税理士×金融機関×ITベンダーの支援モデルを読む 広島銀行・SOWA税理士法人・バクラク共催セミナーの7論点

広島銀行・SOWA税理士法人・バクラク共催セミナーの公開概要を材料に、税理士事務所が顧問先の経理DXとAI活用ニーズに向き合うための7論点を、条文とともに整理します。

税理士×金融機関×ITベンダーの支援モデルを読む 広島銀行・SOWA税理士法人・バクラク共催セミナーの7論点

次世代支援とは、税務に加え経営改善やAI活用まで顧問先に伴走する支援のことです。

顧問先から経理のAI化をうちの先生に相談してよいのか、と顧問先から聞かれたとき、税理士事務所はどこまで答えを持っているでしょうか。2026年7月28日に、広島銀行とSOWA税理士法人の共催オンラインセミナーが開かれ、税理士事務所に求められる次世代支援が取り上げられました(出典:バクラク セミナーページ、2026年10月3日確認)。この記事では、公開されている開催概要の記載を材料に、税理士事務所が顧問先の経理DXとAI活用ニーズの変化にどう向き合うかを、7つの論点に整理します。本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、セミナーの内容は主催側の公開ページで確認しています。編集部はセミナー本編を視聴していないため、本編の中身には触れず、公開された概要の範囲で書いています。

公開されている開催概要の事実整理

まず、公開ページの記載を事実として並べます。開催日時は2026年7月28日(火)11時から12時、形式はZoomによるオンライン配信、参加費は無料です(出典:バクラク セミナーページ、2026年10月3日確認)。登壇者として、SOWA税理士法人の代表、TISI株式会社のペイメントサービス事業部の担当者、株式会社LayerXバクラク事業部の担当者の名前が掲載されています(出典:同ページ)。

対象者は、顧問先のDX支援に課題を感じている会計事務所・税理士法人の経営者、幹部、DX推進担当などと記載されています(出典:同ページ)。概要には、税務だけでなく、経営改善からAI・DX、金融機関連携まで伴走できる、これからの支援モデルを、実践する税理士の視点から具体的に伝えるという趣旨の文章があります(出典:同ページ)。

アジェンダの項目として、AI時代に求められる会計事務所の役割、経理DXが顧問先支援の入口であること、税理士・金融機関・ITベンダーの連携モデルの紹介が並んでいます(出典:同ページ)。ここまでが事実です。以降は、この事実を材料にした編集部の整理であり、セミナーの結論や各社の見解ではありません。

論点一 業務の範囲 税理士法が定める税理士業務との距離

次世代支援という言葉は、税務の外側に広がる印象を与えます。そこで、税理士の業務の範囲を、条文で確認しておきます。税理士法第2条は、税理士の業務として、税務代理、税務書類の作成、税務相談を挙げ、そのほか税理士の名称を用いて、税理士業務に付随して、財務書類の作成、会計帳簿の記帳の代行その他財務に関する事務を業として行うことができる旨を定めています(出典:e-Gov法令検索 税理士法)。

経営改善や経理DXの支援が、この条文のどの部分と接するのかは、支援の中身で変わります。記帳や財務書類の作成に近い支援なのか、システムの選定や導入の助言なのか。後者は、税理士業務と別の位置づけで提供する事務所もあります。当てはめは、事務所の有資格者が自身の事案で行う領域であり、この記事では評価しません。ただ、顧問先への案内文や契約書の中で、税理士業務としての支援と、それ以外の支援を、文面上で分けて示す運用が考えられます。

論点二 経理DXが入口になるという見立てを、事務所の現場に置き換える

アジェンダには、経理DXが顧問先支援の入口になり、日常業務の改善からAI活用、経営改善へ発展するという趣旨の項目があります(出典:バクラク セミナーページ)。この構図を、五名規模の税理士事務所に置き換えてみます。

