Claude for Legalとは、Anthropicが法務向けに公開したプラグインとコネクタの一式のことです。
契約審査や訴訟管理を担うプラグインが、公開リポジトリとして誰でも読める状態になりました。試したくなる一方で、事務所のファイルや案件情報とつながる設計は、守秘義務の線引きを先に決めておく必要を生みます。本記事では、Claude for Legalの公表内容を材料に、弁護士事務所が試験導入の前に決める判断軸を7つに整理します。本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、製品の内容はAnthropicの公開リポジトリと報道で確認しています。報道によれば、Anthropicは2026年5月12日に法務向けの12のプラグインと20を超えるコネクタを発表しました(出典:LawNext)。
公表された内容 リポジトリと報道から確認できる範囲
まず、公表資料に書かれている事実を整理します。公開リポジトリ anthropics/claude-for-legal には、業務分野ごとのプラグインが並んでいます。商事、企業法務、プライバシー、製品法務、雇用、AIガバナンス、規制対応、知的財産、訴訟といった分野のほか、法学生向けとリーガルクリニック向け、コミュニティのスキルを扱うハブが含まれます(出典:GitHub anthropics/claude-for-legal)。ライセンスはApache 2.0のファイルが置かれています。
エージェントの数は、資料によって表現が異なります。リポジトリの一覧では60超の名前付きエージェントが記載されており、業界メディアは90超と伝えています(出典:Artificial Lawyer)。数え方の違いが考えられますが、公表資料からは理由を確認できないため、本記事では数を断定せず、最新の一覧を各自で確認する前提にします(要確認)。
コネクタについても、報道は20超と伝え、リポジトリの説明は18超としています。連携先には、契約管理のIronclad、電子署名のDocuSign、文書管理のiManage、電子証拠開示のEverlaw、法情報検索のTrellisなどが挙がっています(出典:LawNext)。これらは米国の法務実務で使われるサービスが中心で、日本の法令や裁判例、国内の電子契約サービスへの対応は、公表資料の範囲では確認できません。日本語での動作についても記載を見つけられませんでした(要確認)。
導入形態は、Coworkのプラグイン、Claude Codeのプラグイン、Managed Agents API、Microsoft 365向けの4つが示されています。リポジトリには、出力はすべて弁護士の検討を経る前の下書きであり、専門職としての責任は弁護士が負うという趣旨の注意書きがあります。この位置づけは、日本の事務所が運用を考える際にも、そのまま出発点になります。
米国前提の部品を日本の事務所で読む視点
プラグインの中身を読むと、判例検索のCourtListenerや州裁判所の記録を扱うTrellisなど、米国の制度を前提にした部品が多いことが分かります。日本の事務所がそのまま業務に使える部分は限られ、価値は別のところにあると考えられます。
1つ目の価値は、業務手順の設計図として読めることです。たとえば契約審査のエージェントは、事務所の方針書を先に読み込み、その基準に沿って条項を確認し、逸脱を一覧にする流れで作られています。この構造は国が違っても応用でき、自事務所の審査基準を文書化する作業の手本になります。プラグインごとに実務の流れが分解されているため、事務所内の分業を見直す材料としても使えます。
2つ目は、確認の関所の置き方です。出典を付ける、確認できない引用に目印を付ける、外に出す前に人が止める、という仕組みが手順に組み込まれています。日本の事務所が独自に検証工程を作る際、同じ発想を借りられます。引用の検証手順は、米国連邦地裁のAI架空判例事件 弁護士が組む引用検証7つの手順でも整理しています。
3つ目は、コミュニティのスキルを扱うハブの設計です。リポジトリの説明には、コミュニティが作ったスキルは誰も認証しておらず、入れるとファイルや調査コネクタにアクセスできるコードを入れることになる、という趣旨の警告があります(出典:GitHub anthropics/claude-for-legal)。外部のスキルを取り込む際の審査項目の考え方として参考になります。
試験導入の進め方 依頼者情報を使わない3段階
以下は、弁護士と事務職員を合わせて数名規模の事務所が、企業法務を中心に試す場面を想定した運用例です。判断はそれぞれの事務所で行います。
第1段階は、環境の準備です。まず、公開リポジトリの説明文と各プラグインの手順書を、担当者が読みます。次に、事務所の検証用アカウントに、1つのプラグインだけを入れます。最初の候補としては、契約審査を扱う商事のプラグインが、手順の理解に向いています。この段階では、依頼者の書類は使いません。
第2段階は、架空の題材での試行です。公開されている雛形の契約書や、事務所が自作した架空の条項を入力し、審査結果がどう返るかを観察します。返された指摘のうち、原典と照らして根拠が確認できるものと、確認できないものを分けて記録します。プロンプトの例を2本示します。
あなたは法律事務所の契約審査の補助です。
以下は架空のA社とB社の業務委託契約の抜粋です。依頼者の実在の情報は含まれていません。
(架空の条項をここに貼り付け)
事務所の審査方針は次の3点です。
1. 再委託の可否と条件
2. 成果物の権利の帰属
