公正取引委員会の生成AI実態調査ver.2.0 診断士が使う7視点

公正取引委員会が令和8年4月16日に公表した生成AIに関する実態調査報告書ver.2.0を取り上げ、中小企業診断士が顧問先のAI導入支援に落とす7つの視点を整理しました。

公正取引委員会の生成AI実態調査ver.2.0 診断士が使う7視点

生成AI実態調査報告書とは、公取委が競争上の論点を整理した資料のことです。

公正取引委員会は令和8年4月16日、生成AIに関する実態調査報告書ver.2.0を公表しました(公正取引委員会 生成AIに関する実態調査報告書ver.2.0について)。中小企業診断士にとって、この報告書は独占禁止法の解説書ではなく、顧問先が生成AIを導入するときに何を確認すべきかを示した地図として使えます。この記事では、報告書の論点を支援の現場に落とす7つの視点にまとめます。本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は公正取引委員会の公表資料で確認しています。

公取委が生成AIを二度調べた理由と、ver.2.0で変わったところ

公正取引委員会の生成AIに関する調査は、段階的に積み上がってきました。令和6年10月にディスカッションペーパーとして生成AIを巡る競争が公表され、その後、令和7年6月6日に実態調査報告書ver.1.0が公表されています(公正取引委員会 生成AIに関する実態調査報告書ver.1.0について)。そして令和8年4月16日にver.2.0が公表されました。1年に満たない間隔で版を重ねている点に、市場の動きの速さが表れています。

ver.2.0では、生成AI関連市場の概要の更新、自動運転市場の概要の追加、独占禁止法上の論点の再整理が行われたことが公表されています(出典: 公正取引委員会 生成AIに関する実態調査報告書ver.2.0について)。特に論点の再整理は、事業者の実務に近いところで表現が変わりました。ver.1.0の段階ではアクセス制限や他社排除、抱き合わせという形で懸念が示されていましたが、ver.2.0では、モバイルOS上の専用ソフトウェアに関する制限行為や、既存のデジタルサービスに生成AIを統合する行為として考え方が整理されています。

この変化が中小企業診断士の支援に効いてくる理由は単純です。中小企業が生成AIを使うとき、単体のAIサービスを契約する場面より、すでに使っている業務ソフトやクラウドサービスに生成AI機能が乗ってくる場面のほうが多いためです。会計ソフト、グループウェア、名刺管理、勤怠管理。これらに機能が追加される形で生成AIが入ってきます。報告書がデジタルサービスへの統合を論点として扱っているのは、まさにこの入り方を見ているからです。

診断士が顧問先に向き合うときの実務的な含意は、選定の基準が変わることにあります。単体の性能で比べる時代から、既存サービスとの結びつきをどう評価するかの時代へ移っています。乗り換えにくさ、データの持ち出しやすさ、価格改定への耐性。こうした視点が、機能一覧の比較より先に来ます。

この順序の入れ替えは、支援の現場では意外と受け入れられにくいところです。経営者も担当者も、まずは何ができるかを知りたがります。機能の説明を飛ばして契約条件の話を始めると、話が硬いと受け取られます。実務では、機能の確認は短く済ませ、そのうえで、この機能を3年使う前提で確認しておくことがあります、と切り出す順序が通りやすくなります。順序を変えるのではなく、機能の説明に時間をかけすぎないという形です。

なお、この報告書は独占禁止法上の考え方を整理したものであり、個々の取引の可否を判断するものではありません。中小企業診断士が顧問先に助言する場面では、報告書が挙げている論点を確認の観点として使い、具体的な取引の評価が要る場面では弁護士に引き継ぐ、という線を引いておく形が実務では安全側です。制度側の全体像は、2026年7月閣議決定の第Ⅱ期AI基本計画 士業事務所が読む7つの論点でも扱っています。

顧問先のAI導入支援に落とす7つの視点

結論から書きます。確認するのは、統合の形、切り替えのコスト、データの持ち出し、価格の予見性、機能の提供停止、社内での使われ方、そして効果の測り方の7つです。

第1に、統合の形です。顧問先が使おうとしている生成AI機能が、単体のサービスなのか、既存サービスに統合されたものなのかを最初に分けます。統合型は導入の手間が小さい一方、その業務ソフトへの依存が深まります。診断士としては、便利さの裏側にある依存の度合いを、導入前に言葉にしておく役割があります。

第2に、切り替えのコストです。仮に3年後に別のサービスへ移るとしたら、何が持ち出せて何が残るのか。プロンプトの資産、AIが学習した社内の用語、生成した文書の履歴。これらの扱いは契約とサービス仕様で決まります。移行の可否を聞くのではなく、移行するとしたら何が必要かを具体的に聞く形にすると、答えが返ってきます。

