生成AIの著作権侵害は誰の責任か 士業事務所が組む成果物管理7体制

生成AIの出力が既存著作物に似ていたとき責任はどこへ行くのか。文化庁の考え方とチェックリストを踏まえ、士業事務所が成果物管理に組む7つの体制と記録の残し方を整理します。

生成AIの著作権侵害は誰の責任か 士業事務所が組む成果物管理7体制

生成AIの著作権侵害責任とは、生成物を利用した者に生じ得る責任のことです。

事務所の成果物に生成AIの出力が混じり始めた今、避けて通れない問いがあります。もし出力が既存の著作物に似ていたとき、責任はどこへ行くのか。文化庁は令和6年3月に文化審議会著作権分科会法制度小委員会でAIと著作権に関する考え方についてを取りまとめ、開発・学習段階と生成・利用段階を分けて整理しました(文化庁 AIと著作権について)。この記事では、その整理を士業事務所の成果物管理に引き当て、責任の所在を曖昧にしないための7つの体制を扱います。本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の整理は文化庁の公表資料で確認しています。

開発・学習段階と生成・利用段階を分ける整理

文化庁の整理で最初に押さえるべきは、段階を分けている点です。AIの開発と学習の場面と、AIを使って生成し利用する場面では、著作権法の適用のされ方が変わるという構成になっています。

学習段階については、著作権法第30条の4が、著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には、その必要と認められる限度において利用できる旨の規定を置いています。この規定は平成30年の著作権法改正により整備された柔軟な権利制限規定の一つで、趣旨や解釈については文化庁が令和元年10月に基本的な考え方を公表しています(文化庁 デジタル化・ネットワーク化の進展に対応した柔軟な権利制限規定に関する基本的な考え方)。

士業事務所にとって実務上の意味を持つのは、後段の生成・利用段階のほうです。事務所は通常、AIを開発する立場ではなく、生成された文章や図表を成果物に取り込む立場に立ちます。生成物が既存の著作物と類似しており、かつ依拠性が認められる場合には、著作権侵害の問題が生じ得るという整理が、文化庁のAIと著作権に関する考え方についての中で示されています(文化庁 AIと著作権に関する考え方について(令和6年3月15日))。

権利の側から見れば、著作権法第21条が著作者は著作物を複製する権利を専有すると定めており、著作権法第112条が著作権者等による差止請求権を定めています。事務所の成果物が問題になる場面では、この差止請求と損害賠償の請求が論点になります。

文化庁はさらに、考え方について等で示された内容の解説資料として、令和6年7月31日にAIと著作権に関するチェックリスト&ガイダンスを公表しました(文化庁 AIと著作権に関するチェックリスト&ガイダンス(令和6年7月31日))。この資料は、生成AIに関係する当事者の立場ごとに、望ましいと考えられる取組みを紹介する構成になっています。開発者、AIを利用してサービスを提供する事業者、利用者、権利者という立場が分けて記載されているため、事務所は利用者の立場の箇所を読む形になります。

判例や裁判例の蓄積がまだ乏しいという前提も、資料自体が述べています。文化庁は、生成AIと著作権の関係に関する判例及び裁判例の蓄積がないという現状を踏まえて考え方を整理したと説明しています(文化庁 AIと著作権について)。したがって事務所としては、確定した答えを探すのではなく、後から説明できる運用の記録を残しておくという構えが現実的です。

事務所の成果物管理に組む7つの体制

体制1は、AIを使った箇所を記録に残すことです。どの成果物のどの部分を生成AIで作ったかが分からなくなると、後から問題が起きたときに検証のしようがありません。案件管理台帳に、使用の有無、使用したサービス名、使用した箇所という3項目を足すところから始めます。項目を増やしすぎると入力が続かないため、3項目程度に絞ります。

体制2は、そのまま外に出す成果物と、内部利用にとどめる成果物を分けることです。顧問先に渡す文書、官公庁に提出する書面、事務所のウェブサイトに載せる記事では、それぞれ問題が起きたときの影響が違います。外に出るものほど確認の工程を厚くする設計にしておきます。

体制3は、画像とロゴを別扱いにすることです。文章の場合は事務所側で表現を書き換える余地がありますが、画像は生成された形がそのまま使われます。事務所のパンフレット、ウェブサイトのバナー、セミナー資料の挿絵に生成画像を使う場面では、既存の作品と似ていないかを目視で確認する工程を挟む形が要ります。

体制4は、プロンプトの書き方を揃えることです。特定の作品名や作家名をプロンプトに入れて生成させると、出力が既存の著作物に近づく可能性が高まります。事務所内のプロンプト原本に、特定の作品名や作家名を入れないという制約を書いておきます。

