少人数の会計事務所が顧問先を増やすには AI前提の体制構築6手順

少人数の会計事務所が顧問先を増やす体制構築を6手順で整理。業務の分解から有資格者の工程確定、標準手順書とAIの噛ませ方、守秘義務と規程の論点までまとめます。

少人数の会計事務所が顧問先を増やすには AI前提の体制構築6手順

AI前提の体制構築とは、業務の分解と担当の組み直しのことです。

所長と職員数名の事務所で顧問先を増やそうとすると、まず所長の時間が先に尽きます。この記事では、少人数の会計事務所が顧問先を増やす局面で、業務をどう分解し、どこにAIを噛ませ、どこを有資格者が持つのかという体制の組み直しを扱います。本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁および職能団体の公表資料で確認しています。日本税理士会連合会によると、令和8年7月末日現在の税理士登録者数は82,310名、税理士法人の届出数は5,319件です(出典: 日本税理士会連合会 税理士登録者数)。

顧問先を増やせない理由が人手だけではない2026年の状況

先に整理しておくのは、拡大が止まる原因が採用だけではないという点です。人を採っても、教える時間が所長から出ていくため、短期的にはむしろ処理量が落ちます。ここを飛ばして採用に走ると、拡大の踊り場が長引きます。

業界の規模感としては、日本税理士会連合会が公表する令和8年7月末日現在の登録者数が82,310名、税理士法人の届出数が5,319件です(出典: 日本税理士会連合会 税理士登録者数)。個人事務所と小規模法人が数のうえで大半を占める構造は変わっておらず、多くの事務所が同じ制約の中で拡大を考えています。

行政側の環境も動いています。国税庁は税務行政のデジタル・トランスフォーメーションとして、税務手続のオンライン化とデータ活用の方針を示しています(出典: 国税庁 税務行政のデジタル・トランスフォーメーション)。顧問先側の帳簿と証憑が電子で揃っていく流れは、事務所の作業の形を変えます。紙を前提にした工程を残したまま件数を増やすと、増えた分だけ手作業が積み上がります。

制度面の変化も、拡大の設計に効いてきます。電子帳簿保存の要件やAI-OCRの活用については当媒体の電子帳簿保存法の2026年 要件緩和とAI-OCRで会計事務所が削る6工程で扱いました。入口の工程が軽くなると、事務所の負荷は入力から確認へ移ります。確認は有資格者に寄る作業であるため、ここを設計しないまま件数を増やすと、所長のところで詰まります。

拡大が止まる典型は3つの形をとります。第1に、所長が全件を見る運用が残ったまま件数が増える形。第2に、職員ごとに手順が違い、品質のばらつきを所長が吸収している形。第3に、新規の顧問先の立ち上げに毎回同じ説明時間を使っている形です。いずれも、人を増やすだけでは解けません。手順を外に出し、標準を作り、確認の粒度を決める作業が先に来ます。

AIが効くのは、この3つの形のうち手順の標準化と立ち上げの定型化です。判断そのものを代替する話ではありません。有資格者が判断する材料を、より短い時間で揃える方向に使うと、体制の組み直しと噛み合います。

顧問先を増やすためのAI前提の体制構築6手順

手順は6つです。順番に意味があり、後ろから着手すると効きません。

手順1は、業務の分解です。月次の記帳代行、証憑の突合、試算表の作成、月次の報告、決算と申告、そして相談対応。この単位で工程を書き出し、それぞれに誰が触れているかを並べます。ここで、所長しか触れていない工程がどれだけあるかが見えます。分解の粒度は、ひとつの工程が短時間で終わる単位に揃えると扱いやすくなります。

手順2は、有資格者が持つ工程の確定です。税務判断を含む工程、顧問先への説明と助言、申告書の最終確認。ここは移せません。逆にいえば、それ以外は移せる可能性があります。この線を先に引かないと、AIの導入検討が判断領域まで滲みます。