第3に、データの持ち出しです。入力した情報と生成された結果を、標準的な形式で書き出せるかどうかを確認します。書き出せない場合、その業務はそのサービスの中に閉じ込められます。中小企業の場合、担当者が一人しかいない業務ほど、この閉じ込めが後で効いてきます。

あわせて確認したいのが、書き出せる範囲です。入力した文書は取り出せても、AIが生成した回答や設定したプロンプトは取り出せない、という仕様は珍しくありません。顧問先にとっての資産がどちらに寄っているかで、確認の重みが変わります。使い込むほど価値が乗るのは後者なので、長く使う前提の業務ほど、生成物とプロンプトの持ち出し可否を先に聞いておく形になります。

第4に、価格の予見性です。生成AI機能は従量課金の要素を含むことが多く、使い方によって月額が動きます。導入時の見積もりと、半年後の実際の請求額が離れやすい領域です。顧問先には、上限を設定できるか、上限に達したときにどうなるかを確認するよう促します。

第5に、機能の提供停止です。統合された機能は、提供元の判断で内容が変わります。業務フローを特定の機能に合わせて組んでしまうと、変更のたびに現場が止まります。重要な工程については、その機能が使えなくなった場合の代替手段を1つ決めておく形が現実的です。

第6に、社内での使われ方です。導入したサービスとは別に、従業員が個人のアカウントで生成AIを使う動きが並行して起きます。これを禁止で抑えようとすると見えなくなるだけなので、使ってよい範囲を先に決め、申請の手間を軽くする設計にします。

第7に、効果の測り方です。導入の成否を、使っている人数ではなく、業務の所要時間や差し戻しの回数で測る形に設計します。診断士が入る価値は、ここを最初に決めておける点にあります。測り方の設計は、AI導入の効果をどう測るか 士業事務所の年間削減時間とKPI7設計の考え方が顧問先支援にも使えます。

ここからは手を動かす部分です。顧問先の契約書とサービス仕様を読み解く下ごしらえを、生成AIに任せるプロンプトを置きます。

あなたは中小企業の経営支援を行うコンサルタント向けに、
確認事項を整理するアシスタントです。

以下に貼るのは、ある業務ソフトの利用規約とプラン説明です(架空のE社が契約検討中)。
次の作業だけを行ってください。

1. 解約時のデータの取り扱いに関する記述を、条項番号つきで抜き出す
2. 従量課金が発生する条件と、上限設定の可否に関する記述を抜き出す
3. 機能の変更・終了に関する記述を抜き出す
4. 記述が見当たらない項目は「記載なし」と書く。推測で補わない
5. 法令上の評価はしない。判断が要る箇所には「要確認」とだけ付ける

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(ここに規約とプラン説明を貼る)

もう1本は、経営者向けの説明メモです。専門用語を避け、判断に必要な材料だけを並べさせます。

中小企業の経営者に向けて、生成AI機能付きの業務ソフトを導入する前に
確認しておく事項を伝えるメモを下書きしてください。

前提:
- 対象は従業員30名前後の卸売業F社(架空)
- 経営者はITに詳しくない
- すでに使っている会計ソフトに生成AI機能が追加された状況

出力要件:
1. 冒頭3行で、いま決めることと、あとで決めてよいことを分ける
2. 費用、データ、やめるときの3点について、確認する質問文を各2つ書く
3. 法令の条番号や独占禁止法の評価は書かない
4. 不安を煽る表現を使わない
5. ですます調、800字以内、表は使わない

この2本を回すと、契約の読み込みと経営者への説明という、時間のかかる2工程の下地が揃います。仕上げの判断は診断士が持ちます。

7つの視点は、すべてを一度に確認する必要はありません。導入前に確かめるのは第1から第4、導入直後に決めるのが第5と第6、そして運用が始まってから回すのが第7です。この時間軸で分けておくと、経営者にとっても何をいま決めるのかがはっきりします。全部を初回の打ち合わせに載せると、判断が止まって導入そのものが先送りになります。

視点の使い方で1つ補足すると、第2の切り替えのコストは、実際に切り替える予定がなくても確認する価値があります。移行の手順を聞かれた提供元がどう答えるかで、その会社の姿勢が見えるためです。手順を明快に示す会社と、質問の意図を確かめてくる会社では、その後の対応も変わってきます。契約前の唯一の観察機会として使えます。

