生成AIと著作権 文化庁の考え方を士業事務所の規程に落とす6論点と確認手順

文化庁「AIと著作権に関する考え方について」を士業事務所の実務に落とし込み、成果物の著作物性、社内RAGの素材選び、規程に書く4項目と確認手順を整理します。

生成AIと著作権 文化庁の考え方を士業事務所の規程に落とす6論点と確認手順

AIと著作権に関する考え方とは、文化審議会が示した法解釈の整理のことです。

事務所が生成AIで作った書式やセミナー資料に、著作権は発生するのか。そして、その資料を作る過程で他人の著作物をAIに読ませたとき、何が論点になるのか。この2つに事務所として答えを持っているかどうかで、AI活用の広げ方が変わります。本記事では、文化庁が公表した『AIと著作権に関する考え方について』を出発点に、士業事務所の運用に落とせる論点を整理します。本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で確認しています。同ページによると、この考え方は令和6年3月に文化審議会著作権分科会法制度小委員会で取りまとめられたものです。

文化庁の考え方が士業事務所の実務に効いてくる3つの場面

先に押さえておきたいのは、この文書の性格です。概要版には、考え方それ自体は法的な拘束力を有するものではなく、現時点で存在する特定の生成AIについて確定的な法的評価を行うものではない、と明記されています。事務所の規程に引くときも、判断基準そのものではなく、判断の材料として位置づけるほうが実態に合います。

同じ概要版は、AIと著作権の問題を3つの観点に分けて考えることを示しています。ひとつ目がAI開発・学習段階、ふたつ目が生成・利用段階、みっつ目がAI生成物の著作物性です。この切り分けが、そのまま事務所の場面分けになります。

第一の場面は、事務所が社内RAGを組むときです。過去の書面や実務書をAIに読ませて検索できるようにする取り組みは、開発・学習段階の議論と重なります。同概要版は、一部の検索拡張生成すなわちRAG等のうち、既存の著作物の創作的表現の全部又は一部を生成AIを用いて出力させることを目的としたものについては、享受目的が併存するため著作権法第30条の4の適用対象外と考えられる、という整理を示しています。実務書の記述をそのまま出力させる設計にすると、この整理に触れる余地が出てきます。社内ナレッジの作り方は士業事務所のRAG構築で工程を追っているので、設計の前に読み合わせておくと論点が具体化します。

第二の場面は、事務所がAIで成果物を作り、外に出すときです。セミナー資料、ニュースレター、事務所サイトの記事、顧問先向けの書式ひな形が該当します。ここは生成・利用段階の話で、既存の著作物との類似性と依拠性が論点になります。

第三の場面は、その成果物に事務所の著作権が乗るかどうかです。同概要版は、AIが自律的に生成したものは思想又は感情を創作的に表現したものではなく、著作物に該当しないと考えられる、としたうえで、人が創作のための道具としてAIを使用したと認められれば著作物に該当し、AI利用者が著作者となると考えられる、と整理しています。事務所の資産として蓄積したい成果物ほど、ここの作り方が効いてきます。

考え方の本体に加えて、文化庁は当事者の立場ごとに整理したAIと著作権に関するチェックリスト&ガイダンスも公表しています。前掲のAIと著作権についてのページには、この資料が、AI開発者等が著作権と生成AIとの関係で生じるリスクを低減させるうえで、また権利者が自らの権利を保全・行使するうえで望ましいと考えられる取組みを、立場ごとに紹介するものだと説明されています。事務所は多くの場面でAI利用者の立場に立つので、規程を書く前にこちらを先に読むと、抽象度が下がって作業が進みます。

もうひとつ押さえておきたいのが、著作権法の基本の建て付けです。同概要版は、日本の著作権法が著作権等の権利の保護と著作物等の公正・円滑な利用とのバランスを図り、文化の発展に寄与することを目的としている、と述べています。AIの利用を止める方向にも、無制限に広げる方向にも寄っていない文書だという前提で読むと、事務所の規程も過度に硬直させずに済みます。

事務所の成果物をAIで作るときに通す6論点

結論から書くと、通すべき関門は6つです。順に固定しておくと、担当者が変わっても運用が揺れません。

第1論点は、入力する素材の出どころです。他人の書籍、判例解説、他事務所の書式をそのままAIに投入して要約や書き換えをさせる運用は、生成物の性質次第で類似性の議論に入ります。素材を、公表された法令・行政資料・裁判所の公開情報と、市販の著作物とに二分し、後者を投入する場合の扱いを別ルールにしておく方法があります。

