業務委託契約書のAI利用条項 士業が顧問先と決める7項目

業務委託契約書に生成AIの利用条項を入れるとき、士業事務所が押さえる7項目を整理しました。入力範囲、確認工程、成果物の権利、記録、終了後の削除まで実務目線で解説します。

業務委託契約書のAI利用条項 士業が顧問先と決める7項目

AI利用条項とは、受託業務で生成AIを使う条件を定めた契約条項のことです。

顧問先の資料を生成AIに入れてよいか。この問いに事務所として答えを持っていますか。多くの事務所では、AIの利用が実務に入り込んだ後も、業務委託契約書や顧問契約書の文面が数年前のままになっています。この記事では、士業事務所が受託側として、あるいは顧問先の委託契約を助言する立場として押さえておきたいAI利用条項の7項目を整理します。本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で確認しています。

契約書がAIの実態に追いついていない状態が生む3つのずれ

契約書にAIの記載がないこと自体は、ただちに何かを引き起こすものではありません。問題になるのは、実態と文面がずれたまま時間が経つことです。

一つ目のずれは、再委託の扱いです。多くの業務委託契約書には、委託者の書面による事前承諾なく第三者に再委託しない、という趣旨の条項が入っています。生成AIのクラウドサービスに顧問先のデータを入力する行為が、この再委託条項との関係でどう位置づけられるかは、契約の文言と実際のデータの流れによって変わります。個人情報保護委員会は2023年6月2日に生成AIサービスの利用に関する注意喚起を公表しており、個人情報取扱事業者が生成AIサービスに個人情報を含むプロンプトを入力する場面の留意点を示しています(出典: 個人情報保護委員会 生成AIサービスの利用に関する注意喚起)。

二つ目のずれは、成果物の権利です。AIが出力した文章や図を含む成果物について、著作権の帰属や利用範囲をどう定めるか。文化庁はAIと著作権について考え方を整理した資料を公表しており、開発・学習段階と生成・利用段階を分けた検討が示されています(出典: 文化庁 AIと著作権)。著作権法第30条の4は、著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用について定めた条文です(出典: e-Gov法令検索 著作権法第30条の4)。成果物の権利処理の具体像はAIと著作権 士業の成果物は誰のものかで扱いました。

三つ目のずれは、責任分界です。AIが誤った内容を出力し、それが成果物に混入したときに、誰がどこまで責任を負うのか。ここは契約類型によって出発点が違います。仕事の完成を約する請負については民法第632条が、法律行為でない事務の委託については民法第656条が準委任として規定を置いています(出典: e-Gov法令検索 民法第632条)。士業の受任は準委任の性質を持つものが多いとされますが、個別の契約がどちらの性質を持つかは文面と実態によります。

AI利用条項に書き込む7項目

以下は、実務で論点になりやすい順に並べた7項目です。ひな形をそのまま使うのではなく、自分の事務所の業務フローに当てはめて要否を判断する前提で読んでください。

第1項目は、AI利用の可否と通知です。受託者が業務遂行にあたって生成AIを利用することを、そもそも認めるのか。認めるとして、事前通知を要件にするのか、包括的に許容するのか。実務では、包括許容としたうえで、次項以降の条件を付す形が扱いやすくなります。

第2項目は、入力してよい情報の範囲です。委託者の秘密情報のうち、AIに入力してよいものと入力しないものを線引きします。個人情報、未公表の決算数値、係争中の案件情報、といった具合に類型で書くと運用しやすくなります。個人データの第三者提供については個人情報保護法第27条に規定があり、原則として本人の同意を得ないで第三者に提供しない旨が定められています(出典: e-Gov法令検索 個人情報の保護に関する法律第27条)。入力範囲を運用ルールに落とす手順はプロンプトに個人情報を入れる前に 士業事務所が決める運用ルール7項目にまとめています。