体制5は、確認者を決めることです。生成物を成果物に取り込む判断を誰が行うかが決まっていないと、担当者ごとに基準が変わります。有資格者が最終的に内容を確認する工程を手順書に明示し、確認した日付と確認者を記録に残す形にしておきます。

体制6は、サービス側の補償条項を把握することです。主要なベンダーは法人向けプランで著作権に関する補償の枠組みを設けている場合があります。OpenAIは法人向けの提供について公開情報を出しています(OpenAI Enterprise privacy)。どの契約にどの範囲の補償が付いているかは契約条件によって異なるため、契約書と利用規約を確認して台帳に残します。

体制7は、問題が起きたときの動き方を先に決めることです。第三者から指摘を受けた場合に、誰が受け、どこまでを事務所内で判断し、どの段階で外部の専門家に相談するかを一枚に書いておきます。起きてから考えると、初動が遅れます。連絡先と判断者の名前を書いた一枚を、事務所の共有フォルダの目立つ場所に置いておく形で足ります。

この7つを並べると、どれも新しい技術の話ではないことに気づきます。記録を残す、外に出るものを厚く確認する、確認者を決める、起きたときの動き方を決める。いずれも士業事務所が従来から品質管理として行ってきたことの延長にあります。生成AIが加わったことで新しく必要になったのは、その延長線上に生成AIという列を1本足す作業だけです。ゼロから体制を作り直す話ではないと理解しておくと、着手の心理的な負担が下がります。

以下は、生成した文章を成果物に取り込む前の確認を支援するプロンプトです。出力は確認の補助であり、最終的な判断は有資格者が行います。

あなたは士業事務所の成果物チェックを支援する担当者です。
以下の文章について、外部公開前の確認観点を洗い出してください。

【確認観点】
1 特定の作品や人物を想起させる固有名詞が含まれていないか
2 出典が必要な事実・数値が、出典なしで書かれていないか
3 断定的な表現で、根拠が示されていない箇所がないか
4 他の文献の言い回しをそのまま使っていそうな箇所がないか

【出力形式】
観点ごとに、該当箇所を引用し、なぜ確認が要るかを1行で書いてください。
該当がない観点は「該当なし」と書いてください。
あなた自身の判断で文章を書き換えることはせず、指摘のみを出してください。

【対象文章】
(ここに確認したい文章を貼る)

次のプロンプトは、事務所の成果物管理台帳の項目設計を組み立てるためのものです。

あなたは士業事務所の記録設計を支援する担当者です。
以下の前提で、生成AI利用の記録項目を設計してください。

【前提】
- 記録は案件管理台帳に列を足す形で運用する
- 入力に要する時間は1件30秒以内に収める
- 後から「どの成果物のどこにAIを使ったか」を追えることを目的とする

【出力形式】
列名、入力例、なぜその列が要るかの理由を、列ごとに3行で書いてください。
列は5列以内に絞ってください。多すぎると入力が続かないためです。

この2本を運用に組み込むと、確認と記録の2つが手順として残ります。どちらも出力を確定させる工程は有資格者が持つ設計にしておきます。

7つの体制を一度に整えようとすると手が止まります。着手順としては、体制1の記録から入る形が扱いやすくなります。記録が残り始めると、どの業務で生成AIがどれだけ使われているかが可視化され、体制2以降の設計に必要な材料が揃うためです。逆に、記録がないまま確認工程だけを厚くすると、実態と手順書が乖離し、書いただけの状態になります。

もう一点、事務所の規模による差も考慮します。有資格者が一人の事務所では、確認者を分ける設計が取れません。その場合は、確認する時点を分ける形に置き換えます。作成した当日ではなく翌営業日に確認する、あるいは印刷して読む工程を挟むといった形です。同一人物であっても、時間と媒体を変えると気づく箇所が変わります。人員が限られる事務所ほど、この工夫が効きます。

顧問先の資料と生成物をどう分けて管理するか

著作権の論点と守秘義務の論点は別の話ですが、事務所の運用では同じ台帳で管理することになります。生成AIに何を入れたかという記録は、著作権の検証にも守秘義務の説明にも使えるためです。

守秘義務の根拠は職種ごとに置かれています。弁護士については弁護士法第23条が、税理士については税理士法第38条が、社会保険労務士については社会保険労務士法第21条が、それぞれ規定を置いています。生成AIの利用がこれらとどう交差するかは、入力する情報の性質と、サービスのデータ取扱いと、顧問先との合意内容の組み合わせで変わります。

