パート・有期の待遇差説明が10月から変わる 社労士が組む説明文書7工程

2026年10月からパート・有期の待遇差説明のルールが変わります。労働条件明示の追加項目と説明方法の整理を一次情報で確認し、顧問先向け説明文書を生成AIで下書きする社労士の7工程をまとめました。

パート・有期の待遇差説明が10月から変わる 社労士が組む説明文書7工程

待遇差の説明義務とは、正社員との待遇の違いとその理由を労働者に説明する事業主の対応のことです。

顧問先から10月以降に届く相談は、労働条件通知書を書き換えなくてよいのか、という一点に集約されます。本記事では、2026年10月に変わる3つの改正ポイントを一次情報で確認したうえで、顧問先に渡す待遇差の説明文書を生成AIで下書きし、社会保険労務士が検証して仕上げるまでの7工程を整理します。本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で確認しています。厚生労働省は2026年8月3日付のコラムで、2026年10月から労働条件の明示事項の追加、同一労働同一賃金ガイドラインの見直し、雇用管理上の措置の変更という3点が行われると案内しています(出典: 厚生労働省 2026年10月からパートタイム・有期雇用のルールが変わります)。

2026年10月に動く3点のうち、社労士の作業量が増えるのはどこか

厚生労働省のコラムによれば、今回の改正の柱は3つです(出典は前掲の厚生労働省コラム)。1つめは雇入れ時の労働条件明示事項の追加です。これまでパートタイム・有期雇用労働者を雇い入れたときには、昇給の有無、退職手当の有無、賞与の有無、相談窓口の4事項を書面の交付等により明示することとされてきましたが、これに、待遇の相違の内容・理由等に関する説明を求めることができる旨の明示が加わります。労働契約の更新時も対象に含まれると同コラムは注記しています。

2つめは同一労働同一賃金ガイドラインの見直しです。裁判例などを踏まえて賞与、退職手当、各種手当、福利厚生についての記載が整理されました。厚生労働省のコラムは具体例として、相応に継続的な勤務が見込まれるパートタイム・有期雇用労働者への家族手当、正社員と同一の転居を伴う配置の変更があるパートタイム・有期雇用労働者への住宅手当、夏季冬季休暇の3つを挙げています(参考: 前掲コラム)。

3つめは雇用管理上の措置です。待遇の相違等を説明する場面で、資料を活用して口頭により説明する方法か、説明すべき事項をすべて記載した分かりやすい資料を交付する等の方法か、いずれかによる対応が求められることになります。あわせて、職務の内容や成果、意欲、能力、経験といった要素を公正に評価して昇給に反映する賃金決定、正社員等への転換制度の内容や実績の明示とウェブサイトでの定期的な公表が望ましいという整理も示されています(参考: 前掲コラム)。

社労士の作業量という観点で見ると、負荷が集中するのは1つめと3つめです。1つめは書式の差し替えなので機械的に処理できますが、顧問先ごとに労働条件通知書のフォーマットが違うため、雛形1本を配って終わりにはなりません。3つめは説明の中身そのものを作る作業で、賃金表と就業規則と実際の運用を突き合わせないと文章が書けません。ここが一番時間を食います。

根拠条文も確認しておきます。労働条件の明示は短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律第6条が文書の交付その他厚生労働省令で定める方法による明示を定めており、待遇差の説明は同法第14条が規定しています。第14条第2項は、短時間・有期雇用労働者から求めがあったときに、通常の労働者との間の待遇の相違の内容および理由等について説明する旨を、第3項は求めをしたことを理由とする不利益取扱いの禁止を定めています。今回の改正は、この構造の入口に、説明を求められると知らせる工程を足したものと読むことができます。

顧問先向けの待遇差説明文書を生成AIで下書きする7工程

ここからは実務です。顧問先1社ぶんの説明文書を作る流れを7つに分けます(参考: 工程の分解は事務所運営上の整理であり、公表統計ではありません)。前提として、有資格者による最終確認を工程6と工程7に置き、AIが触れるのは工程2から工程5までとします。

工程1は材料の棚卸しです。就業規則、賃金規程、パートタイマー就業規則、賃金表、直近の労働条件通知書の雛形、正社員転換制度の規定、この6点を顧問先から回収します。この段階でAIは使いません。回収漏れがあると後工程がすべて崩れるためです。