顧問先の情報を扱う診断士が決める3つのこと

決めるのは、守秘の建て付け、個人データの委託、そして営業秘密の扱いです。

1点目。中小企業診断士は、中小企業支援法第11条に基づく経営診断の業務に従事する者の登録制度の上に立つ資格です。同条は、中小企業者が経営資源に関し適切な経営の診断および経営に関する助言を受ける機会を確保するため、経済産業大臣が登録簿を備えることを定めています。弁護士や税理士のような個別の守秘義務規定とは建て付けが異なるため、実務では契約書の秘密保持条項が守秘の中心になります。生成AIを使う場合、その条項の範囲に外部サービスへの入力が含まれるかを確認しておく作業が要ります。

2点目。顧問先の従業員情報や取引先情報を扱う場面では、個人情報の保護に関する法律第25条が、個人データの取扱いを委託する場合に、委託を受けた者に対する必要かつ適切な監督を求めています。診断士が顧問先から預かったデータを外部の生成AIサービスに入れる場合、その位置づけを顧問先と共有しておかないと、後から認識の齟齬が出ます。使うサービス名と、入れる情報の類型を書面で先に決めておく運用が現実的です。

3点目。顧問先の原価構成、仕入先、顧客名簿は、不正競争防止法第2条が定める不正競争の類型と関わる情報です。同条は不正競争として複数の行為類型を列挙しています。診断士が経営診断の過程で触れる情報には、この種のものが多く含まれます。外部サービスに載せるかどうかを個別に判断するのではなく、載せない情報の類型を先に決めておくほうが、現場の迷いが減ります。

規程に落とすなら、書く項目は、使ってよいサービスの名称、顧問先データを入れてよい範囲、入れない情報の類型、顧問先への説明の方法、そして記録の残し方です。顧問先ごとに契約条件が違うため、一覧にして案件ごとに参照できる形にしておくと運用しやすくなります。

顧問先への説明では、情報の出入りを図ではなく言葉で伝えるほうが伝わります。どの資料を、どのサービスに、どの目的で入れ、結果をどう使うか。この4点を1枚にまとめて渡す形にしておくと、経営者の側でも社内に説明しやすくなります。

支援の現場で起きる3つの失敗

1つ目は、報告書の論点を顧問先の取引の評価として伝えてしまう失敗です。報告書は考え方を整理したものであり、個別の取引の可否を示すものではありません。経営者に対して、その契約には問題がありそうだと踏み込むと、診断士の役割を越えます。回避策は、確認の観点として報告書を使い、評価が要る場面は弁護士に引き継ぐ線を最初に伝えておくことです。

2つ目は、機能比較表を作って終わってしまう失敗です。機能の多寡は半年で変わります。比較表は作った時点で古くなり、判断の材料としては短命です。回避策は、比較の軸を機能から契約条件に移すことです。解約時のデータ、価格の上限、機能変更の通知。この3点は半年では変わりません。

3つ目は、導入後の測定を設計しないまま進める失敗です。生成AIは、使い始めた直後は誰もが効果を感じます。3か月後に使われなくなるかどうかは、測っていないと分かりません。回避策は、導入前に1つだけ指標を決め、月に一度だけ確認する形にすることです。指標を増やすと測定そのものが負担になり、続きません。所要は月30分程度に収める設計が取り回しやすいという想定で、根拠は支援現場での見積もりであり、公表された統計ではありません。

3つに共通するのは、診断士の価値が、ツールの知識ではなく判断の順序の設計にあるという点です。順序が決まっていれば、ツールが変わっても支援は成立します。

もう1つ、支援者側が陥りやすい構図があります。生成AIに詳しい支援者ほど、顧問先の担当者より自分のほうが使いこなせてしまうため、設計まで肩代わりしてしまうことです。短期的には喜ばれますが、支援が終わった時点で運用が止まります。使い方の設計は顧問先の担当者に持たせ、支援者は確認の観点と測り方を渡す。この線を最初に伝えておくと、途中で役割が溶けません。

費用と工数、そして誰が持つか

顧問先側の費用は、ライセンス、従量課金、そして移行費用の3層で見ます。統合型のサービスは初期費用が小さく見えますが、移行費用が将来に繰り延べられているだけの場合があります。診断士としては、3年を見た総額の考え方を提示する役割があります。

診断士側の工数で重いのは、契約条件の読み込みです。利用規約とプラン説明を突き合わせ、解約時のデータの扱いと従量課金の条件を拾う作業に、1社あたり3時間から5時間程度を見込んでいる支援者がいます。根拠は支援現場での見積もりであり、公表された統計ではありません。2社目以降は観点が固まるため短くなります。

