社労士のAI活用 手続と相談で分けて考える7つの場面

社労士業務でAIが効く7つの場面を整理。規程の整合確認や説明文作成の指示文、手続業務と相談業務で設計を変える考え方、個人情報の扱いを解説します。

社労士のAI活用 手続と相談で分けて考える7つの場面

社労士のAI活用とは、規程整理と相談対応の下ごしらえを寄せる業務設計のことです。

社会保険労務士の業務は、手続の代行と、相談への対応に大きく分かれます。前者は定型的で量が多く、後者は個別性が高く判断が中心になります。同じ生成AIでも、この2つで当てどころが変わります。この記事では、社労士の業務でAIが効く7つの場面と、扱う情報の設計を整理します。本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で確認しています。生成AIサービスの利用については個人情報保護委員会の注意喚起が判断の出発点になります。

社労士事務所で先に決めておくこと

順番から書きます。ツールを選ぶ前に決めるのは、顧問先の情報をどう扱うかです。

社会保険労務士の守秘義務は社会保険労務士法第21条に置かれています。同条は、正当な理由がなくて業務に関して知り得た秘密を他に漏らし、又は盗用してはならないと定めています。開業社会保険労務士または社会保険労務士法人の社員が対象として書かれている点が、条文の読みどころです。

業務の範囲は社会保険労務士法第2条に定められており、労働社会保険諸法令に基づく申請書等の作成や提出代行などが業務として挙げられています。この範囲の業務について、判断と確定を社労士が担う構造は、道具を使っても変わりません。

社労士事務所が扱う情報の特徴は、個人の情報が中心である点です。従業員の氏名、生年月日、給与、家族の状況、健康に関する情報。個人情報保護法の観点が、他の士業より直接的に効いてきます。

個人情報の側では、安全管理措置が個人情報の保護に関する法律の個人情報保護法第23条に、第三者提供の制限が個人情報保護法第27条に置かれています。健康診断の結果のように、扱いに配慮が要る情報も業務の対象に含まれます。健康診断については労働安全衛生法第66条が定めを置いています。

決めることは3つです。入力してよい情報の区分、使ってよいサービスの指定、出力を外に出す前の確認工程。守秘義務の詳細は士業の生成AIと守秘義務で扱っています。

社労士業務でAIが効く7つの場面

効果が出やすい順に挙げます。

第1は、規程類の整理です。就業規則、賃金規程、育児介護休業規程。長い文書から該当箇所を拾い、複数の規程の間の整合を確認する作業に効きます。分量が多く、人が全文を突き合わせると見落としが起きる領域です。

第2は、顧問先向けの説明文の作成です。制度改正の内容、手続の案内、届出の準備。専門的な内容を平易に書き直す作業は、事務所の業務のかなりの部分を占めます。

第3は、相談内容の整理です。顧問先から寄せられた相談を、確認できた事実と、まだ分からない事項に分ける。この整理があると、次に何を確認すべきかがはっきりします。相談は電話やメールで断片的に届くことが多く、この整理だけで対応の質が変わります。

第4は、規程の下書きです。事務所の既存の雛形を見本として渡し、顧問先の実態に合わせて書き換えさせます。ゼロから作らせると、事務所として使ってきた表現から外れます。

第5は、作成済み書面の点検です。数値や日付の食い違い、条番号の不整合を指摘させます。規程は分量が多く、人が全文を読み直すと見落とします。

第6は、想定問答づくりです。顧問先との面談の前、調査の対応の前に、聞かれそうなことを列挙させます。準備の抜けを減らす用途で、経験の浅い担当者ほど効果を感じます。回答は人が用意します。

第7は、事務所内のナレッジ検索です。過去の規程や手控えを引ける状態にすると、担当者が変わっても同じ品質で答えられます。ただし顧問先の情報を含むため、別の設計が要ります。詳細は士業事務所のRAG構築で扱っています。

向かない使い方も明確です。法令の解釈を尋ねること、個別の事案について判断を出させること、保険料や給付の計算そのものを任せること。いずれも誤りが混ざりやすく、しかも誤りが検出しにくい領域になります。労働基準関係の取扱いは厚生労働省の公表資料で確認します。

手続業務と相談業務で設計を変える

社労士の業務は性質が分かれるため、設計も分けます。

手続業務は、定型的で量が多く、扱う情報が個人情報そのものです。従業員の氏名、生年月日、給与額、家族の情報。これらを外部の生成AIに渡す場面は限られます。手続そのものは、社会保険の届出システムや給与計算のソフトの領域であり、汎用の生成AIの出番は少なくなります。

一方、相談業務は個別性が高く、判断が中心になります。ここでは、相談内容の整理や、顧問先への説明文の作成にAIが効きます。扱う情報も、事案の構造として抽象化しやすい部分があります。

この違いから、導入の順番が決まります。相談業務の周辺、つまり説明文の作成と相談内容の整理から始める。手続業務については、既存のシステムの機能で足りる部分を確認したうえで、システムに乗らない作業に限定して検討する。

規程の作成や見直しは、その中間に位置します。扱うのは事業所の制度であり、個人情報そのものではありません。一方で、顧問先の労務管理の実態が具体的に含まれます。匿名化したうえで扱う設計が現実的になります。