3. 契約終了後の情報の取り扱い
各方針について、条項の該当箇所、気になる点、確認すべき事項を列挙してください。
結論は断定せず、担当弁護士が原典と契約全体を確認するための下書きとして出力してください。
根拠が確認できない箇所には、その旨を明記してください。
あなたは事務所の情報管理担当の補助です。
AIプラグインの試験導入にあたり、以下の観点で、ベンダーと社内に確認する質問票を作ってください。
- 入力データの保管場所と保管期間
- 学習への利用の有無
- 接続するコネクタごとの権限の範囲
- ログの取得方法
- 契約終了時のデータの扱い
対象は架空のC法律事務所です。質問は1項目につき1文とし、書面で回答を受け取る前提の書き方にしてください。
第3段階は、評価と判断の記録です。従来の手作業と比べて、時間がどの程度変わったかを、事務所の実測で残します。指摘の的確さ、誤りの内容、確認に要した時間も併せて記録します。そのうえで、次の段階に進むか、見送るかを、弁護士と情報管理の責任者が決めます。記録は、後日、依頼者から質問を受けたときの説明材料になります。
いずれの段階でも、有資格者が最終の確認を行う工程を外しません。AIの出力は下書きであり、外に出す前に弁護士が原典で確かめる、という順序を固定します。
依頼者の秘密を渡す前に決めておく3つのこと
Claude for Legalの各プラグインは、事務所の文書管理や契約管理のサービスとつながることで力を発揮します。つながる範囲が広いほど、依頼者の秘密の扱いが論点になります。
弁護士法第23条は、弁護士又は弁護士であつた者が、その職務上知り得た秘密を保持する権利を有し、義務を負うと定めています。ただし、法律に別段の定めがある場合は、この限りでないともしています。この条文を、AIへの入力にどう当てはめるかは、事案ごとの整理が必要で、本記事では判断しません。事務所として先に決めておく項目を3つ挙げます。
1つ目は、入力してよい情報の範囲です。最初は依頼者の情報を入れない、次に匿名化した事案、最後に進行中の案件、という順で段階を分ける運用例があります。範囲を書面にして、担当者全員が同じ理解を持てるようにします。
2つ目は、データがどこに保管され、どう使われるかの確認です。Anthropicは、Team、Enterprise、APIといった商用製品では、デフォルトでは入力と出力をモデルの学習に使わないと案内しています(出典:Anthropic Privacy Center)。ただし、接続するコネクタの提供事業者側の扱いは、それぞれの契約と資料で確認する必要があります。
3つ目は、接続の権限です。プラグインが読み書きできるフォルダや文書の範囲を、案件ごとに絞れるかを点検します。弁護士法第25条は、弁護士が職務を行つてはならない事件の類型を定めています。複数案件の情報が1つの接続の先に集まる構成では、案件の分離が保たれるかが運用上の論点になります。
個人データを含む入力については、個人情報保護法第27条が、個人情報取扱事業者が、あらかじめ本人の同意を得ないで個人データを第三者に提供してはならないと定めています(例外が列挙されています)。海外事業者のサービスに個人データを入力する場合の整理は、個人情報保護委員会の公表資料などで、個別に確認する論点です。
依頼者への説明も、規程の一部として考えます。AIを補助的に使う点、秘密を含む入力をする場合の範囲、最終判断は弁護士が行う点を、委任契約や説明資料に書いておく方法があります。日弁連の会長談話が示した人の関与の考え方は、日弁連会長談話が示したAI時代の民事司法 弁護士事務所が置く7つの線引きで整理しています。
7つの判断軸
以上を、試験導入の前に決める7つの判断軸にまとめます。
1つ目は、試す目的です。契約審査の下書き支援なのか、手順の設計図としての参照なのかを、先に決めます。目的が曖昧だと、評価の物差しも定まりません。
2つ目は、対象プラグインの絞り込みです。12のプラグインのうち、最初は1つに絞ります。
3つ目は、日本法への適合の確認です。公表資料では日本の法令や裁判例への対応が確認できないため、出力が米国の制度を前提にしていないかを、毎回点検します(要確認)。
4つ目は、データの流れの把握です。入力が、どの事業者を経由し、どこに保管されるかを、図にします。
5つ目は、接続の権限とプランです。個人向けのプランと、組織向けのプランでは、コネクタの追加を誰が決められるかが異なります。Anthropicのヘルプは、信頼する組織が運用するサーバーにのみ接続すること、認証時に要求される権限を確認することなどを案内しています(出典:Anthropic ヘルプ カスタムコネクタの利用開始)。接続の審査項目は、MCP接続のセキュリティ要件 事務所が審査する7つのチェック項目でも扱っています。
6つ目は、出力の検証工程です。出典が付いていても、内容が原典と一致しているかは別の確認です。人が原典を開く工程を、手順として固定します。
7つ目は、外部スキルの取り込み方針です。コミュニティのスキルは認証されていないと明記されているため、事務所として取り込みを認めるか、認める場合の審査を誰がするかを決めます。
事務所の審査方針を先に文書化しておく
プラグインの多くは、事務所の方針書を先に読み込み、その基準に沿って動く作りです。方針書がなければ、汎用的な指摘しか返らず、事務所の判断とずれた出力になりがちです。試験導入の前に、契約審査で毎回見る項目、譲れない条件、担当弁護士に上げる基準を、箇条書きの短い文書にしておく運用があります。