月次の記帳を預かる顧問先が、領収書の回収や請求書の処理に時間を取られているとします。事務所が、その入口の業務に、クラウド型の経理ツールの導入支援を足すと、顧問先のデータが、事務所に届く時点で整います。整ったデータは、月次の試算表の作成を早め、その後の経営数値の議論に時間を回せます。AIは、この流れのうち、仕訳の候補提示や異常値の検知といった下ごしらえに入ります。この見立ては編集部の整理であり、特定の製品の効果を示すものではありません。

重要なのは、入口を作ることと、その後の判断を誰が持つかを分けて考えることです。仕訳の最終確認、税務判断、経営への助言は、有資格者が担う部分です。AIとツールは、有資格者が判断に使える時間を増やす道具として位置づけます。

論点三 金融機関との連携で変わる情報の流れ

アジェンダには、税理士と金融機関とITベンダーの連携モデルの紹介が含まれています(出典:バクラク セミナーページ)。連携という言葉の中で、最も慎重に設計したいのが、顧問先の情報の流れです。

税理士法第38条は、税理士は正当な理由がなくて税理士業務に関して知り得た秘密を他に洩らし、又は窃用してはならない旨を定めています(出典:e-Gov法令検索 税理士法)。金融機関やITベンダーに顧問先の情報が渡る場面では、誰の同意で、どの範囲の情報が、どの目的で渡るのかを、事前に設計しておく必要が出てきます。

個人情報の保護に関する法律第27条は、個人情報取扱事業者が、一定の場合を除き、あらかじめ本人の同意を得ないで個人データを第三者に提供してはならない旨を定めています(出典:e-Gov法令検索 個人情報の保護に関する法律)。同法第25条は、個人データの取扱いの全部又は一部を委託する場合に、委託を受けた者に対する必要かつ適切な監督を行う旨を定めています(出典:同上)。連携の形が、委託なのか、第三者提供なのかで、必要な手続きの整理が変わります。この区分の当てはめは、個別の取引ごとに、事務所の有資格者や専門家が確認する領域です。

論点四 ITベンダーとの距離の取り方

ITベンダーが共催に加わる形は、税理士事務所にとって、導入支援の幅が広がる一方、紹介と推奨の線引きを意識する場面を生みます。顧問先に特定のサービスを案内する際に、事務所と提供元の間に、紹介料やパートナー関係がある場合は、その事実を顧問先に示す運用が考えられます。

線引きの材料として、事務所内に、ツールの選定基準を文書化しておく方法があります。価格、サポート体制、データの保管場所、学習利用の有無、他のシステムとの連携のしやすさを、評価項目として固定します。顧問先に案内した理由を、後から説明できるようにしておくためです。

実装手順 顧問先の経理DXとAI活用ニーズを聞き取る5ステップ

公開された概要の問題意識を、事務所の業務に落とす手順を示します。各ステップで、何を入力し、何が返るかを明示します。

ステップ一。顧問先を、業種、規模、経理の担当体制で分類します。入力は、既存の顧問先リストです。出力は、類型ごとの顧問先の数と、ツールの導入状況の一覧です。この集計は、事務所の台帳を使って行います。

ステップ二。顧問先ごとに、経理で困っていることを聞き取ります。ヒアリングの質問票を、AIで下書きさせる運用があります。プロンプト例を次に示します。

あなたは税理士事務所の企画担当の補助です。
中小企業の経営者に、経理の現状と困りごとを聞くための質問票を作ってください。
条件:
- 質問は10問以内
- 経理の担当者数、使っている会計ソフト、請求書や領収書の処理方法、月次の締めのタイミングを必ず含める
- AIやクラウドツールの利用に対する不安を聞く質問を含める
- 税務判断に踏み込む質問は入れない
対象: 架空のA社(従業員20名の卸売業)を想定

出力された質問票を、担当の税理士が目を通し、事務所の実際の業務に合わない質問を削ります。顧問先に渡す前に、所長が目を通します。

ステップ三。聞き取りの結果を、類型ごとに集約します。入力は、各社の回答です。出力は、困りごとの一覧と、頻度の高い順の並びです。この集計に、AIの要約機能を使う場合は、社名や個人名を伏せた形に整えてから入力します。