電子申請の枠組みについては、日本年金機構の電子申請に関する情報で確認できます。手続の電子化が進むほど、事務所が扱うデータの形も変わります。

もう一点、顧問先の規模によっても設計が変わります。従業員が多い顧問先では、手続の量が多く、システムでの処理が中心になります。従業員が少ない顧問先では、手続の量より相談の比重が高くなります。事務所の顧問先の構成によって、どちらに投資すべきかの判断が変わります。

顧問先ごとの違いを吸収する方法として、事務所として使う型を業務の種類で分けておく方法があります。説明文の型、規程の点検の型、相談整理の型。顧問先ごとに作り分けると管理できなくなるため、業務の種類で分けて、顧問先の事情は指示文の中で吸収する構成が扱いやすくなります。

使う指示文の型

事務所で共有する指示文の例を挙げます。固有名詞は記号に置き換えて使います。

規程の整合を確認する型です。

あなたは文書の整合を点検する役です。以下の2つの規程を突き合わせ、対応が取れていない
箇所だけを列挙してください。

観点:
- 一方に定めがあり、他方に対応する定めがない事項
- 同じ事項について、記述が食い違っている箇所
- 参照している条番号が、参照先の規程に存在しない箇所
- 用語の表記が2つの文書で異なる箇所

条件:
- 法令に照らした適否の評価を書かないこと
- 改善の提案を書かないこと
- 対応が取れている箇所は出力しないこと
- 事業所は A社 のまま扱うこと

規程1:
"""
(ここに貼り付け)
"""

規程2:
"""
(ここに貼り付け)
"""

顧問先向けの説明文を作る型です。

あなたは事務所の文書作成を手伝う役です。
以下の「元の説明」を、専門用語に慣れていない読み手に向けて書き直してください。

条件:
- ですます調で統一すること
- 一文は60字以内を目安にすること
- 元の説明にない事実や結論を足さないこと
- 数値・日付・制度の名称は元の説明のまま変更しないこと
- 個別の事案についての判断や見通しを書かないこと
- 事業所は A社、従業員は 甲、乙 のまま扱うこと

元の説明:
"""
(ここに貼り付け)
"""

どちらの型でも、AIに判断させていない点が共通しています。整理と書き換えまでを任せ、法令に照らした判断は社労士が行います。この線引きを作業フローに明示しておくと、担当者が迷いません。

規程の点検で拾えるのは、形式の不整合までです。定めの内容が法令に照らして妥当かどうかは判断の領域であり、人が行います。役割の違いを所内で明確にしておくと、機械に任せすぎる事態を防げます。

指示文は事務所の資産になります。うまくいったものをテキストファイルに貯め、月に一度、所内で持ち寄って更新する。この回し方にしておくと、担当者の力量に関係なく出力の水準が保たれます。担当者が独自に書き足したものは、その場で個別に反映するのではなく、月次でまとめて取り込む形にすると管理が楽になります。

守秘義務と規程 個人情報の扱いが中心になる

社労士事務所では、個人情報の扱いが設計の中心になります。

決めるのは5点です。第1に、入力してよい情報の区分。従業員の氏名、生年月日、給与額、家族の情報、健康に関する情報は、入力しない区分に置く事務所が多く見られます。事業所の制度に関する記述は、識別できる情報を落としてから入力する区分になります。

第2に、匿名化の水準です。事業所名を記号に置き換えても、業種と地域と従業員の規模が揃えば特定できる場面があります。加えて、個別の事案では、部署の構成や職種の組み合わせから個人が特定できる可能性も残ります。

第3に、確認の工程です。出力を外に出す前に、数値、日付、制度の名称、条番号の4点を確認します。条文が含まれていたらe-Gov法令検索の原典で確認します。就業規則の作成及び届出の義務は労働基準法第89条に定めが置かれており、こうした条番号を記憶で書かないことが基本になります。

第4に、記録です。どの顧問先の業務でAIを使ったかを記録に残します。既存の顧問先管理に一項目足す形で足ります。

第5に、退職時の扱いです。事務所を離れる人のアカウントを止める手順を、入退職の手続き一覧に組み込んでおきます。

顧問先への説明も準備します。何に使っているか、何を入力しないか、誰が確認するかの3点です。顧問先は自社の従業員の情報を預けている立場であるため、この説明の重みが他の士業より大きくなります。全国社会保険労務士会連合会の公表情報は、所属する団体の考え方を確認する材料になります。規程への落とし方は士業事務所のAI利用規程テンプレートで扱っています。