この文書は、AIのためだけでなく、新しく入った事務職員や若手弁護士への引き継ぎにも使えます。審査の判断が個人の経験に閉じている事務所ほど、文書化の作業そのものが、試験導入の最初の成果になります。文書化した内容は、四半期ごとなど定期的に見直し、案件の傾向や依頼者の要望の変化に合わせて更新します。更新の履歴を残しておくと、過去の審査がどの基準で行われたかを、後から説明できます。
試験導入で起こりがちな失敗と回避策
失敗の1つ目は、英語の出力をそのまま日本の案件に流用してしまうことです。米国の法制度を前提にした指摘が混ざることがあります。回避策は、日本法に基づく確認を、担当弁護士の作業として残すことです。
失敗の2つ目は、検証用のつもりで依頼者の資料を入れてしまうことです。回避策は、検証用のアカウントに、依頼者の情報を入れない運用を先に定め、フォルダの権限も最初から絞っておくことです。
失敗の3つ目は、便利そうな外部スキルを、審査せずに入れてしまうことです。リポジトリ自体が、その危険を警告しています。回避策は、取り込みの承認者と、確認する項目を、事前に決めておくことです。
失敗の4つ目は、試した結果を記録せず、担当者の印象だけで導入の可否が決まることです。回避策は、時間、誤り、確認に要した手間を、同じ様式で残すことです。
費用と工数の見立て
公表資料の範囲では、プラグイン自体はApache 2.0のライセンスで公開されており、利用にはClaudeのプランと、接続するコネクタ先の契約が必要になる構成です。具体的な金額は、プランとコネクタごとに異なるため、本記事では推測で示しません。Claudeのプランの価格は、Anthropicの公式ページで最新の内容を確認してください(要確認)。
工数は、手順書を読む、検証用環境を作る、架空の題材で試す、記録をまとめるという流れで発生します。最初のプラグインの試行は期間を区切り、担当者の作業時間を実測しておくと、全体の判断がしやすくなります。体制は、導入責任者を弁護士の中から置き、情報管理の担当も別に置く形が考えられます。
今後の展望と独自考察
今回の公開は、法務のAIが、製品を買うものから、手順を読み、自分で組み立てるものへ広がっていく流れの一例です。事務所にとっては、どの製品を選ぶかという判断に加えて、どの手順を自分たちの基準で持つかという判断が加わります。
論点になるのは、次の3点です。1つ目は、事務所の審査方針が文書化されていない場合、プラグインの力を引き出せないこと。2つ目は、外部のスキルやコネクタが増えるほど、点検する対象が増えること。3つ目は、日本の法制度に合わせた部品が、国内の事業者やコミュニティからどう出てくるかです。まずは事務所の基準の文書化から着手することが、どの製品を選んでも役に立つ準備になります。
よくある質問
Claude for Legalは日本語の法務で使えますか。
公表資料の範囲では、日本語での動作や日本法への対応の記載を確認できませんでした。試す場合は、架空の題材で出力の品質を確かめたうえで判断する運用があります(要確認)。
プラグインは無料で使えますか。
リポジトリはApache 2.0のライセンスで公開されています。ただし、動かすためのClaudeのプランや、連携するサービスの契約は別に必要です。最新の価格は各社の公式ページで確認してください。
依頼者の情報を入力しても学習に使われませんか。
Anthropicは、商用製品ではデフォルトでは学習に使わないと案内しています。連携先の事業者の扱いは別ですので、それぞれの資料と契約で確認する必要があります(要確認)。
弁護士の守秘義務との関係はどう整理すればよいですか。
弁護士法第23条は、職務上知り得た秘密を保持する権利と義務を定めています。個別の入力との関係は事案ごとの整理が必要で、本記事では判断していません。
エージェントの数が資料で違うのはなぜですか。
リポジトリの一覧では60超、報道では90超と記載されています。数え方の違いが考えられますが、理由は公表資料から確認できません。最新の一覧を各自で確認してください。
外部のスキルを取り込んでもよいですか。
リポジトリの説明は、コミュニティのスキルは誰も認証していないと警告しています。取り込みの可否と審査の方法を、事務所として決めておく方法があります。
参考文献
- GitHub anthropics/claude-for-legal
- LawNext Anthropic Goes All-In on Legal
- Artificial Lawyer Claude For Legal Has Over 90 AI Agents
- Anthropic Privacy Center
- Anthropic ヘルプ カスタムコネクタの利用開始
- e-Gov法令検索 弁護士法
- e-Gov法令検索 個人情報の保護に関する法律
※士業のチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴事務所の業務に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
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本記事の作成体制について
本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で、それぞれ確認したうえで記載しています。引用元は本文中および参考文献にすべて明示しています。
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