手順3は、標準手順の作成です。移せる工程について、入力と出力を明示した手順書を作ります。何を受け取り、どこを見て、何を次の工程に渡すか。この手順書は職員の教育にも使え、AIに作業を投げるときの指示の下敷きにもなります。ここに時間を使うことが、後の全部を決めます。

手順4は、AIを噛ませる箇所の選定です。標準手順のうち、文章を作る工程、資料から情報を抜き出す工程、確認の観点を並べる工程が候補になります。逆に、数値そのものを計算させる工程や、条文の条番号を書かせる工程は候補から外します。生成AIは実在しない条番号をもっともらしく出力するため、ここを任せると事故が起きます。

手順5は、確認工程の設計です。AIの出力をそのまま次に流さず、誰がどの観点で見るかを決めます。会計事務所の場合、金額の一致、区分の妥当性、そして顧問先固有の事情の3点が確認の軸になります。この確認を有資格者と職員のどちらが持つかは、工程ごとに変えて構いません。

手順6は、新規顧問先の立ち上げの定型化です。初回のヒアリング項目、資料の受け渡し方法、初月の作業スケジュール。これを型にしておくと、最初の受け入れと後の受け入れで、立ち上げにかかる時間の差が縮まります。拡大局面で効いてくるのはここで、型がないと件数の増加がそのまま所長の時間の消費になります。

次のプロンプトは、手順3の標準手順書の下書きを作らせるものです。事務所の実際の流れを渡し、抜けている観点を洗い出させる使い方をします。

あなたは会計事務所の業務手順書を整える担当者です。
下に貼る作業の流れを読み、手順書の形に整えてください。

出力の形式:
- 各手順について「受け取るもの」「行うこと」「次に渡すもの」を明記
- 判断が必要な箇所には[有資格者の確認]と印を付ける
- 手順の中で抜けていると思われる観点を最後にまとめて列挙する

制約:
- 税法の解釈や、この処理が正しいかどうかの評価は書かないでください
- 具体的な条番号や金額基準は書かず、[要確認]としてください
- 顧問先名は「A社」と表記してください

--- 現在の作業の流れ ---
(口頭で説明している流れをそのまま貼り付け)

次のプロンプトは、手順6の立ち上げヒアリング項目を作らせるものです。業種ごとの差分を洗い出す使い方をします。

あなたは会計事務所の新規顧問先の受け入れを担当する事務スタッフです。
下の条件で、初回ヒアリングの項目一覧を作ってください。

顧問先の条件: 従業員10名前後、業種は[業種を記入]、会計ソフトは[ソフト名を記入]

出力の形式:
- 項目を「事業の内容」「記帳の現状」「証憑の保管方法」「決算の希望時期」
  「担当者と連絡方法」の5分類に分けて列挙
- 各項目に、聞き漏らすと後で手戻りになる理由を1行で添える

制約:
- 税務上の取り扱いの説明は書かないでください
- 顧問報酬の金額提案は書かないでください
- 質問文はですます調で、そのまま読み上げられる形に

出てきた下書きは、事務所の実情に合わせて有資格者が通します。特に、AIが作った手順書には、判断を要する工程が作業として書かれていることがあります。手順2で引いた線と照らし、判断領域が作業に混ざっていないかを見る工程を入れておきます。

ツールとの関係でいえば、会計ソフト側もAI機能を実装し始めています。当媒体のfreeeの申告書チェックエージェント 無償提供の前に決める7つの検証軸で扱ったとおり、ソフトに載る機能をどう検証してから使うかは、事務所側で決める部分です。外部のAIを別に用意する前に、既に契約しているソフトの機能を棚卸ししておくと、投資を分散させずに済みます。

顧問先の資料をAIに通す前に決めておく守秘義務と規程の論点

拡大局面では、扱う資料の量が増え、触れる人の数も増えます。ここで規程がないと、事務所として範囲を確定できなくなります。

守秘義務の根拠は職種ごとに置かれています。税理士については税理士法第38条が、正当な理由なく税理士業務に関して知り得た秘密を他に洩らし、または窃用することについて定めています。公認会計士については公認会計士法第27条が、業務上取り扱ったことについて知り得た秘密の取り扱いを定めています。いずれも資格を離れた後にも及ぶ構造になっており、職員を含めた事務所全体の運用として設計する必要が出ます。

