先の業種で起きる変化に翻訳する工程が要ります。ここに時間をかけた資料は、その後の相談の入口として働きます。

今後の論点をどう見るか

注視したいのは、責任分界の議論の進み方です。計画は、エージェント型AIも前提に、権利侵害や損害が発生した場合の責任分界について継続的に検討するとしています(参考: 内閣府 第Ⅱ期人工知能基本計画(概要))。ここに一定の整理が出れば、士業事務所がAIを業務に組み込む際の契約書の書き方や、顧問先への説明の内容が具体化します。

もうひとつは、知的財産の保護と透明性の確保に関する動きです。計画は、適切な知的財産の保護と利活用につながる透明性を確保し、コンテンツホルダーへの対価還元等を推進するとしています。弁理士や著作権を扱う実務では、ここが直接の業務領域と重なります。

士業の側から見て重要なのは、計画が示すのは方向であって、業務のルールそのものではないという点です。ルールは分野ごとのガイドラインや法改正として降りてきます。計画は、そのガイドラインがどの方向から来るかを予測するための地図として使うのが、実務上の使い方だと考えています。

よくある質問

第Ⅱ期人工知能基本計画はいつ決まったのですか

内閣府の公表によれば、人工知能基本計画は令和8年7月14日に閣議決定されています(出典: 内閣府 人工知能基本計画)。同じページには令和7年12月23日閣議決定の前の計画も掲載されており、両方を比べて読めます。

前の計画と何が一番変わりましたか

軸に据えられた対象が変わりました。概要資料では、AIが業務を支援するツールから意思決定・実行を担う主体へと進化したという認識のもと、エージェント型AIの社会実装が重点に置かれています(出典: 内閣府 第Ⅱ期人工知能基本計画(概要))。あわせて、AIを前提に意思決定や業務の進め方を見直すAXという言葉が計画全体の軸語になっています。

士業の業務ルールがこの計画で直接変わりますか

計画そのものが業務ルールを定めるわけではありません。概要資料には、社会全体のAXを推進する観点から府省庁横断で法制度・ガイドライン・運用ルールの抜本的な見直しを行うと書かれており、実際のルールは分野ごとの見直しとして出てきます(参考: 内閣府 第Ⅱ期人工知能基本計画(概要))。事務所としては、自分の職種に関わる府省庁の公表を追う体制を先に作っておく形になります。

AI法という言葉が出てきますが、条文はどこで読めますか

e-Gov法令検索で読めます。計画が言及している調査研究等の規定は人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律第16条にあり、国が情報収集や事案の分析を行い、その結果に基づいて研究開発機関や活用事業者などに指導、助言、情報の提供その他の必要な措置を講ずる旨が定められています。

事務所の規程を今すぐ作り直したほうがよいですか

計画の閣議決定を理由に急いで作り直す必然性は薄いと考えられます。ただし、エージェント型AIを実際に業務へ入れる場合は、自動実行を認める範囲と人の承認を挟む地点を規程に書き足す必要が出てきます。既存の規程がチャット型の利用を前提に書かれている場合、そこだけがずれます。

顧問先から計画の内容を聞かれたらどう答えますか

計画の性格を先に説明する形が誤解を招きにくくなります。政府の方向性を示す文書であり、当面毎年変更する前提が明記されていること、個別の規制や補助制度は別途分野ごとに出てくることを伝えたうえで、顧問先の業種に関わりそうな記述だけを抜き出して示すと話が具体化します(参考: 内閣府 第Ⅱ期人工知能基本計画(概要))。

参考文献

※士業のチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴事務所の業務に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
https://shigyonochikara.jp/contact/

本記事の作成体制について

本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で、それぞれ確認したうえで記載しています。引用元は本文中および参考文献にすべて明示しています。

本記事には特定の資格者による監修は入っていません。個別の事案について法令の当てはめや手続の可否を判断する必要がある場合は、当該分野の有資格者にご相談ください。本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別具体的な法律判断・税務判断・労務判断を提供するものではありません。

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