事務所として決めておける項目は、入力の段階分けです。公開情報のみ、顧問先を特定できない形に加工した情報、実名や個人情報を含む情報という3段階に分け、段階ごとに使えるサービスを対応づけます。個人情報を含む資料を外部サービスへ渡す場面では、個人情報の保護に関する法律第27条が第三者提供に関する規定を置いており、委託に伴う提供の扱いも同条に置かれています。

サービス側のデータ取扱いの確認も同じ台帳に残します。入力が学習に使われるかどうかはプランによって異なります。Anthropicは商用サービスにおけるデータの取扱いを公開しています(Anthropic Privacy Policy)。契約時に確認した内容と確認日を残しておくと、規約が改定された際に差分を追えます。

顧問先への説明については、生成AIを使っていることそのものを伝えるかどうかから決めます。事務所の方針として、下書きに生成AIを使い最終的な内容は有資格者が確認していると伝える形を取る事務所もあれば、成果物の品質責任は事務所にあるという整理で個別には触れない事務所もあります。どちらの形を取るにしても、事務所内で方針を統一し、聞かれたときに同じ答えが返る状態にしておくことが要点になります。説明資料の作り方は顧問先への説明資料をつくるときの整理も参考になります。責任範囲の書き方についてはAIレビューの結果を顧問先に説明するときの責任範囲と免責の設計でも整理しています。

事務所内の規程に落とすときは、著作権の章を独立させるより、生成AI利用の章の中に成果物の確認という節を置く形が扱いやすくなります。章を分けると、担当者がどちらを見ればよいか迷うためです。

責任の所在を曖昧にしたまま進めると起きる3つの失敗

第一の失敗は、使った記録が残っていない状態です。第三者から指摘を受けたときに、どの成果物のどこに生成AIを使ったかが分からないと、調べる作業だけで日数を要します。ある事務所では、ウェブサイトの記事について問い合わせを受けた際、当時の担当者が退職しており、生成AIを使ったかどうかすら確認できませんでした。記録の3項目があれば避けられた事態です。

第二の失敗は、画像を文章と同じ扱いにすることです。文章は事務所側の推敲で表現が変わりますが、画像は生成された形がそのまま外に出ます。事務所のパンフレットに使った生成画像について後から指摘を受けた場合、差し替えには印刷のやり直しが伴います。回避策としては、印刷物に使う画像は生成物ではなく、権利関係が明示された素材サービスから調達する運用に切り替えることです。

第三の失敗は、補償があるから大丈夫だと考えることです。ベンダーの補償の枠組みは契約条件によって適用範囲が異なり、すべての場面を覆うものではありません。契約書の該当箇所を読み、どの条件で適用されるのかを確認したうえで、それでも事務所側で確認の工程を残す設計にしておきます。補償の有無は、確認工程を省く理由にはなりません。

7体制を整えるのにかかる工数と体制

費用面では、新しいツールの購入は基本的に発生しません。既存の案件管理台帳に列を足し、手順書に工程を書き足す作業が中心になるためです。画像を素材サービスから調達する方針に切り替える場合は、素材サービスの利用料が追加になります。事務所のウェブサイトやパンフレットで使う画像の点数を数えたうえで、月額課金の素材サービスと都度購入のどちらが安く済むかを比較する形になります。年に数点しか使わない事務所であれば、都度購入で足ります。

工数のほうは、台帳の項目設計に2時間、手順書への工程追加に2時間、事務所内での共有に1時間程度を見込みます。この工数はオルセルの支援経験に基づく目安であり、根拠となる公表統計はありません。既に案件管理台帳がある事務所ほど短くなり、台帳そのものから作る事務所は長くなります。

体制については、成果物の確認工程を持つ担当を職種ごとに決める形が要点になります。事務所全体で一人にすると、その担当が不在のときに成果物が止まります。逆に全員の判断に任せると基準が揃いません。業務の区分ごとに確認者を割り当て、その割当を手順書に書いておく形が現実的です。文化庁のチェックリスト&ガイダンスは立場ごとに取組みを整理していますから、事務所内の役割分担を考える際の参照材料になります(文化庁 AIと著作権に関するチェックリスト&ガイダンス(令和6年7月31日))。

裁判例の蓄積が進んだときに何が変わるか

文化庁の資料が判例及び裁判例の蓄積がないという現状を明記している以上、今後の裁判例の積み上がりが最大の変数になります(文化庁 AIと著作権について)。依拠性がどのような事情のもとで認められるのか、生成物の類似性をどう判断するのかといった論点が、事案を通じて具体化していく展開が論点になります。