工程2は待遇項目の洗い出しです。回収した規程から、正社員とパート・有期で差がある待遇項目を機械的に抽出します。基本給、賞与、退職手当、通勤手当、家族手当、住宅手当、精皆勤手当、慶弔休暇、夏季冬季休暇、健康診断、慶弔見舞金、社員食堂や更衣室といった福利厚生施設の利用、教育訓練。この粒度で並べておくと、あとで説明文書の見出しにそのまま使えます。

工程3は差の理由の言語化です。ここが説明文書の中核で、生成AIの下書きが最も効く工程でもあります。差がある項目ごとに、職務の内容、職務の内容および配置の変更の範囲、その他の事情のどれに紐づく差なのかを整理し、文章にします。

以下は工程3で使えるプロンプトの例です。顧問先の実名や個人が特定できる情報は入れず、A社という架空の表記に置き換えて使います。

あなたは労務管理の文書作成を補助するアシスタントです。以下の条件で、
パートタイム・有期雇用労働者向けの「待遇の相違の内容と理由」の説明文の
下書きを作成してください。

前提(架空のA社):
- 業種: 食品小売 / 正社員18名 / パート24名
- 差がある待遇項目: 賞与、退職手当、家族手当、住宅手当、夏季冬季休暇
- 正社員: 転居を伴う配置転換あり、等級制度あり、評価に応じ昇給
- パート: 転居を伴う配置転換なし、担当業務は固定

出力の条件:
1. 待遇項目ごとに「相違の内容」「相違の理由」を分けて記述する
2. 理由は、職務の内容 / 配置変更の範囲 / その他の事情 のどれに基づくかを明示する
3. 断定的な法的評価は書かず、事実の記述にとどめる
4. 読み手はパート従業員。専門用語には短い言い換えを添える
5. 各項目300字以内。全体で2000字以内

工程4は表現の平準化です。工程3の出力は項目ごとに文体が揺れるので、統一します。読み手は法律の専門家ではないので、「均衡待遇」「均等待遇」といった用語をそのまま置くと伝わりません。

次の文章を、パート従業員が読んで理解できる水準に書き直してください。

条件:
- 一文を60字以内にする
- 専門用語を使うときは、初出で15字以内の言い換えを括弧書きで添える
- 事実と評価を混ぜない。会社の判断は「〜という理由で差を設けています」の形にする
- 元の文章に無い事実を足さない。情報が足りない箇所は【要確認】と明記する

【ここに工程3の出力を貼る】

工程4のプロンプトで指定している【要確認】の指示は省略しないでください。生成AIは足りない情報を推測で埋めることがあり、その推測が顧問先の実態と食い違ったまま文書が完成してしまうためです。

工程5は労働条件通知書の追記部分の作成です。今回の改正で追加される、待遇の相違の内容・理由等に関する説明を求めることができる旨の一文を、顧問先の既存フォーマットに合う形で用意します。相談窓口の記載とセットで配置すると、労働者側の導線が切れません。ここもAIに複数案を出させ、社労士が選びます。

工程6は事実照合です。AIが書いた説明文と、工程1で回収した規程・賃金表を1項目ずつ突き合わせます。照合の観点は3つです。規程に書いてある内容と説明文が一致しているか、実際の運用と規程がずれていないか、説明文に規程の根拠がない記述が混ざっていないか。3つめは生成AIを使うときに最も起きやすい事故で、それらしい理由づけを勝手に作文してしまう例が報告されています。条番号や施行日の検証手順は生成AIの条番号と施行日は疑う 士業事務所が組むダブルチェック7工程にまとめています。

工程7は社会保険労務士による最終確認と、顧問先への引き渡しです。ここで確認するのは文書の中身だけではありません。説明の方法として、資料を使った口頭説明を採るのか、資料の交付で対応するのかを顧問先に選んでもらい、選んだ方法に合う形式で納品します。口頭説明を選ぶ場合は、説明の場で使う想定問答も同時に渡しておくと、担当者が現場で止まりません。就業規則側の改定と歩調を合わせる進め方は就業規則の改定漏れを防ぐ 社労士がAIと回す反映7工程で扱っています。