顧問先の個人データを含む資料を扱う場面では、個人情報の保護に関する法律第27条が定める第三者提供の枠組みが論点になります。給与計算の資料や、従業員の個人情報を含む書類を外部の生成AIに投入する構成であれば、この論点が正面から出てきます。事務所としては、個人データを含む資料を投入しない運用を先に決めておくと、この論点自体を回避できます。

投入してよい情報の粒度も、拡大の前に決めておく部分です。顧問先名、業種、規模、会計ソフト名。これらは組み合わせると顧問先を特定できます。手順書の作成や立ち上げヒアリング項目の整備といった作業では、業種と規模の粒度まで抽象化しても質はほとんど落ちません。上のプロンプト例で顧問先名をA社としているのは、この理由によります。

使うサービスのデータ利用ポリシーの確認も欠かせません。入力したデータが学習に使われるか、ログの保存先と保存期間はどうか。ベンダーの公式ドキュメントで確認できる範囲を確認し、読み取れない部分は、公表資料からは確認できないものとして扱います。法人向けプランと個人向けプランで扱いが異なる例があるため、事務所が契約しているプランの記載を見る形になります。

事務所規程に書く内容は3つに絞れます。第一に、外部AIに投入してよい情報と投入しない情報の類型。第二に、利用してよいサービスとプランの指定。第三に、顧問先への説明が要る場面の定義と記録の残し方です。当媒体のAI事業者ガイドラインを事務所規程に落とす12項目で扱った整理が、そのまま土台に使えます。

職員が増える局面では、規程の存在だけでは足りません。入所時にどう伝え、誰が運用を見るかまで決めておくと、実際の運用に落ちます。少人数の事務所では所長が兼務する形が多くなりますが、兼務している事実を明示しておくことが、後任への引き継ぎで効いてきます。

拡大局面で起きやすい3つの失敗と回避策

第1の失敗は、標準手順を作る前にAIを入れることです。手順が人によってばらばらな状態でAIを噛ませると、出力のばらつきが手順のばらつきに上乗せされます。回避策は順番を守ることで、手順3を経てから手順4に進む形にします。手順書の作成は地味な作業ですが、ここを飛ばした導入は定着しません。

第2の失敗は、確認工程が形骸化することです。件数が増えると、確認が目視の流し読みに変わっていきます。回避策は確認の観点を3点程度に絞り、その3点だけは全件で見る形にすることです。観点を多く並べるより、絞った数を確かに回すほうが結果的に品質が保たれます。

第3の失敗は、AIが出した数値や条番号をそのまま資料に載せてしまう事故です。会計事務所の場合、顧問先に渡す資料に誤った数値が入ると、信用に直結します。回避策は工程の設計で、数値の計算はソフトに、条文の確認は一次情報にあたる形にし、AIには文章の整形と観点の列挙を担わせる切り分けです。

もう1つ、拡大局面で見られるのが、報酬の見直しを後回しにする形です。作業が効率化された分だけ受注を増やすと、単価が下がったまま件数だけが増えます。効率化で浮いた時間を何に使うかを決めないまま拡大すると、忙しさは変わらずに収益性だけが落ちます。

費用・工数・体制の見立て

初期に作るのは、業務の分解表、有資格者が持つ工程の一覧、標準手順書、そして立ち上げの型です。この4つが揃うと、以後の拡大は定型作業に近づきます。作成にはまとまった時間がかかりますが、一度作れば顧問先が増えるたびに使えます。

ツールの費用としては、既に契約している会計ソフトと生成AIの範囲で始められる作業です。新しいツールを増やす前に、手元の機能の棚卸しをするほうが投資効率が上がります。複数のツールが並立すると、どこに何を入れたかの追跡が難しくなる点も、少人数の事務所では効いてきます。

