情報発信とは、事務所の考え方や手順を外部へ公開する取り組みのことです。
顧問先は、生成AIの使い方を、誰に相談しているのでしょうか。ミロク情報サービスが2026年9月17日に公表した会計事務所白書2026によると、企業・事業主の76%が、生成AIの整備や導入の相談先として、自分で調べると回答しています。会計事務所側でも74%が同じ回答です(出典:PR TIMES 会計事務所白書2026)。本記事では、この数字を材料に、税理士・公認会計士の事務所が、顧問先から相談される側に回るための情報発信を、7つの判断軸で整理します。本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、調査の数値は公表元の資料で確認しています。
白書2026の数字から読める、相談先の空白
最初に、調査の概要を確認します。調査はミロク情報サービスが実施し、会計事務所の職員を含む212名と、企業のバックオフィスやIT担当者、事業主606名の合計818名が対象です。調査期間は2026年7月10日から31日で、インターネット調査として実施されています(出典:PR TIMES 会計事務所白書2026)。
数字を並べると、構図が見えます。企業・事業主の生成AI利用率は、2024年の55%から2026年に84%へ上がりました。有料版の利用は36%です。AI活用にあたっての不安は、機密情報の漏洩が48%で最多でした。出力の確認では、常に別の情報源で確認する企業は35%、重要な内容のみ確認する企業は55%です。ルールが未整備の企業は53%に上ります(出典:同資料)。
つまり、顧問先の多くは、生成AIをすでに使っています。一方で、使い方のルールが整っていない企業が過半数を占め、相談先としては自分で調べる企業が76%と最多です(出典:同資料)。この76%は、会計事務所に相談しなかった、という意味ではなく、選択肢の中で自分で調べるを選んだ回答の割合です。調査の設問の詳細は、公表資料からは確認できません(要確認)。
ここに、事務所側の論点があります。顧問先が自分で調べているなら、検索や生成AIの回答の中に、事務所の考え方が出てくる状態をつくれるかどうかが、相談される側に回れるかどうかの分かれ目になります。ただし、この調査の標本は、会計事務所212名と企業606名です(出典:同資料)。全国の動向をそのまま代表する数字かどうかは、慎重に見る必要があります。
利用率や規程の整備状況については、会計事務所の生成AI利用率は75%へ、ルール未整備は70% 白書2026から読む利用規程の7判断軸で整理しています。本記事は、その数字を、事務所の外に向けた情報発信にどう生かすかに絞ります。
相談される側に回るための情報発信、7つの判断軸
ここからは、税理士と職員が少人数で運営する会計事務所が、ウェブサイトやニュースレター、顧問先向けの資料で、生成AIに関する情報を発信する場面を想定した運用例です。条文の当てはめや、特定の発信内容の妥当性の評価は行いません。どの軸をどう採るかは、各事務所の判断です。
判断軸1は、誰に向けて何を発信するかの絞り込みです。顧問先の経営者、経理担当者、従業員では、知りたいことが異なります。白書では、企業側の不安の最多が機密情報の漏洩でした(出典:PR TIMES 会計事務所白書2026)。まずは、顧問先の経理担当者向けに、AIに入れてよい情報と入れない情報の整理を発信する、という絞り込みがあります。
判断軸2は、事務所の見解と一般的な情報の切り分けです。顧問先に向けた発信は、税務や会計の判断に踏み込むほど、個別の相談との境目が曖昧になります。一般的な情報の紹介にとどめ、個別の判断は、顧問契約に基づく相談で行う、という線引きを、発信の冒頭に書く運用があります。
判断軸3は、守秘義務との関係の整理です。税理士法第38条は、税理士は、正当な理由がなくて、税理士業務に関して知り得た秘密を他に洩らし、又は窃用してはならないと定めています。公認会計士法第27条も、公認会計士は、正当な理由がなく、その業務上取り扱ったことについて知り得た秘密を他に漏らし、又は盗用してはならないと定めています。事例の紹介を発信する場合は、顧問先を特定できない形に加工する、顧問先の了解を得る、という運用が考えられます。
判断軸4は、生成AIを使って発信文を作る場合の確認工程です。Googleの検索セントラルのガイダンスは、生成AIの利用自体を禁じていない一方で、ユーザーに価値を付加せずに大量のページを生成すると、スパムポリシー違反になる可能性があると説明しています。また、正確性、品質、関連性を優先することや、コンテンツの作成方法について読者に透明性を示すことが挙げられています(出典:Google 検索セントラル 生成AIコンテンツに関するガイダンス)。AIが下書きした文章は、担当職員が事実を確認し、税理士・公認会計士が最終確認をする二段の運用が考えられます。
判断軸5は、発信の根拠の明示です。顧問先が自分で調べる場面では、根拠が分かる情報のほうが、信頼されやすいと考えられます。発信文には、国税庁や個人情報保護委員会などの一次情報へのリンクを付け、事務所の見解と一次情報の記載を、分けて書く運用があります。
