補助金申請書の作成にAIを使う 事業計画の下書きと確認の設計

補助金申請書の作成にAIを使う方法を解説。公募要領の扱い、聞き取り内容の割り当て、文章化と突き合わせの手順、事業者情報の扱いを整理します。

補助金申請書の作成にAIを使う 事業計画の下書きと確認の設計

補助金申請書の作成支援とは、事業者の言葉を要領に沿う文章へ整える作業のことです。

補助金の申請書は、公募要領の求めに沿って事業の内容を説明する文書です。事業者が話す内容は具体的でも、そのままでは審査の観点に沿った文章になりません。この記事では、申請書の作成にAIを当てる場面と、事業者の情報を扱ううえでの設計を整理します。本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。制度の内容は年度ごとに変わるため、実際の申請では公募要領の原文を確認してください。生成AIサービスの利用については個人情報保護委員会の注意喚起が判断の出発点になります。

申請書作成の作業を分解する

作業を分けると、AIの当てどころが見えてきます。

第1の作業は、公募要領を読み、求められている内容を把握することです。何を書く欄なのか、審査の観点は何か、字数や様式の制約はどうか。ここが起点になります。

第2の作業は、事業者からの聞き取りです。何をしたいのか、なぜそれをするのか、どういう効果を見込んでいるのか。事業者は自分の事業を言葉にすることに慣れていない場合が多く、この引き出しに時間がかかります。

第3の作業は、聞き取った内容を構成に沿って並べ直すことです。話の順番と、申請書の構成は一致しません。

第4の作業は、文章として書くことです。読み手に伝わる形に整えます。

第5の作業は、公募要領との突き合わせです。求められている項目がすべて書かれているか、字数や様式の制約を満たしているかを確認します。

このうちAIが効くのは、第3の並べ替え、第4の文章化、第5の突き合わせです。第1は公募要領の原文を読む作業であり、第2は人が行う作業になります。

事務所全体での使いどころは行政書士のAI活用で扱っています。制度の枠組みそのものはIT導入補助金の公式サイトや中小機構の情報で確認します。

第1の作業 公募要領は原典を読む

出発点として押さえておきます。公募要領の内容をAIに尋ねる使い方は向きません。

理由は2つです。第1に、制度は年度ごとに変わり、古い内容が出力される可能性があること。第2に、要件を外した申請は通らないため、誤りの影響が直接的であることです。

公募要領は原文を読みます。そのうえで、事務所として審査の観点を整理した一覧を作っておくと、後の作業が速くなります。一覧を作る作業自体が、公募要領を精読する作業になります。

AIに使わせるとすれば、公募要領から求められている項目を抜き出させる形です。要約させるのではなく、書くべき項目を列挙させます。

あなたは資料から項目を抜き出す役です。以下の公募要領から、申請書に記載を求められている
項目だけを列挙してください。

条件:
- 公募要領に書かれている項目だけを拾い、一般的な知識で補わないこと
- 各項目について、字数や様式の指定が書かれていればそのまま併記すること
- 審査の観点として書かれている記述があれば、原文のまま引用すること
- 要約や言い換えをせず、原文の表現を使うこと
- 制度の解釈や、申請の見通しについての判断を書かないこと

公募要領:
"""
(ここに貼り付け)
"""

抜き出された項目は、原文と突き合わせて確認します。抜けがあれば、そこが記載漏れの原因になります。

第2の作業 事業者からの聞き取り

第2は人が行う作業ですが、準備でAIが使えます。

聞き取りの前に、確認する項目の一覧を用意しておくと、面談が短くなります。この一覧は、審査の観点から逆算して作ります。何を書く必要があるかが分かっていれば、何を聞くべきかも決まります。

聞き取ったメモを整理する作業にも使えます。話の順番のまま書かれたメモを、確認できた事項と、まだ分からない事項に分ける。この整理があると、次に何を確認すべきかがはっきりします。

事業者が話す内容は、具体的である一方、断片的です。実現したいことと、その理由と、現在の課題が混ざって語られます。この混ざりを解くのが第3の作業になります。

聞き取りの場で意識しておきたいのは、事業者の言葉をそのまま残すことです。整った表現に直しながら聞くと、事業者の実感が抜け落ちます。断片のままでも、事業者が使った言葉を書き留めておくと、後の文章化で使えます。整えるのは後の工程であり、聞き取りの段階では材料を多く集めることが目的になります。

もう一点、事業者が言えていないことを引き出す作業もここに含まれます。なぜそれをするのか、なぜ今なのか、なぜ自社なのか。事業者にとっては当たり前すぎて言葉になっていない部分が、申請書では説明の中核になります。この引き出しは人が行う作業であり、道具では代替できません。

第3と第4の作業 構成に沿って並べ、文章にする

ここが最も効果の出やすい部分です。

聞き取った内容を、申請書の構成に沿って並べ直します。事務所が作った審査の観点の一覧を渡し、それぞれに対応する内容を割り当てさせます。

あなたは文書の構成を整理する役です。以下の「聞き取り内容」を、「記載項目の一覧」に
沿って割り当ててください。

条件:
- 聞き取り内容に書かれている事実だけを使い、推測で補わないこと
- 対応する内容がない項目は「聞き取り内容に該当なし」と出力すること
- どの項目にも当てはまらない内容は「未分類」としてまとめること
- 評価や、申請の見通しについての判断を書かないこと
- 事業者は A社、代表者は 甲 のまま扱うこと
- 数値・日付・金額は聞き取り内容のまま変更しないこと