第3項目は、利用するサービスの条件です。学習利用をオフにできる法人向けプランに限定するのか、特定のベンダーを指定するのか、ローカルで完結する環境に限るのか。ここを空欄にしたまま第1項目だけ書くと、条項が実質的に機能しません。ベンダーのデータ取り扱い条件は変わるため、契約書には条件の水準を書き、具体的なサービス名は別紙や覚書に置く形が保守しやすくなります。

第4項目は、人による確認工程です。AIの出力をそのまま納品しない、有資格者または責任者が内容を確認したうえで納品する、という工程を条項として明示します。受託側にとっては自らを縛る条項に見えますが、成果物の品質について説明を求められたときに、この一文があるかどうかで話の運びが変わります。

第5項目は、成果物の権利と表示です。AIを利用して作成した部分について、著作権の帰属、第三者の権利を侵害しないための確認、そしてAI利用の事実を表示するかどうか。表示のルールを事務所内で決める考え方はAI生成物の表示ルールを事務所規程に落とすで整理しました。

第6項目は、記録と監査です。どの業務でAIを使ったか、どのような確認を経たかを受託者が記録し、委託者の求めに応じて提示する。記録の保存期間もあわせて定めます。士業の場合、業務記録の作成義務が法令に置かれている資格もあるため、既存の記録義務との整合を取る観点が出てきます。

第7項目は、違反時の扱いと契約終了後の措置です。条項違反があった場合の是正手続、契約終了後にAIサービス側に残るデータの削除、そして残存条項として秘密保持がいつまで続くか。生成AIのサービスでは、履歴やスレッドが利用者側の設定で残ることがあるため、削除の対象範囲を具体的に書いておくと後で揉めにくくなります。

条項案を検討するときに使えるプロンプトを2本置きます。1本目は、既存契約書のギャップを洗い出す用途です。

あなたは契約書のレビュー補助を行うアシスタントです。
以下の業務委託契約書の条文を読み、生成AIの業務利用という観点から
「明文の定めがない論点」を洗い出してください。法的な結論や適否の判断は書かないでください。

出力形式:
- 論点名
- 現行条文で読める可能性がある条番号(無ければ「該当なし」)
- 実務で確認が要る事項(1文)

観点リスト:
1. 受託者による生成AI利用の可否
2. 入力してよい情報の範囲
3. 利用するサービスの条件(学習利用の扱い・保存場所)
4. 人による確認工程
5. 成果物の権利帰属とAI利用の表示
6. 記録の作成と提示
7. 違反時の是正と契約終了後のデータ削除

【契約書条文】
(ここに条文を貼り付け。実在する顧問先名・個人名は伏せ字にしてから貼る)

2本目は、条項案のたたき台を作る用途です。出力はあくまで検討用の素案であり、そのまま契約書に入れる想定では使いません。

あなたは契約条項の素案を作成する補助者です。
次の条件に沿って、業務委託契約書に追加する「AI利用に関する条項」の素案を作成してください。

【前提】
- 委託者: 架空の甲社(事業会社)
- 受託者: 架空の乙事務所
- 対象業務: 月次の資料作成と書面の下書き
- 生成AIの利用: 学習利用をオフにできる法人向けプランに限り許容

【作成条件】
- 各項は1文を短くし、80字を超えたら文を分ける
- 断定的な表現や誇大な表現は使わない
- 定義が要る用語は第1項で定義する
- 「入力禁止情報」「確認工程」「記録」「終了後の削除」を必ず条文に含める
- 最後に、この素案で意図的に空欄にした箇所と、その理由を箇条書きで示す

素案が出てきたら、そこから先は資格者の仕事です。事務所として使う場合は、顧問先の業種、扱う情報の種類、既存の秘密保持契約との関係を見ながら、条文を自分たちの言葉に直していく工程を挟みます。