判断軸6は、相談への導線の設計です。発信を読んだ顧問先が、次に何をすればよいかを示します。たとえば、AI利用の相談を受け付ける窓口と、相談の範囲を、発信文の末尾に書く方法があります。白書では、事務所内のIT担当者への相談が減る傾向も示されており(出典:会計事務所白書2026)、事務所が窓口を明確にしておく意味は大きいと考えられます。
判断軸7は、発信の更新と記録です。生成AIの仕様や法令は変わるため、発信した内容に日付を入れ、見直しの時期を決めておきます。どの発信を、いつ、誰が確認したかを記録しておくと、顧問先から尋ねられたときに説明できます。
次のプロンプトは、顧問先向けの発信文の骨子を作る例です。架空の事務所を想定しており、実在の顧問先の情報は入力しません。
あなたは会計事務所の情報発信の下書きを補助します。
架空の事務所「丁会計事務所」が、顧問先の経理担当者向けに出すニュースレターの骨子を作ります。
テーマ: 生成AIに入れてよい情報と入れない情報の整理
次の構成で、各項目に書くべき内容を3つ以内で挙げてください。
1. 導入(顧問先の状況)
2. 入れない情報の例(架空の例のみ)
3. 入れてよい情報の例
4. 確認の手順
5. 相談の窓口
法令の条文番号や数値は書かず、事務所が一次情報で確認すべき項目を末尾に列挙してください。
断定的な表現は避けてください。
次のプロンプトは、下書きの点検に使う例です。
あなたは会計事務所の発信文の点検を補助します。
下に貼り付けた文章(Aとします)を読み、次の観点で、直したほうがよい箇所を指摘してください。
- 個別の判断に踏み込んでいる表現
- 顧問先を特定できる記述
- 根拠が示されていない数値や主張
- 断定的な表現
指摘は箇条書きにし、直し方の案を複数示してください。Aに書かれていない事実は補わないでください。
【A】
(ここに架空の文章を貼り付ける)
どちらも出力は下書きです。最終判断は、税理士・公認会計士が行います。
発信の具体例 顧問先の経理担当者向けニュースレターの組み立て
判断軸を、1通のニュースレターに落とすと、次のような組み立てが考えられます。以下は運用例であり、特定の事務所の実態を示すものではありません。
導入では、顧問先の状況を、公表資料の数字で示します。たとえば、企業・事業主の生成AI利用率が2024年の55%から2026年に84%へ上がったという調査結果を、出典のリンクとともに紹介します(出典:PR TIMES 会計事務所白書2026)。数字の直後に、この調査は特定の標本に基づくことを一言添えると、読み手が過度に一般化せずに済みます。
本文の前半では、入れない情報の例を、架空の例で示します。顧問先の取引先名と金額の組み合わせ、従業員の氏名とマイナンバー、未公表の決算数値などを、AIに入力しない情報の例として挙げる運用があります。本文の後半では、入れてよい情報として、公開されている制度の説明文や、匿名化した数値を挙げます。区分の考え方は、顧問先の社内ルールづくりにも使えます。
結びでは、相談の窓口と範囲を示します。事務所として、AIの利用ルールの相談を受け付けるのか、受け付ける場合はどの範囲までかを書きます。個別の判断が必要なものは、顧問契約に基づく相談で行う旨も添えます。
発行の前には、担当職員が数値と制度の説明を一次情報と突き合わせ、税理士・公認会計士が最終確認をします。発行後は、発行日と確認者、参照した一次情報の日付を記録に残します。内部の記録と合わせて、事務所の規程にある台帳の運用を見直すきっかけにもなります。AI利用規程の作り方は、事務所のAIガイドラインの作り方でも扱っています。
事例や顧問先の声を載せる前に決める3つのこと 守秘義務と規程
情報発信で、最も慎重さが求められるのは、事例の紹介です。ここでは、条文を確認したうえで、決めておく3つを示します。
1つ目は、業法上の守秘義務の確認です。先に示した税理士法第38条と公認会計士法第27条は、業務に関して知り得た秘密の保持を定めています。事例を載せる場合に、どの程度まで加工すれば特定できないといえるかは、事案ごとに異なる論点です。個別の判断は、有資格者の判断と、必要に応じて所属団体への確認が前提です。
2つ目は、個人情報保護法の関係条文の確認です。個人情報保護法第18条は、あらかじめ本人の同意を得ないで、特定された利用目的の達成に必要な範囲を超えて、個人情報を取り扱ってはならないと定めています。同法第27条は、法令に基づく場合などを除き、本人の同意を得ないで個人データを第三者に提供してはならないと定めています。顧問先の経営者や従業員の情報を発信に使う場合は、これらの条文との関係を整理します。
3つ目は、発信に生成AIを使う場合の入力の範囲です。個人情報保護委員会は2023年6月2日に、生成AIサービスの利用に関する注意喚起を公表し、プロンプトに個人情報を含める場合には、利用目的の達成に必要な範囲かどうかを確認することを挙げています(出典:個人情報保護委員会 生成AIサービスの利用に関する注意喚起等)。発信文の下書きに、顧問先の実データを入力しない運用が考えられます。
事務所の規程に落とすなら、運用例として、発信してよい情報の区分、事例の加工の基準、顧問先の了解の取り方、生成AIに入力してよい情報、確認者の記録、訂正の手順を書く方法があります。規程の雛形は、士業事務所のAI利用規程テンプレートも参考になります。
起こりうる失敗と回避策
資料の記載から想定される失敗を、架空のシナリオで示します。