顧問先の賃金データをAIに入れる前に決める3つのこと

この業務でAIに入力する材料は、賃金表、規程、場合によっては個人別の待遇情報です。守秘義務との関係を整理せずに始めると、後から止められなくなります。

1つめは入力してよい情報の線引きです。賃金表や規程のように顧問先の組織情報ではあるが個人を特定しない資料と、個人別の賃金データのように特定の従業員に結びつく資料は、扱いを分ける運用が現実的です。前者だけをAIに入れ、後者は事務所内の突合作業に回すという切り分けであれば、説明文書の下書きという目的は達成できます。開業社会保険労務士又は社会保険労務士法人の社員は、正当な理由がなくて、その業務に関して知り得た秘密を他に漏らし、又は盗用してはならないと定める社会保険労務士法第21条は、退任後も同様と続けています。事務所として、この条文と自所のAI利用ルールが矛盾しない状態を作れているかが論点になります。

2つめはツール側のデータ利用ポリシーの確認です。入力したデータが学習に使われるか、保存期間はどれだけか、リージョンはどこか。この3点は契約プランによって変わるため、事務所で使っているプランの条件を文書で押さえておく必要があります。ベンダーに何をどう聞くかはAIツールのベンダーに何を聞くか 士業事務所の確認7項目と質問文に質問文の形で整理しました。

3つめは顧問先への説明です。顧問契約の受託業務でAIを使う場合、顧問先の個人データを事務所外のサービスに渡す構図になるかどうかを確認します。個人情報の保護に関する法律第27条は、あらかじめ本人の同意を得ないで個人データを第三者に提供してはならないと定めたうえで、同条第5項第1号で、利用目的の達成に必要な範囲内で取扱いの全部または一部を委託することに伴って提供される場合は第三者に該当しないものとする、と規定しています。委託の構成を採るのか、そもそも個人データを入れない運用にするのかで、顧問先に説明すべき内容が変わります。個人情報保護委員会は生成AIサービスの利用について注意喚起を公表しており(出典: 個人情報保護委員会 生成AIサービスの利用に関する注意喚起等)、事務所のルール整備の出発点として参照できます。

事務所規程に落とす場合、この業務に限っては次の3行を足しておくと運用が回ります。個人別賃金データはクラウド型生成AIに入力しない。顧問先資料を入力する場合は案件単位で所長の承認を記録する。AIが出力した説明文は社会保険労務士の確認を経てから顧問先へ渡す。表現は各事務所の既存規程に合わせて調整してください。

説明文書づくりでよくある失敗3例と回避策

1例目は、AIが規程に無い理由を作文するケースです。家族手当の差について、実際には配置変更の範囲を理由にしているのに、AIが勤続年数の違いという別の理由を書いてしまう。この文書がそのまま従業員に渡ると、後の労使のやり取りで説明が食い違います。回避策は工程4で【要確認】タグを強制することと、工程6の事実照合を項目単位で行うことです。

2例目は、雛形の使い回しです。顧問先30社に同じ説明文を配ると、業種も規模も配置転換の実態も違うのに理由の記述が同一になります(参考: 工程を分解した試算値ではなく、事務所運営上ありがちな状態としての例示です)。生成AIは似た文章を大量に作るのが得意なぶん、この失敗を加速させます。工程2の待遇項目の洗い出しを顧問先ごとにやり直すことが歯止めになります。

3例目は、労働条件通知書だけ直して説明の中身を用意しないケースです。10月以降、通知書に説明を求められる旨が書かれることで、実際に求めが来る確率は上がります。求めが来てから中身を作り始めると、短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律第14条第2項が定める説明までの時間が伸びます。通知書の差し替えと説明文書の準備をセットで進める段取りが要ります。

顧問先30社を10月までに回すときの工数と体制

工程ごとの所要時間を分解して試算します(参考: 公表統計ではなく、工程を分解した事務所内の見積り例です)。工程1の材料回収が顧問先1社あたり20分、工程2の待遇項目の洗い出しが30分、工程3と工程4のAI下書きが合わせて20分、工程5の通知書追記が15分、工程6の事実照合が40分、工程7の最終確認と引き渡しが30分。合計で1社あたり約2時間30分になります。

この配分で見ると、AIが短縮できるのは工程3と工程4の一部にすぎません。全体の時間を押し上げているのは工程2と工程6で、どちらも顧問先の実態を知っている人間の作業です。AIを入れれば全体が半分になるという想定で計画を組むと破綻します。