第2論点は、生成物と既存著作物の距離です。前掲の概要版は、生成された画像等に既存の著作物との類似性および依拠性が認められ、かつ権利制限規定の対象外である場合は著作権侵害となる、と説明しています。文章についても考え方の筋は同じです。事務所側でできるのは、出力をそのまま出さず、構成と表現を自分たちの言葉に置き直す工程を挟むことです。

第3論点は、依拠性の扱いです。ここは事務所が誤解しやすい部分で、既存の著作物が学習データに含まれているか分からなくても依拠性の立証は可能だ、と前掲の概要版は述べています。加えて、開発・学習段階で当該著作物が学習されていた場合は、AI利用者が既存の著作物を認識していない場合でも通常は依拠性があったと推認される、という整理も示されています。知らずに似てしまった、という説明が通りにくい構造になっている点は、規程に書いておく価値があります。

第4論点は、創作的寄与の作り方です。前掲の概要版は、指示の分量について、創作的表現といえるものを具体的に示す詳細な指示は創作的寄与があると評価される可能性を高める一方、長大な指示でも創作的表現に至らないアイデアを示すにとどまるものは創作的寄与の判断に影響しない、としています。試行回数が多いこと自体も判断に影響しないとされています。事務所として成果物に権利を乗せたいなら、指示の具体性と、生成物への加筆修正の記録を残す運用が効きます。

第5論点は、記録の残し方です。どのプロンプトで、どのモデルで、いつ生成し、誰がどこを直したか。この履歴は、創作的寄与を説明する材料にも、後から出所を追う材料にもなります。プロンプトと差分を成果物と同じフォルダに残す運用が扱いやすいところです。

第6論点は、有資格者による最終確認です。書式ひな形や顧問先向け資料は、著作権の観点だけでなく、内容の正確性の面でも確認工程が要ります。AIの出力は下書きに留め、外部に出す判断は有資格者が行う建て付けにしておきます。

素材の切り分けを実務で回すためのプロンプト例を挙げます。

あなたは士業事務所の資料作成の補助です。以下の下書きについて、
出典の性質ごとに分類し、外部公開前の確認点を出してください。

分類:
A 法令・行政資料・裁判所の公開情報に基づく記述
B 市販の書籍・有料記事に基づく記述
C 生成AIが補った記述(出典不明)

出力:
1. 各文をA/B/Cに分類した一覧
2. Bに分類した記述について、引用の形にするか自分の言葉に書き直すかの判断材料
3. Cに分類した記述のうち、一次情報で必ず裏取りすべきもの
断定的な法的評価は書かず、確認すべき論点の列挙にとどめてください。

成果物に事務所の創作的寄与を積み上げる場面では、指示の粒度を上げる形が採れます。

あなたは士業事務所のセミナー資料の構成補助です。
以下の条件で、章立てと各章の論旨を提案してください。

前提:
- テーマ: {テーマ}
- 想定聴講者: {業種・規模・役職}
- 事務所として伝えたい結論: {結論を1文で}
- 使ってよい素材: 法令原文、府省庁の公表資料、当事務所の過去講演メモ

制約:
- 既存書籍の章立てを模した構成にしないこと
- 各章に「当事務所の見解を入れる箇所」を1つずつ明示すること
- 出典が特定できない主張は【要確認】と付記すること

なお、AIが実在しない条番号や判例を出力する問題は、著作権とは別筋で成果物の信頼性を壊します。止め方の設計は生成AIの架空判例・架空条文を止めるで整理しています。

顧問先資料と外部著作物をAIに入れる前に決める4項目

判断の起点は、投入するデータの性質を2軸で切ることです。守秘義務の軸と、著作権の軸。この2つは別の話なので、どちらか一方だけを見た規程は片肺になります。

第1項目は、守秘義務の軸で投入可否を決めることです。士業ごとに守秘義務の根拠は異なり、税理士であれば税理士法第38条に、正当な理由がなくて税理士業務に関して知り得た秘密を他に洩らし、又は窃用してはならない、と定めがあります。弁護士については弁護士法第23条に、職務上知り得た秘密を保持する権利を有し、義務を負う、と規定されています。顧問先資料の投入は、まずこの軸で線を引きます。

第2項目は、著作権の軸で素材を分けることです。法令原文や府省庁の公表資料は、著作権法第32条第2項に、国等の周知目的資料は説明の材料として新聞紙、雑誌その他の刊行物に転載することができる、ただしこれを禁止する旨の表示がある場合はこの限りでない、との定めが置かれています。一方、市販の実務書や有料記事はこの枠の外にあります。同じAIに入れる行為でも、素材によって検討する条文が変わります。

