弁護士法72条の新ガイドライン公表 AI法務サービスを選ぶ7論点

法務省が2026年8月に公表した弁護士法第72条の新ガイドラインを、AI法務サービスを選ぶ側の視点で整理します。判断の2軸と体制整備、事務所が確認する7論点、顧問先支援での線引きまで。

弁護士法72条の新ガイドライン公表 AI法務サービスを選ぶ7論点

弁護士法第72条とは、非弁護士による法律事務の取扱いを禁じる規定のことです。

事務所にAI法務ツールを入れるとき、そのツール自体が規制の境目をどう扱っているかを見る目が要ります。2026年8月に法務省が新しいガイドラインを公表し、その境目の考え方が従来より広い範囲で示されました。この記事では、公表資料から判断の枠組みを取り出し、ツールを選ぶ側の事務所が確認できる7つの論点に組み替えます。本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で確認しています。法務省は令和8年8月21日付でこのガイドラインを公表しました(出典: 法務省 弁護士法(その他))。

対象が契約書業務から法務業務支援全般へ広がった

結論から書くと、今回のガイドラインは範囲の拡大が最大の変化です。法務省の公表ページによれば、令和5年8月に公表された従来のガイドラインはAI等を用いた契約書等関連業務支援サービスを対象としていました。今回はビジネス分野におけるAI等法務業務支援サービス提供全般を対象に、従来の内容を補完・拡充する形で策定されています(出典: 法務省 弁護士法(その他))。

策定の経緯も公表されています。同ページは、本年3月に法務副大臣の下に立ち上げたタスクフォースの取りまとめとして策定されたと説明しています。あわせて、ガイドラインの範囲にとどまらない継続的な検討を行うためのロードマップも策定されました。つまり、今回の公表で議論が終わったわけではなく、今後も枠組みが動くことが前提になっています。

規制の根拠条文は弁護士法第72条です。同条は、弁護士または弁護士法人でない者が、報酬を得る目的で訴訟事件その他一般の法律事件に関して鑑定などの法律事務を取り扱うことを禁じる規定を置いています。AIサービスの提供がこの規定との関係でどう位置づけられるかが、長く論点になってきました。

ガイドライン概要の資料では、判断の軸が2つ示されています。ひとつはサービスの設計・機能、もうひとつはサービスの用法です。設計・機能の面では、事件性のある案件に関して利用させることを目指して設計されたサービスかどうかが問われます。用法の面では、例外的とはいえない範囲の利用者が事件性のある案件に使う蓋然性が高い状況を、提供者が認識しながら提供しているかどうかが問われます(出典: 法務省 ガイドライン概要)。

この2軸に加えて、ガバナンス措置による体制整備が3つ目の要素として置かれています。概要資料は、事件性のある案件に利用させることを目指した設計でなく、そうした利用に特化した機能も持たず、かつ不適切利用を回避するための体制が整備されている場合には、一般的に同条に抵触しないと考えられるとしています。

事務所がツールを選ぶときに見る7つの論点

ガイドラインは提供者向けに書かれていますが、選ぶ側の事務所にとっては、そのままツールの品質を測る物差しになります。概要資料に列挙されたガバナンス上の留意・推奨事項を、確認の順に並べ替えます。

第1に、事件性のある案件には使えない旨の注意が、プロンプトなどを入力する前の段階と出力結果の両方に明確に表示されているかを見ます。概要資料はこの明示を推奨事項として挙げています。表示が出力側にしかないサービスは、入力段階での歯止めがないことになります。

第2に、誤認を与える表示がないかを見ます。概要資料は、弁護士に代わる判断を提供するものである、あるいは法的結論の正確性を保証するものであると想起させるような表現は厳に慎むべきものとして挙げています。営業資料の文言まで含めて確認しておくと、後で顧問先に説明する際の材料になります。

第3に、根拠や参照元の情報が表示されるかを見ます。出力の裏取りができないツールは、事務所側の確認工数がそのまま増えます。表示があれば、確認の対象を絞れます。

第4に、弁護士資格を有する者がサービスや機能の設計に実質的に関与しているかを見ます。概要資料は、サービスが鑑定などにわたり得る場合に、資格者の実質的な関与を推奨事項として挙げています。関与の有無と範囲を、提供者の公表資料で確かめます。