ステップ四。集約結果から、事務所が提供できる支援の候補を整理します。税務の領域、財務書類や記帳の領域、経営改善の領域、ツール導入の助言の領域に分け、どこまでを自所で担い、どこから外部の専門家やベンダーに引き継ぐかを決めます。

ステップ五。金融機関やITベンダーとの連携の要否を判断します。連携する場合は、情報の流れ、同意の取得方法、費用負担を、書面で整理します。次のプロンプト例は、連携前の確認事項の洗い出しに使えます。

以下の連携計画について、顧問先の情報の流れを整理する確認事項の一覧を作ってください。
条件:
- 誰が、誰に、どの情報を、どの目的で渡すかを表の代わりに文章で列挙する
- 同意の取得が必要かどうかの判断は書かず、確認すべき点として挙げる
- 法令の条番号は書かない
連携計画: 税理士事務所が、顧問先のうち希望する会社について、金融機関の面談資料づくりに会計データを提供する想定

出力に挙がった確認事項を、有資格者が条文と照らして整理します。ここは、AIの出力をそのまま使わない工程です。

守秘義務・規程上の論点 連携の前に決めておく3つのこと

連携の前に、事務所として決めておきたいことは三つあります。

一つ目は、情報の範囲です。顧問先のどの情報を、どの相手に渡すのかを、類型ごとに決めます。会計データのうち、試算表の数値だけなのか、元帳まで含むのか。この範囲は、顧問先の同意の範囲と一致させます。

二つ目は、同意の取り方です。顧問契約の本文に包括的に書くのか、連携のたびに個別に取るのか。事務所によって運用が分かれます。個人情報保護委員会は、生成AIサービスの利用に関する注意喚起を、2023年6月2日に公表しています(出典:個人情報保護委員会 生成AIサービスの利用に関する注意喚起)。AIを介する場合の入力情報の扱いは、この種の公式の資料と、ツール提供元の規約を併せて確認します。

三つ目は、記録です。誰が、いつ、どの顧問先の情報を、どの相手に渡したのかを、台帳に残します。後から顧問先に説明を求められたときに、台帳が根拠になります。

事務所規程に落とす場合の要素として、連携先の選定基準、情報提供の承認者、同意書の様式、台帳の保管期間が挙げられます。いずれも運用例であり、日本税理士会連合会などの最新の指針との関係は、団体の資料で確認する領域です。

顧問先に伝わる言葉に直す 案内文の組み立て方

セミナーの概要に書かれた支援モデルを、顧問先への案内に使うときは、事務所の言葉に直す作業が要ります。専門用語を並べるより、顧問先の経営者が自分の困りごとに重ねられる書き方が向いています。たとえば、請求書の処理に追われている社長には、月末の作業がどう変わるかを示します。金融機関との面談を控えた社長には、面談資料を作る手間がどう減るかを示します。

案内文には、事務所が担う部分と、顧問先に協力してもらう部分を分けて書きます。ツールの導入には、顧問先側の運用の変更が伴います。担当者の入力の仕方や、証憑の渡し方が変わるためです。変更の負担を先に伝えておくと、導入後の認識のずれが小さくなります。

案内の際には、AIの出力が最終結論ではない旨も添えます。有資格者が最終確認を行う工程があることを、一文で示すだけでも、顧問先の安心につながります。この文面の作り方は、前節の守秘義務の整理と同じく、事務所の実態と一致させることが前提です。実態にない工程を書かないことが、後の説明責任の面でも安全側です。

失敗例と回避策

失敗例一。経理DXの導入支援を始めたが、ツールの設定を顧問先任せにした結果、データの形式がばらばらになり、月次の作業時間が増えた。回避策は、導入の初期設定を、事務所が標準の型を用意して支援することです。