第3項目は、使うサービスの条件確認です。入力データを学習に使うか、保持期間はどれくらいか、どのリージョンに保存されるか。公式ドキュメントの記載を確認日付とともに保存し、約款改定時に見直す担当を決めておきます。法人プランと個人プランで条件が分かれる例が多い点は生成AIの法人プランと学習利用の比較にまとめています。

第4項目は、依頼者や顧問先への説明です。AIを使っていること自体をどこまで伝えるか、委任契約にどう書くかは事務所の方針が分かれます。伝える範囲の考え方は依頼者へのAI利用の説明と告知で扱っています。著作権の観点では、納品物にAI生成部分が含まれる場合、その部分の権利関係をどう説明するかが別の論点として乗ってきます。

規程に落とすなら、投入可の素材リスト、投入不可の素材リスト、生成物を外部に出す前の確認者、記録の保存期間の4項目を骨格にしている例が見られます。前掲の概要版が海賊版等の権利侵害複製物について、そうと知りながら学習データの収集を行う行為は厳に慎むべきものだと述べている点も、素材リストを作る際の判断材料になります。

著作権まわりで事務所がつまずいた3つの場面

ひとつ目は、AI生成物に事務所の権利があると前提してしまう場面です。前掲の概要版は、AI生成物であることによって一律に著作物に該当するかどうかが決まるものではなく、個々の生成物について個別具体的な事情に応じて判断されるとしています。書式ひな形を有償提供する計画がある場合ほど、生成過程の記録が薄いと後から説明しづらくなります。

ふたつ目は、社内RAGに実務書を丸ごと入れてしまう場面です。検索の利便性だけを見ると入れたくなりますが、前述のとおり、既存の著作物の創作的表現を出力させることを目的とした構成は、著作権法第30条の4の適用の議論に入ります。書籍そのものではなく、自事務所が作成した要点メモや、公表資料へのリンク集を蓄積する設計に切り替える方法があります。

みっつ目は、作風の模倣を軽く扱う場面です。前掲の概要版は、著作権法が創作的表現を保護しアイデアは保護しないため、作風がアイデアである場合はそれが共通しても著作権侵害とはならないとしつつ、少量の著作物のみからなる作品群では創作的表現が共通する場合もあると述べています。特定の書き手の文体を再現させる使い方は、この境界の近くにあります。事務所の文章はAIに真似させるのではなく、自分たちの型を作って指示に埋める方向のほうが、結果として資産になります。

費用と工数を見積もる 10人規模の事務所の場合

以下は実測値ではなく、工程から逆算した参考値です。根拠となる料金は各ベンダーの公開価格を確認してください。

費用面で大きいのはツール代よりも初期整備です。素材リストの作成、規程の起案、既存資料の棚卸し。特に既存資料の棚卸しは、過去の成果物のうちどれが外部素材に依拠しているかを追う作業になるため、資料点数に比例して時間が伸びます。

体制面は、著作権の論点と守秘義務の論点で担当を分けないほうが回ります。同じ素材について両方の軸で判断する場面が多く、分けると往復が増えるためです。運用の持ち主を所内で一本化し、判断に迷った案件だけ有資格者の会議に上げる形が扱いやすいところです。

外部の専門家に規程のレビューを依頼する場合は、素材リストと投入フローを先に固めてから相談すると、論点が絞れて時間が短く済みます。白紙から相談すると、事務所の実態を説明する時間で大半が終わります。

運用に乗せたあとの工数は、素材リストの更新に集約されます。新しいツールを入れるたび、新しい資料群を扱うたびに、リストへ追記するか判断する作業が発生します。この作業を月次の定例に組み込み、担当が単独で決められる範囲と、有資格者に上げる範囲を分けておくと、判断待ちで止まる時間が減ります。

投資対効果の見方も整理しておきます。著作権の整備は売上を直接押し上げる施策ではなく、成果物を外に出せる状態を保つための土台です。セミナー登壇、書籍執筆、事務所メディアの運営といった発信を伸ばす計画がある事務所ほど、先に整えておく意味が大きくなります。逆に、発信を伴わない内部利用が中心の事務所であれば、守秘義務の整備を先に厚くし、著作権側は素材リストの二分類から始める順序でも回ります。