第5に、日本国内に問合せやインシデント対応の窓口が置かれているかを見ます。海外事業者のサービスでは、この点が事務所の運用上の分かれ目になります。

第6に、利用者の適格性を確認する仕組みがあるかを見ます。概要資料は、利用申込時の合理的な確認措置、利用規約への明記、重大な違反があった場合の利用停止措置を挙げています。事務所として契約する際に、利用規約のどこにこれが書かれているかを控えておきます。

第7に、個人情報の取扱いが法令に適合しているかを見ます。概要資料は、サービス内容や取り扱うデータの類型に応じて、個人情報の保護に関する法律等に適合した取扱いを確保することを挙げています。学習利用の既定値と保存期間の確認は、この論点の一部として押さえます。

確認作業そのものはAIに下書きさせられます。

あなたは士業事務所のツール選定の補助役です。
以下の「サービスの利用規約」と「公式サイトの説明文」を読み、次の7項目について、
記載の有無と該当箇所を整理してください。

1. 事件性のある案件には利用できない旨の表示(入力前・出力後の双方)
2. 弁護士に代わる判断や結論の正確性を想起させる表現の有無
3. 出力の根拠・参照元の表示
4. 弁護士資格を有する者の設計への関与に関する記載
5. 日本国内の問合せ・インシデント対応窓口
6. 利用者の適格性確認と利用停止措置の定め
7. 個人情報の取扱い(学習利用の既定値・保存期間・所在地)

出力形式:
- 項目番号 / 記載の有無(あり・なし・要確認)/ 該当箇所の引用元(見出しや条番号)

記載が見当たらない項目は「なし」ではなく「要確認」と書き、
推測で埋めないでください。原文にない内容を補わないでください。

【利用規約】
(ここに貼り付け)

【公式サイトの説明文】
(ここに貼り付け)

複数のツールを比べるなら、同じ7項目で並べたうえで、差が出た項目だけを人が読み込む進め方が速いです。

次の3つのサービスについて、同じ7項目で整理した結果を渡します。
項目ごとに、記載内容が食い違う箇所だけを抽出してください。
優劣の判定はしないでください。

出力は次の形式にしてください。
- 項目番号 / サービスAの記載 / サービスBの記載 / サービスCの記載 / 差異の要点

全社が同じ記載の項目は出力から省いてください。

【整理結果】
(ここに貼り付け)

契約書レビュー系のツールを比較する際の検証工程は、LegalOnが基本契約書と原契約を参照 弁護士事務所が組む検証7工程で扱った手順が近い形になります。導入の採算をどう積むかは、AI契約書レビューのROIをどう試算するか 法律事務所の判断基準7項目の枠組みが応用できます。

顧問先支援でAIを使うとき、事務所側で決めておくこと

ガイドラインが直接の名宛人としているのはサービスの提供者ですが、事務所が顧問先向けに独自のAI活用を組み立てる場面では、自らが提供者に近い位置に立つことがあります。ここで決めておきたいのが3点です。

1点目は、扱う案件の性質による線引きです。概要資料は、法的紛議が現に顕在化している事案や、法的紛議が生じることがほぼ不可避に想定され得る案件の処理を目指して設計されたサービスの提供を、抵触し得る例として挙げています。一方で、文献その他のリサーチや法的問題点の検討業務支援、書面の作成・審査・管理業務支援、社内研修やガバナンス・リスク管理・コンプライアンス業務支援、内部通報事案の調査支援、新規業務スキームの構築や事業再編の業務支援、株主総会や取締役会その他の会議業務支援については、設計・機能と体制の要件を満たす場合には一般的に抵触しないと考えられるものとして列挙されています(出典: 法務省 ガイドライン概要)。自事務所の提供内容がどちらの側に近いかを、事前に整理しておく実益があります。

2点目は、守秘義務との関係です。弁護士法第23条は職務上知り得た秘密の保持を権利であり義務であると定めています。行政書士法第12条、税理士法第38条、社会保険労務士法第21条、司法書士法第24条、公認会計士法第27条、弁理士法第30条にも同趣旨の規定が置かれています。いずれも正当な理由という幅のある要件を置いており、顧問先の資料を外部サービスに通す行為がその幅に収まるかは個別の検討になります。事務所として通してよい情報の範囲を先に定めておくと、案件ごとの迷いが減ります。

