Gemsからスキルへの移行とは、Geminiのカスタム指示の置き場所の変更のことです。
事務所のGeminiに、契約書チェック用や議事録用のGemを登録している場合、その置き場所が変わろうとしています。この記事では、Googleが公表した移行日程を整理し、事務所で使っているGemの棚卸しから、スキルとしての作り直し、運用ルールの更新までを7手順で示します。本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で確認しています。前提として、Googleは2026年9月30日付のWorkspace Updatesブログで、Gemini appとWorkspaceにスキルを展開すると公表しています(出典: Google Workspace Updates 2026年9月30日)。
公表された移行日程を整理する
日程は、利用形態によって異なります。Googleの管理者向けヘルプによると、Workspaceのスキルは、Rapid Releaseドメインで2026年10月5日から展開が始まり、10月12日までに完了する見込みです。Scheduled Releaseドメインでは、2026年10月19日から展開が始まり、2026年11月中旬までに完了する見込みとされています(出典: Google Workspace 管理者ヘルプ Gemsからスキルへの移行)。
Gemini appのスキルは、RapidとScheduledの両方のドメインで2026年10月13日から段階的に展開され、2026年11月中旬に完了する見込みです。この間は、Gemsとスキルの両方を作成して使えると記載されています。2026年11月17日には、GemsがGemini appの設定パネルに移動します。作成、編集、利用は引き続きできます(出典: 同ヘルプ)。
事務所にとって最も重要なのは、ビジネスとエンタープライズの期限です。2027年3月1日以降、Gemsの作成、編集、利用ができなくなり、設定パネルから削除されます。Workspace StudioのAsk a Gemステップを含むフローも停止します。教育向けは2027年6月1日以降です(出典: 同ヘルプ)。
もう一つ、混同しやすい点があります。Googleのブログによると、現時点でも、Workspace StudioのフローにAsk a Gemステップを新たに追加することはできません。既存のフローは動作を続けます(出典: Google Workspace Updates 2026年9月30日)。つまり、期限の前から、新しい自動化にはGemを使えない状態になっています。
なお、こうした日付は、公表後に更新される可能性があります。自動移行の詳細は、開始の少なくとも30日前に管理者へ共有される予定とされているため、管理者は告知を随時確認する運用になります。
自動移行を待たずに作り直す理由
Googleは、Gemsが2027年3月1日以降に残っていた場合、下書きのスキルに自動移行すると説明しています。移行されたものは、作成者のスキル一覧に非アクティブの下書きとして表示されます。作成者が確認して有効化するまで、使用も共有もできません。名前、説明、カスタム指示、アップロード済みのナレッジファイルは保持され、Driveの権限と共有設定も引き継がれるとされています(出典: Google Workspace 管理者ヘルプ Gemsからスキルへの移行)。
自動移行があるなら、待てばよいのではないか、という考え方もあります。ただ、非アクティブの下書きになるということは、有効化されるまで業務で使えないということです。繁忙期に、担当者が不在のまま期限を迎えると、事務所のGemが止まる状態になります。同ヘルプは、重要なGemsについて、指示文をコピーし、ナレッジファイルを再アップロードして、動作を確認する手動の再作成を推奨しています。
さらに、スキルはGemini appとWorkspaceアプリの間で同期されません。両方で同じスキルを使いたい場合は、Google Workspace Studioで手動で再作成する必要があると記載されています。事務所で、個人のGeminiと、事務所のWorkspaceの両方を使い分けている場合、作り直しは二度発生する可能性があります。
Workspaceのスキルは、Business Starter、Standard、Plus、Enterprise Starter、Standard、Plusのほか、AI Expanded Accessなどの対象です。また、Workspaceのスキルは18歳以上のユーザーのみが対象と記載されています(出典: Google Workspace Updates 2026年9月30日)。事務所の契約プランが対象に入っているかは、管理画面と契約内容で確認してください。
7手順で進める棚卸しと作り直し
手順1は、Gemの棚卸しです。入力は、事務所の全スタッフが作成または利用しているGemの一覧です。出力は、名前、用途、作成者、最終利用時期、共有範囲、ナレッジファイルの有無を並べた台帳です。管理者が全員の個人Gemを把握するのは難しいため、スタッフ全員に申告を依頼します。ここで、野良のGemが見つかることがあります。