失敗例二。金融機関の面談資料づくりに会計データを渡したが、顧問先の同意の範囲が曖昧で、後に説明に時間がかかった。回避策は、情報の範囲と目的を、同意書に具体的に書くことです。

失敗例三。ITベンダーのツールを案内した後、ベンダー側の仕様変更で、顧問先の運用が止まった。回避策は、案内時に、仕様変更の通知を受け取る窓口を、事務所側に置いておくことです。

失敗例四。AIが作った経営改善のコメントを、そのまま顧問先に渡し、数字の読み違いが含まれていた。回避策は、顧問先に渡す文書の最終確認を、有資格者が行う工程として固定することです。

費用・工数・体制

費用の中心は、ツールの利用料より、事務所側の人の時間です。導入支援を一社あたり何時間見込むかは、事務所の規模や顧問先の類型で変わります。公開されたセミナー概要には、費用の数字は書かれていません。具体的な金額は、各ツールの公式の料金ページで、契約前に確認する領域です。

体制は、顧問先との窓口を担う税理士、ツール選定と設定を担う担当者、情報の流れの台帳を管理する担当者に分けて考えます。五名規模では、兼務になる場合が多いと考えられます。その場合も、台帳の管理者は、導入支援の担当者と別にする運用が、点検の面で働きます。この点は、会計事務所の生成AI導入 白書の数字を読んで自所の位置を確かめる7判断軸や、AI研究会が1,000事務所を突破 会計事務所のAI学習を組む7設計も参考になります。

今後の展望と独自考察

公開された概要から読み取れるのは、税務だけでなく、経営改善やAI活用まで伴走する、という問題設定です。この問題設定が、顧問先の求める支援の姿と合うのかは、事務所ごとに聞き取りで確かめる必要があります。

論点になるのは、三点です。支援の範囲をどう文書で区切るか、連携先との情報の流れをどう設計するか、AIの出力に対する最終判断をどこに置くかです。いずれも、ツールの機能の話ではなく、事務所の運用と責任の設計の話になります。この見立ては編集部の考察であり、セミナーの結論ではありません。

よくある質問

このセミナーはまだ視聴できますか。

編集部は、開催概要の公開ページのみを確認しています。録画の有無や視聴の可否は、主催側のページで確認してください。

税理士が経営改善やAI導入の助言をしてもよいですか。

この記事では評価しません。税理士法第2条の業務の範囲との関係は、個別の支援の内容によって変わるため、事務所の有資格者や所属する税理士会の資料で確認する領域です。

金融機関に顧問先の資料を渡すとき、同意は必要ですか。

結論は、この記事では示しません。税理士法第38条と個人情報保護法第27条の条文を踏まえ、渡す情報の範囲と目的ごとに、事務所の有資格者が確認する領域です。

ITベンダーのツールを顧問先に案内するときの注意点は何ですか。

選定基準を文書化し、事務所とベンダーの関係を顧問先に示す運用が考えられます。データの保管場所や学習利用の有無は、各社の公式文書で確認します。

小規模な事務所でも、こうした連携は可能ですか。

事務所の規模より、情報の流れの設計と記録の仕組みが整っているかが論点になります。小規模でも、台帳と同意書の様式を先に整える運用があります。

AIを使った経営改善のコメントは、そのまま顧問先に渡せますか。

そのまま渡す運用は、この記事では勧めません。数字の読み違いや前提の取り違えがないかを、有資格者が確認してから渡す工程を置く運用が考えられます。

参考文献

※士業のチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴事務所の業務に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
https://shigyonochikara.jp/contact/

本記事の作成体制について

本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で、それぞれ確認したうえで記載しています。引用元は本文中および参考文献にすべて明示しています。

本記事には特定の資格者による監修は入っていません。個別の事案について法令の当てはめや手続の可否を判断する必要がある場合は、当該分野の有資格者にご相談ください。本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別具体的な法律判断・税務判断・労務判断を提供するものではありません。

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