体制としては、契約条件の確認を診断士が持ち、社内での使い方の設計は顧問先の担当者に持たせる形が続きます。外部が使い方まで設計すると、支援が終わった時点で運用が止まるためです。診断士は、確認の観点と測り方を置いていく立場に回ります。

報酬の設計では、導入支援を一度きりの作業として売るより、半年後の見直しまでを含めた形にするほうが顧問先の利益に合います。生成AI関連のサービスは仕様変更が頻繁で、導入時の判断が半年で陳腐化しやすいためです。支援メニューの組み立て方は、中小企業診断士のAI支援メニューをどう設計するかでも扱っています。

これから論点になりやすいこと

第1に、報告書の版がさらに更新される可能性です。ver.1.0からver.2.0までの間隔を考えると、市場の動きに応じて論点が書き足されていくことが見込まれます。診断士としては、報告書そのものを追うより、公正取引委員会の実態調査関係のページを定期的に見る形が効率的です。

第2に、統合の範囲が広がることです。ver.2.0で自動運転市場の概要が追加されたことが示すように、調査の対象は特定の産業へも広がっています。顧問先の業種によっては、自社の業界が次の版で扱われる可能性があります。

第3に、中小企業の側の交渉力です。報告書が扱う論点の多くは、大手事業者と利用者の関係に関わります。中小企業が個別に条件を変えさせることは難しい場面が多い一方、契約前に確認して選ぶことはできます。診断士の支援は、この選ぶ段階に集中させるのが現実的です。

第4に、支援側の知識の陳腐化です。生成AIのサービス仕様は数か月で変わり、去年整理した確認の観点が今年は的外れになることがあります。診断士としては、個別のサービスの知識を追いかけるより、確認すべき論点の枠組みを持っておくほうが長く使えます。公正取引委員会の報告書が版を重ねているのは、枠組みの側を更新しているからです。支援者が追うべきなのも、この枠組みの更新です。

よくある質問

生成AIに関する実態調査報告書ver.2.0はいつ公表されましたか

令和8年4月16日に公表されました(公正取引委員会 生成AIに関する実態調査報告書ver.2.0について)。ver.1.0は令和7年6月6日の公表で、その前に令和6年10月のディスカッションペーパーがあります。

ver.1.0からどこが変わったのですか

生成AI関連市場の概要の更新、自動運転市場の概要の追加、独占禁止法上の論点の再整理が行われたことが公表されています(出典: 公正取引委員会 生成AIに関する実態調査報告書ver.2.0について)。論点については、モバイルOS上の専用ソフトウェアに関する制限行為や、既存のデジタルサービスに生成AIを統合する行為という形で考え方が整理されています。

報告書を読めば顧問先の契約の可否が分かりますか

分かりません。報告書は独占禁止法上の考え方を整理したもので、個々の取引を評価するものではありません。確認の観点として使い、具体的な取引の評価が必要な場面では弁護士に引き継ぐ線を引いておく形が実務では安全側です。

中小企業診断士に守秘義務の条文はありますか

弁護士法や税理士法のような個別の守秘義務規定とは建て付けが異なります。中小企業支援法第11条が経営診断の業務に従事する者の登録について定めており、実務上の守秘は契約書の秘密保持条項が中心になります。生成AIを使う場合、その条項の範囲に外部サービスへの入力が含まれるかを確認しておく作業が要ります。

顧問先に勧めるサービスはどう選べばよいですか

機能の多さより、解約時のデータの扱い、価格の上限設定の可否、機能変更の通知方法の3点を先に見る形が実務では機能します。この3点は半年程度では変わらないため、比較の軸として長持ちします。

統合型のサービスは避けたほうがよいですか

避けるかどうかではなく、依存の度合いを把握した上で選ぶ話です。統合型は導入の手間が小さく、中小企業にとって現実的な選択肢になります。将来の移行で何が必要になるかを、契約前に具体的に確認しておく形が現実的です。

導入の効果はどう測ればよいですか

利用人数ではなく、業務の所要時間か差し戻しの回数で測る形が続きます。指標は1つに絞り、月に一度だけ確認します。指標を増やすと測定自体が負担になり、数か月で止まります。

参考文献

※士業のチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴事務所の業務に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
https://shigyonochikara.jp/contact/

本記事の作成体制について

本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で、それぞれ確認したうえで記載しています。引用元は本文中および参考文献にすべて明示しています。

本記事には特定の資格者による監修は入っていません。個別の事案について法令の当てはめや手続の可否を判断する必要がある場合は、当該分野の有資格者にご相談ください。本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別具体的な法律判断・税務判断・労務判断を提供するものではありません。

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