手順2は、重要度の仕分けです。台帳の各行を、業務で日常的に使うもの、たまに使うもの、使っていないものに分けます。使っていないものは、移行せずに廃止する候補にします。仕分けは、事務所の責任者と作成者が決めます。
手順3は、指示文とナレッジの点検です。再作成の前に、指示文に顧問先固有の情報が埋め込まれていないかを確認します。ナレッジファイルに、顧問先の書類が含まれている場合は、移行前に外します。この点は後の守秘義務の節で扱います。
手順4は、スキルとしての作り直しです。指示文を貼り直し、必要なナレッジを再アップロードして、動作を確認します。確認用に、架空の入力で試すプロンプト例を用意しておくと、旧Gemと新スキルの出力を並べて比較できます。
以下は架空のA社の議事録メモです。このメモから、決定事項、期限のある宿題、確認が必要な事項を分けて一覧にしてください。
メモに書かれていない内容は足さず、不明な点は要確認と書いてください。
【メモ】
A社の担当者から、来月の契約更新について、条件の見直しを相談したいとの連絡があった。日程は未定。
手順5は、旧Gemとの出力比較です。同じ架空の入力を、旧Gemと新スキルに与え、出力の差を有資格者が読みます。差があった場合は、スキル側の指示文を調整します。モデルの切替時に同じ考え方で検証セットを作る方法は、別の記事で整理しています(参照: 新モデルが出ても慌てない 士業事務所が実案件から検証セットを作る7手順)。
手順6は、共有範囲の再設定です。自動移行ではDriveの権限と共有設定が引き継がれるとされていますが、手動で作り直したスキルの共有範囲は、作成者が設定し直す必要があります。事務所内の誰に共有するか、顧問先に共有しないかを、台帳に記録します。
手順7は、旧Gemの停止と記録です。新スキルの動作確認が済んだら、旧Gemの利用を止め、台帳に停止日を記録します。期限の2027年3月1日より前に、事務所のGemがゼロになる状態を目標にすると、期限当日の混乱を避けられます(出典: Google Workspace 管理者ヘルプ Gemsからスキルへの移行)。
守秘義務・規程上の論点
スキルの作り直しは、事務所の生成AI利用ルールを見直す機会でもあります。守秘義務の根拠は、職種ごとに条文があります。弁護士については弁護士法第23条が、職務上知り得た秘密を保持する権利を有し、義務を負うと定めています。税理士については税理士法第38条が、税理士業務に関して知り得た秘密を他に漏らし、又は窃用してはならないと定めています。公認会計士については公認会計士法第27条、行政書士については行政書士法第12条、社会保険労務士については社会保険労務士法第21条が、それぞれ秘密を守る義務を定めています。これらを自事務所の運用へ当てはめる作業は、有資格者の判断事項です。
データの扱いについて、Googleは製品ページで、お客様のデータはお客様のものであり、Geminiモデルのトレーニングや広告のターゲット設定に使用されることはないと説明しています(出典: Google Workspace AIのご紹介)。ただし、同ページの記述は主に組織データについてのものです。個人アカウントのGeminiと、事務所契約のWorkspaceでは、データの扱いが異なる可能性があるため、事務所の業務で使うのは契約したWorkspace側に限る、といった線引きを規程に書く運用例があります。どの利用形態でどう扱われるかは要確認です。
ナレッジファイルについては、顧問先の書類を恒常的に置かない運用が考えられます。スキルに置くのは、事務所の書式、チェックリスト、社内の用語集など、顧問先を特定しない資料に絞ります。顧問先の情報を扱う場合は、個人情報の保護に関する法律の観点も論点になります。個人情報保護法第27条は、第三者提供の制限を定めています。生成AIサービスの利用については、個人情報保護委員会が注意喚起を公表しています(出典: 個人情報保護委員会 生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について)。
事務所のAI利用規程に足す観点は、別の記事で整理しています(参照: 生成AI利用規程を職種別にどう変えるか 8士業の差分と作り方7手順)。規程に書く項目の例として、スキルの作成者と承認者、ナレッジに置いてよい資料の範囲、共有範囲の変更手順、年に一度の棚卸し、退職者のスキルの引き継ぎがあります。これらは運用例であり、事務所ごとに決める事項です。
失敗例と回避策
一つ目は、退職者のGemが放置されるケースです。作成者のアカウントが停止されたとき、そのGemがどうなるかを事前に確認していないと、業務が止まる可能性があります。回避策は、重要なGemを事務所の共有アカウントではなく、複数人が編集できる形で管理し、台帳に引き継ぎ担当を書くことです。具体的な引き継ぎの挙動は、管理者ヘルプでの確認が前提になります。