3点目は、顧問先との契約への落とし込みです。どのAIサービスをどの工程で使うか、再委託の範囲をどう扱うか、出力を誰が確認するかを契約に書いておくと、後から説明を求められたときに経緯を示せます。条項の作り方は、業務委託契約書のAI利用条項 士業が顧問先と決める7項目で整理しています。個人情報を含むプロンプトの投入については、特定した利用目的の達成に必要な範囲内であることを十分に確認する必要があるとの注意喚起が公表されています(出典: 個人情報保護委員会 生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について)。

職種によって、この論点との距離は変わる

同じ士業でも、このガイドラインとの距離は職種で異なります。

弁護士事務所にとっては、選定の物差しとしての意味が最も大きくなります。所内で使うツールが出力する内容は、そのまま業務の下敷きになるためです。根拠や参照元の表示があるか、学習データの品質や信頼性についてどう説明しているかは、確認工数に直結します。契約書の一括レビューのように件数が多い領域では、この差が月単位の作業量として現れます。長文の契約書をまとめて扱う工程の組み方は、契約書を一括レビューする長文コンテキスト 弁護士が組む7工程で整理しています。

行政書士事務所では、顧問先から相談を受ける場面での線引きが論点になります。許認可申請の書類作成や事実関係の整理をAIで下書きする運用と、紛議が見えている案件への対応は、性質が違います。概要資料が挙げた抵触し得る例が、法的紛議を前提とした対外使用書面の作成に係るサービス提供であった点は、この線引きを考えるうえでの手がかりになります。案件の入口で紛議の有無を確認し、記録に残す運用にしておくと、後から経緯を示せます。

中小企業診断士の業務では、顧問先の新規事業スキームの検討や事業再編の支援でAIを使う場面が増えています。概要資料は、新規業務スキームの構築や事業再編等の業務支援を、設計・機能と体制の要件を満たす場合に一般的に抵触しないと考えられるものとして列挙しています。ただし、支援の過程で契約の当否や紛争の見通しに踏み込む場面が出てきたときは、弁護士に引き継ぐ導線を先に用意しておくほうが、事務所としても顧問先としても安全です。

社会保険労務士や税理士の事務所でも、顧問先とのトラブル対応の相談は日常的に持ち込まれます。概要資料は、従業員や顧客、取引先とのトラブルが発生した場合の対応方針を決定するための内部調査支援を、抵触しないと考えられるものの例として挙げています。一方で、紛議が顕在化した後の対外的な書面作成は別の領域です。この境目を所内で共有しておくと、担当者ごとの判断のばらつきが減ります。

いずれの職種でも共通しているのは、AIを使うかどうかではなく、どの段階でAIの関与を止めて有資格者に渡すかを決めておく、という点です。ガイドラインの枠組みは、その社内ルールを作るときの参照材料として使えます。

読み違えやすい3つの点

1つ目は、今回のガイドラインを規制緩和と読んでしまうことです。概要資料は、抵触しないと考えられる場合の要件として、設計・機能の2要件に加えてガバナンス措置による体制整備を置いています。体制整備を伴わない提供までが広く許容されたという読み方は、資料の記載と噛み合いません。

2つ目は、サービスの説明文だけで判断してしまうことです。概要資料は用法の面も判断の軸に置いており、実際にどう使われているかが問われる構造になっています。事務所側の使い方も、この構造の一部です。事件性のある案件に日常的に使うつもりで契約するのであれば、選定の前提そのものを見直す話になります。

3つ目は、ガイドラインが確定した最終形だと考えてしまうことです。法務省は継続的な検討のためのロードマップを併せて策定したと公表しています(出典: 法務省 弁護士法(その他))。今後の検討で枠組みが動く可能性があるため、選定基準は更新しやすい形で残しておくほうが実務に耐えます。

確認にかかる工数と、事務所内の担当

ツール1件あたりの確認は、利用規約と公式資料の読み込みを含めて2時間から4時間程度に収まるケースが多い印象です(根拠: 筆者らがAI導入支援で行ったツール選定の実務経験に基づく概算であり、公表統計に基づく数値ではありません。要確認)。前掲の7項目でAIに下書きを作らせれば、人が読む範囲は差が出た項目に絞れます。