士業事務所にとっての実務的な含意は、記録の価値が上がるという点です。裁判例が積み上がるほど、後からどのような手順で確認したかを説明できるかどうかが問われる場面が増えます。何も記録していない事務所と、確認工程と確認者を残している事務所では、説明できる材料の量が変わります。

記録の残し方についても、精緻さより継続性を優先します。完璧な台帳を設計しても、入力が続かなければ空欄が並ぶだけです。実務では、案件管理台帳に3列足すところから始め、半年運用してから項目の過不足を見直す形が取られています。半年あれば、どの列が実際に参照されたかが分かります。参照されなかった列は削り、足りなかった情報を新しい列にする、という改訂を年1回のペースで回します。

もう一つの論点は、顧問先からの相談が増える方向です。事務所の顧問先も生成AIを使い始めていますから、自社の広告物やウェブサイトに使った生成物について相談を受ける場面が出てきます。事務所自身が成果物管理の体制を組んでいれば、その経験がそのまま助言の材料になります。逆に事務所が何もしていない状態で相談を受けると、答える材料がありません。

制度面では、文化庁がAIと著作権に関する関係者ネットワークの取組を進めており、その総括も公表されています(文化庁 AIと著作権に関する関係者ネットワークの総括)。当事者間のコミュニケーションを図る枠組みが動いている以上、今後も追加の整理や資料が出る可能性があります。事務所としては、文化庁の著作権のページを定期的に確認する担当を決めておく形が扱いやすくなります。

よくある質問

生成AIの出力を事務所の成果物に使ったとき、責任はどこにありますか

責任の所在は個別の事情によって変わるため、一律の回答はできません。文化庁の整理では、開発・学習段階と生成・利用段階を分けたうえで、生成物が既存の著作物と類似しており依拠性が認められる場合に著作権侵害の問題が生じ得るとされています(文化庁 AIと著作権に関する考え方について(令和6年3月15日))。事務所としては、確認の工程と記録を残しておく形が実務的な備えになります。

学習に使われたこと自体は問題になりますか

学習段階については、著作権法第30条の4が、著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合の利用について規定を置いています。この規定の趣旨や解釈は文化庁が公表した基本的な考え方に整理されています。ただし個別の事案でどう扱われるかは事情により変わるため、一般論として述べられる範囲を超えます。

生成画像を事務所のウェブサイトに使ってよいですか

使用の可否は、生成物の内容と利用の態様によって変わります。実務では、外に出る印刷物やウェブサイトの画像については、権利関係が明示された素材サービスから調達する運用に切り替えている事務所があります。生成画像を使う場合は、既存の作品と似ていないかを確認する工程を挟み、確認した記録を残す形が取られています。

特定の作家名をプロンプトに入れるとどうなりますか

特定の作家名や作品名を指定して生成させると、出力が既存の著作物に近づく可能性が高まります。事務所内のプロンプト原本に、特定の作品名や作家名を入れないという制約を書いておくと、担当者ごとのばらつきを減らせます。文化庁のチェックリスト&ガイダンスは、立場ごとに望ましいと考えられる取組みを紹介しており、利用者の立場の記載が参考になります。

ベンダーの補償があれば確認工程は省けますか

補償の有無は、確認工程を省く理由にはなりません。補償の枠組みは契約条件によって適用範囲が異なり、すべての場面を覆うものではないためです。契約書と利用規約の該当箇所を読み、適用条件を台帳に残したうえで、事務所側の確認工程は維持する形が取られています。

記録は何を残しておけばよいですか

使用の有無、使用したサービス名、使用した箇所の3項目が最小構成になります。これに確認者と確認日を足すと、後から手順を説明できる材料になります。項目を増やしすぎると入力が続かなくなるため、5項目以内に収める形が現実的です。

顧問先に生成AIの利用を伝える必要はありますか

伝えるかどうかは事務所の方針によって分かれており、一律の実務が確立している状況ではありません。下書きに生成AIを使い最終的な内容は有資格者が確認していると伝える事務所もあれば、成果物の品質責任は事務所にあるという整理で個別には触れない事務所もあります。いずれの方針を取るにしても、事務所内で統一し、聞かれたときに同じ答えが返る状態にしておくことが要点になります。

参考文献

※士業のチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴事務所の業務に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
https://shigyonochikara.jp/contact/

本記事の作成体制について

本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で、それぞれ確認したうえで記載しています。引用元は本文中および参考文献にすべて明示しています。

本記事には特定の資格者による監修は入っていません。個別の事案について法令の当てはめや手続の可否を判断する必要がある場合は、当該分野の有資格者にご相談ください。本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別具体的な法律判断・税務判断・労務判断を提供するものではありません。

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