二つ目は、自動移行された下書きを有効化し忘れるケースです。通知を見逃して、期限後にスキルが使えないままになります。回避策は、手順7の台帳に有効化の確認欄を設けることです。
三つ目は、ナレッジに顧問先の書類が入ったまま移行されるケースです。自動移行では、アップロード済みのナレッジファイルが保持されるため、不要な資料も引き継がれます。回避策は、手順3の点検です。
四つ目は、Workspace StudioのフローがGemに依存しているケースです。Ask a Gemステップを含むフローは、2027年3月1日以降に停止します(出典: Google Workspace 管理者ヘルプ Gemsからスキルへの移行)。回避策は、フローの所有者を洗い出し、スキルなどへの置き換えを計画することです。
費用・工数・体制
Googleのヘルプには、スキルの追加料金に関する記載は、確認した範囲では見当たりませんでした。契約プランの料金は、Googleの公式ページで確認してください(要確認)。
工数は、事務所のGemの数で決まります。台帳づくりと仕分けは管理者が担当し、再作成と出力比較は作成者が担当します。最終的な共有範囲と規程への反映は、事務所の責任者が決めます。この3役を分けておくと、作業の抜けが減ります。
期限までの時間は、Business・Enterpriseで2027年3月1日までです(出典: Google Workspace 管理者ヘルプ Gemsからスキルへの移行)。四半期ごとの繁忙期を避けて、閑散期に作業を入れる計画が現実的です。
今後の展望と独自考察
今回の動きは、Googleがカスタム指示の置き場所を、Gemsからスキルへ寄せていくことを示しています。スキルは、複数のスキルを組み合わせて使う設計とされており、管理者向けヘルプも、ユーザーに複数スキルの組み合わせを試すよう促しています。事務所にとっては、1つの大きなGemに全部を詰め込むのではなく、小さな単位で作り、組み合わせる設計に変わる可能性が論点になります。
もう一つの論点は、プラットフォーム間の同期がないことです。同じ業務を、Gemini appとWorkspaceの両方で行うと、保守の対象が二重になります。事務所としては、業務で使う場所を一つに決める判断が、保守の負担を左右します。
他社のAIでも、同様の仕組みの入れ替えは起こり得ます。その都度、台帳と出力比較の手順を使い回せるように、今回の7手順を事務所の標準手順にしておくと、次の変更にも対応しやすくなります。
よくある質問
質問1は、Gemsはいつ使えなくなるかという点です。ビジネスとエンタープライズでは2027年3月1日以降、教育では2027年6月1日以降です(出典: Google Workspace 管理者ヘルプ Gemsからスキルへの移行)。
質問2は、自動移行された内容はどうなるかという点です。非アクティブの下書きとしてスキル一覧に表示され、作成者が確認して有効化するまで使えません(出典: 同ヘルプ)。
質問3は、個人のGeminiで作ったGemも対象かという点です。Gemini appのスキルは、すべてのWorkspaceのお客様と、個人のGoogleアカウントのユーザーに展開されると記載されています(出典: Google Workspace Updates 2026年9月30日)。個人アカウントの期限は、確認した範囲では別途記載がなく、要確認です。
質問4は、スキルをWorkspaceとGemini appで共有できるかという点です。現時点では同期されないため、両方で使う場合は手動で再作成する必要があります。
質問5は、Gemの中身をそのまま移せるかという点です。自動移行では、名前、説明、カスタム指示、アップロード済みのナレッジファイルが保持されます。手動の場合は、指示文のコピーとナレッジの再アップロードを行う形になります。
質問6は、顧問先の書類を置いてよいかという点です。規程と守秘義務の観点から、有資格者が判断する事項です。顧問先を特定しない資料に絞る運用例を、本文で示しました。
参考文献
- Google Workspace 管理者ヘルプ Gemsからスキルへの移行
- Google Workspace Updates 2026年9月30日 Gemini appとWorkspaceのスキル
- Google Workspace AIのご紹介
- e-Gov法令検索 弁護士法第23条
- e-Gov法令検索 税理士法第38条
- 個人情報保護委員会 生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について
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本記事の作成体制について
本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で、それぞれ確認したうえで記載しています。引用元は本文中および参考文献にすべて明示しています。
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