著作者人格権と隣接権の議論が次の論点になる

考え方は今の到達点であって、終点ではありません。前掲の概要版は、今後は主に検討した著作財産権以外の、著作者人格権や著作隣接権とAIとの関係についても議論を継続していく、と述べています。俳優や声優の声を含んだ実演やレコードの利用との関係が例として挙げられています。

士業事務所の実務に引き付けると、講演動画や研修コンテンツをAIで再構成する場面が近いところにあります。音声の合成、講師映像の再利用、過去セミナーの要約配信。いずれも財産権の枠組みだけでは整理し切れない部分が残ります。

もうひとつの論点は、判例の蓄積です。前掲の概要版は、生成AIと著作権の関係を直接的に取り扱った判例や裁判例が乏しい状態だと述べたうえで、考え方は公表時点の整理であり見直し等の必要な検討を行っていくとしています。事務所の規程を作るときは、参照した文書の版と日付を明記しておくと、更新時に差分を追えます。この作法は、AI関連の行政文書全般に共通します。

よくある質問

生成AIで作った事務所の書式に著作権は発生しますか

一律には決まらず、個別具体的な事情で判断されるとされています。前掲の文化庁の概要版は、人が創作のための道具としてAIを使用したと認められれば著作物に該当しAI利用者が著作者となると考えられるとし、その判断は創作意図と創作的寄与の有無によるとしています。指示の具体性と加筆修正の記録が判断材料になります。

市販の実務書をAIに読ませて要約を作ってよいですか

素材の性質と生成物の使い方によって検討する論点が変わります。個人的に読むための要約と、外部に配布する資料とでは前提が異なります。前掲の概要版が示す類似性と依拠性の考え方に沿って、生成物が原著の創作的表現を写していないかを確認する工程を挟む運用が採られています。

社内RAGに書籍のPDFを入れるのは避けたほうがよいですか

前掲の概要版は、既存の著作物の創作的表現の全部又は一部を出力させることを目的としたRAG等については、著作権法第30条の4の非享受目的の要件を満たさないと考えられる、と整理しています。この整理を踏まえ、書籍そのものではなく自事務所で作成した要点メモを蓄積する設計に寄せる事務所があります。

学習データに含まれているか分からなければ依拠性は否定できますか

いいえ、前掲の概要版は、既存の著作物が学習データに含まれているか不明でも依拠性の立証は可能だと述べています。権利者側がアクセス可能性や高度な類似性を立証することで依拠性ありと推認させ得る、という整理です。知らなかったという説明だけでは足りない構造になっています。

法令や府省庁の資料をAIに入れるのは著作権の問題になりますか

法令原文や国等の周知目的資料については、著作権法第32条第2項に転載に関する定めが置かれています。ただし禁止する旨の表示がある場合は別に扱う必要があり、資料ごとに利用条件の記載を確認する運用が要ります。行政資料は改訂が多いため、参照した版と取得日を残しておくと後から追えます。

事務所の生成AI利用規程には著作権の項目をどう書けばよいですか

投入可の素材リスト、投入不可の素材リスト、外部公開前の確認者、記録の保存期間の4項目を骨格にしている例が見られます。加えて、参照した行政文書の版と確認日を書く欄を設けておくと、考え方が更新されたときに規程側の見直し範囲が特定しやすくなります。

生成AIで作った資料を有償で販売してもよいですか

販売の可否は著作権の観点だけでは決まらず、生成物と既存著作物の関係、そして事務所側の創作的寄与の程度の両面から見ることになります。前掲の概要版は、AI生成物が著作物となるかという問題と、生成や利用が既存の著作物の著作権侵害となるかという問題は別個の問題だと注記しています。有償提供を前提にするなら、生成過程の記録を残す運用を先に整えておく形が採られています。

事務所名義の記事をAIで書く場合、どこまで人が手を入れればよいですか

分量の基準は示されておらず、前掲の概要版は、単なる労力にとどまらない創作的寄与となり得るものがどの程度積み重なっているかを総合的に考慮して判断される、としています。生成物を確認して指示を修正しつつ試行を繰り返した場合には著作物性が認められる場合もあるとも述べられています。試行の履歴と加筆の差分を残す運用が、説明の材料になります。

参考文献

※士業のチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴事務所の業務に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
https://shigyonochikara.jp/contact/

本記事の作成体制について

本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で、それぞれ確認したうえで記載しています。引用元は本文中および参考文献にすべて明示しています。

本記事には特定の資格者による監修は入っていません。個別の事案について法令の当てはめや手続の可否を判断する必要がある場合は、当該分野の有資格者にご相談ください。本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別具体的な法律判断・税務判断・労務判断を提供するものではありません。

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