守秘義務と規程の関係で先に決めておくこと

契約条項は外向きの取り決めですが、それを支えるのは事務所内の運用です。順序としては、内部の運用を先に決めてから、その内容を契約に反映するほうが破綻しません。

まず、根拠となる守秘義務の枠組みを確認します。税理士については税理士法第38条が、正当な理由がなくて税理士業務に関して知り得た秘密を他に洩らし、又は窃用してはならないと定めています(出典: e-Gov法令検索 税理士法第38条)。弁護士については弁護士法第23条に秘密保持の権利及び義務の規定があります(出典: e-Gov法令検索 弁護士法第23条)。契約書のAI利用条項は、これらの義務を置き換えるものではなく、業務の実態を文面に合わせるためのものだ、という位置づけで捉えておくと整理しやすくなります。

次に、事業者としてのガバナンスの枠組みを見ます。総務省と経済産業省が公表しているAI事業者ガイドラインは、AIを開発・提供・利用する各主体が取り組む事項を整理した文書です(出典: 総務省 AI事業者ガイドライン)。事務所は多くの場合、利用者の立場でこの枠組みに関わります。契約条項に書く内容と、ガイドラインが挙げる取り組み事項を突き合わせておくと、顧問先から説明を求められたときの根拠になります。

規程に落とすなら、運用例として次の4項目が考えられます。第一に、AIを使ってよい業務と使わない業務を一覧にし、契約条項の入力禁止情報と対応させること。第二に、利用を認めるサービスとプランを事務所として指定し、変更時は責任者の承認を経ること。第三に、確認工程を業務フロー図に書き込み、誰が確認したかを記録に残すこと。第四に、顧問先ごとに契約書のAI条項の有無を管理し、条項がない顧問先については個別の同意取得か、AI利用を控える運用のどちらを取るかを決めておくこと。

これらは一例であり、事務所の規模、扱う情報の性質、顧問先の要求水準によって適した形は変わります。顧問先が上場企業やその子会社である場合、先方の情報セキュリティ基準に合わせる必要が出てくることもあります。

条項を入れたのに機能しない3つの型

一つ目の型は、条項を入れただけで運用が変わらないケースです。契約書に入力禁止情報を書いたのに、現場では従来どおり資料を貼り付けている。回避策は、条項の文言をそのまま事務所内のチェックリストに転記し、業務着手時に確認する運用に落とすことです。契約書と手元のチェックリストの文言を一致させておくと、齟齬が生まれにくくなります。

二つ目の型は、サービス名を契約書に直書きしてしまうケースです。ベンダー側の提供条件やプラン構成は変わります。特定のサービス名を本文に固定すると、変更のたびに契約書の改定が要る状態になります。回避策は、本文には条件の水準だけを書き、具体的なサービスは別紙で管理する構成にすることです。

三つ目の型は、顧問先との温度差を放置するケースです。事務所側がAI利用を包括的に認めてもらったつもりでも、顧問先の担当者が交代した途端に説明を求められることがあります。回避策は、契約時の説明内容を書面で残し、年次の契約更新のタイミングで運用実態を報告する機会を作ることです。文化庁が公表しているAIと著作権のチェックリストを説明の骨子に使う方法もあります(出典: 文化庁 AIと著作権)。この資料を顧問先説明に使う型は文化庁のAIと著作権チェックリストを顧問先に説明する7つの型で扱いました。

導入にかかる工数と体制

条項の追加そのものは、文面を作る作業としてはそれほど重くありません。重いのは、既存の顧問先の契約書をどう扱うかの判断です。全件を改定するのか、更新時期が来たものから順に差し替えるのか、当面は覚書で対応するのか。顧問先の件数が多い事務所ほど、この方針決めに時間がかかります。

工数の目安として、次の数字は公的な出典があるものではなく、編集部が置いた試算として読んでください。条項案の作成と社内合意に半日から1日、既存契約の棚卸しに顧問先1件あたり10分、覚書のひな形作成に半日。顧問先が50件なら、棚卸しだけで概ね1日弱の作業量になります。