記載項目の一覧:
"""
(ここに貼り付け)
"""

聞き取り内容:
"""
(匿名化した箇条書きを貼り付け)
"""

該当なしとされた項目が、追加で聞き取る対象になります。この洗い出しが、実は最も価値のある部分です。人が整理すると、分かった気になって抜けを見落とします。

割り当てが済んだら、文章として書きます。ここでも、事務所の過去の申請書を文例として渡すと、出力が安定します。ゼロから書かせるより、既存の型に沿って書き換えさせるほうが手直しが減ります。

文章化の段階で注意するのは、事業者が言っていないことを書かせないことです。生成AIは、それらしい効果や見込みを自然に補います。指示文で明示的に禁じ、確認の観点にも入れておきます。

第5の作業 公募要領との突き合わせ

書き終えたら、公募要領との突き合わせを行います。

見る観点は4つです。求められている項目がすべて書かれているか。字数や様式の制約を満たしているか。数値の記載が資料と一致しているか。事業者が言っていない内容が混ざっていないか。

4つ目が特に重要です。文章として整っているぶん、事業者の実態と離れた記述が残っていても気づきにくくなります。書き終えた文章を事業者に確認してもらう工程を、作業の流れに入れておきます。

突き合わせの下ごしらえを機械に任せることもできます。ただし、拾えるのは記載の有無と形式までで、内容が審査の観点に応えているかどうかは人が判断します。

突き合わせで見つかりやすいのは、記載項目の漏れと、字数の超過です。どちらも単純な確認ですが、締切の直前に見つかると対応する時間がありません。文章化の途中でも一度突き合わせておくと、後半で慌てずに済みます。

もう一点、数値の一致も確認します。事業計画の中で使う数値が、添付する資料と食い違っていないか。売上の見込み、投資の金額、従業員の構成。文章の中の数値と、別表の数値がずれる事故は、複数の資料を並行して作る場面で起きやすくなります。

守秘義務と規程 事業者の情報をどう扱うか

補助金の申請では、事業者の経営の内容が具体的に含まれます。設計を整理します。

行政書士の守秘義務は行政書士法第12条に置かれています。正当な理由がなく業務上取り扱った事項について知り得た秘密を漏らしてはならないと定められており、行政書士でなくなった後にも及ぶ構成です。

あわせて、行政書士法第1条の2は職責について定めており、業務に関する法令及び実務に精通して公正かつ誠実に業務を行うこととされています。事業者の実態と離れた記述を残さないことは、この職責の観点からも扱う対象になります。

決めるのは4点です。第1に、入力してよい情報の区分。事業の構想や課題は、識別できる情報を落としてから入力する区分に置く例が多く見られます。財務の詳細や取引先の情報は、入力しない区分に置きます。

第2に、匿名化の水準です。商号を記号に置き換えても、業種と地域と規模と事業の内容が揃えば特定できる場面があります。新規性のある事業ほど、この点が問題になります。

第3に、確認の工程です。商号、数値、日付、事業者が言っていない内容の混入の4点を確認します。

第4に、記録です。どの案件でAIを使ったかを既存の案件管理に一項目足す形で残します。

個人情報の側では、安全管理措置が個人情報の保護に関する法律の個人情報保護法第23条に置かれています。日本行政書士会連合会の公表情報は、所属する団体の考え方を確認する材料になります。規程への落とし方は士業事務所のAI利用規程テンプレートで扱っています。

事業者への説明と成果物の扱い

補助金の申請では、事業者への説明に固有の論点があります。

第1に、申請書の内容は事業者が説明できる状態にしておく必要があります。採択後に事業を実施するのは事業者であり、書かれた内容を事業者が理解していなければ実施が進みません。文章として整っているだけでは足りません。

第2に、事業者の側でもAIの利用を検討している場合があります。自社で下書きを作り、事務所に確認を求める形です。この場合、受け取った文章の実態との整合を確認する作業が中心になります。

第3に、AI利用の説明です。何に使っているか、何を入力しないか、誰が確認するかの3点を答えられる状態にしておきます。事業者の側で外部のAIサービスへの情報の提供を制限している場合もあるため、作業の開始前に確認します。

第4に、成果物の扱いです。作成した申請書の文案を、事務所として蓄積するかどうか。蓄積すれば次の案件で文例として使えますが、事業者の情報を含むため、扱いを決めておきます。蓄積する場合は、識別できる情報を落とした版を作って保存する運用が扱いやすくなります。元の文案とは別に、文例としての版を持つ形です。

第5に、採択後の実施段階での関わりです。採択された事業は、実施と報告が続きます。申請書に書いた内容と実施の内容が食い違わないよう、申請の段階から実施できる計画にしておくことが求められます。文章として整えることに寄りすぎると、この整合が崩れます。書ける計画ではなく、できる計画を書く。この基準を持っておくと、道具の使い方も定まります。