体制としては、選定の担当を決め、確認結果を事務所内の共有ドキュメントに蓄積する形が現実的です。同じ提供者の別サービスを検討するときに、過去の確認結果がそのまま出発点になります。更新のタイミングは、提供者が利用規約を改定したときと、ガイドラインが改訂されたときの2つに絞れば足ります。

費用面では、確認作業のために新しいツールを買う必要はありません。効くのは、確認の型を持っているかどうかです。型がない事務所は、ツールを増やすたびにゼロから調べ直すことになります。

ロードマップが動く前提で、選定基準をどう置くか

今後の検討は、ハードローとソフトローの組み合わせという文脈で進んでいます。規制改革推進会議の場でも、この方向性が議論の対象になってきました。事務所として構えるべきは、どちらに転んでも耐える選定基準を持っておくことです。

具体的には、7項目のうち表示や窓口に関する項目は制度が動いても意味を失いません。逆に、抵触するかどうかの線引きに直結する項目は、改訂のたびに読み直す対象になります。この2種類を分けて管理しておけば、改訂時に見る範囲が絞れます。ガイドラインの本文と概要資料は法務省のページから入手できるので、改訂の有無を確認する導線も1か所で足ります。

よくある質問

新しいガイドラインはいつ公表されましたか

法務省の公表ページによれば、令和8年8月21日付で公表されています(出典: 法務省 弁護士法(その他))。本年3月に法務副大臣の下に立ち上げたタスクフォースの取りまとめとして策定されたと説明されています。

従来のガイドラインは廃止されたのですか

公表ページは、令和5年ガイドラインの内容を補完・拡充する新たなガイドラインを策定したと説明しており、令和5年ガイドライン関係資料も併せて公表されています。両方を参照する前提の構成になっています。

どのようなサービスが抵触し得るものとして挙げられていますか

概要資料は、訴状等の裁判所への提出書面や和解契約書等の法的紛議を前提とした対外使用書面の作成に係るサービスの提供を例として挙げています(出典: 法務省 ガイドライン概要)。個別のサービスがこの例とどう対応するかは、設計・機能と用法の両面からの検討が要る論点です。

事務所がツールを使う側なら、このガイドラインは関係ありませんか

選定の物差しとして使えます。表示、窓口、資格者の関与、利用者の適格性確認といった推奨事項は、そのままツールの品質差として現れます。事務所が顧問先向けに独自の仕組みを提供する場面では、提供者に近い位置に立つ点も押さえておきたいところです。

出力に根拠が表示されないツールは使えませんか

使えないという整理ではありません。概要資料は根拠や参照元の情報表示を推奨事項として挙げていますが、表示がないツールの利用を禁じる形にはなっていません。表示がない分だけ事務所側の確認工数が増える、という運用上の差として扱うのが実務的です。

顧問先にどう説明すればよいですか

使っているツールと、その工程での役割、確認する人を示すのが伝わりやすい形です。抵触の有無を論じるより、事務所として何をどこまでAIに任せ、どこから人が確認しているかを具体的に示すほうが、顧問先の関心に沿います。

今後の改訂はどこで確認できますか

法務省の弁護士法に関するページに、ガイドライン本文、概要、ロードマップの資料がまとめて掲載されています。定期的にこのページを確認する運用を、事務所のカレンダーに組み込んでおくと取りこぼしが減ります。

参考文献

※士業のチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴事務所の業務に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
https://shigyonochikara.jp/contact/

本記事の作成体制について

本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で、それぞれ確認したうえで記載しています。引用元は本文中および参考文献にすべて明示しています。

本記事には特定の資格者による監修は入っていません。個別の事案について法令の当てはめや手続の可否を判断する必要がある場合は、当該分野の有資格者にご相談ください。本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別具体的な法律判断・税務判断・労務判断を提供するものではありません。

記載内容に誤りを見つけられた場合は、お問い合わせよりご指摘ください。確認のうえ速やかに訂正し、訂正履歴を記事内に残します。編集方針の詳細は運営者情報をご覧ください。