導入でつまずくパターン

1つ目は、法令の解釈をAIに尋ねた例です。それらしい説明が返りますが、根拠を確かめる作業が自分で調べる作業と同じ手間になります。

2つ目は、条番号を確認せずに使った例です。生成AIは実在しない条番号を、実在するものと同じ文体で出力します。原典で確認します。

3つ目は、従業員の個人情報をそのまま入力した例です。社労士事務所が扱う情報の中核であり、扱いが最も重い部類に入ります。

4つ目は、匿名化したつもりで個人が特定できた例です。部署の構成や職種の組み合わせから分かる場面があります。

5つ目は、手続業務に汎用の生成AIを当てようとした例です。定型的な処理は既存のシステムの領域であり、汎用の道具の出番は限られます。

6つ目は、繁忙期に確認工程が飛ばされた例です。年度の切り替わりや算定の時期は量が増え、確認が形だけになりがちです。観点を4点に絞っておくと運用が保ちます。

7つ目は、顧問先に送る文章がAIの文体のまま出た例です。生成AIの出力には特有の言い回しがあり、読み手には意外と伝わります。事務所の文面に整えてから送る一手間を、作業の流れに残しておきます。

8つ目は、規程の見直しで改正内容の反映を機械に任せた例です。改正の内容が正確に反映されているとは限らず、古い取扱いのまま出力される可能性があります。改正の内容は厚生労働省の公表資料で確認し、反映は人が行います。機械に任せるのは、反映後の整合の確認までにとどめます。

費用と体制、導入の順番

費用は、法人向けプランのライセンス料が中心になります。金額は事業者と契約形態で変わるため、各社の料金ページで確認します。給与計算や社会保険手続のシステムを使っている事務所では、そちらの機能で足りる部分もあるため、まず既存の環境を確認します。

工数は、初期の設計に集中します。参考値として、入力区分の決定と匿名化の作法の整理に数日、指示文の型づくりと確認工程の設計にさらに数日を見ておくと、無理のない立ち上げになります。繁忙期を避けて着手するほうが定着します。

体制では、運用を持つ人を決めます。業務の流れを知っている人が向きます。あわせて、出力を確定させる社労士を明示します。担当が決まっていないと、担当者ごとに違う運用が生まれ、後から揃えるのが難しくなります。

導入の順番としては、第2の説明文作成と第3の相談内容の整理から始めます。どちらも個人情報を直接扱わない形にしやすく、効果が見えやすくなります。導入全体の進め方は士業事務所のAI導入の進め方にまとめています。

これから変わること

労働関係の制度は改正が続きます。厚生労働省の労働基準関係の公表資料や労働時間に関する情報で確認します。改正のたびに規程の見直しが発生するため、整合の確認にAIを使う場面は増えていきます。

手続の電子化も進みます。日本年金機構の電子申請に関する情報で確認できます。手続業務のデータ化が進むほど、事務所の作業は確認と相談に寄っていきます。

顧問先の側でもAI利用が進むため、寄せられる相談の性質が変わります。自社で調べた内容の確認を求められる場面が増え、その内容が誤っている場合の説明が必要になります。断定的な調子で書かれた誤りを訂正する作業は、ゼロから説明するより手間がかかることもあります。

この変化は、事務所の価値のありかを移します。情報を持っていること自体の価値は下がり、その情報が自社の状況に当てはまるかを判断する部分に重心が移ります。相談業務の比重が上がるという見立ては、この構造から出てきます。

制度面では、個人情報保護法の見直しの議論が続いています。委員会の公表資料は個人情報保護委員会の報道発表で追えます。社労士事務所は個人情報を扱う量が多いため、この動きは実務に直接影響します。

よくある質問

従業員の個人情報を入力してよいですか

社労士事務所が扱う情報の中核であり、扱いが最も重い部類に入ります。氏名、生年月日、給与額、家族の情報、健康に関する情報は、入力しない区分に置く事務所が多く見られます。個別の判断は社労士が行います。

法令の解釈を尋ねてよいですか

尋ねる使い方は誤りが混ざりやすくなります。返ってきた内容を確かめる作業が、自分で調べる作業とほぼ同じ手間になります。取扱いは厚生労働省の公表資料で確認します。

どの業務から始めるのがよいですか

顧問先向けの説明文の作成と、相談内容の整理です。どちらも個人情報を直接扱わない形にしやすく、効果が見えやすくなります。手続業務は既存のシステムの領域であり、汎用の道具の出番は限られます。

規程の作成に使えますか

事務所の既存の雛形を見本として渡し、顧問先の実態に合わせて書き換えさせる形であれば使えます。ゼロから作らせると、事務所として使ってきた表現から外れます。法令に照らした適否は社労士が確認します。

匿名化はどこまで行いますか

事業所名の置き換えに加えて、業種と地域と従業員の規模の組み合わせまで見ます。個別の事案では、部署の構成や職種の組み合わせから個人が特定できる可能性も残ります。

顧問先への説明は要りますか

顧問先は自社の従業員の情報を預けている立場であるため、説明の重みが他の士業より大きくなります。何に使っているか、何を入力しないか、誰が確認するかの3点を答えられる状態にしておきます。

参考文献

※士業のチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴事務所の業務に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
https://shigyonochikara.jp/contact/

本記事の作成体制について

本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で、それぞれ確認したうえで記載しています。引用元は本文中および参考文献にすべて明示しています。

本記事には特定の資格者による監修は入っていません。個別の事案について法令の当てはめや手続の可否を判断する必要がある場合は、当該分野の有資格者にご相談ください。本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別具体的な法律判断・税務判断・労務判断を提供するものではありません。

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