1つ目は、顧問先が特定できる事例を載せてしまう失敗です。業種や地域、規模を細かく書いた結果、読む人が顧問先を推測できてしまう想定です。回避策は、事例の加工の基準を事務所で決め、公開前に確認者が特定の可能性を点検することです。
2つ目は、AIが作った数値や制度の説明を、そのまま発信してしまう失敗です。生成AIの出力は、誤りを含む場合があります。白書では、会計事務所の52%が常に別の情報源で確認すると回答しています(出典:PR TIMES 会計事務所白書2026)。裏を返せば、確認の方法が明確でない事務所もあると考えられます。回避策は、発信文の数値と制度の説明は、一次情報と突き合わせる工程を必須にすることです。
3つ目は、発信が一般的な情報の範囲を越え、個別の助言に見えてしまう失敗です。回避策は、発信の冒頭に、一般的な情報であることと、個別の判断は相談が必要なことを書き、文末の表現を点検することです。
費用・工数・体制の目安
発信にかかる費用は、使う媒体と、外部の支援を使うかどうかで変わります。AIツールの料金は、各社の公式ページで確認する必要があります(要確認)。
工数の面では、発信の方針づくり、事例の加工基準の策定、下書きと確認の運用の設計が主な作業です。少人数の事務所では、担当者が数日、所長の確認が数時間という規模感を、運用例として想定できます(自所での実測が前提で、要確認です)。体制は、所長が最終責任者となり、発信の担当を決めておく分担が一例です。
発信と相談の関係をどう測るか
発信の効果を測る方法も、事前に考えておきます。白書は、相談先の傾向を示していますが、事務所の発信が相談の増加につながったかどうかは、自所で測らなければ分かりません。
測り方の例として、発信を見て問い合わせた顧問先の数、発信に関する質問の件数、顧問先から事務所への生成AI関連の相談の件数があります。件数が少ないうちは、数字よりも、どの発信が読まれたかと、どの質問が来たかを記録して、次の発信のテーマに生かす運用が現実的です。
一方で、相談の件数が増えた場合に、事務所が対応できる体制かどうかも、あわせて考えておく論点です。相談の範囲と窓口を、発信の段階で明示しておくと、対応の負荷を見通しやすくなります。
今後の展望と独自考察
白書は、組織的なサポート体制の不足を課題として挙げています(出典:会計事務所白書2026)。顧問先が自分で調べる傾向が続くなら、事務所の発信は、検索や生成AIの回答に出てくる情報の一つになります。
論点になるのは、発信の量よりも、根拠の示し方と守秘義務の線引きです。一次情報に基づく、確認済みの情報を、継続して出している事務所が、相談先として思い出されやすくなると考えられます。ただし、これは本記事の考察であり、公表データで示されたものではありません(要確認)。
よくある質問
76%という数字は、何の割合ですか。
企業・事業主のうち、生成AIの整備や導入の相談先として、自分で調べると回答した割合です(出典:PR TIMES 会計事務所白書2026)。設問の詳細は、公表資料からは確認できません(要確認)。
発信に生成AIを使ってもよいですか。
Googleのガイダンスは、生成AIの利用自体を禁止していません。一方で、価値を付加しない大量の生成はスパムポリシー違反になる可能性があると説明しています(出典:Google 検索セントラル)。確認工程を置く運用があります。
顧問先の事例を載せるには、何が必要ですか。
守秘義務と個人情報保護法の整理が論点になります。加工の程度や了解の取り方は、事案ごとに異なる論点です。個別の判断は、有資格者の判断と、必要に応じて所属団体への確認が前提です。
発信の内容が、個別の助言に見えないようにするには。
発信の冒頭に、一般的な情報であることと、個別の判断には相談が必要なことを書く運用があります。文末の表現も点検します。
発信の効果は、どう測りますか。
問い合わせの件数や、発信に関する質問の内容を記録する方法があります。数字が少ないうちは、どの発信が読まれたかを記録して、次のテーマに生かす運用が現実的です。
規程には何を書けばよいですか。
運用例として、発信してよい情報の区分、事例の加工の基準、顧問先の了解の取り方、生成AIに入力してよい情報、確認者の記録を書く方法があります。
参考文献
- PR TIMES ミロク情報サービス 会計事務所白書2026
- Google 検索セントラル 生成AIコンテンツに関するガイダンス
- 個人情報保護委員会 生成AIサービスの利用に関する注意喚起等
- e-Gov法令検索 税理士法
- e-Gov法令検索 公認会計士法
- e-Gov法令検索 個人情報の保護に関する法律
※士業のチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴事務所の業務に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
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本記事の作成体制について
本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で、それぞれ確認したうえで記載しています。引用元は本文中および参考文献にすべて明示しています。
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