体制としては、工程1と工程2を補助者、工程3から工程5をAIと補助者、工程6と工程7を社会保険労務士という三層が回しやすい形です。補助者にAIを触らせる場合の権限設計はAIエージェントを事務所に入れる前に決める権限とログの7チェックを参照してください。ライセンス費用は、主要な生成AIの有料プランが月額20米ドル前後で並んでいるため、補助者2名ぶんを追加しても事務所の固定費への影響は限定的です(参考: 各社の公表価格ページ)。

2026年10月以降に論点になること

厚生労働省のコラムは、正社員等への転換制度の内容や転換実績をウェブサイトで定期的に公表することが望ましいと述べています(参考: 前掲コラム)。望ましいという整理なので直ちに全社が動くわけではありませんが、公表する企業が増えれば、公表していない企業が採用の場面で不利になる展開はあり得ます。顧問先の採用競争力という文脈で、社労士から先に提案できる領域です。

もう1つは、説明資料の蓄積が事務所の資産になるという点です。顧問先ごとの待遇差の理由を文書化していく作業は、そのまま労務監査の材料になります。社労士法の改正で労務監査が明記された流れとあわせると、この説明文書の整備は単発の対応で終わらせない設計が可能です。関連する論点は社労士法9次改正で労務監査が明記 AIで作るチェックリスト7項目で整理しています。

よくある質問

Q. 労働条件通知書の書式は、10月1日より前に差し替えておけますか。

A. 差し替えの時期は各社の判断です。厚生労働省のコラムは2026年10月からルールが変わると案内しているため(出典: 前掲コラム)、10月以降に雇い入れる労働者への交付分が対象になります。9月中に印刷済みの書式を使い切ってから切り替えるか、先に差し替えるかは、顧問先の在庫と運用で決めることになります。

Q. 説明を求められた場合、口頭だけで済ませられますか。

A. 厚生労働省のコラムは、資料を活用して口頭により説明する方法か、説明すべき事項をすべて記載した分かりやすい内容の資料を交付する等の方法か、いずれかによる説明が必要になると案内しています(参考: 前掲コラム)。資料なしの口頭のみという形は、この2つのどちらにも当たらない可能性が指摘できます。

Q. 生成AIが書いた説明文を、そのまま顧問先に渡してよいですか。

A. 事務所の責任の所在という観点で論点になります。出力の正確性を担保するのは事務所側であり、AIベンダーの利用規約は出力の正確性を保証しない旨を置いているのが一般的です。工程6の事実照合と工程7の最終確認を省かない運用が現実的です。

Q. 顧問先の個人別賃金データを生成AIに入れてよいですか。

A. 事務所として線引きを決めてから判断する領域です。個人情報の保護に関する法律第27条の第三者提供と委託の整理、社会保険労務士法第21条の秘密保持、顧問先との契約書の記載、この3つを照らして事務所のルールを先に作る進め方が採られています。

Q. パートから説明を求められたことを理由に、シフトを減らすような対応は論点になりますか。

A. 短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律第14条第3項は、短時間・有期雇用労働者が説明の求めをしたことを理由として、解雇その他不利益な取扱いをしてはならないと定めています。個別の事案がこれに当たるかどうかの判断は、顧問先の事実関係を確認したうえで有資格者が行う領域です。

Q. 有期契約の更新のたびに明示が要りますか。

A. 厚生労働省のコラムは、雇い入れたときには労働契約の更新時も含むと注記しています(参考: 前掲コラム)。更新のたびに交付する書式に追記部分を組み込んでおくと、運用側の手戻りが減ります。

Q. 同一労働同一賃金ガイドラインの改正で、手当を新設する対応が要りますか。

A. ガイドラインは、どのような待遇差が不合理と認められるか等を具体例とともに示すものです(参考: 前掲コラム)。個別の企業でどの手当をどう扱うかは、職務の内容や配置変更の範囲を確認したうえでの判断になるため、一律の答えは置けません。顧問先ごとに待遇項目を洗い出す工程2が起点になります。

参考文献

※士業のチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴事務所の業務に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
https://shigyonochikara.jp/contact/

本記事の作成体制について

本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で、それぞれ確認したうえで記載しています。引用元は本文中および参考文献にすべて明示しています。

本記事には特定の資格者による監修は入っていません。個別の事案について法令の当てはめや手続の可否を判断する必要がある場合は、当該分野の有資格者にご相談ください。本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別具体的な法律判断・税務判断・労務判断を提供するものではありません。

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