体制の面では、標準手順書を維持する担当を決めておく形が機能します。手順は時間とともに陳腐化するため、更新する人がいないと使われなくなります。少人数の事務所では所長が兼ねることが多くなりますが、更新のタイミングを決算期の後などに固定しておくと回りやすくなります。

採用については、標準手順書が先にあるかどうかで教育の負荷が変わります。手順書がある状態で採用すると、教える時間が短くなり、拡大の踊り場が浅くなります。順番としては、手順の整備が先、採用が後という形が扱いやすくなります。

効率化で浮いた時間を何に振り向けるかという論点

第1の論点は、受注件数と単価のどちらに振るかです。件数を増やす選択は売上の伸びが読みやすい反面、確認工程の負荷が比例して増えます。単価を上げる選択は、提供する内容の設計が要ります。少人数の事務所では、両方を同時に追うと確認工程が破綻しやすくなります。

第2の論点は、相談対応の位置づけです。記帳や申告の作業が軽くなると、顧問先が事務所に期待する内容は相談へ寄っていきます。相談は有資格者の時間そのものであり、標準化しにくい領域です。ここに時間を振り向ける前提で報酬を設計し直すかどうかが、拡大の性格を決めます。

第3の論点は、事務所自身のAI利用を顧問先にどう説明するかです。顧問先の資料をどう扱っているかを説明できる状態にしておくことは、拡大局面での信用の土台になります。規程と承認済みのツール一覧が整理されていれば、この説明は難しくありません。

よくある質問

少人数でも顧問先を増やせますか

手順の標準化を先に済ませた事務所が増やせている例があります。人を増やすより先に、所長しか触れていない工程を洗い出し、移せる工程を手順書に落とす順序が扱いやすくなります。

AIを入れれば職員を採用せずに済みますか

採用が不要になるという整理にはなりません。AIが担えるのは文章の作成や情報の抜き出しであり、確認と判断は人が持ちます。採用の必要性は、確認工程の量によって決まる部分が大きくなります。

どの工程から手を付ければよいですか

業務の分解から始める形が定着しやすくなります。工程を書き出し、所長しか触れていないものに印を付けるだけでも、着手すべき箇所が見えます。ツールの選定はその後の話になります。

顧問先の資料を生成AIに入れてもよいですか

事務所として範囲を決めてから使う順序になります。税理士については税理士法第38条が秘密を守る義務を定めており、個別の資料についての判断は有資格者が行う領域です。個人データを含む資料を投入しない運用にしている事務所があります。

効率化した分だけ報酬を下げるべきでしょうか

下げる以外の選択肢もあります。浮いた時間を相談対応に振り向け、提供する内容を組み替える形が見られます。報酬の設計は事務所の方針によって分かれる部分です。

標準手順書はどれくらいの粒度で作りますか

ひとつの工程が短時間で終わる単位に揃える形が扱いやすくなります。受け取るもの、行うこと、次に渡すものの3点が書いてあれば、教育にもAIへの指示にも使えます。

職員が増えたときに規程はどう周知しますか

入所時の説明に組み込み、運用を見る担当を決めておく形があります。少人数の事務所では所長が兼務することが多くなりますが、兼務している事実を書き残しておくと引き継ぎで効いてきます。

参考文献

※士業のチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴事務所の業務に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
https://shigyonochikara.jp/contact/

本記事の作成体制について

本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で、それぞれ確認したうえで記載しています。引用元は本文中および参考文献にすべて明示しています。

本記事には特定の資格者による監修は入っていません。個別の事案について法令の当てはめや手続の可否を判断する必要がある場合は、当該分野の有資格者にご相談ください。本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別具体的な法律判断・税務判断・労務判断を提供するものではありません。

記載内容に誤りを見つけられた場合は、お問い合わせよりご指摘ください。確認のうえ速やかに訂正し、訂正履歴を記事内に残します。編集方針の詳細は運営者情報をご覧ください。