体制の面では、条文を書く人と、現場の運用を知っている人を分けずに一緒に検討するのが早道です。条文だけ先に整えると、現場で守れない条項ができあがります。逆に現場の都合だけで書くと、顧問先に説明できない内容になります。

契約実務が次に向き合う論点

いま多くの事務所が扱っているのは、受託側としてAI利用を認めてもらう方向の条項です。この先に出てくるのは、逆向きの論点だと考えられます。委託者である顧問先の側が、受託者に対してAIの利用を求める、あるいは特定の水準での自動化を前提に報酬を設定する、という流れです。そうなると、条項は許容の話から水準の話に変わります。

もう一つの論点は、AIエージェントが外部システムを操作する形態が広がったときの扱いです。従来のAI利用条項は、データを入力して出力を受け取るという前提で書かれています。エージェントが顧問先のシステムに接続して処理を実行する形になると、再委託の議論だけでなく、アクセス権限の付与とその管理という別の論点が加わります。ここは条項の書き方がまだ定着していない領域で、今後の実務の蓄積を待つことになります。

よくある質問

業務委託契約書にAIの記載がないと業務でAIを使えないのですか

契約の文言と実際のデータの流れによって判断が変わるため、一律には言えません。再委託条項や秘密保持条項との関係が論点になり得ます。個人情報を含む入力については、個人情報保護委員会の注意喚起が留意点を示しています(出典: 個人情報保護委員会 生成AIサービスの利用に関する注意喚起)。

既存の顧問先すべてと契約を巻き直す方法しかありませんか

方法は一つではありません。更新時期に合わせて順次差し替える、覚書で先行して合意する、といった進め方を採る事務所もあります。件数と顧問先の性質を見て、優先順位を付ける形が現実的です。

AI利用の事実を顧問先に表示する運用は要りますか

事務所ごとに判断が分かれる論点です。対外文書と内部資料で扱いを分ける、成果物の性質によって表示の要否を決める、といった運用例があります。文化庁がAIと著作権について公表している考え方が、検討の出発点になります(出典: 文化庁 AIと著作権)。

入力禁止情報はどこまで細かく書くとよいですか

類型で書き、具体例を別紙に置く構成が扱いやすくなります。本文で列挙しすぎると、列挙外の情報の扱いが不明確になります。個人データの第三者提供の枠組みは個人情報保護法第27条に定めがあります(出典: e-Gov法令検索 個人情報の保護に関する法律第27条)。

AIが出した誤りで顧問先に損害が出たら誰の責任になりますか

契約の性質と条項の定め方によって整理が変わります。仕事の完成を約する請負は民法第632条、法律行為でない事務の委託は民法第656条に規定があります(出典: e-Gov法令検索 民法第656条)。責任分界を条項で明確にしておく実務が広がっています。

顧問先から先方指定のAI条項を提示されたときは何を見ますか

入力禁止情報の範囲、利用可能なサービスの限定、記録の提示義務、終了後の削除範囲の4点を先に確認する事務所が多くなっています。特に記録の提示義務は、事務所側の運用コストに直結します。

ひな形をそのまま使ってもよいですか

ひな形は検討の出発点として使い、業務フローに合わせて手を入れる前提で扱うのが安全側の運用です。条項だけ整っていて運用が伴わない状態が、実務では最も説明しにくくなります。

参考文献

※士業のチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴事務所の業務に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
https://shigyonochikara.jp/contact/

本記事の作成体制について

本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で、それぞれ確認したうえで記載しています。引用元は本文中および参考文献にすべて明示しています。

本記事には特定の資格者による監修は入っていません。個別の事案について法令の当てはめや手続の可否を判断する必要がある場合は、当該分野の有資格者にご相談ください。本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別具体的な法律判断・税務判断・労務判断を提供するものではありません。

記載内容に誤りを見つけられた場合は、お問い合わせよりご指摘ください。確認のうえ速やかに訂正し、訂正履歴を記事内に残します。編集方針の詳細は運営者情報をご覧ください。