作成でつまずくパターン

1つ目は、公募要領の内容をAIに尋ねた例です。制度は年度ごとに変わり、古い内容が出力される可能性があります。原文を読みます。

2つ目は、事業者が言っていない効果や見込みが文章に混ざった例です。生成AIはそれらしい内容を自然に補います。指示文で禁じ、確認の観点にも入れます。

3つ目は、聞き取りが不十分なまま文章化に進んだ例です。材料が足りない状態で書かせると、埋めるためにAIが補います。該当なしの洗い出しを先に行います。

4つ目は、事業者に確認せずに提出した例です。文章として整っているぶん、実態と離れた記述が残っていても気づきにくくなります。

5つ目は、匿名化したつもりで事業が特定できた例です。新規性のある事業ほど、業種と地域と内容の組み合わせから分かる場面があります。

6つ目は、字数や様式の制約を確認しなかった例です。内容が良くても、形式を外すと受け付けられません。

7つ目は、過去の申請書をそのまま文例として外部のサービスに渡した例です。そこに含まれる事業者の情報ごと渡すことになります。識別できる情報を落とした版を作っておけば、この問題が解消します。

8つ目は、締切が迫った案件で新しいやり方を試した例です。出力の手直しに時間を取られ、かえって余裕がなくなります。試す案件は、締切に余裕のあるものを選びます。補助金の申請は締切が決まっているため、この点は特に注意します。

費用と体制、導入の順番

費用は、法人向けプランのライセンス料が中心になります。金額は事業者と契約形態で変わるため、各社の料金ページで確認します。補助金の申請支援に特化したツールを検討する場合は、扱う件数との釣り合いを見ます。

工数は、審査の観点の一覧を作る作業に集中します。参考値として、よく扱う制度の一覧をそろえるのに数日、指示文の型を整えるのに半日ほど見ておくと、無理なく形になります。制度が変われば一覧も更新の対象になります。

体制では、一覧を更新する担当を決めます。公募要領は年度ごとに変わるため、更新の担当が決まっていないと古い内容が残ります。

導入の順番としては、第3の並べ替えから始めます。聞き取った内容を構成に沿って割り当てる作業は、効果が見えやすく、該当なしの洗い出しという副次的な価値もあります。導入全体の進め方は士業事務所のAI導入の進め方にまとめています。

これから変わること

事業者の側でもAI利用が進むため、持ち込まれる下書きが増えます。文章として整っているぶん、実態との整合を確認する作業が新たに発生します。整った文章ほど警戒が緩みやすい点は、注意しておく必要があります。

制度の申請手続の電子化も進みます。行政手続のオンライン化の動きはデジタル庁の重点計画で確認できます。入力画面に沿って項目を埋める形になれば、様式を扱う作業は減ります。

制度面では、個人情報保護法の見直しの議論が続いています。委員会の公表資料は個人情報保護委員会の報道発表で追えます。

申請書の作成において、事務所の価値がどこにあるかも問い直されます。文章を書く作業そのものより、事業者の話を引き出し、実態に沿った形に整え、実施できる計画として成立させる部分に重心が移っていきます。

よくある質問

公募要領の内容をAIに尋ねてよいですか

制度は年度ごとに変わり、古い内容が出力される可能性があります。原文を読み、事務所として審査の観点を整理した一覧を作っておくほうが確実です。一覧を作る作業自体が、公募要領を精読する作業になります。

事業計画の文章を書かせてよいですか

聞き取った内容を構成に沿って並べ、文章に整える作業であれば使えます。ただし、事業者が言っていない効果や見込みを補わせない条件を入れます。生成AIはそれらしい内容を自然に足す傾向があります。

どの作業から始めるのがよいですか

聞き取った内容を記載項目に沿って割り当てる作業です。効果が見えやすく、該当なしの洗い出しによって追加で聞くべきことがはっきりするという副次的な価値もあります。

事業者への確認は要りますか

書き終えた文章を事業者に確認してもらう工程を作業の流れに入れておきます。採択後に事業を実施するのは事業者であり、内容を理解していなければ実施が進みません。文章として整っているだけでは足りません。

匿名化はどこまで行いますか

商号や代表者名の置き換えに加えて、業種と地域と規模と事業の内容の組み合わせまで見ます。新規性のある事業ほど、名前を伏せても特定できる場面があります。

作成した文案を事務所で蓄積してよいですか

次の案件で文例として使える一方、事業者の情報を含みます。蓄積するなら、識別できる情報を落とした状態で保存する、事務所内で完結する場所に置く、といった扱いを先に決めておきます。

参考文献

※士業のチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴事務所の業務に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
https://shigyonochikara.jp/contact/

本記事の作成体制について

本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で、それぞれ確認したうえで記載しています。引用元は本文中および参考文献にすべて明示しています。

本記事には特定の資格者による監修は入っていません。個別の事案について法令の当てはめや手続の可否を判断する必要がある場合は、当該分野の有資格者にご相談ください。本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別具体的な法律判断・税務判断・労務判断を提供するものではありません。

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